映像+(EIZO PLUS)
新しい映像が生まれてくる現場  vol.4

世界中からスタッフが集結、CMのノウハウでつくる、次世代の映画づくりの現場。『東京喰種 トーキョーグール』萩原健太郎監督インタビュー

『東京喰種 トーキョーグール』

世界累計発行部数3,000万部を超え、国内外でも濃いファンを持つ人気コミック「東京喰種」。ファンの間で期待どうり、との声も高い本作では、人を喰らうことでしか生きられない”喰種”と人間との闘い、移植手術によって半喰種となってしまった普通の青年カネキの葛藤を、スタイリッシュな映像にのせて描く。本作を監督したのは、CM業界で活躍する気鋭の萩原健太郎。これまでにない、新しい手法で原作の世界を見事映像化した萩原監督に、制作の舞台裏を聞いた。

7月29日(土)全国公開

©Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社
http://tokyoghoul.jp/

STORY

人の姿をしながら人を襲い、人肉を喰う喰種と人間が共生する東京。普通の大学生だったカネキは、喰種の臓器移植により半喰種となってしまい、喰種を駆逐しようとするCCGとの熾烈な戦いに巻き込まれていく…。

INTERVIEW

:萩原監督はコマーシャル畑ご出身ですが、今回の映画で生かされたCM監督としてのノウハウなどはありますか?

萩原:CMの演出って、自分発信というよりもクライアントがやりたいと言ったことを客観的に表現しつつ、そこに自分のやりたいことをどう忍び込ませて伝えるか、だと思っています。今回の映画も考え方は同じです。僕はアクション作品を撮ったことがないし、こんなにCGがバリバリ入っている作品も作ったことがない……ですが、原作はすごく面白いと思っていて。この漫画を映画作品としてどう成立させていくかというアプローチは、作品に対して客観性をもって作り上げていくという、CMのノウハウが生かされています。

原作ものなので、様々なテーマの切り口があるし、漫画だから2時間の映画用にまとまっているわけではない。それをどう映画に仕立て、どう伝えていくのか。「自分がやりたいからこうするんだ」というよりも、外枠から考えていき、それに自分のやりたいことを繋げていく作業でした。僕はいつもそうなんですが、「こうじゃなきゃいけないんだ」みたいなものはそんなになくて、絶対的な答えを持たないんです。例えば「美しい世界観」というテーマでも、「こういう美しさがいいんだ」という絶対的な120%を思い描いて、そこに出来上がりを近づけてゆくタイプではない。やりながら「この美しさは合っていないな」と感じたら、スタッフの意見を聞いて「こっちのほうが良く描けるんじゃないか」と。目的はあるので、そこに対して色々探りながら進んでいくタイプです。それはなんとなく、CM出身だからかもしれません。

:劇中で窪田(正孝)さんの演技が印象的でした。

萩原:そうですね、それもやりながら変えていったところです。例えばカネキが赫眼(かくがん)になるところも最初は叫んでいたんですよ。それは逆に抑えてもらった。バランスというか、ぎりぎりリアリティが保てるところを探っていったんですよね。リアリティの円があったとしたら、真ん中をやっても面白くない。ぎりぎりの際を目指したかったというか。窪田くんの叫びなども、狂気とリアリティのぎりぎり自分の際をいっていると思います。

:監督はアメリカで映画を学ばれたということですが、ハリウッドと日本映画の決定的な違いはありますか?

萩原:単純に予算でしょうか……。日本の場合はマーケットが国内だけというのもあると思います。だから今回、「予算がもっとあったらもっとできたね」とは思われたくない、そうすごく意識していたんです。アクションシーンも、アクションの格好良さだけで見せようとすると失敗するなと思ったので、なるべくキャラクターの感情、ストーリーに乗せることからはずれないように考えていました。ちゃんとカネキの葛藤やドラマを描いて、そこにアクションが入ってくるように。だからこれはアクション映画ではなく、ドラマ映画だと僕は思っています。そういう工夫をするというのも、やっぱり一番大きい差は予算だと思います。

:スタッフィングについて。

萩原:僕が恐らく他の映画監督の方々と違うのは、普段はCMをやっていて、音楽はいつも海外で作ってもらっていたり、関わるスタッフの国籍や幅が広いんです。だから今回も、スタッフィングは国内だけで成立させようと思っていなかった。音楽は『マトリックス』シリーズのドン・デイヴィス、効果音は『ヘルボーイ/ゴールデンアーミー』(2008)、『ゼロ・グラビティ』(2013)等のフォーリー・アーティスト、ニコラス・ベッカーというフランスの人にお願いしています。グレーディングは Cutters に入ってもらったんですよ。Cutters は、コマーシャルをベースにしているアメリカのポスプロの日本のブランチなんですけど、そこのオーストラリア人のカラリストに頼みました。VFXもメインは日本人スタッフですが、そこからニュージーランドにふってもらったりしています。VFXスーパーバイザーの桑原雅志さんに言わせると、ニュージーランドのスタッフは「子供のときから見ているものが違う」と。彼らは小さな頃からディズニー・アニメーションで育っていて、CGアニメーションの動きが日本人と全然違うんですよ。

日本人ってやっぱり真面目だから、「リアル」の考え方が、現実にあるものの「リアル」として考えがち。でも映画の中でリアルに聴こえる音が、たとえ現実ばなれしていても、その映画では正解じゃないですか。演出された音や映像を見たり聴いたりすることで、見る側にどういう感情をかきたてられるか。そこが「映画のリアル」だと思う。例えばペットボトルを「ドン」と置いたこの音は、現実の「リアル」。でも僕が今、すごく悲しい気持ちだったら、これが「ズーン」と聴こえてもいい。そういう考え方ができるスタッフたちで作ったから、すごく新しい、邦画にはないものができたんじゃないかなぁと思います。

:効果音はゼロから作られたそうですが、具体的にどういうふうに作られたのですか?

萩原:例えば赫子(かぐね)が出る音とは、トーカの赫子は牡蠣の貝殻をこする音なんです。近所のオイスターバーに貰いにいったそうですが(笑)。あと「ピキピキピキ」みたいな音は、氷に塩をかけて縮むときの音。小さい氷いっぱいに塩をかけたときと、大きい氷の塊に塩をかけたときでは音が違う、そういう音だったり、ひとつひとつの音にものすごくこだわってオリジナルで作っています。

:音作りは、話し合いながら決められたのですか?

萩原:そうですね、最初にイメージを話し合って。前半は、喰種の赫子の音はやっぱり気持ち悪く聞こえたい、見た人が嫌悪感を抱くようにしたいと。喰種は人々に忌み嫌われる存在だけど、かわいい人やカッコいい人が演じているからグロテスクに見えない(笑)。だから音で、そう感じるようにしたいと希望しました。でもカネキが喰種になったあとは、それがきれいな音に変化していく。トーカの赫子にはキラキラした音を入れて、気持ち悪さと美しさが同居しているような音にしたいと伝えて。その上で、サウンドスーパーバイザーの浅梨なおこさんが考えて作っていってくれました。口では「ピキピキピキっていう音がいい」などと言うんですけど、要はそういう印象になればいいんです。

:原作ファンのことも意識はされましたか?

萩原:しましたね。『東京喰種』って面白くて、ちょっと変わった音が描いてあるんですよ、「ズビビビビ」とか。それを話して、「ズビビビビ」ってどんな音ですかね?みたいな(笑)。そのへんは原作のイメージにも近づけるようには話しました。無理なところはすんなり諦めましたけど。

:グレーディングではどういうところにこだわられましたか?

萩原:カラリストがオーストラリア人だったというのもあるんですが、『東京喰種』という漫画の人気のひとつは、表紙の柔らかい水彩タッチの絵だったり、漫画ページの絵的な美しさだと思うんです。邦画って、原作から実写になったときにビジュアルイメージを踏襲しているものが少ない気がして。それで本作では例えば『シン・シティ』(2005)のように、原作の絵をそのまま映像としてグレードアップして描きたかったんです。

だからまず、どんな気持ち悪いものでさえもきれいに見えるように作ろう、という前提があった。色も含めてリッチというか豊かな画づくりをこころがけています。その上で、カネキが人間であるときとグールになったときで差をつけているんですよ。カネキが人間でいるときは、色がほぼない世界です。「あんていく」の喫茶店のセットなどもそうですが、木目すら白い。それはカネキの心情です。カネキって、現実を何も見ていないんですよ。本の中の世界しか見ていなくて、現実世界を直視してない、でも見えていないからこそ世界がすごくクリーンで統一されている。それがグールになって街に出たときに、そこで初めて世界が色づいていくんです。そこでバーンと色を全面的に出すようにしていて。あまりどぎつくなりすぎないように、美しさも保ちつつも、ギラギラ感みたいなものをどう表現するか、試行錯誤しました。CMディレクターが映画をやるとなんとなくカッコいい映像にしがちですが、そこに明確な意図がないといけないなと思っていたので。

:CM監督たちが映画で活躍されていますが、その可能性について

萩原:全然可能性はあると思います。CM監督って2タイプいて、「グラフィカルな人とストーリーを描く」タイプと、「人を描く」タイプ。グラフィカルなタイプが映画を撮ると、予算がないので難しいと感じると思います。でも「人を描く」監督たちは、『帝一の國』の永井聡さんのように最近、映画で評価されていますね。今までのCMディレクターたちは「CMだと好きなことができないから、映画で好きなことをやる」という傾向だったと思うのですが、最近はそうではなく、CMと同じ考え方で映画を撮る人が増えてきています。「この企画に対して何がベストか」というのを提示できるのがCMディレクターの強みだと思うので、可能性はすごくあると思うんです。あとは単純に、人を描けるかということだけだと思います。2時間を通して感情の流れを描けるかという。

:ここは見て欲しいというお気に入りのシーンはありますか?

萩原:最後の窪田くんの芝居ですね。ラストの亜門とカネキの戦いは、CGも含めて映画の中で一番うまくいっているところだと思います。あとは見えないけれど音ですね。音はちょっと注意して聴いてほしい…… CMと映画の大きな違いで本当に思ったのは、CMだとラウドネスが入って色んな音がすごく制限されて平坦な音作りになってしまうのに対して、映画だと演出的に、音楽以外にズーンっていう低い低音とか、要は聴こえないけど体で感じる音を結構入れることができる。それは本当に面白いし新しい発見だったので、是非気にして見て欲しいです。あとは、目も全部CGなので……みんな頑張っていたので見てほしいです(笑)。

《STAFF》

原作石田スイ 「東京喰種 トーキョーグール」 (集英社「週刊ヤングジャンプ」連載 )
監督萩原健太郎
脚本:楠野一郎
音楽Don Davis
製作総指揮:大角正「角」は真ん中の棒飛び出る)
企画プロデュース:吉田繁晃
プロデューサー:永江智大,石塚正悟
撮影:唐沢悟
照明:木村匡博
美術:原田恭明
装飾:三浦伸一
監督補:杉山泰一
助監督:髙橋正弥
アクション監督:横山誠
VFXスーパーバイザー:桑原雅志
特殊造型・デザイン:百武
コスチュームデザイン:森川マサノリ
音楽プロデューサー:茂木英興,宮地洋佑祐輔
サウンドデザイン:浅梨なおこ
音響効果:大塚智子
特殊音響効果Nicolas Becker
録音:渡辺寛志
編集:大関泰幸,武田晃
衣裳:遠藤良樹
ヘアメイク:橋本申二
企画/配給:松竹

《CAST》

窪田正孝
清水富美加
鈴木伸之
桜田ひより
蒼井優
大泉洋