ドキュメンタリー映画監督に訊く③『THE COLLECTORS さらば青春の新宿JAM』川口潤さん


2016年に結成30周年を迎えたバンド「THE COLLECTORS」が、2017年12月に閉店した新宿のライブハウスJAMで開催したワンマンライブを軸に、1980年代からの東京モッズシーンを記録したドキュメンタリー映画『THE COLLECTORS さらば青春の新宿JAM』がロングラン上映されている。撮影・編集・監督の川口潤さんは、2008年からコンスタントに音楽ドキュメンタリー映画を劇場公開してきた。今回の映画の制作の方法を中心にお話を訊いた。

最初は遊びの延長で出演する側だった

ーー川口さんといえば、音楽ドキュメンタリー映画ですが、映像を始めたきっかけというのはやっぱり音楽だったんですか。

 学生のときに映画に詳しい友達がいて(後に実際に映画監督になった甲斐田祐輔さん)一緒にやろうよ、みたいに誘われて。単純に面白そうだなと。映画は観るのは好きだったし、8ミリフィルムがあるのは知ってたんですが、Hi8のビデオカメラでもどうやら撮れるらしいと知って、カメラを借りてきて、二人だけだからその友達が監督&カメラで、僕は出演する側になって、遊びの延長で作ってたんです。そのうち友達が仕事でポスプロに出入りするようになって、そこでそのHi8のビデオを編集したんです。できた映像を見たらモノクロになっていて、あれ、映画じゃん(笑)、すげえ!  みたいにして興味を持ちましたね。

 それから映像制作会社にかたっぱしから就職活動したんですけど全部ダメで、唯一見込みのあったスペースシャワーの映像を作っている会社に学生時代からバイトで入って、卒業後は契約社員として入って、という流れですね。

 

自主で作って劇場に持ち込む

ーーそこから音楽関係の映像に関わるようになったんですね。最初の劇場公開映画は?

 ボアダムスというバンドが中心となって2007年にニューヨークで77台のドラムパフォーマンスのイベントをやるんですけど、そのドキュメンタリー映画を作ったんです(『77BOADRUM』)。それを、今はなくなってしまったんですけど、シアターN渋谷という映画館に持ち込んだら、興味をもってくれて、劇場にかけてくれたんです(2008年公開)。2カ月くらいやってもらって、さらに全国でも公開されました。実は、その前から上映こそしてもらえませんでしたが、友達と作った映画を直接映画館に営業したりしていたので、その気になれば自分で上映までこぎつけるかもという漠然とした自信があったんです。もちろん映画配給会社の存在は知っていたんですが、あまりビジネスとして大きくしていってしまうとバンドにも弊害がある気がしたし、自分が全部把握できる範囲でやったほうがいいだろうなと思っていました。

 今では、日本でもそういう音楽ドキュメンタリー映画はたくさんありますけど、そのころ、個人で小さくスタートして仕上げられる環境がようやくできてきたということもあって、走りだったかもしれません。マニアックで狭い世界なんですけど、変わったことをするやつがでてきたなと思われたかもしれませんね。

ーー2000年代中盤からは、デスクトップで編集できる環境ができたということが大きかったですね。川口さんは、それからコンスタントに音楽ドキュメンタリー映画を公開されてます。

 劇映画は今回で5本目で、2年に1本のペースです。それ以外に撮影、編集だけやったりというものもありますし。10年たって、さらに制作の環境がよくなって、日本でも外国でも音楽ドキュメンタリー映画は一般的になってきました。音楽業界はCDは売れなくなりましたけど、面白いことはできる可能性は広がっていますね。

『77BOADRUM』以降の劇場公開映画

2011年公開『kocorono』(bloodthirsty butchers)

2014年公開『山口冨士夫 皆殺しのバラード』

2016年公開『オールディックフォギー 歯車にまどわされて』

ーーUPLINK吉祥寺での舞台挨拶の時に話してましたが、今回のTHE COLLECTORSは、事務所のスタッフが川口さんの映画を見て気に入っていて、連絡が来たんだそうですね。これまでもバンド側から依頼されて撮るパターンと、自分が好きで自主で作ってきたものとがあります。

 ボアダムスと山口冨士夫が自主ですね。

ーー依頼されたものは当然、制作費が出てるのでしょうけど、自主制作でもきちんと回収できているわけですね。

 そうです。山口冨士夫は10年くらい撮っていたのですが、2013年に亡くなってしまうんです。2014年に追悼の気持ちを込めてそのライブ映像をまとめて、全国で劇場公開しました。かなりお客さんは入ったと思います。

ーー音楽映画は、そのアーティストのファンがいることが劇場動員のベースにありますね

 そうなんです。映画館が面白いと思ってくれて、しかもビジネスになると思えば、向こうも商売なんで、責任持って配給的な準備をして信頼してもらえたら興行として扱ってくれるんです。というか、その方法しかなかったんです。こういう音楽映画は映画祭に出しても評価されないし、自分で売り込んでいくしかないんですね。

テーマがある映画にしたかった

ーー今回は、THE COLLECTORESの映画を作ってほしいという依頼だったんですか?

 僕はTHE COLLECTORESはもちろん知っていたけど、面識はなかったんです。一度メンバーと会って打ち合わせしているときに新宿JAM(ライブハウス)の話になって。JAMが2017年の年末でビルが壊されて閉店するのに合わせてライブをやる、それを軸に映画にしてみたら面白いのではというアイデアが出て、それなら映画として面白いものにできるのではないかと思いました。タイトルは僕が決めたわけではないのですが、メールのやりとりでも「さらば青春のJAM」の件(モッズを描いた名画「さらば青春の光」をもじって)という感じだったので、最初から日本の1980年代のモッズの風俗を絡めた構成になる予定でした。メンバー側も自分たちの提案したアイデアということもあって乗り気でしたし、ものすごくしゃべれる人たちなので、撮影は楽しかったですね。

ーー単にバンドのライブ映像とかヒストリーということではなくて、モッズという風俗を取り上げることで、映画が立体的になりましたね。

 もともと映画が好きなので、単なる自伝とかバンドの紹介的なものではなく、テーマがある映画にしたかった。撮りながらそのイメージはできていきました。

 これはどの段階かは記憶がないのですが、映画全体のプロット書いた構成メモですね。

 あんまりこういうのは見せないんですけど、振り返ってみると、自分でいろいろ考えていたみたいですね。

 この時のメモが土台になって起承転結を作っていますが、最後の最後まで構成は考えていました。だから、最終的にはこの通りにはなっていないです。つなぎ終わったときに組み替えたりもしていますし。

ーーこちらのメモをみると、ライブのときのMCの言葉まで手書きで起こしてますね!

 どのフッテージも自分でスクリプトを出しています。ここでMCで何を喋っているのかも含めて。

 インタビューも自分で文字データにしていますけど、話している内容はすべて文字に起こさないと全体の流れが見えてこないんです。しかも自分で起こさないと。この作業はほんとに大変ですけど、どうしても必要です。

ーーインタビューは何回か場所をかえてやっていますが、それぞれテーマを決めて臨んだんですか?

 インタビューでこういう話を聞こうということは、ぼんやりとはあるんですが、あえてあまり明確にはしておきません。話によって転がり方が違うので、聞く段階ではゆるく考えています。僕は後の編集で物語を考えるタイプですね。それはインタビュー次第で詰まらないものなってしまうリスクもあるんですが。ただ、最初にきっちり決めてその通りにやるのでは、自分が面白くないんです。それだったら、撮る必要ないじゃんと思ってしまう。後で試行錯誤して苦しむのも含めて、ストーリーを作っていくという作業が楽しいですね。

ーー撮影の期間は?

 最初に打ち合わせしたのが2017年9月、そこから何回かライブの撮影があって、12月末には新宿JAMの最後のライブがあるので、それまでにメンバーのインタビューなどは全部撮りました。最後のライブの後、年があけて2、3カ月かけて、編集を進めながら、ゲストの証言を撮っていきました。5月の頭にはラフができていた。この映画に関しては、一気に撮ったという感じで、そのスピード感は映画にも反映されているかなと思います。

ーー音楽ドキュメンタリーというと、ライブとインタビューが素材のほとんどでバリエーションに乏しいことが多いのですが、この映画は、ライブで着る服を買いに奈良に行ったり、メンバーが新宿を歩きながら話したり、集団でベスパで走るとか、動きがあるシーンがとても効果的ですね。

 移動シーンは好きですね。奈良に行くから同行したら?というのはメンバーからの提案だったのですが、そもそもモッズの服のことは自分もまったく知らないから、行かないと分からないという部分もあって、純粋に教えてください、ということもありました。

 そういうシーンがあると、構成を作る上ではポイントになって、単調にならないように組み立てられますし。もっともそのあたりは感覚的にやっている気がしますが。

 

GH4にFDレンズ、マイク、小型ジンバル

ーー撮影は一人ですか?

 ほぼ一人ですね。インタビューは2カメで回すので、一部カメラマンを使ったりということがありましたが、基本的には一人で寄りと引きの固定の画で作って、話を聞いていくというスタイルです。引きはまだいいんですけど、寄りは固定だとどうしても被写体が話しながら動いてしまうことがあって難しい。本当はカメラマンを入れられればいいんですけど。

ーーライブはカメラの台数が多いですね。

 最後のライブのシーンは6人6カメで撮影しました。ステージ前に2台、ステージ上に2台、客側に2台。僕はGH4ですが、それぞれに一眼を持参してもらって好きなように撮ってもらいました。

ーー街中をメンバー2人、加藤ひさしさんと古市コータローさんが歩いて話しているのを真正面からひっぱりながらというシーンが印象的です。

 あのときはカメラマンが一人いたかな。ただ、あくまでサブで、ぼくがジンバルにカメラを載せて、ひっぱって撮影しました。マイクはピンマイク(秋葉原で安く買ったもの)からワイヤードでレコーダー(ZOOM H2n)に入れて、そのレコーダーをポケットに入れてもらいました。ワイヤレスを使うとそれを扱える人がどうしても必要になるし。音声さんも入れたいんですけど、入れたら、ああいうフットワークにはなりません。レコーダーは大体の音量を決めてRECスタートした後にポケットに入れてもらうんですが、撮影中は確認できないからリスキーですよね。ただ経験上、カメラ上のマイク含めて4つくらいあれば、なんとかなるだろうと。

 映画館で上映するとなるとちゃんと音の収録をやらなくちゃと思う人がいるかもしれません。僕はテレビ放送の音楽番組をやっていたこともありますが、昔はもっと条件がひどくて、音では痛い思いをたくさんしてきました。それからすると、今は高性能のガンマイクはあるし、ピンマイクにポータブルレコーダーはあるしで、だいぶ違います。

 ジンバルはコンパクトでシンプルなBeholderのEC1で、数年前に5、6万円で買ったものです。あまり重いカメラには対応できませんが、GHなら十分です。何よりもセッティングが素早くできるのがいい。ここで時間をかけてセッティングしていると現場の空気が変わってしまうから。

 あと、移動撮影も、いかにもジンバルで撮りました、という滑らかなものより、適度にブレがあったほうがいいと僕は思っています。

 レンズは中国製の安いレデューサー付きマウントアダプター(画角が広くなり、かつ集光することでF値が明るくなる)を利用して、キヤノンのFDレンズ(EOSになる前の世代のマニュアルフォーカスレンズ)を主に使用しています。ずっとGHを使っているのは、FDのような古くて操作しやすいレンズが使えるから。FDレンズは当時数が出回っていたので、いいレンズが安く手に入るというのもメリットで、たとえばメインで使用したズームレンズ35-105mmは1万2000円くらい。20mmの単焦点レンズは、曇ってるからという理由で2000円。この時代のズームレンズはフォーカスを置いておいて、素早く画角を変えるようなカメラワークも簡単にできてしまうので、ライブ撮影では大活躍しました。

僕はライブ中にレンズ交換するのにRECを止めずにレンズ交換するんですよ。交換するときに光が入ってくるところも好きで、それが編集の時に効果的に使えることもあるので。周りのカメラマンからはとんでもないと言われるんですが(笑)。

 このレンズは映画で相当酷使したので休ませようかなと。まあ、飽きただけなんですけどね(笑)。

 ガンマイクは、シュアの録音機能付きショットガンマイクVP83Fが気に入っています。これは本当に性能がいいです。マイク側に録音機能があるので、こちらで録音します。カメラ上にはステレオマイク付きレコーダーZOOMのH1も乗っていて、ライブではH1も回します。しゃべっているときはシュアーのガンマイク、リハーサルではH1の音が使えます。(ライブ本番の音はメンバーが録音して音を整えたものをそのままもらって使用している)

ーーメンバーからの反応はどうでしたか?

 メンバーに試写したときはこっちの写真のほうがもっといいよ、というような直しだけで、このシーンを外してほしいということは一切なく、構成全体を認めてもらえたのかなと思います。

ーーバンドの二人のやりとりが長く続けてきたバンドらしいノリがあって本当にいいですね。ファンにとっては嬉しいところかもしれません。

 そうなんです。改めてバンドを撮る面白さを感じました。バンドの関係は家族や社会と同じで人間社会の縮図のようなもので、それこそ普遍的なものだと思うんです。ジャンルとしては音楽映画ですけど、それはたとえばホラー映画と同じで、ホラー映画のなかには、映画としていい作品はいっぱいあるけど、まあホラーでしょとジャンルでくくられてしまう。ジャンルがあることで、一定のお客さんが見込めるということもあるのですが、僕はどの作品も、音楽映画というジャンルにとらわれずに、いい劇映画を作るという気持ちでやっていきたいと思っています。

ーー一方で音楽映画にこれだけ需要があるということは、劇場と相性がいいのかもしれませんね。

 それはあるかもしれません。最初のボアダムスの映画も、自分であの音を映画館で聴きたいという思いがありましたし、劇場のほうもそれを期待していました。ロックは映画館に向いていますね。だから昔から作られてきたのかもしれません。

 

好きな音楽ドキュメンタリー映画を教えてください

ーーでは、最後に川口さんが好きな音楽ドキュメンタリー映画を教えてください。

「ウッドストック」を持ってきたのですが、本当は同時代だと「ワイト島」のほうが好きですね。「ワイト島」はジミヘンのライブ映像もいいのですが、半分くらいは、主催者と観客とのやりとりとかが入っていて、よりドキュメンタリーっぽいんです。単なる記録じゃなくてドラマがある。

2本目がミシェル・ゴンドリーが監督した「ブロック・パーティー」。これはリアルタイムに劇場で見たのですが、単なるライブ映像ではなくてドキュメンタリーになっています。

「THE DECLINE」はロスのパンクを中心にした音楽シーンを描いたドキュメンタリーで、1981年のIはハードコアパンクから始まり、IIはヘビーメタル、1998年のIIIはその成れの果てを描いているんですが、これは単なる音楽映画というよりも文明批評的なドキュメンタリーになっています。(DECLINEは衰退の意味)

 最後に今年の1月に日本で上映されたんですが、ニール・ヤングが監督した作品『ジャーニー・スルー・ザ・パスト』と、クレイジー・ホースと組んだ1987年のヨーロッパツアーの記録をまとめた『マディ・トラック』。ニール・ヤングが自分でホームビデオを買って、メンバーとのやりとりとかライブを撮っているいるのですが、これが最高に面白い!

 でも、ルーツはやっぱり「ワイト島」ですね。1990年代に映画館でリマスターしたものを観たんだと思いますが、70年代のジミヘンの映像があるんだ!という興奮が今の仕事につながっているような気がします。

こういう話でいいんですかね?

ーーもちろん、大丈夫です。楽しかったです! ありがとうございました。

 

映画情報

『THE COLLECTORS さらば青春の新宿JAM』

公式サイト

2018年11月23日から新宿ピカデリー他で公開

2019年1月25日(金)〜2月8日(金) UPLINK吉祥寺

    2月9日(土)〜22日(金)シネマリン(横浜)

    2月23日(土) 爆音映画祭 in MOVIX昭島

    2月23日(土)〜3月1日(金)あつぎのえいがかんkiki(神奈川)

               3月2日(土)〜3月8日(金) 出町座(京都)