第15回 「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」コンペティション部門の審査員講評


第15回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルが2月8日から12日まで、高円寺の座・高円寺2で開催された。2月8日にはコンペディション部門の優秀作品全5本が上映され、上映後の表彰式で「引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」(ディレクター:上田大輔)が選ばれた。(以下敬称略)

<入賞5作品>
「風に立つ愛子さん」(監督:藤川佳三)
「パドレプロジェクト」(監督:武内 剛)
「引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」(ディレクター:上田大輔)
「解けよ、“美”の呪い」(ディレクター:山本 妙)
「どうすればよかったか?」(監督:藤野知明)

<審査員>
佐藤 信(劇作家・演出家)
橋本佳子(映像プロデューサー)
足立正生(映画監督)
大島 新(ドキュメンタリー監督)
林加奈子(元映画祭ディレクター)

大賞を受賞した上田大輔ディレクター

「こういうかたちで番組になり、受賞するとは本当に想像もしませんでした。最初はカメラを回すことをお願いしていなくて、単に話を聞きに行っていただけなのですが、そのうち児童相談所に親子を引き離されて、裁判にも巻き込まれていく状況になっていくという、本当に恐ろしいことが目の前で繰り広げられ、自分自身も驚きながらカメラを回し続け、それが作品になりました。この問題が賞のおかげで広く知られることを祈りたいと思います。ありがとうございました」

審査員のコメントは以下のとおり

佐藤 信

僕のほうからまず審査経過をお伝えしようと思います。

藤野知明監督の「どうすればよかったか?」は審査員5人とも非常に衝撃を受けた大変な作品でした。そのなかで「引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」(ディレクター:上田大輔)が大賞になった経過ですが、「どうすればよかったか?」はセルフドキュメンタリーですが、こちらは取材者が客観的な立場にいる、ある意味ドキュメンタリーの王道だと僕は思いました。そこで語られていることは、非常に重要な性質のものがたくさん含まれている。確かに子供に対する暴力に対してそれを防ぐということは大きな問題なんだけれども、同時にそれを防ぐための行政の制度的仕組にも欠陥があり、恣意的なものであるということを、問わず語りに的確に記録されている。基本的には行政が作るマニュアルというのは何か問題が起きた時にマニュアル通りにやっていたから仕方がないという性格のものであり、問題が起きたときに、それぞれの立場の人が依拠する仕組みだということを改めて強く感じます。記録されているものは見る側にとって読み取るものがたくさんある。そういう意味で僕はこの作品が大賞にふさわしいというふうに判断いたしました。

「どうすればよかったか?」は、見ていて胸が詰まるような、このことに対して、自分は一体どうしたらいいのかということを突きつけられているような作品になっています。大賞に匹敵する内容でしたが、セルフドキュメントは編集の段階で最終的にやはり監督の恣意性というのが入ってきます。そのことについての評価が審査会では若干分かれているところがありました。

それから対象者として面白いのが「風に立つ愛子さん」(監督:藤川佳三)でした。作品として完結していて、美しい作品として仕上がっていると思います。愛子さんという存在に対してドキュメンタリーを撮っている側が、どの程度、どういう角度から迫ろうとしたのかということについて、物語の完結性のほうにひっぱられている。やはりドキュメントはそこからこぼれ落ちる何かが欲しかったというのが率直な印象です。

「パドレプロジェクト」(監督:武内 剛)は、僕はこれを2番手に推しました。とにかく見終わって爽やかな気持ちになる。今みたいな時代に、こういう難しい問題を扱いながら爽やかな気持ちになるというのは、ドキュメンタリー映像の役割の一つなのではないか、見る側にとって必要な作品なのではないかというふうに思いました。

「解けよ、“美”の呪い」(ディレクター:山本 妙)は、ルッキズムの問題を公共放送がいち早く取り上げた作品として非常に重要な作品だと思います。ただ、これは韓国の問題として取り上げられている部分があり、それは韓国という国を見るときに確かに事実ですが、それを補強していく役割も果たしてしまうのではないかと思いました。番組では親子の問題として扱われていましたが、もし社会の問題だとしたら、その背景を垣間見られるともっとよかったと思いました。

 

足立正生

総評は佐藤さんがお話しされたので、僕は省略したいと思います。それぞれの作品にはそれぞれの特性があって、その特性のなかに僕らは何を問題提起として受け止めていったらいいのかということと絡んでくるので、そういう意味では大賞とそれぞれの作品に優劣があるわけではなく、その特性に対して我々がどう受け止めたかということで大賞が決まったことだと理解してもらえればと思います。

 

林加奈子

「この映画祭のコンペ作品は毎年本当にレベルが高いと思います。それぞれ方向性というか、作り方とかタイプとか、本当にバラエティーに富んでいる。だから5人の審査会議は難しくも貴重な経験になります。そんななかで今回「引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」は5人全員が1位か2位に投票した作品でした。

「どうすればよかったか?」は、最も長い年月にわたってカメラを回し、作り手の苦悩と葛藤が伝わってくる作品であったし、私たちももう審査会議が終わって結論が出た後もまだまだずっと引きずって話をしている作品だったということを追加で申し述べたいと思います。

 

大島 新

私だけが審査員の中でテレビディレクターでありドキュメンタリー映画監督であり、選ばれる方々と同業者なんですね。審査会で出てくる意見を聞いているとまるで自分が言われているようで、ちょっと身が小さくなることもありました。今回優秀作品として選ばれた作品はどれもが力作で、さすが高円寺のコンペに上がってくる作品だなと思いました。

審査会に来る前、自分以外の審査員は「どうすればよかったか?」を選ぶだろうと予想していて、ささやかな抵抗として、「引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」を自分は推そうと考えてきたんですけど、実際に審査が始まってみると、意外といろいろな意見が出て、こういう結果になりました。「引き裂かれる家族」は、家族のドキュメンタリーとしてのレベルの高さと、なおかつ調査報道としてのレベルの高さですね。これが何よりも素晴らしかった。テレビジャーナリズムはまだまだ健在だということを示してくれた作品だったと思います。「どうすればよかったか?」は、とにかくこんなに色んな話すことがあるかというぐらい、みんなが言いたいことが出てくる。それだけですごい作品。これを同じドキュメンタリーというカテゴリーに入れていいのかというもので、これはずっと心に残るだろうなと思いました。

 

橋本佳子

このコンペも15回になります。最初からテレビ、映画というジャンルを問わない映画祭としてやってきたんですが、今回ほど本当に同じ土俵で話し合えることなのかと感じることはありませんでした。審査会としては多分一番難航したのではないかと思います。記録すること、そしてそれを記憶として再構築していって伝えていくというドキュメンタリーを作る根源みたいなものを、いろんな作品から突きつけられたような気がします。

大賞になった「揺さぶられっ子症候群」については、実はこれテレビのシリーズなんですが、シリーズを全部見ていまして、その一番最初のシリーズでSBSを初めて知りました。それ以来、このように丁寧に丁寧に取材を重ねていっています。この作品は大島監督も言っていましたけれども、テレビジャーナリズムがまだ健在なんだということははっきり示していると思いました。

「どうしたらよかったか?」は、これしか自分が選ぶ大賞はないと最初は思っていましたが、部分を何度を見直していくうちに、いろいろな思いが出てきて、今日の審査会に臨みました。

「愛子さん」はとても心に染み入る作品でした。一つ一つのシーンが持っている強さ。それから愛子さんの言葉の力強さ、そういうものが全部心にすごく残っています。これもなんかいつまでも愛子さんのことが忘れられない作品だと思いました。

「解けよ、“美”の呪い」はルッキズムについてです。ルッキズムは、おそらくジェンダーとかハラスメントの問題の中で一番大きな根源的なものだと思ってますが、それがとうとうやはりテレビでもちゃんと取り上げられる時代になったんだということに感銘を受けました。今回は韓国の話で、特に母と娘の(多分これが一番根深いんですけれども)話になっていて、そこにフォーカスされたということで、きちんと伝わったというふうに思います。

「パドレプロジェクト」(監督:武内 剛)は一番面白く拝見しました。一体どうなるんだろう、ハラハラドキドキしながら最後まで目が離せなくて、一体本当にお父さんに会えるかどうかということを、観客としてずっと一緒に何か旅をさせてもらったような気がしました。

 

 

 

vsw