マイクロドローンで映像革命進行中! Tiny Whoop の使い手たち〜grid_FPV合同会社代表北川哲一郎さんを取材


Tiny Whoopをはじめとするマイクロドローンが
ドローンレーサーや映像制作者の間で、盛り上がりを見せている。
今回はいち早くからドローンの自作と
映像での活用に取り組む北川さんを取材させてもらった。

文●青山祐介/構成●編集部

北川哲一郎さん
grid_FPV合同会社代表。スクエアエニックス社 ファイナルファンタジーシリーズ8~15のCG映像制作に関わる傍ら、2013年より趣味でドローン空撮を開始。 ドローンの自作を経て、2016年にはFPV(ゴーグルを使用した目視外)マイクロドローンやレースドローンの自作と飛行を開始。 Mr.ChildrenのPV用空撮やTokyo girls collectionなど大型イベントでの屋内空撮をはじめ、ドローンスクール講師、マイクロドローンの授業開発、機体開発、レースの総合演出など幅広く活動する。
WEB●https://grid-fpv.business.site/

北川さんが手がけたマイクロドローンによる動画

Wind Through RING HOUSE

●武井誠さんと鍋島千恵さんによる建築家ユニット・TNAが手がけた『輪の家』(長野県軽井沢町)。2018年3月より宿泊可能になったことから制作した動画。木々に囲まれた森の中はもとより、そのまま家の中を吹き抜ける風のように、一筆書きのイメージで建物を撮影した。

フーターズガール&ラウンドガール PANCRASE297

●日本総合格闘技PANCRASE(パンクラス)。ラウンドガールの登場の模様をマイクロドローンで空撮。冒頭には専用に自作した真俯瞰撮影用ドローンの映像も盛り込まれている。

の中から現れる光に満ちた住宅を、吹き抜ける風になったような気分で体験できる『Wind Through RING HOUSE』や、妖艶なベリーダンスを浮遊感とシンクロさせて表現した『Cafe BOHEMIA』など、マイクロドローンで撮影した数々の作品を発表している北川哲一郎さん。

実は東京ガールズコレクションで衣装を吊ったドローンの飛行と空撮、総合格闘技パンクラスでドローンによる生中継や撮影を担当するなど、ドローンを使った新しい試みを手がけている人物だ。

 

クリス・アンダーソンの書籍をきっかけにドローンを始める

北川さんがドローンに取り組み始めたのは2012年のこと。アメリカのドローン大手企業3Dロボティクスの創業者であるクリス・アンダーソンが著した『HERE COME THE DRONES – わが愛しのドローン』に触発されて、ドローンを始めた。当時はちょうどDJIのPhantomが登場した頃ではあったが、手始めはトイドローンからだった。その後、2013年に手に入れたPhantom2を飛ばしてみて、空撮の面白さに目覚めたという。

その一方で、クリエイターとしての興味からドローンを自作するようにもなる。当時はまだまだ情報も少なく、愛好家それぞれが手さぐりでドローンを作っていた時期。北川さんも機体やフライトコントローラー(※1)、ESC(※2)やモーターを自分で選んで機体を自作。そこにGoProを積み、汎用の映像送信機を使って映像を手元に伝送するなどして、自分なりに空撮を楽しむようになった。

※1:ドローンの飛行を制御するメイン基板。 

※2:「アンプ」とも呼ばれ、フライトコントローラーや受信機から受けた信号をもとに、正しい電圧でモーターの回転スピードを調整しているパーツ。

そんな北川さんのドローンライフで転機となったのがTiny Whoopの登場だ。アメリカの「Team BIG WHOOP」というドローンレーサーのグループが、2016年にBLADE社のトイドローン「Inductrix」にカメラを積んで、FPVで飛行した映像をネットで公開していた。その作品を見た北川さんは、すぐに自身も同じパーツを手に入れて機体を自作。大型のFPVドローンではできないフライトで得られる世界にとりつかれるようになった。

 

北川さんが自作したマイクロドローンと作業場

❶北川さんがこれまでに自作したマイクルドローンの数々。❷デスクの横にマイクロドローンの自作スペース。コンパクトなスペースで自作できる。❸Inspire 2やPhantom 4などを使用した空撮業務も手がける。❹真俯瞰でフルHD撮影ができるように自作した機体。ランディングギアは結束バンド。❺4Kのカメラモジュールを使用した機体。様々なパーツは海外のメーカーから直接個人輸入している(現在フルHD機は重量30g台の超軽量版の開発に成功)。❻こちらはマイクロドローンではないが、北川さんが2014年2月に初めて作った空撮機。AruduPilot Megaという自立飛行が可能なシステムとqav250というレース機のフレームを使用しており、カメラが正面向いている。(写真では不足しているパーツもある)。

 

軽さと柔らかさが条件

「最近はマイクロドローンを使った映像作品が増えてきましたが、どちらかというと私はライブで飛ばすことが多いんです。それも人のそばを飛ばすので、事故は許されない。万が一、人に接触するようなことがあっても傷つけることがないように、とにかく“軽さ”と“柔らかさ”に気を付けて機体を作るようにしています」

北川さんのマイクロドローンもほぼすべて自身の手による自作。撮影内容に合わせて機体や制御基板、モーターなどを選んでネットから調達して、一つひとつ組み立てている。仕事で撮影となると、場合によっては機体が壊れることもあるため、複数の予備機とその場で修理ができることが必須。だからこそ、パーツはすぐに手に入れられるものであると同時に、自分自身で直せる技術がないといけないという。

 

三次元空間を脳で補完する

一時期はマイクロドローンや大型マイクロドローンや大型機でドローンレースにも参加していた北川さん。しかし、最近は撮影のための飛行が多い。ひとくちにマイクロドローンといっても、レースと撮影では、少し違った感覚を養う必要がありそうだという。

レースは基本的に速く前進することが求められます。一方撮影ではFPVカメラで見えない左右や上下、後ろに下がるといった飛び方をします。そのためには、見えない空間を脳で補完して、三次元を認知することが必要になります。私の場合、CG制作が仕事だったこともあって、空間を意識して見るクセが付いているのかもしれません」

事実、北川さんの映像作品を見ると、カメラに写らない後ろ側の壁と被写体との間を通り抜けながら飛行するものが多い。こうした三次元の空間認識能力を養うには、取手の付いたコップや車のインテリアだけを取り出して、それを脳内で回転させたときにどう形が変化するかと想像するようにするといいという。

北川さんが趣味のマイクロドローンの操縦に使用している機材

▲ 操縦中の様子。FPV用ゴーグルはFATSHARK のDminator HD3(アマゾンで7万円前後)、プロポはSpectrum DXe(7,800円)を使用している。

 

人とのコミュニケーション

こうした操縦技術があってこその、マイクロドローンによる撮影だが、北川さんはさらにフライトさせる時に心がけていることがあるという。それは“人とのコミュニケーション”だ。北川さんの作品やライブ中継では、人物が映るものが多い。

マイクロドローンは大きな機体に比べて、人に近づくことができる。このメリットを生かすのは、人とコミュニケーションがポイントだという。

「女性は小さくてカワイイ物が目の前に現れると、つい手を出してしまいたくなるようです。なので、人が多い場所では女性の前に機体を持っていくようにしています」

もちろんそこには安全が大前提。プロペラの音が耳に触る静かな環境で飛ばさない、目や耳の高さは人が怖がるので避け、人にはなるべく胸よりも下の高さや回り込みながらアプローチするといったことを心がけている。予め段取りが決められた映像の撮影とは違う配慮も、ライブ撮影でのノウハウだと北川さんは語る。

この取材時も今は明かせない今後の撮影のためのドローンや機材が並ぶ北川さんのデスク。パンクラスの中継で、リング上空のトラスから吊るして撮影するPhantom 4も北川さんのアイデアだ。こうしたアイデアと操縦技術を生かして、いずれは大規模なイベントで、大勢の観客とステージを今よりも安全な形でドローン空撮したいと話す北川さんだった。

初心者におすすめの練習用ツール

▲ 北川さん自身は、普段あまり練習することはないというが、Velocidrone(英語版)というフライトシミュレーターは実機と挙動が似ている気がしておすすめだという。Orange Rx DSMX/DSM2 USB Dongle for Flight Simulator(アマゾンで5500円前後)を使うとspektrum DXeなどのプロポをワイヤレスで使える。
▲ 北川さんがTiny Whoopの操作練習用の入門機としておすすめなのはホライゾンホビーIndctrix FPV(aircraft取り扱い)だという。RTF版は24800円でプロポとFPV用のモニターがついてくる(※3)。

※3 Tiny WhoopのFPV用電波で5.8GHz帯を使用する場合には、ホビーユースではアマチュア無線4級、業務ユースでは第3級陸上特殊無線技士の資格と無線局の開局申請が必要。

 

 

ビデオSALON2018年9月号より転載