Tiny Whoopをはじめとするマイクロドローンがドローンレーサーや映像制作者の間で、盛り上がりを見せている。『オンナノコズ』PVで話題を集め、MVからCM、ライブ・イベント撮影まで引く手あまたというマイクロドローン空撮の第一人者である増田勝彦さんを取材し、ドローンをはじめた経緯や撮影に使用するマイクロドローンなどについてお話を伺った。
文●青山祐介/構成●編集部
桜の木を抜けて窓から教室に入ったカメラは、次々と美少女を映し出しながら、ゆっくりと校舎の中を移動してゆく…。今年4月にYouTubeに公開された『オンナノコズ:”Onnanocos” ×Micro Drone』(以下オンナノコズ)は、ドローンで撮ったこれまでのどの映像とも違う斬新さが、瞬く間にネット上で話題となった。そんなムービーを撮影したのが、シネマレイ代表の増田勝彦さん。
現在、38歳の増田さんは26歳の時、父親が営んでいた事業を引き継ぐ形でシネマレイを創業した。同社は主に中京圏の自動車や航空機関連の企業向けVPやCG、VR、ARといったビジュアルコミュニケーションの企画・制作を手掛ける映像制作会社だ。そんな増田さんがドローンと出会ったのは2016年8月というから、つい2年前のことだ。
「『ウチも映像制作会社なんだから空撮も必要だよね』ということでドローンの講習を受けてPhantom 4を買って飛ばし始めたのが始まりです。それからというもの、朝早く起きて海岸や川べりに通って飛ばしまくりました」
ラジコンの経験もなかった増田さんだが、2016年末にはTinyWhoopを始めることとなる。その魅力に惹かれ、生みの親であるTeam BigWhoopのジェシー・パーキンスに連絡を取り、情報交換する中で、日本にも「TINY WHOOP Japan」というFacebookのコミュニティまで作ってしまった。もちろん、自身もホライゾン社のBlade Inductrixを手に入れ、そこにVTX(映像送信機)一体型カメラを載せて飛ばしはじめた。
「狭いところを機体が通り抜けて戻ってきたときに、嬉しくって思わずガッツポーズしました。初めて飛ばして撮れた映像は、今でも忘れられません」という増田さん。その後は毎週のように練習場に通っては操縦技術を磨いていった。TinyWhoopを飛ばし始めてから半年後には、自らの会社の企業PVをマイクロドローン※1で撮影。この頃、マイクロドローンで業務ができると確信したという。
※1 ここでは「Tiny Whoop」「マイクロドローン」「マイクロHDドローン」という言葉が登場します。「マイクロドローン」は200g以下の機体の総称。「Tiny Whoop」は30g以下のレース用ドローン。増田さんが撮影で使う機体は重量70g程で「マイクロHDドローン」という意味で使い分けています。
◉増田さんが手がけたマイクロドローンによる動画
『未来飛行』MV / J☆Dee’Z
女子高生ボーカル&ダンスグループJ☆Dee’z(ジェイ・ディーズ)の8枚目のシングル『未来飛行』のPV。ほぼ全編をマイクロドローンで撮影。一台でクレーンやスタビライザーのような動きを実現し、通常のドローンでは難しい狭所での移動撮影も。場面転換の演出にも趣向が凝らされている。
ジェットスター「フライ & アクティビティ」☆
格安航空会社・ジェットスターのWEB CM。サイクリングからサーフィン、カヤック、トレッキング、スポーツ観戦などの旅先でのアクティビティーを楽しむ人々に向けた広告動画。前半は駐機中の機内をワンカットでマイクロドローン空撮。後半では各アクティビティーで旅を楽しむ人々の姿を映し出す。
“タイニーらしさ”を求めて
『オンナノコズ』は、そんなマイクロHDドローンによる撮影業務のパイロット版となった作品だ。
「最初はいかにもドローンという感じで、ずっと前進しながら撮るつもりでした。しかし、この作品は女の子の顔をしっかり見せることが大事なので、彼女たちの前で止まってワンテンポ置く、という動きを作りました。それがドローンの映像としては新しかったのかもしれません。この作品の半ばで、廊下にいる二人の女の子の前で一度止まった機体が動き出す瞬間は、音楽ともシンクロしていてとても気に入っているシーンです」
この作品がきっかけとなって、増田さんの元にはマイクロHDドローンを使った撮影案件が次々と舞い込むようになる。CMやMV、テレビのバラエティ番組をはじめ、4月以降、増田さんが撮影に関わった作品は枚挙にいとまがない。ただ、撮影した作品は気に入ったシーンがあると同時に、反省点も少なくないという。
とりわけ狙い通り被写体を捉え続けられているか、そして軌道がブレないスムーズな飛びができているか、ということにはひときわ厳しい目で自らの撮影カットを評する。「構図を見ながら飛んでいるつもりですが、どうしてもモニターを見ている人に比べると甘さが出てしまう」という増田さん。さらにその映像には、クレーンや手持ちのジンバルではできない、あっと驚くような、“タイニーらしい”カメラワークが必要だという。
◉J☆Dee’ZのMV『未来飛行』のメイキング映像も公開中
監督とコレオグラファーと演者の動きを確認し、飛行ルートを相談しながら撮影。撮影中の映像はTiny view plusという機材を使ってノートPCでモニタリングした。遅延のない映像を映し出せるもののアナログの電波で画質は粗いため、撮影後にruncamで記録したHD映像をMacBook Proに読み込んでプレイバックした。撮影時に演者の髪の毛にプロペラが絡んでしまうアクシデントがあったものの、怪我もなく無事撮影を終えることができた。
撮影機材として認められたい
こうしたマイクロHDドローンの演出上の効果に加えて、増田さんは映像制作会社の経営者ならではの見方も忘れない。それは“コスト対効果”だ。ハードウェアとしてのコストはクレーンやステディカムに比べるとはるかに安く、準備にも時間がかからない。こうしたコストが抑えられるという点で、今後さらにマイクロHDドローン撮影のニーズは高まるという。ただ、マイクロドローンによる撮影では、操縦技術による映像の揺れや、搭載カメラによって制約を受ける画質といった課題があるのが現状だ。
「今のところこういった課題に対しては、マイクロドローンだからということで許されています。しかし逆に言えば、それはまだまだ撮影機材として認めてられていないということ。だからこそ、今後も撮影技術や機体を進化させて、映像業界にマイクロドローンが認めてもらえるようにしていきたい」と増田さんは話してくれた。
◉撮影に持参するマイクロドローンと関連グッズ
◉カメラマンだった父親もかつて空撮に挑んでいた
●ビデオSALON2018年10月号より転載