新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)が2025年3月15日(土)から3月20日(木・祝)までの6日間開催される。世界で初の長編アニメーション中心の映画祭として2023年から開催されており、前回は2万4千人もの動員を記録した。世界各国からアニメーション作品やクリエイターが集まる映画祭の魅力と見どころについてコンペティション部門審査員を務める、スタジオ・ドワーフの松本紀子さんにお話を伺った。
松本紀子(まつもと・のりこ)。広告映像業界からキャリアをスタート。1998年の『どーもくん』2003 年『こまねこ』が転機となり、ドワーフの立ち上げに参加。タイムレスに楽しめる高品質なコマ撮りのコンテンツの制作で、日本のスタジオとしては、いちはやく配信のグローバル・プラットフォームとの仕事を始めた。Netflixシリーズ『リラックマとカオルさん(2019)』『リラックマと遊園地(2022)』が話題に。 現在はコマ撮りやキャラクターを強みとしながら、その常識を超え、手法や会社の枠にとらわれない新しい才能や技術を使った作品を企画し、さらには日本の枠を飛び越えて制作することを目指している。最新作は2025年の米オスカーショートリストにも選ばれた堤大介監督(元ピクサー)の短編映画『ボトルジョージ』と、パイロット版で業界の度肝を抜いた『HIDARI』(長編企画進行中)。

――松本さんは新潟国際アニメーション映画祭に1回目から参加されてきたということなのですが、その経緯について教えていただけないでしょうか。

松本さん:第1回はいろんな手法のアニメーションを取り上げる中に、コマ撮りも少しフィーチャーしていこうって思ってくださった中で、ドワーフの特集を組んでいただき『こまねこ』を上映しました。呼んでいただいて楽しくて、また参加したいなと思っていたら、ちょうど翌年ドワーフが20周年だったので、第2回に特集を組んでいただき、特別上映を行なっていただきました。そして、今年は今は審査員として参加させていただきます。

――この映画祭の他にない魅力というと、松本さんから見てどんなところだと思われますか?

松本さん:長編の映画祭ではあるんですけれども、本当にバラエティーに富んだ作品が世界中から集まって来て、時代も国も表現手法もジャンルも、ものすごくいろいろなものが一堂に会しているというのが新潟の面白さだなと毎年思っております。アートとメジャーの塩梅がちょうどいいというか、誰でも楽しめるプログラムが組まれているのがすごいなと思ってました。

――今回は審査員で参加されるということなのですが、どんな視点で作品を評価されますか?

松本さん:プロデューサーの目線でものを言わなきゃいけないんだろうなと思っています。どこを軸にするかというと、やっぱり何を伝えるかということを、その絵で伝えるのか、物語で伝えるのか分かりませんが、伝えたいことがちゃんと伝わっているのか、オーディエンスにとってちゃんと面白いか深いか、考えさせられるか、心を動かされるか、それが達成されているかというのを大事にしなきゃいけないんじゃないかなと思ってます。それは作品を作る上でも、プロデューサーが大事にしなきゃいけないところだと思うので。

コンペ作品ファイナリストに選ばれた12作品

左上から●『かたつむりのメモワール』 監督:アダム・エリオット(オーストラリア/2024年/94分)© Arenamedia Pty Ltd. ●『オリビアと雲』 監督:トマス・ピシャルド・エスパイヤット(ドミニカ共和国/2024年/81分)●『クラリスの夢』 監督:グート・ビカーリョ/フェルナンド・グティエレス(ブラジル/2023年/83分)●『バレンティス』 監督:ジョヴァンニ・コロンブ(イタリア/2024年/72分)『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』監督:エリック・パワー(アメリカ/2024年/87分)『ペリカン・ブルー』 監督:ラースロ・チャキ(ハンガリー/2023年/80分)『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』 監督:フェルナンド・トルエバ/ハビエル・マリスカル(スペイン・フランス・オランダ・ポルトガル/2023年/103分) © 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS ●『リビング・ラージ』 監督:クリスティーナ・ドゥフコバ(チェコ/2024年/112分)© 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB ●『ルックバック』 監督:押山清高(日本/2024年/58分)Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2024「ルックバック」製作委員会 ●『ワールズ・ディバイド』 監督:デンバー・ジャクソン(カナダ/2024年/116分)●『化け猫あんずちゃん』 監督:久野遥子/山下敦弘(日本・フランス/2024年/92分)©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会 ●『口蹄疫から生きのびた豚』 監督:ホ・ボムウク(韓国/2024年/105分)

――コンペには28カ国・地域から69作品が寄せられたそうですが、映画祭には海外の方々も多く参加されるのですか?

松本さん:来場者も海外の方々がたくさんいらっしゃいますし、映画祭としても海外のゲストの招聘にも力を入れていると思います。実は1年目に行った時に、海外のプロデューサーですごく会いたいと思っていた人が新潟に来ていたんです。パーティーでお会いして名刺交換することができて、実は今一緒に仕事したりもしています。映画祭ってそういう新しい人と知り合ったりとか、同じ映画祭に来る人ってみんな似た者同士というか、カルチャーの近い人が集まる気がするんです。仕事を取りに行くばかりが目的ではないけど、友達ができたり、そこで知り合いになって、次に別の映画祭でまた会って。その人がよく仕事をしているクリエイターとも知り合いになる中で、「一緒にやらない?」みたいなことになったりします。映画祭はわりと近しく、やがてコラボレーションできる可能性がある人が見つかる場だなと思っています。

――参加するクリエイターにとっても夢が広がりますね。

松本さん:クリエイターはそうだと思います。あまり物怖じしないで、映画が終わった後はロビーでちょっとお話するとか、英語ができなくても突撃で話す。どんどん話しかけて友達を作ったほうがいいと思います。毎年友達ができます。もちろん、日本人との出会いもあります。去年は『JUNK HEAD』の堀 貴秀さんとお話しして、翌日のランチに海鮮丼を一緒に食べてすごく仲良くなって、その後、スタジオに見学に行かせてもらったり、渋谷パイロットフィルムフェスティバルに作品を出してもらったりしました。

――今後、ドワーフさんが目指すアニメーション制作の展望があれば教えてください。

松本さん:ドワーフでは20年以上前からずっと合田(経郎)が監督している『こまねこ』のような作品もありますが、今回映画祭でも上映される『ボトルジョージ』は、元ピクサーの堤 大介さんが監督。キングコングの西野亮廣さんがエグゼクティブプロデューサーという座組で、お二人で脚本を手掛けている作品をプロデュースしています。コマ撮り門外漢なお二人とご一緒することでこちらとしても新たな気づきがありました。きちっとコマ撮りを守りながらも、新しい人と作品を作ることで、スタジオやスタッフの経験値が上がったりもします。技術を守ることと新しいものへのチャレンジを併走できるといいなと思っています。

――今回の『ドワーフ特集』ゲストの西野亮廣さんとのトークはどんなお話になりそうですか

西野さんも、いろいろなことをアップデートしている人なので、まさに、いま何を話すべきか相談中です。いままで、いろいろな裏話をしてきましたが、もう少し未来に向けた広い話ができるといいな、と思っています。『ボトルジョージ』は映画祭以外では、今「東京ボトルジョージシアター」という専用シアターでしか観られないんです。普通に劇場公開はしていないので、大きなスクリーンで見るのはすごく希有な機会です。新潟国際アニメーション映画祭でしか観られないので、ぜひ観にきてほしいです。

新潟国際アニメーション映画祭イベント上映

《ドワーフ特集》 3月18日(火)18:00より 日報ホール
トークゲスト西野亮廣(『ボトルジョージ』原案・脚本・製作総指揮/CHIMNEY TOWN)、松本紀子(ドワーフ プロデューサー)

『ボトルジョージ』 監督:堤 大介(Bottle George/2024年/13分)
©CHIMNEY TOWN

お酒の瓶に閉じ込められた毛虫のようなヘンテコリンな生き物ジョージがある日小さな少女と猫に出会う。依存症と家族をテーマにした13分のコマ撮り短編アニメーション作品。

『こまねこのかいがいりょこう』 監督:合田経郎(Komaneko -A New Journey-/2024年/50分)
©dwarf・こまねこフィルムパートナーズ ©dwarf

山のうえのおうちに暮らすこまちゃんはものづくりが大好きなねこの女の子。いつも自分の心に素直に、そして楽しく暮らしています。ある日、いっしょに暮らす“おじい”から海外旅行の計画を聞き喜ぶこまちゃんですが、友達の“ももいろ”“はいいろ”は連れていけません。はたしてこまちゃんは、大好きな彼らと離れても大丈夫なのでしょうか……?こまちゃんの友情と成長を描く物語。(新作『こまねこのかいがいりょこう』に加え、『こま撮りえいがこまねこ』より、名作との呼び声が高い『はじめのいっぽ』『こまとラジボー』『ほんとうのともだち』の3作とともに上映)

●映画祭最新情報は公式サイトで