Short Shorts Film Festival & Asia 2010 レーベル担当者に聞くミュージックShortクリエイティブ部門の可能性


米国アカデミー賞公認、アジア最大の国際短編映画祭「ショートショート フィルム フェスティバル & アジア」(以下SSFF&ASIA)では、2010年度より「ミュージックShort クリエイティブ部門」を新設した。これは、趣旨に賛同したミュージシャンからエントリーされた楽曲を使用して、クリエイターがオリジナルのショートフィルムを作るという新しい試みで、10年1月30日まで(当日消印有効)作品募集を行っている。


この開始にあたっては、楽曲を提供しているミュージシャン本人と、所属するレーベルの理解と協力が不可欠だった。そのレーベルの一つであるEMIミュージック・ジャパンのマーケティング部第1グループ長の梶望さんに、「ミュージックShort クリエイティブ部門」へ寄せる期待と可能性について話を伺った。EMIからはJYONGRIさんが「ICHIZU」と「The Chills」の2曲をエントリーしている。
JYONGRI_2.jpg
JYONGRI
いくつかのハードルを乗り越えて企画が実現
梶さんが「ミュージックShortクリエイティブ部門」の設立に向けた相談を受けたのは2009年の夏。以前一緒に働いていた知人からの紹介だった。
「ドラフト(たたき台)段階の企画書を一度見せてもらったのですが、権利関係やプロモーションに関する問題、ビジネスに関わる問題等、クリアすべきハードルがまだたくさんありました。私の立場からいくつか意見を述べて、まずはそれらの交通整理をして検討可能なレベルまで持ってきてから再度ご提案くださいとお伝えしました」
秋も深まったころ、再び梶さんのもとにSSFF&ASIA実行委員会から提案があった。そこで示された企画内容は、リアルなビジネスベースで考えることができるものになっていた。
「権利関係に対する考え方やスタンスはレーベルによっていろいろ異なるので、それぞれの意見を聞いてまとめ上げた実行委員会の方々は大変だったと思いますが、これならば検討できると思い、社内に持ち返って呼びかけをすることにしました」

自由な解釈による“化学反応”に期待
全体の枠組みが決まり実現の運びとなったが、レーベル側にとっては、所属アーティストの誰に声をかけるかが重要な課題だった。EMIの所属アーティストには自ら作詞や作曲を行う、いわゆるシンガー・ソングライターが多い。自身の世界観やビジョンを明確に持っていて、曲づくりにとどまらず、プロモーション・ビデオ(PV=ミュージッククリップ)やWEB展開にまで自身でプロデュースしてしまう人も少なくない。アーティストの表現領域、クリエイティビティが発揮されるジャンルが広がっているのだ。
アーティストは自分が伝えたいことを曲に込め、それを映像やコンサートなど、自分のイメージした「空間」でそれを表現する。PVに関しては、映像監督やスタッフに委ねる部分もあるとはいえ、基本的にはアーティスト本人の意向が働く。しかし、この「ミュージックShortクリエイティブ部門」は、楽曲を提供したらあとは映像の作り手にすべて任され、どんな映像が作られるかは一種の賭けだ。アーティストの意図とはまったく違うものが出てくる可能性もある。それを面白いと思ってくれるかどうかが問題だ。
好奇心が旺盛で他者とのコラボレーションにも前向きということで、梶さんが声をかけたのはJYONGRIさん。大阪出身の若手女性アーティストで、作詞作曲も自ら行う。この企画にも喜んで手を挙げてくれたという。
「アーティストにとって曲はいわば子供のようなものですが、曲をリリースすることは一回自分の手を離れていくという感覚があって、あとはどんな子に育つか楽しみにしているものなんですよね。で、この企画ではJYONGRIが、仮に「永遠の愛」をテーマに歌っていたとしても、もしかしたら全然違った解釈で作品がエントリーされるかもしれないリスクはあります。でも、この企画がアーティストにとって単なるプロモーションに終わってしまってはつまらない。むしろ作品同士の“化学反応”で何が起こるか、そこから何か面白いことが生まれるんじゃないか。それがこの企画が成功するかどうかのカギだと思います。自分の作った世界をどう広げてくれるか、JYONGRI本人もワクワクしています」
PVの既成概念を覆す作品が出てきてほしい
音楽をビジネスにしていく立場から、近年は楽曲周辺に対するお金がかかりすぎて冒険ができにくくなっていると梶さんは指摘する。従来の枠組みや常識にとらわれていてはなかなか新しいものは作れない。今までのPVの概念を覆すような作品、肥大化した音楽ビジネスの枠組みに風穴を開けるような新しい才能の出現を期待する。
「最近はPVにあまり予算がかけられなくなっているけれど、お金をかければいいというものではなく、アイデアさえあればいいものが作れるはず。クリエイティビティで勝負してほしい。インフラの発達もあるので、これから作っていきたい人にとっては逆にチャンスだと思います」
「新しいカルチャーはどうやって生まれるのか」。梶さんは仕事以外でも飲み話としてよくそんな話を仲間とするそうだ。そして必ず行き着くのは、「既成概念を壊すこと」。それに関連する話には「YouTube」などの新しいネット動画配信インフラが欠かせない。著作権侵害にあたるケースなど法的な問題も多いが、「ネット上で沢山の人たちにこの映像を見せたい」というミュージシャン側の意向やユーザーからのリクエストもあり、ネットでの動画配信を前提としたコンテンツ制作の動きも出ているという。
「新しいインフラができて、それが面白ければアーティストもどんどんやりたいと思うわけで、そういう力と情熱があれば(ちゃんとアーティストの権利が守られていることが大前提ですが)世の中のルールは変えられるものだと信じています」
今はただ音楽を聴くだけでなく、いろんな形で利用してアクションを起こしながら“共感”していく時代。その意味で、今回の「ミュージックShortクリエイティブ部門」の企画は時代の流れに合っているのではないかと話す。映像制作の世界に入れるチャンスの場を作ること、そこでいい化学反応があって、新たなカルチャーができていく。そこから出た若い作り手に仕事のオファーが来れば…と期待が膨らむ。
最後に、これから応募しようという作り手にミュージックビデオのコツを聞いた。
「映画などとは違う部分として、楽曲にはそれぞれリズムがあって、それがすべてのベースであり編集のポイントになります。もう一つ大事なのは“共感”。曲を理解したうえでの映像づくり。映像にどう曲を溶け込ませるか。PVは我々がプロとして関わっていくので、もっと自由に、その曲を使ったPVではない“新しい作品”に期待しています」
JYONGRIオフィシャルサイト http://www.jyongri.com/
EMIミュージック・ジャパンJYONGRIサイト http://www.emimusic.jp/artist/jyongri/


ShortShorts Film Festival ミュージックShortクリエイティブ部門の概要
プロのミュージシャンからエントリーされた楽曲を使用して、オリジナルのショートムービーを作る。楽曲は1作品につき1曲に限り、総演奏時間の1/3以上を使用すること。曲のどの部分を使っても構わない。映像の総尺(エンドロール等含む)は10分以内で、作品内のどこで曲を使用するかは自由。12月までに79組のアーティストがエントリー、150曲を超える中から好きな曲を選ぶことができる。
エントリー&応募
SSFF&ASIAのサイトにアクセス、エントリーフォームに必要事項を記入しエントリーを行う。フォームに記述した作品を記録したDVDを応募確認書のコピーとともに下記に送付。映画祭が行われる2010年6月時点で日本初上映作品であることが条件となる
応募DVDと応募確認書の発送先
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前2-10-2 MBE 705
ショートショート フィルムフェスティバル & アジア
フォーマット&素材
作品は全フォーマットを対象、応募はDVDにて
応募DVDは返却されない。1枚のDVDに複数の作品を収録する場合は、分かりやすいようラベルに作品名を明記のこと
※作品が選考された場合は、 応募作品のNTSC Digi-Betacam、 Betacam、DV-Cam、もしくはMini-DVテープを提出
応募締切
2010年1月30日消印有効
発表等
映画祭上映、さらに6月以降の配信のための第一次審査、第二次審査を2010年2月1日(予定)~3月1日(予定)に行い、4月1日(予定)までに全応募者に対してEメールで結果を告知

優秀賞(スポンサーアワード):賞金60万円+副賞20万円相当の旅行券
※PV部門はレーベル各社が制作したミュージッククリップから、ショートムービー的要素が高い作品を選定、優秀賞60万円
問:SSFF&ASIA実行委員会 Tel.03-5474-8844
■映画祭公式HPhttp://www.shortshorts.org
■ミュージックShort クリエイティブ部門の詳細ページhttp://www.shortshorts.org/2010_call_for_entry/ja/music.html
関連記事
ミュージックShort部門に寄せるミュージシャンのメッセージ
青山真治監督がShort Shorts Film Festival & Asia ミュージックShort クリエイティブ部門第1回ゲスト審査&招待作品制作