NPO法人「市民がつくる TVF」(代表理事:小林はくどう)が主催する、今年で 39 回目を迎えた“市民による市民のための映像祭”「東京ビデオフェスティバル 2017」。今回は135 作品 が集まった。 今回は、6 歳から 85 歳までの幅広い世代が応募。高校生・大学生を中心とする 20 代までの世代から 69 作品(約51%)、60 代以上のシニア世代から 45 作品(約 33%)が寄せられ、両世代で全体の約 8 割 を占めた。応募作品のジャンルはドキュメンタリーが最も多く 94 作品(約 70%)、次いでドラマが 30 作品(約 22%)、CG/アニメーション/アートが 11 作品(約 8%)となった。 これら応募作品の中から、入賞作品となる「TVF2017 アワード」(40 作品)を選出。2017 年 2 月 11 日(土)に開催した「TVF2017 フォーラム」(会場:武蔵大学)において、 審査委員による公開審査にて最終選考を行い、「TVF2017 アワード」から選ばれるグランプリの「ビデオ大賞」は、京都府の櫻井宏哉さん(58 歳)の作品『The Stream Ⅵ』に決定した。
ビデオ大賞『The Stream Ⅵ』(櫻井 宏哉さん・58 歳・京都府)
特別賞の 2 作品として、故 筑紫哲也氏のご遺族の選出により、ジャーナリスティックな視点 に特に優れた作品に贈られる「筑紫哲也賞」は『ケガと弁当自分持ち!~生き物をつなぐ コミュニ ティガーデン~』(林原 あずささん 法政大学水島ゼミ・21 歳・東京都)
「筑紫哲也賞」『ケガと弁当自分持ち!~生き物をつなぐ コミュニ ティガーデン~』(林原 あずささん 法政大学水島ゼミ・21 歳・東京都)
また、NPO サポーターの審査投票によって選出される「サポーター賞」は『消え行く村の記憶』(内田 一夫さん・80 歳・埼玉県)が選ばれた。
「サポーター賞」『消え行く村の記憶』(内田 一夫さん・80 歳・埼玉県)
今年のTVF2017フォーラムは2月11日と12日の2日間にわたって、武蔵大学江古田キャンパスで開催された。TVF入賞作品をテーマで分類し、セッション1のディスカションとしてテーマ「人をみつめる」というジャンルの11作品をダイジェスト上映し、入賞者、湖面メーター、ナビゲーターによる討論を行い、セッション2では、「地域・歴史・文化・自然を伝える」というテーマの作品を20本ピックアップ。ダイジェスト上映したのち、討論を行なった。
翌日はセッション 3として 「闘う映像 現在、現代を考える」をテーマに9作品をめぐってディスカッション、表彰が行われた。
初日の午後には、今年を象徴する一本「ビデオ大賞」を選ぶ公開審査を開催。審査員の大林宣彦監督、小林 はくどう氏(ビデオ作家・成安造形大学客員教授) 佐藤 博昭氏(ビデオ作家・日本工学院専門学校講師) 村山匡一郎氏(映画評論家)、司会の下村健一氏による討論が行われた。髙畑 勲氏(アニメーション映画監督)は都合で欠席だったが、ビデオコメントを寄せ、総評、今年の3本、そしてグランプリに推したいものを発表した。
公開審査中の様子。
髙畑 勲さんは事前に収録したビデオで多くの作品についてコメントした。
ここ数年は、戦争の生き証人を少なくなってきている中、戦争を取り上げた優れた作品がTVFに集まってきている。昨年のビデオ大賞は「韓国のヒロシマ」だったが、今年も「留萌沖の戦慄 in 1945」「軍属だったひいおじいちゃん」「日本軍最後の「兵器」」「集団自決~鍬の戦士の悲話」など 戦争を取り上げた優秀作品が多かった。
各審査員が票を入れた作品は以下の通り。
「消えゆく村の記憶」(高畑、小林、佐藤)
「8年前を歩く」(高畑)
「いっぱい食べんさい〜広島のマザーテレサと子供たち〜」(高畑)
「帰路」(大林)
「ここにいる」(村山)
「先生かっこいいじゃん」(村山)
「粘菌の森」(佐藤)
「STREAM VI」(小林、村山)
「静かな熱いメッセージ」(小林)
「留萌沖の戦慄 in 1945」(大林)
「美しき過疎」(佐藤)
「忘れられた魂 〜宮島の原爆死者たち〜」(大林)
これだけ票が割れる審査会は近年になく、一本を選び出すことの難しさがよくわかる。票を集めた「消えゆく村の記憶」は、日本の過疎の状態にスポットをあてながらも、その村の祭りでは村人が楽しそうにしているのが希望につながるという声がでる一方で、まとめ方として、行政でこういう文化遺産を残していかなければという訴えはちょっと違うだろう、行政は何もしないし、そこに頼ってはいけない、という意見が出た。
STREAMは、用水路の中を撮影した実写のビデオインスタレーション的な作品。ナレーション、テロップはいっさいなく、映像と音声(水の中の音を加工している?)で驚くべき美しい映像が展開される。ビデオフェスティバルの初期ににはビデオアート的な作品がある程度の割合を占めていたが、近年はドキュメンタリー志向が強まっていた。これを推した二人も今年を象徴する今年の一本としての大賞にはふさわしくないかもしれないが、圧倒的に美しく、これは無視できないと語った。佐藤氏、大林氏も賛同し、今年のビデオ大賞に選ばれた。
櫻井宏哉さんは、成安造形大のメディアデザイン領域の教授。1980年代からビデオアートの世界で活躍され、日本だけでなく世界で個展、グループ展で自作を発表し続けている。STREAMはVIとあるように、このシリーズでは前に5本の作品がある。
ダイジェストはvimeoで見られる。
https://vimeo.com/user28890376
こういった作品はどの映画祭でも出品されることはなく、今回のTVFでピックアップすることはビデオの可能性を今改めて考えるということで、大きな意義があるセレクションだったと思う。YouTubeの映像は回線によってはかなり圧縮がかかってしまい、きれいにみられないことも多いので、vimeoのチャンネルからダイジェストを見てほしい。
今回入賞した作品の大半は、TVFのサイトからYouTubeにアップされたものを見ることができる。
http://tvf2010.org/TVF2017Entry1.html
なお、例年メーカーとしてはサイバーリンクが協賛しているが、今年からはDJIも加わった。副賞としてOsmo mobileが渡された。会場の入り口ではOsmoなどのデモ機が並べられ、実際に手にとって試す人が多かった。副賞のOsmo mobileを手に挨拶するDJIの柿野さん。