パナソニックLUMIX S1Hの現場から〜酒井洋一さんの場合


ついに発売された『小型シネマカメラ』LUMIX S1Hに多くのジャンルの映像制作者が熱い眼差しを注いでいる。ウェディングを中心に活躍するシネマトグラファーである酒井洋一さんにご自身の現場をイメージしながらショートフィルムを作っていただいた。

 

テスト・文●酒井洋一/協力●パナソニック株式会社

Model:武石 愛未/小林 聖也、Director/DP: 酒井 洋一(HIGHLAND)、PM:日内地 摩美/松岡 裕未子(HIGHLAND)、Hair & Make Up:田中 智子、Lighting Director: 大島 洋介(Tokyo Grip)、Wardrobe:Amarena、協力:信州上田フィルムコミッション/エキストラの皆様

 

 

 

 

ウェディングの現場もイメージしたムービーを少人数スタッフで撮る

以前シネマカメラEVA1のレポートでも述べたが、24p撮影を可能にしたパナソニックのカメラDVX100Aを好んで使っていた。そういう意味でパナソニックのカメラには愛着も感じるし、高い期待を持っている。しかし、普段のウェディングムービーの業務ではフルサイズの一眼レフを使っているため、どうしてもマイクロフォーサーズのGH5のようなカメラは手にしてこなかった。

今回、新しく発売されたS1Hはフルサイズセンサーである。以前から温めていた企画があり、長野県の上田市をロケーションに、いつものごとく少人数でS1Hでどこまで撮影できるかに挑んだ。

事前にコンテなどは書かず、一度のロケハンで何となく撮りたい画をゆるく決めていき、現場での考える余白を残すやり方にした。また、ロケーションを何カ所か移動する必要があり、各現場で30分ほどしか撮影時間がとれないので、屋外では三脚は使わず、一脚で通した。今回の撮影はいつものウェディングではなく「ショートフィルム」であることはわかっていたが、一脚を中心とする普段通りの撮影スタイルで行なった。そのほうが時間が短縮でき決定も早いと思ったからだが、S1Hというシネマカメラを三脚のみならず、カメラを振り回すようなドキュメンタリースタイルとの相性がどうかということにも興味があったからだ。

 

冒頭の田舎の駅に辿り着いた都会の女性というシーン。カメラの設定は4KのV-Log収録、LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.を使用した。基本的にV-Log時は最低ISO感度は640なので、絞りを開けるために、友人のカメラマンの勧めもあり、ND8(3段)にC-PLフィルターを重ねて装着。レンズに入る光量を調節するとともにC-PLフィルターをくるくる回し、空の青さや、白い洋服の反射のハイライトなども微調整しながらの撮影となった。

駅舎では手前に咲いていたコスモスを前ボケにし、ベンチに被写体、抜けに雄大な景色という画はロケハン時に決めていたことのひとつだった。ピントが合った時の解像感はもちろん良く、手前や奥のボケ方もうるさい感じではなく、自然でとても良かった。いつも画の決定、カメラ位置の決定で心がけていることは、最終的に視聴者は平たい画面で観るので、どうやってその中に立体感を感じてもらえるかということであり、構図や光などを意識するようにしている。

村民と女性がすれ違うシーンでは、それぞれ、手持ちで追っかけようと思い、微妙な距離感を表現したく、レンズをLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.に替えた。ジンバルなどは使わずに、手持ちで追っかけた理由としては、今回のシーンでは女性の「心情の揺れ」を表現したく、ジンバルでは動きがスムーズすぎて、人間味がなくなると思ったからである。とは言え、神社の敷地は石が転がっていたり、でこぼこしていたりしたので、S1Hの手ブレ補正の援助なくしては、見るに耐えないものになっていただろう。スムーズ過ぎず、揺れすぎずのところを狙いたかった私にとっては大きく演出の助けになった。サイドショットで、村民がすれ違うシーンでは、引きを撮りたく、一瞬24-105mm F4のレンズも考えた。しかし、被写体から距離もかなりとれたのと抜けの木々たちをボカして立体感を出したく、LUMIX S PRO 50mm F1.4に替えた。絞りは開放では撮っていなくて、F2かF2.8くらいで撮影した覚えがある。結果として、木々が画面上の2人の存在をさほど邪魔せず、それでいて絶妙な存在感を放っている画になった。

日本の棚田100選にも選ばれている、立派な棚田で女性が慣れない農作業をしているシーン。このシーンも70-200mm F4を中心に使用。画を見ていただけるとわかるように、あぜ道は起伏もあり、普通に歩くのも少し大変な状況。今回は使っていないが、三脚を立てるのも少し苦労しそうな感じ。一脚を使用し、足元も不安定な中で、案外助けられたのは本体とレンズの重量感だった。Sシリーズに対して少なからず感じていた「大きい/重い」といった印象は、今回のS1Hの使用で考えが少し変わった。「小さい/軽い」ということは非力な自分にとって正義だが、本体と大きなレンズのバランスによっては前重心になり、どうも取り回しが良くない。その点今回のS1Hと70-200mm F4はバランスも良く、レンズ自体はインナーズーム式でズームを動かしてもバランスが崩れにくく、使いやすかったからだ。

▲あぜ道ということもあり、一脚で撮影。S1Hと70-200mm F4の手ブレ補正と組み合わせたときのバランスの良さに助けられた。ズームを動かしても前玉が出ていかないのでバランスが崩れにくい

▲農作業から戻る途中、雨が降って来るシーン。この雨降らしシーンはS1Hが防塵防滴ということもあり、企画段階からやりたいと思っていて、ただ、どのように達成するかは照明監督と相談しながら、画のサイズなどを決めた。照明的には上手の逆目からHMIの1.2Kを打ち、女性のツヤと、雨粒を目立たせている。

 

古民家で白無垢になるシーンでは50mm FI.4と24-105mm F4を使い、まさに私がいつも撮影している状況と同じレンズのミリ数であまり動きをつけずに自由に撮影している。撮影を大げさにせずに、いつもと同じスタイルをとることで、いわゆる日本の結婚式の美を表現できると思ったからだ。このシーンに関して、当初自分では、なるべく田舎のリアルな暗い和室を想像していたが、照明監督のアドバイスもあり、ここはある程度照明をしっかり当ててビューティーを狙おうという結論に。このあたりがリアルの世界の中にミュージックビデオの要素も垣間見える、少しおもしろいバランスの作品にできたと思う。

ラストの花火のシーンは50mm FI.4、1本勝負で撮影した。この花火は日本のよく見る手持ち花火ではなく、海外ウェディングでよく使われる煙の少ない花火。花火のアーチをくぐる場面は海外の映像では見ていたが、それを白無垢でやることにより、少しポップさを足したいと考えた。ベースの明かりは照明で作ってもらい、そこに花火自体の明るさや、ゆらぎが足されて成立するようなイメージだった。

今回、S1HとLマウントのレンズを実際のショートフィルム撮影で使用して感じたことは、圧倒的な信頼感だった。「シネマカメラと謳うのであれば、一眼レフスタイルじゃなくてよい」という声もある。確かに撮影チームも分業で、フォーカスマンやアシスタントがいるような現場では、同時に複数人がカメラ周りにアプローチするため話は別かもしれない。しかし、私のように長く一眼レフを用い、1人ディレクターとしてカメラを回す機会が多い身からすると、一眼レフスタイルで、高性能を詰め込んだカメラは大歓迎である。両手の中でレンズや本体操作が完結し、そのまま少ないタイムラグで撮影を継続できることは、ある意味人間工学的な最終形態なのかもしれない。1900年代初頭に始まる、両手でカメラを持ち撮影するスタイルはこの100年変わっていない。

レンズに関しては今回使用した50mm FI.4、24-105mm F4、70-200mm F4、すべてのレンズが大変満足させてもらえる描写だったが、特に挙げるとすると50mm FI.4のヌケの良い描写と24-105mm F4のマクロがかなり寄れることだ。ウェディングの現場で、フォトグラファーが指輪の撮影時にマクロレンズに交換している光景をよく見るが、それと遜色ないほど寄れるので、これが1本あると表現の幅が広がる。

今回唯一心残りは、撮影時間が限られていたこと。もう少しこのカメラに触っていろいろ深掘りしてみたかった。様々な機能を有し、映像制作者のクリエイティビティーを刺激してくれるこのS1Hとレンズ群。近いうちにまた向き合って作品を撮りたくなるカメラ。そんな能力と雰囲気をこのカメラは持っている。

 

【追加情報】S1HではREC時に画面全体を赤枠表示をする機能が加わっている。ウェディングのように逆タリーが絶対に許されないような現場では重宝する機能だと思った。

 

ビデオSALON2019年12月号より転載