学生時代からニコンのカメラを愛用している、広告フォトグラファー兼映像クリエイターの小暮和音さん。現在、自身の現場で「Z 8」を導入し、写真や映像の様々なシーンで活用しています。今回、小暮さんが携わった広告作品や新たに撮り下ろした作品事例をもとに、プロの視点から見た「Z 8」の魅力を訊きました。

取材・文●高柳 圭/構成●編集部 片柳
協力●株式会社ニコンイメージングジャパン

小暮和音

1990年、東京生まれ。2013年、日本大学芸術学部写真学科卒業。アマナグループ株式会社Vda入社、吉田明広氏に師事。2014年に株式会社PARADE設立と共に参加、坂本覚氏に師事。2015年アマナグループから独立し、小暮和音写真事務所を設立。2019年、株式会社コントラストを設立。APAアワード2022広告作品部門 審査委員 北島明賞。

 

ニコン Z 8

オープン価格 (ボディーのみ)
ニコンダイレクト参考価格 ¥599,500

▲フラッグシップモデル「ニコン Z 9」と同等の機能と高い性能を、堅牢性・信頼性の高い小型・軽量ボディーに凝縮。8.3K 60pや4.1K 120pの12bit RAW動画、10bit ProRes 422 HQ 動画のカメラ内部収録が可能。

 

様々な表現が求められる現場で素早く質の高い撮影を可能にするZ 8

私はこれまでの仕事のなかで、様々な広告写真や映像の制作に携わってきました。デジタルカメラの性能が大きく進化していくのと同時に、広告を発信する媒体も多様化し、特にSNSを通じた動画作品のニーズは高くなっていて、近年はひとつの仕事でグラフィックと動画の両方の制作を依頼される機会が増えています。

これまで動画を撮影する際には、写真用のカメラと使い分けていました。長年、ニコンのカメラをメインに使っていますが、愛用していた「D850」に対してはグラフィックのカメラという意識が強く、動画撮影をすることはありませんでした。今回、「Z 8」を導入し、表現方法を確かめていくなかで、動画機としての可能性も感じることができたので、カー用品販売「イエローハット」のCM制作の現場で、「Z 8」による写真と動画撮影を行いました。

 

作例1:イエローハットWEBCM『ハットの日』

カー用品販売のイエローハットが、SNSで公開した「ハットの日」のキャンペーンCM動画。カラフルなアイテムや背景が、リズミカルに切り替わり、短い時間でも目を引くキャッチーな作品。

▼動画を見る

 

そもそも「Z 8」を導入する以前は、ミラーレスカメラへと移行すること自体に抵抗がありましたが、「Z 9」で実現されたAF機能の向上やローリングシャッター歪みの低減、Zレンズの描写力、そしてそれらの機能が「Z 8」に引き継がれ、軽量化されたことを受けて、導入を決めました。

 

▲Z 8の性能を確認する意味も込め、スライダーやフィルターを組み合わせて作例(イエローハットWEB CM『ハットの日』)を撮影。「撮影時間がシビアな現場では、自分がやってみたい表現をすべて試す時間はなかなか取れないので、写真と動画の両方を高いクオリティで撮れる時短につながるカメラの存在は大きい」と小暮さん。

 

CM撮影の現場で「Z 8」を導入して良かったのは、撮影の準備をはじめとするスピードが格段に上がったことが一番大きかったと感じています。今までは写真と動画でカメラを入れ替えて撮影するのが普通だったわけですが、カメラの入れ替えは、言葉で言うほど簡単ではなく、実際には、画角やレンズも変わるため、同じ世界観をつくるための微調整に時間がかかっていました。

しかし、「Z 8」にしたことで写真と動画を全く同じポジションのまま、同じ設定で撮影できたので、アングルだけでなく色味の連動性もかなり近いものになったことは、1台のカメラで撮影することの強みです。具体的には、今回の「イエローハット」の撮影は6時間ほどで終えていますが、カメラを入れ替えていたら、プラスで2時間はかかっていたのではないかと思います。

このように機材が少なくなり、準備時間の短縮ができることで、様々な負担が減るのと同時に、これまでは撮影時間のことを考えて提案できなかった1カット、1テイクを追加でトライするなど、さらに踏み込んで提案ができるようになっていくと思います。それが、作品のクオリティアップにつながる可能性もあります。

 

撮影の風景

▲動画の中で登場するアイテムは、すべて「Z 8」を用いて小暮さんのスタジオで撮影。スチルと動画の両方を使う企画だったため、「Z 8」が重宝した。被写体を回転させ、ズームなども使いながら撮影していく中で、AF性能の高さも感じられたという。

 

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写真と動画それぞれのクオリティを高めるカメラ性能

「Z 8」で動画撮影をする中で、個人的な感覚として印象に残っているのが、優れた解像感を得られたことです。「イエローハット」の撮影では、現場で色味をある程度まで詰めて、カラコレは監督自ら微調整することになったので、扱いやすいH.265(10bit)の4K/120pで撮影しました。ここで感じた優れた解像感は、ハイレベルな画像処理エンジンと、8Kで読み出したデータをオーバーサンプリングし、4K UHD動画を生成していることが理由だと思っています。 “きれいな4K”になるイメージで、グラフィックの撮影をしている感覚で、動画撮影に臨むことができました。

また、「Z 8」の性能を確かめるため、ガラスの酒瓶を使った撮影も行いました。ここでまず驚いたのはオートフォーカスの高い精度です。フィルターを2枚重ねで撮影したのですが、オートフォーカスが問題なく機能していたことに感動しました。

また8.3K(12bit)のN-RAWで撮影し、ラストカット以外はデジタルズームなども活用しながら仕上げています。これは8K撮影ならではのメリットですよね。さらにそこから、tif切り出しのテストもしたところ、当然ノイズ感やダイナミックレンジの狭さは感じるものの、約3,800万画素の画像のため4K切り出しとは比べ物にならない解像感に驚きました。動きの少ない被写体やシャッター速度が稼げる環境であれば、スチルの切り出しに充分対応できるクオリティで、グラフィックカメラマンとしては脅威に感じました。

 

作例2:ガラスの酒瓶をフィルターワークで撮影『ガラスの酒瓶』

ウイスキーの酒瓶を用いて、様々なアングルや反射、フィルターによる光の変化を撮影した作例。ウイスキーで酔った時のフワついた感覚と、昭和のバブル感を表現している。

 

撮影のセッティング風景

照明は一方向から当てることで、強い陰影を作って被写体の輪郭を強調。❷❸酒瓶の光の反射をコントロールすべく黒フラッグやレフ板を配置。酒瓶は一定の速さで回転するテーブルの上に配置。レンズはNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sを使用。スライダーで寄りと引きを撮りつつ、AFの追従する感度を変化させながら様々なバリエーションを試した。影になった部分をやや持ち上げるため、小型のミラーを設置。

▲酔った時のフワついた感覚を表現するために、レンズにはTiffenのブラックプロミストフィルターとクロスフィルターを装着。2枚重ねをしても、オートフォーカスの精度が落ちないことに小暮さんも驚いたそうだ。

▲AF追従感度をあえて落とし、後追いピントさせることでさらに酔った表現も可能に。

 

「Z 8」の美肌効果も良い機能だと感じました。この機能を使って女性を撮影したところ、「いつもより盛れてる」と言っていて、ぱっと見ただけでも分かる効果が出ていました。もちろんライティングとの兼ね合いもありますが、まつ毛がシャープなまま自然な美肌になっているなど、ライブ配信など後加工が難しい撮影で有効だと思います。

「イエローハット」の動画では、Fマウントレンズを使用していますが、作品に求める世界観やトーンによっては、オールドレンズやアナモフィックレンズを使った、よりオリジナリティのある画作りも楽しめるかもしれません。加えて、Zレンズと組み合わせた際の豊かな描写力も魅力だと感じます。

私は「NIKKOR Z」の24-70mm f/2.8 Sと70-200mm f/2.8 VR Sを所有しています。Fマウントレンズを初めて使った時には、ナノクリスタルコートによる抜けのよい描写に感動しましたが、Zレンズはさらに周辺までシャープな描写ができることに驚きました。絞り開放で撮影する頻度が少なければ、単焦点レンズにこだわらなくてもいいと思えるほどです。現在は、Fマウントレンズもマウント変換で使用していますが、一式入れ替えることも検討しています。

AF性能においては、瞳AF機能はもちろん、周辺までオートエリアAFが使えるため、圧倒的に撮影が楽なのもポイントです。広告制作で多い人物撮影では、AF機能が高いことで、構図やモデルへの指示出しに集中でき、より良い表情を押さえることができます。

また、動画撮影でもこのAF機能は優秀で、フォーカス追尾の速度を調整できるので、しっかり合わせたい時は設定を「7」、ゆっくり柔らかく合わせたい時は「1」に設定するなど使い分けています。これらの機能に加えて、レンズ鏡筒にある情報パネルに絞り値や撮影距離などが表示されるので、撮影現場でよくある「ひとつ前のカットに戻したい」というリクエストや、一度手持ちで画角を変えた後に三脚に戻すといった場面でも、同じ設定で再現ができるのは重宝する点ですね。

 

 

 

ハードな環境から繊細な場面まで様々なシーンで多彩な画作りが可能

また、「Z 8」は質の高い画を生み出す性能だけでなく、様々な撮影環境にも対応するプロダクトとしての設計も、プロの現場で使いやすい点です。これまで、動画撮影は6Kデジタルカメラを使っていて、カメラ内蔵バッテリーだと数十分しか持たないため、VマウントバッテリーかAC運用が必須でした。「Z 8」は高機能ですが、(仕様上、約85分の)小さな同梱電池の割に長持ちする印象です。もちろん、現場ではUSB-Cでモバイルバッテリーから充電したり、予備バッテリーを準備する必要はありますが、ロケにおいて不安が少なくなるのはメリットです。

また、屋外の撮影ではセンサーシールドのありがたみを実感します。先日、競馬場でのロケの際に、どうしてもレンズ交換が必要になってしまったのですが、センサーがしっかりとカバーされているので、砂埃が舞う中でも安心して手早くレンズ交換ができました。さらに、「Z 9」ゆずりの耐熱性能にも助けられました。実際に、炎天下の中で一日中、連写撮影を行なってみましたが、まったく不安な動きはありませんでした。

▲レンズ交換時にゴミやほこりが付着するのを防ぐセンサーシールド。「外ロケなどではとても便利」と小暮さん。

そして、なによりこれらの性能で小型、軽量化されている点はすごいと思います。「Z 9」に近しい機能を有しながら、持ち運びやすいサイズ感と質量は驚きです。今までD850を使っていたので、操作性についても問題なくすんなり移行でき、手にすぐに馴染んでいます。

当初は、グラフィックカメラとして考えていた「Z 8」が、こんなにも動画撮影で“使える”とは思っていなかっただけに、ニコンのレンズを一式揃えている身としては、とても嬉しい出会いでした。

動画制作の現場では、ニコンのカメラの動画機として性能を知らない人が多いと思います。今回の「イエローハット」の撮影でも、「Z 8」を投入する前にテスト収録をして、監督に画をチェックしてもらってから導入しました。

もちろん動画専用のカメラ、グラフィックに強いカメラとそれぞれの良さはあります。しかし、1台でグラフィックと動画を高いクオリティで撮影できることは、「Z 8」の大きなメリットであることは事実です。スピーディーかつ臨機応変な対応が求められる広告制作の現場に携わり、グラフィックと動画の撮影を行き来する機会が多いプロとして、「Z 8」が持つ可能性を、自分たちの仕事や作品を通して発信していきたいですね。

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小暮和音とニコンヒストリー

ニコンユーザーの家系
多彩なレンズと機種でニコンを使いこなす

小暮家は、曽祖父から代々写真家の家系で、ニコンのカメラを愛用してきています。私自身がカメラに興味を持ったのは16才の時です。亡くなった祖父を囲んで撮った家族写真が写真誌と写真集で取り上げられ、そこで写真の伝える力を感じ、カメラマンを志すようになりました。

▲写真誌で取り上げられた家族写真。

私が一眼レフカメラを使いたいと思うようになった時期に、父のD100を借りて撮り始めたのがニコンを使い始めたきっかけで、そこから仕事でも個人でもニコンを使い続けています。会社所属時代は他社のカメラでしたが、独立してからニコンに戻っているのは、レンズ一式が揃っているのもそうですが、自分にニコンのカメラが馴染んでいたことも大きいです。

最新の性能を持ったカメラに、あえて昔のマニュアルレンズを付けて撮影にトライする場面も多く、Zになってからはマウント変換は必要ですが、保有しているオールドレンズを気軽に使える環境は楽しいです。

使ってきた機種は、父から借りたフィルムカメラのFMに始まりEM、FE2、F100、F5、デジタルはD100、D200、D300、D300S、D2X、D3、D3X、D750、D610、D800、D850、そしてZ 8に至ります。レンズは、広角から180mm単焦点まで一式揃え、父が仕事で使っていた自宅暗室の引き伸ばし機のレンズもニコンでした。これからもニコン機を使って、たくさんの作品を制作していきます。

 

▲小暮さんのスタジオで保有している様々なNIKKORレンズ。祖父の代から使われているレンズも、今でも現役で活躍しているそうだ。

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●VIDEO SALON 2023年12月号より転載