ニコンから登場したフルサイズミラーレスカメラ「ニコン Z 8」。フラッグシップ機に迫る性能と謳うその実力を検証すべく、京都在住の映像クリエイター・正垣琢磨さんに、レビューしてもらった。

文・正垣琢磨/構成・編集部片

 

正垣琢磨

京都府宇治市生まれ。京都在住。武蔵野美術大学在学中、ミラノ工科大学へ留学。卒業後は某デザイン事務所にて、内装設計業務に従事。その後、家業である通販会社で勤務する傍ら、個人的な活動として写真撮影や映像制作を行う。

 

ニコン Z 8

599,500円(ニコンダイレクト)

フラッグシップモデル「ニコン Z 9」と同等の高い機能と性能を、堅牢性・信頼性の高い小型・軽量ボディーに凝縮。12bit RAW動画、10bit Apple ProRes 422 HQ動画のカメラ内部収録が可能。

 

●今回、正垣さんが撮影した映像

https://bit.ly/z8 shogaki

 

待ち望んでいたスペックで登場したZ 8

普段は通販会社で働く傍ら、休日カメラマンとして映像制作に勤しんでいます。地元民だからこそ撮れる何気ないシーンを、シネマティックな表現でInstagramを中心に発表しています。普段はニコン Z 7に外部レコーダーをセッティングして、Apple ProRes RAWのFHD60p収録することが多いです。ジンバルに外部レコーダーをセッティングして屋外を歩き周って撮るので、どうしても装備がかさ張ってしまい、重すぎると感じていました。

Z 8はこういった不満を解消してくれるスペックで発表されました。外部レコーダーが不要で、カメラ内RAW動画収録、4K/120pにて撮影可能、そしてZ 9より小型軽量な機種。写真家だけではなく、映像クリエイターの多様なニーズに寄り添った機能が盛りだくさんだと感じました。今回、その実力を検証すべく、雨の京都嵐山を撮ったので、その時に感じたことをお話しします。

 

実際に使って分かった6のポイント!

1.画面内3%の顔でも検出するAF性能

私の場合、動画撮影する場合はMFで撮ることがほとんどで、AF性能は特に気にしていませんでした。そもそもZ 7のAFが外すことが多く、使わなくなったというのが正直なところですが…。一方Z 8のAF性能には驚きました。迷うことなく狙ったところにしっかりとフォーカスが合います。私のようなワンオペで行うクリエイターは、Z 8のように優れたAF性能によって、安心して仕事でも使用できると実感しました。

 

2.縦型チルトの利便性

Z 8では横位置撮影時も縦位置撮影時も上下方向に可動の縦横4軸チルト式画像モニターが採用されています。Instagramのリール動画用に縦動画を撮ることが多いので、かなり便利になったと感じます。ローアングル撮影でもしっかりと構図を確認でき、水平垂直も正確に測ることが可能です。また、Zシリーズではお馴染みの3.2型 210万ドット液晶パネルを搭載。バリアングル構造のような自撮りには対応していませんが、光軸上で水平・垂直を素早く傾けることができるのが良いですね。

 

3.グリップ性

ちょうど良いサイズ感と手に馴染むグリップが、Z 7よりも質量はあるのに不思議と疲れを感じさせません。小指までしっかりと握ることができるグリップを備えていて、ホールド感もバッチリです。


 

4.取り回しの良さ

私の場合は収録後に自分好みの色調にするためにカラーグレーディングを行うので、色破綻の少ない10bit以上で撮影することが多いです。Z 7では10bit撮影するためには、外部レコーダーが必要となり、メリットもありますが、セッティングにかなり手間がかかります。そして何よりも重い。パーツも多いため、用意を忘れるリスクも高まり、何かと煩わしいです。

1台で完結するZ 9の購入も検討しましたが、取り回しのことを考えると私のスタイルには合わないため購入を躊躇しています(欲しい)。Z 8のサイズ感なら、これまでに述べた懸念点が一気に解決し、今まで諦めていたシーンも高画質な映像で撮ることができます。今回はレビュー用にお借りしているだけですが、返却後に即購入している自分を既に想像しています。

左がZ 8をジンバルにセッティングした図。右がZ 7をジンバルにセッティングして外部モニターに接続した図。

 

5.直感的に露出確認ができる「ウェーブフォームモニター」

動画撮影中、画面にウェーブフォームモニターを表示しながら撮影できるので、慌ただしい現場でも露出調整を正確に合わせられる。個人的にはこの機能はかなり嬉しいです。

 

 

6.動画記録中の赤枠表示で「逆REC」の回避をアシスト

撮影中よくやってしまう逆REC。一度逆RECの波に乗るとしばらく悲惨な映像に気がつかず貴重なタイミングを台無しにし続けることも。この赤枠表示機能の重要さは、動画撮影者なら誰もが重要性を認識していると思います。

 

 

雨の嵐山でN-RAWの実力を知る

ここからは、嵐山での撮影を振り返っていきます。朝6時半頃に撮影を開始し、雨の竹林道の薄暗い中で撮影を行いました。このようなシーンでは暗部のトーンの豊かさが映像の美しさを決めます。レンズはNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sを使用しました。開放F2.8の大三元のレンズのひとつですが、コンパクトで携帯性も良く、描写に関しては広角端24mmでは周辺部まで高い解像力を発揮し、望遠端70mmではF2.8と相まって大きく綺麗なボケ味を楽しめました。

現場は日が当たらないため薄暗く、狙っていたよりもかなり暗めに記録してしまいました。ですがN-RAWで撮影していたので、後の編集で露出調整を行い、現地で感じた明るさまで持ち上げることができたのには驚きました。竹の節のディティールや、表面の質感までしっかり描写しています。それでいて全体の画の中に溶け込み、説明的な描写ではなく情緒的なトーンを映し出してくれました。

 

雨の嵐山竹林



左がN-RAWで、右がカラーグレーディング後。N-RAWの収録と編集は今回が初めてだったという正垣さん。「ほとんど調整しなくても色彩の美しい映像が撮れることに驚きました。たとえ大きく露出やホワイトバランスを変更することがあっても、DaVinci ResolveのRAWパネルにて画像劣化を気にせずコントロール可能でした」とのこと。N-RAWの編集に不慣れだったこともあり、N-Logに変換して全体のトーンを合わせてLUTを当て込んだ。

 

総括

ニコン Z 8は、これから映像制作を真剣に始めたい人、写真や映像制作を仕事にしたい方々にもおすすめできるカメラです。他社のシネマカメラも使用していますが、一カ月間だけお借りして使用した限りでは、Z 8でも充分クライアントワークで戦えるカメラだということがわかりました。

ワンオペでビデオグラファーとして仕事をしていきたい方が近年増えてきていますが、写真も動画もこれ一台で特に問題なくこなせると思います。特にN-RAWでの撮影は、失敗できない現場では大活躍。Log撮影ではある程度適正露出で収録しなければ、後の編集でも難しくなりますが、N-RAWでは白飛びしているであろう素材でも、限度はあるが適正露出まで復元することも可能です。

つまり、撮影時はひたすら構図やカメラワークに集中することができるということです。これが外部レコーダー不要で、内部で8.3K/60pのN-RAW 90分まで撮れ、このサイズ感で収まっているのは驚異的です。これまでニコンは写真機のイメージがありましたが、私の中では「写真が撮れる最強のシネマカメラ」の位置付けとなりました。

 

 

VIDEO SALON 2023年8月号より転載