どうぞよろしくお願いいたします。
REPORT◎井上卓郎(Happy Dayz Productions)
協力◎日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社
4K、8Kと映像の解像度が上がり、RAW収録も当たり前になってきた昨今、映像制作においてCPU、GPU、メモリーなどの、性能を語りやすいパーツとともに重要なのがメディアストレージである。編集やカラーグレーディングをする際のストレスももちろんだが、撮影したデータの移動や編集が終わった後のアーカイブの作成まですべての工程で関わってくるのがメディアストレージの速度だ。
今回は映像制作のワークフローとメディアの関係からストレスを減らすために5枚(システム1枚+データ用4枚)のM.2タイプのNVMe SSDを搭載できるZ690系マザーボードを使った自作PCで映像制作ワークフローの効率化を検証してみる。
検証に使用したPCの仕様
マザーボード: ASUS ROG MAXIMUS Z690 HERO
CPU: Intel Core i9-12900K
メモリー: DDR5 64GB
GPU: ELSA GeForce RTX 3080 ビデオメモリー 10GB
OS用SSD: Samsung SSD 980 PRO 500GB
データ用SSD: Samsung SSD 980 PRO 2TB x 4でソフトウェアRAID(RAID 0)を構築
撮影用収録メディア: ZITAY CFexpressコンバーター CS-305 + Samsung 980 PRO 2TB
カードリーダー: ProGrade Thunderbolt 3接続
外部SSD
ハードウェアRAID SSD:Areca ARC-8050T3U-6M(Samsung 870 EVO 4TB x6 RAID 5)Thunderbolt 3接続
ポータブルSSD: Samsung T7 Shield 2TB USB 3.2(Gen2)接続
外部SSDとして、ハードウェアRAID SSD: Areca ARC-8050T3U-6M(Samsung 870 EVO 4TB x6 RAID 5)Thunderbolt 3接続を使用。
ポータブルSSDはSamsung T7 Shield 2TB USB 3.2(Gen2)接続。
撮影用収録メディアはZITAY CFexpressコンバーター CS-305 + Samsung 980 PRO 2TB、カードリーダーは ProGrade Thunderbolt 3接続のもの。
映像制作ワークフロー
ワークフローは人それぞれだが、私の場合、まず撮影を終えた収録メディアからオフロードを行い、編集用SSDやRAID HDDに取り込み編集を行う。プロジェクト終了後、アーカイブを作成するのが一連の流れだ。今まではポータブルSSDやRAID HDDで編集を行なっていたが、この部分を内蔵RAID SSDに置き換えて高速化できないか? というのが今回のテーマだ。普段私が使っているMacBook Pro M1 Maxと比較しながら検証していく。
各メディアの速度
各メディアの速度をBlackmagic Disk Speed Testを使って計測した。
まず目を引くのはZ690の内蔵RAIDの速さだ。読み書きともに11000MB/sを超える今まで見たことのない速度だ。またThunderbolt 3接続のAreca RAID SSDとCS-305も外部接続としてはそれなりの速度を出している。T7 ShieldはUSB 3.2接続がネックになっているようだ。
メディア |
接続方法 |
MacBook Pro M1 Max |
Z690+RAID SSD |
||
Write (MB/s) |
Read (MB/s) |
Write (MB/s) |
Read (MB/s) |
||
内蔵SSD |
内蔵 |
2981 |
5129 |
11775 |
11560 |
Areca RAID SSD |
TB3 |
1567 |
2386 |
1946 |
2283 |
CS-305 CFexpress アダプター |
TB3 |
1296 |
1556 |
1331 |
1484 |
Samsung T7 Shield |
USB 3.2 Gen 2 |
859 |
900 |
917 |
917 |
▲Samsung T7 Shield USB 3.2(Gen2)接続
撮影した映像のオフロード
検証に使用する映像データはCS-305に収録したNikon Z 9の8K N-RAW(画質:標準)データ2TBをProGradeのThunderbolt 3接続のカードリーダーで各SSDにオフロード(撮影したメディアからのバックアップ)する時間を計測する。結果は以下の通りとなった。接続方式がとても重要でThunderbolt 3接続に比べUSB 3.2 Gen 1のHDDではかなり時間がかかる。
収録メディアから各メディアへのデータ転送 |
接続方法 |
時間 |
速度 |
|
⑤-1 |
ZITAY+980 PRO→ポータブルHDD |
USB 3.2 Gen 1 |
3:11:42 |
178.1 |
⑤-2 |
ZITAY+980 PRO→T7 Shield |
USB 3.2 Gen 2 |
0:40:16 |
847.7 |
⑤-3 |
ZITAY+980 PRO→Areca |
Thunderbolt 3 |
0:23:29 |
1453.5 |
各メディアからPCへの映像データの取り込みにも注目したい。Z690の内蔵RAIDが爆速であるにもかかわらず、使用するメディアでこれだけの違いが出ることがわかる。
収録メディアから各メディアへのデータ転送 |
接続方法 |
時間 |
速度 |
|
⑥-1 |
ポータブルHDD→Z690への転送時間、速度 |
USB 3.2 Gen 1 |
3:06:41 |
182.8 |
⑥-2 |
T7 Shield→Z690への転送時間、速度 |
USB 3.2 Gen 2 |
0:41:48 |
850.5 |
⑥-3 |
Areca→Z690への転送時間、速度 |
Thunderbolt 3 |
0:15:22 |
2221.3 |
DaVinci Resolveを使った編集作業で比較検証
私が普段編集に使用しているのは評判の良いMacBook Pro M1 Maxだ。内蔵SSDの容量が大きくないので映像素材はポータブルSSDに入れUSB 3.2で接続して編集を行なっている。DaVinci ResolveはGPU性能で差が出ることが多いのだが、超高速SSDの利点はあるのだろうか? Z690の内蔵RAID SSDと普段の編集環境を比較してみた。
メディアプールへの読み込み
まず印象的だったのが、メディアプールへの映像の読み込みが速かった点だ。MacBook Proはサムネイルが全部表示されるまでに20秒ほどかかったが、Z690の内蔵RAIDの場合3秒ほどで表示され待たされることがなかった。
タイムライン再生
Z690もMacBook Proも8Kタイムラインをスムーズに再生する。スクラブした際の反応は転送速度の速いZ690のほうが反応が速くスムーズに感じた。ただしDaVinci Resolveはスムーズに再生するためのパフォーマンスモードが基本的にオンになっている。オフにするとMacBook Proは8K/4Kタイムラインの両方でコマ落ちが発生したが、Z690は4Kはスムーズに再生することができた。
また複数クリップをタイムライン上に重ねて再生をしてみたが、内蔵RAIDを組んでいるZ690のほうが多くのクリップをスタックしても処理ができた。DaVinci Resolveの重い処理の代表的なノイズリダクションに関してもZ690のほうが結果は良かった。ただしどのテストでもディスクの転送速度は上限まで達しておらず、GPUの性能のほうが先に頭打ちになっていた。
タイムライン再生 |
パフォーマンスモードOFF |
複数クリップをスタックして再生 |
ノイズリダクション |
|
Z690 |
スムーズに再生 |
4Kタイムラインはスムーズに再生 |
4K 6クリップ8K 3クリップでコマ落ち |
4Kタイムラインはスムーズに再生 |
MacBook Pro M1 Max |
スムーズに再生 |
4K / 8K タイムライン共にコマ落ち |
4K 3クリップ8K 2クリップでコマ落ち |
4K / 8K タイムライン共にコマ落ち |
映像の出力
4K及び8KのH.265という比較的処理が重い出力をノイズリダクションの有無を変えて試してみた。結果は基本的にはZ690のほうが速く出力ができたが、8Kのノイズリダクション有りの場合はGPUメモリーの上限を超えてしまい出力に時間がかかってしまった。しかし8Kでなければ充分に高速だ。DaVinci Resolveで重い処理を加える場合はやはりGPUの性能がとても重要だ。
後日、32GBのビデオメモリーを搭載した「AMD Radeon PRO W6800」で試してみたところ、8Kの処理はノイズリダクションなしで7分28秒、有りで14分29秒という結果であった。
4K |
4Kノイズリダクション有り |
8K |
8Kノイズリダクション有り |
|
Z690 (GPU : GeForce RTX 3080 / 10GB) |
47秒 |
2分52秒 |
4分00秒 |
1時間41分55秒(GPU FULL) |
MacBook Pro M1 Max |
1分32秒 |
4分22秒 |
10分54秒 |
20分46秒 |
Z690 (GPU : Radeon PRO W6800 / 32GB) |
N/A |
N/A |
7分28秒 |
14分29秒 |
アーカイブの作成
映像が完成し、プロジェクトが完結したらアーカイブ作成機能を使って外部のSSDやHDDにアーカイブを作成する。今回は高速なAreca RAID SSDにアーカイブを作成し、時間を計測した。アーカイブの作成は実質ファイルのコピー時間だ。Thunderbolt 3で接続しているZ690はT7 ShieldとUSB 3.2接続しているMacBook Proに比べて高速だった。
アーカイブ作成時間 |
|
Z690 (内蔵RAID →Areca RAID SSD) |
16分46秒 |
MacBook Pro M1 Max(T7 Shield→Areca RAID SSD) |
39分05秒 |
まとめ
MacBook ProはThunderbolt 4を搭載していたりM1 MaxのCPU性能も低くはないので愛用しているが、内部のSSD容量に限界があるので外部メディアでの編集が基本である。その点Windows系の自作PCの場合、拡張性が高いのが魅力でArecaのようなハードウェアRAIDに比べ、安価でソフトウェアRAIDを構築できるのがMacにない魅力だ。8TBの編集用ストレージがあれば私の場合2~4つくらいのプロジェクトに使う素材を読み込めるので実際の仕事上で問題になることはないだろう。
MacBook Proは容量の他にThunderboltの接続数が3つしかないのも問題になってくる。Z690マザーボードはThunderboltの他にもUSB端子が多くあるのが安心だ。今まであまり気にすることはなかったがThunderbolt接続の速さは映像編集のワークフローを効率化させるために重要なポイントとなることがわかった。内蔵SSD RAIDはまだSSDの値段が高いという懸念点はあるが、作業スペースとしてのRAIDと考えれば、作業時間の短縮を含めコスト的に見合うのではないだろうか?
8K RAW映像の通常再生や出力は今回の構成で問題はなかったが、ノイズリダクションや各種AI機能を多用する場合はGPUのメモリー容量がネックになる場合があるので用途と予算に合わせて最適なGPUを選択することが肝要だ。
高速なSSDメディアやThunderbolt 3といった接続方法は映像制作の速度を速く効率的にできるということが分かった。将来はHDDというメディアがかつてのフロッピーディスクのようになくなり、すべてSSDなどのメモリーベースになる時代が来るのではないだろうか? という未来を垣間見ることができた。
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Samsung 870 EVO (4TB)
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