REPORT◎井上卓郎(Happy Dayz Productions)
協力◎日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社
前回のSSDコンバーターを使った記事が好評だったことに気をよくした編集部から「井上さん。今度はニコンさんのZ 9でやってみませんか?」と連絡が来た。カメラメーカーが推奨しないアングラな記事の続編を、ニコンさんの今をときめくフラグシップミラーレスカメラZ 9で試すという企画だ。
前回の記事
【SAMSUNG SSD WORLD】CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか?キヤノンEOS R5の8K RAW収録で検証
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue2/
前回のキヤノンEOS R5のレビューは私物のカメラだったので良いがZ 9は手元にないので、もしニコンさんからお借りできるならいいですよ~くらいの感覚で返答していた。ダメ元のつもりだったのにニコンさんからZ 9届きました。一緒にZ 6IIも。こんなアングラな記事に貸し出してしまっていいのですか?と不安になる。ありがとうございます。
実は前回の記事を書いている最中、VIDEO SALONとは別のレビューでZ 9が丁度手元にあり動くことは確認済みだったのだが、一応社会性を持ち合わせているつもりの私は動作を確認するだけで心に留めておいたのだ。
ちなみに筆者はすでにZ 9を注文しているが大人気なため、いまだに手にすることができていない。とても待ち遠しい気持ちがあると同時に、Z 9がとても注目されているのは喜ばしいことだ。しばらく手元になくZ 9ロスに陥っていたので今回のレビューでまたお借りできてとても嬉しい。内容に関しては、どうしても前回の記事と被ってしまう部分が多い点はご了承いただきたい。
念のためお約束のように言っておきますが、
「メーカー保証の対象外になる可能性もあるので自己責任でお願いします」
前置きが長くなったがここからが本題。
Z 9は8K UHD / 30pの動画撮影や4K UHD ProRes HQでの収録ができ、今後のアップデートで8K UHD / 60pのRAWへの内部収録も対応を予定している。外部レコーダーを使わなくても内部で収録できるのは運用上とても嬉しいが、収録メディアの容量と速度がとても重要なのは想像に難くない。そしてその条件を満たすCFexpressカードは結構なお値段がする。
そこで前回の検証でも使った「ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-303」とSamsungのSSD「980 PRO 2TB」の出番だ。
ちなみにCFexpressカードという規格はPCIeインターフェースが採用されており、現行のCFexpress2.0ではPCIe 3.0(Type Bの場合は2レーン)ベースとなる。Type BのCFexpressの転送速度が2,000MB/s以下なのは、このインターフェース速度の上限のためだ。
現在、SSDの主流はTLCタイプのNANDベースだが、スペックに記載されている書き込み性能はSLCキャッシュが有効な場合の速度である場合がほとんどで、キャッシュ切れ後は書き込み性能が落ちる仕様となっている。概して低容量のSSDのほうがキャッシュ切れ後の書き込み速度が遅い傾向があるので、最低でも1TB以上のSSDを選んでおくのが無難だろう。なお、より安価なQLC NANDベースのSSDも出てきているが、キャッシュ切れ後の性能低下幅はTLC NANDのそれよりも大きいので、安定的な書き込み性能が求められる用途では避けたほうがいいだろう。
CFexpressとしてはPCIe 3.0接続のSSDでもいいはずだが、より最新のインターフェースであるPCIe 4.0接続のSSDを検討することにした(下位互換性あり)。今回テストする「Samsung 980 PRO 2TB」もPCIe 4.0 x4に対応しているSSDだ。
●「ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-303」
▲CFexpressカードスロット経由でNVMe M.2 SSDを接続するコンバーター。コンバーター本体の他、ドライバーとネジ、そして謎のゴム栓が大量に付属しているがゴム栓はニコンのカメラでは使用しない。実売20,000円程度。
●「Samsung 980 PRO 2TB」
▲PCIe 4.0 x4対応しているNVMe M.2タイプのSSD。最大転送速度 : 読出7,000MB/秒 書込5,100MB/秒
●「Nikon Z 9」
▲8K UHD/30pや4K UHD/120pで撮影ができる。H.265(HEVC)、ProRes 422 HQ(4K UHD時)で内部収録ができ、今後のファームウェアのアップデートで8K UHD/60pをRAWで収録できる予定だ。手ブレ補正やAFもかなり優れており動画撮影にかなり力を入れているニコンのフラッグシップ機である。筆者もレビューでしばらくお借りしていたがとても使いやすいカメラだ。
▲CS-303に980 PROを組み込む。裏面の蓋を開けSSDをセットする。普通のエンクロージャー(SSDケース)と同じだ。
▲カードスロットにダミーカードを挿す。なんとZ 9はカードスロットの蓋が取り外せる。Z 6IIは外せないのでCS-303のようなコンバーターの使用を想定した設計なのでは? と勘繰ってしまう。まだ詳細はわからないが8K/60pのRAWデータのサイズが大きくなることは容易に想像がつく。CFexpressに記録するにはあまりにもコストパフォーマンスが低く実用的でない。もしこういう用途まで見越した設計だとしたら……Z 9恐ろしい子(たとえ推奨しないとしても現場は嬉しい)。
▲ケースがプラプラしていると色々と問題があるので今回はとりあえずアクセサリーシューに取り付けてみた。あまり美しくないのとシューに負担がかかりそうなので再考の余地があるが、リグを組む人はリグに取り付けるのが良いだろう。
▲CFexpressカードと同様にカードを初期化する。
Z 9は「UNSTOPPABLE」を謳っているだけあり8K UHD/30pの動画を熱で停止することなく125分内部記録できる。まだRAW収録は対応していないのでH.265/HEVCにてテストしてみよう。
125分で一度録画が停止するので、再度録画を開始する。結局止まることなく4時間以上の撮影ができた。比較に使用したProGrade Digital COBALT 1700R 325GBも撮影は可能だが、容量の関係上、途中でカードを交換する必要がある。ちなみに125分のファイルサイズは376GBであった。思ったよりは小さいが大容量なSSDのメリットが発揮される。
次に4K UHD/60pをApple ProRes 422 HQ(10bit)で収録するテストを行なった。8K RAW(H265)dよりもデータサイズが大きく負荷がかかることが予想されたが、こちらも途中で停止することなく125分撮影ができた。ファイルサイズは何と1.71TBであった。言うまでもなくSSDのコストパフォーマンスが遺憾なく発揮された。
「ニコンZ 6II」
今回の主役ではないが、外部収録でProRes RAWやBlackmagic RAWのRAW形式で収録ができるとても良いカメラだ。ATOMOS NINJA VやBlackmagic Video AssistとSamsungのSSDとの相性も良い。
Z 6IIもCFexpress(Type B)に対応しているので4K UHD/60p(H.264)で連続撮影のテストを行なった。Z 6IIは動画での連続撮影時間が29分59秒という制限があるので、停止後にすぐ撮影を再開する。4K UHDのH.264であり、一回の連続撮影で生成されるファイルサイズは68GB程度とそれ程大きくはないので、切実に大容量SSDを使うメリットまでは見出せないが、使用上は問題はなかった。Video AssistやNINJA Vを使用して外部でRAW収録をする際はSSDを使うと良いだろう。Z 6IIはカードスロットの蓋は外すことができないことからも、Z 9のカードスロットの蓋が外れるのはSSDコンバーターを使うことが想定されているからではないか? と勘繰ってしまう。
▲4K UHD / 60p(H.264) 29分59秒の収録でファイルサイズは約68GBであった。
▲Z 6IIはカードスロットの蓋を取り外せる構造になっていない。
▲Z 6とVideo AssistでBlackmagic RAWで収録できるのはかなり嬉しい。筆者はVideo Assistを使う際はSamsung Portable SSD T5と組み合わせている。3Dプリンター製のホルダーを作ってバッテリースロットにSSDを固定している。
▲せっかくZ 9をお借りしたので早朝の白鳥を撮影へ。-18℃の中、カメラもSSDも問題なく動作をした(一般的なSSDの動作温度範囲は0℃~70℃、メーカー公表のZ 9の動作環境は-10°C~40°C)。鳥の撮影は鳥が動き出してからRECを押しても遅いので長回しをする。収録メディアの容量は大きいほうが安心だ。
圧倒的なコストパフォーマンス
前回の記事とまったく同じで申し訳ないがCFexpressと比較してSamsungのSSD 980 PROでの収録はとてもコストパフォーマンスが良い。
メーカー動作確認済みメディア「ProGrade Digital COBALT 650GB」が 実売価格 85,000円程度。そして動作確認済みメディアに入っていないが大容量モデルがあり低価格な「Delkin POWER 2TB」の 実売価格 11万円程度。そして今回テストしている「Samsung 980 PRO 2TB」の 実売価格 4万円程度。ZITAYのコンバーター(実売2万円程度)を足しても6万円を切る。メーカー動作確認済みメディアのProGrade Digital COBALTは最大容量が650GBなのでカード3枚で約2TBと考えると25万円を超える。そしてCFexpressとしてはコストパフォーマンスの良いDelkinと比べても約半分の価格だ。いかにコストパフォーマンスが優れているかわかるだろう。
●コスト比較
メーカー | メディア種類 | モデル | 容量 | 実売価格 |
ProGrade Digital | CFexpressカード | COBAL | 650GB | 8.5万円 |
Delkin | CFexpressカード | POWER | 2TB | 11万円 |
Samsung | PCIe 4.0 NVMe SSD | 980 PRO | 2TB | 4万円+ 2万円(コンバーター代) |
まとめ
8K UHDやProRes 422 HQの収録はファイルサイズがとても大きく書き込み速度も要求されるのでSSDを使った収録はコストパフォーマンスに優れとても有用だ。PCIe 4.0 x4対応している980 PRO 2TBはキャッシュ切れで書き込みが停止することもなかった。そして今後のアップデートで実装される予定の8K RAW動画はさらにファイルサイズが大きくなることが予想されることから大容量のSSDでの収録はかなり有用なのではないだろうか。
また8K動画の編集は読み出し速度の関係(読み出し速度については前回の記事を参照のこと)でHDDではスムーズに行うことができないのでSSDが必須だ。SamsungさんのSSDは編集作業用としても使わせていただいているがとても安心感がある。
Z 9の動画撮影機能はスチルカメラのオマケではなく、かなり研究されている。「動画撮影はやっぱり動画用のカメラだよね」と以前は思っていた時期もあったが、Z 9だったら1台で両方イケると感じた。これだけの性能があればしばらく買い替えも必要がなく長く一緒に撮影ができるカメラだ。少なくとも現時点ではメーカー推奨ではないが、SSDでの収録も選択肢のひとつとなるはずである。私のZ 9の入荷連絡と8K 60p RAWの内部収録へのアップデート対応を心待ちにしつつ、今回の検証を終了させていただく。
◉Samsung 980 PRO (2TB)
https://www.amazon.co.jp/dp/
◉ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-303
http://www.zitay.com/product/