テスト●三浦 徹(株式会社SPICE  DIT/カラリスト) レポート●山田悠人(株式会社SPICE  DITアシスタント) 協力◎日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社

近年、映像制作では8K、12Kとますます高精細な映像の取り扱いが求められており、同時にメディアはより高速なデータ処理が求められる。PCの性能の話題になると、いつもCPU、GPU、メモリーなどがまず初めにあがるが、撮影したデータの移行から編集後の保管までのすべての工程に関わるメディアストレージも非常に重要なパーツであると言える。

もしメディアストレージを蔑ろにすれば、作業中の慢性的なストレスにつながることはもちろん、最悪の場合データの破損が起こりかねない。本記事は、カラリストの三浦氏が実際にDaVinci ResolveでSamsung SSD PM893 搭載 Thunderbolt 3 / USB 3.2 Gen 2 対応のAreca製ハードウェアRAIDストレージを使用して感じたことをレポートしていく。三浦 徹氏は、DIT・カラリストとして活躍している。主にCM、映画、MVに従事しており、撮影機材や撮影技術などの様々な面で豊富な経験を持っている。

Thunderbolt 3 / USB 3.2 Gen 2 対応ハードウェアRAIDストレージ

この製品はITGマーケティングにより、Areca RAIDユニット「ARC-8050T3U-6M」にサムスンのデータセンター/サーバー向け2.5インチ SATA SSD「PM893」7.68TBモデルを6台搭載し、初期設定(RAID構築)を行なって出荷されたもの。インターフェースはThunderbolt 3ポートx2、Displayポートx1で、Thunderbolt3ポートはThunderbolt 3とUSB 3.2 Gen 2の両方のプロトコルに対応している。

質量はSSDを含めて約4kgで、持ち運びを想定して筐体上部に付属のハンドルを装着することも可能。電源はAC電源(内蔵135W)で、DC電源にも対応している(4-pin XLR 9–15V)。

 RAIDレベルはRAID 5にしていただいた。なおITGマーケティングがWindows PCで計測したRAID別のベンチマーク結果によると次のような仕様となっている。
●RAID設定別の実効容量と速度
RAID設定 実効容量 Seq. Read Seq. Write Remark
(MB/s) (MB/s)
RAID 0 46.08TB 3,046 2,817 データ冗長性なし
RAID 5 38.40TB 3,035 2,176 ドライブが1台故障してもデータ冗長あり
RAID 6 30.72TB 2,525 1,920 ドライブが2台故障してもデータ冗長あり
テスト環境:
CPU:Intel Core i5-8600, M/B:GIGABYTE Z390 AORUS ELITE, DRAM:DDR4 8GB x2,
OS:Windows 11 Enterprise 64bit, Thunderbolt™ 3拡張カード:GIGABYTE GC-TITAN RIDGE (rev. 2.0)「ITGマーケティングのプレスリリースより」

ベンチマーク、データ転送スピード

ARC-8050T3U-6MはThunderbolt 3接続に対応しており、最大で40Gbpsの高速データ転送が可能である。実際に三浦氏がグレーディング作業しているiMac Pro(2017)とThunderbolt 3接続で、Blackmagic Disk Speed Testでベンチマーク計測したところ、READで2344.4MB/s、WRITEで1867.7MB/sとなった。ふだん使用しているPROMISEのPegasus2 R8はThunderbolt 2接続にしか対応しておらず、最大で20Gbpsのデータ転送しかできなかった。ベンチマーク計測してみるとREADで881.7MB/s、WRITEで797.7MB/sであり、本製品はREAD/WRITEともに倍以上のスピードが出ていることが分かる。

▲Thunderbolt3ポートはThunderbolt 3とUSB 3.2 Gen 2の両方のプロトコルに対応

▲iMac Pro(2017)とThunderbolt 3接続でBlackmagic Disk Speed Testでベンチマーク計測

▲iMac Pro(2017)とThunderbolt 2接続でPROMISEのPegasus2 R8のベンチマーク計測

複数のプロジェクトデータを保存できる

三浦氏が最近頻繁にグレーディングを行うのは、ALEXA35、Alexa MiNi LF、 VENICE 2の8Kなどのデータが多いと言う。近年では、収録メディアが1TB、2TBと大容量になっている。たとえばALEXA35はCODEXの専用メディアCODEX Compact Driveを使用するが、ひとつのメディアの容量が2TB。ロケではそれを3枚用意することが多い。1日の現場で使用する容量は2枚(4TB)以上にのぼる。また、ハイスピード撮影が加わると3枚(6TB)になることもあると言う。そんな中、最大約46TBにもなる本製品であれば、1台で複数のプロジェクトデータの掛け持ちを可能にし、データの移行回数を大幅に削減することができるだろう。

▲ALEXA 35の専用記録メディアCODEX Compact Drive。1枚で2TBという大容量。

▲専用のカードリーダー(USB3.2 Gen2接続)を本製品のThunderbolt 3ポートに接続。撮影現場のカート上で作業できる。

現在使用しているストレージと比較して

本製品は、三浦氏が10年以上使用してきたストレージ(PROMISE Pegasus2 R8/RAID5仕様、32TB→実効容量約28TB)と比較し、軽量でコンパクトであることに加え、持ち手にハンドルが付いているので非常に扱いやすい。サイズを比較してみれば分かる通り、PROMISE Pegasus2 R8は現場に持ち運ぶのは困難で、どうしてもというとき以外はグレーディングルームでのみ使用していた。またHDDということもあり、現場に持ち込んで運用するというのはどうしてもためらわれたが、本製品であれば、小型軽量というだけでなく、SSDということでポータブル運用も可能である。

▲左がPROMISE Pegasus2 R8、右がArecaのRAIDストレージ。Pegasus2 R8の重量は筐体のみで11kg(カタログ値)となっているので、仮に500gの3.5“ HDD 8台構成の場合、総重量が15kgになる計算だ。対して、Arecaは4kgであり、充分持ち運び可能な重さ。ポータブル運用が現実的になることで、収録現場に持ち込んで、ロケ終わりで収録メディアからコピーしてそのまま持ち帰ることができるようになる。

▲持ち運びを想定してハンドルが付属している

これまでは制作部が用意したUSB接続の2.5インチのHDDにバックアップをとり、それを持ち帰ることが多かった。さらにオフライン編集用のデータをDITが現場で作成して渡していた。HDDはせいぜいスピードも200MB/s以下で、コピーとデータ作成にかなりの時間がかかっていた。それが本製品であれば、数倍の転送速度になるのであっという間にコピーができてしまう。本製品はまさに大容量データを扱うDITのためのストレージと言ってよい。

参考までにARRI ALEXA 35で撮影したデータ(750.41GB)を専用のアダプター経由で転送したところ、 Pegasus2 R8では 24分かかったのに対して、 本製品では12分と半分の時間でコピーすることができた。

ちなみに使用しているCODEXのカードリーダーCODEX Compact Drive Reader (USB-C)はUSB3.2 Gen2対応でThunderbolt 3接続の転送スピードはでないが、AC電源は必要になるもののCODEX Compact Drive Dock (Thunderbolt 3)を利用すればさらなる高速転送が期待できるだろう。

▲ArecaのRAIDストレージであれば他の現場に持ち運んで運用することも可能。

DaVinci Resolve での使用レポート〜高速ストレージの恩恵

三浦氏はDIT兼カラリストであり、ロケ現場で収録したものを自分でカラーグレーディングするということが多いと言う。実はそういうケースでもメリットが大きい。現場で本製品にデータをコピーし、それをグレーディングルームに持ち帰り、そのデータを直接編集・グレーディングしていくことができる。

実際に本製品を使用して、フィルムスキャン素材(4K DPX 10bit 10GB)素材をグレーディングした。フィルムスキャン素材は24フレームであっても、非常に動作が重く、以前、低速のストレージで作業した際は頻繁にカクついていたそうだ。ところが本製品に素材を入れて編集してみたところ、高度なエフェクトを複数同時に用いても問題なくスムーズに作業することができた。明らかに高速ストレージによる恩恵と思われる。本製品によって、ビデオの編集や処理がより効率的に行えるようになった。

過酷な現場含めて長期で運用してみたいと思わせる製品

非常に魅力的な製品だが、製品保証が1年間というのは長期使用を考えると少々不安に感じた。PROMISE Regasus2 R8では、HDDベースということもあり5年保証(標準2年+延長保証オプション3年)を選択しており、実際にその恩恵を受けたこともある。本製品がオールフラッシュベースで衝撃や振動に強く、SamsungのPM893というデータセンター向けSSDが採用されているとのことなので実際の耐久性は高いと言えるかもしれないが、延長保証オプションのようなものがあれば、より安心して使用できるのではないだろうか。

今回1カ月くらいの試用であったが、過酷な現場での信頼性も含め長期で使ってみてどうなのか、ぜひ試してみたいと語る。

三浦 徹(株式会社SPICE  DIT/カラリスト)

日本で初めてPhantom HD GOLD(1000fps)を導入した技術者のひとりで、現在でも映像表現の新しい可能性を探究し続けている。代表作に、映画『渚のバイセコー』、『ジョウネツノバラ』、『雨の詩』、CMでは、アサヒ生ビール『黒生でおつかれ生です』篇、UQUEEN『パーティー』篇、ジャンボ宝くじ『ジャンボ兄ちゃん教えて』篇、ユニクロ『20FW Fluffy Yarn Fleece』など、多くの作品に携わっている。

・Samsung SSD PM893 搭載Thunderbolt™ 3 / USB 3.2 Gen 2 対応ハードウェアRAIDストレージ

https://www.itgm.co.jp/product/ssd-893-raid.php

・Samsung SSD PM893

https://semiconductor.samsung.com/jp/ssd/datacenter-ssd/pm893/