音楽ライブの現場ではステージ上にカメラマンが構えてアーティストを間近に捉える姿を目にする。しかし、オーケストラコンサートでは公演中映像スタッフがステージに足を踏み入れることは禁止されていることが多い。カメラマンの存在感を消しつつ、リモート操作でフルサイズの高品質な画を狙えるFR7を映像ディレクターの藤井大輔さんの配信チームに試してもらった。

テスト・文●藤井大輔/撮影協力●KAJIMOTO/構成●編集部 萩原

 

 

フルサイズセンサーを搭載したレンズ交換式PTZカメラ

ソニー FR7 1,430,000円(ボディのみ)

最大4K/120p撮影に対応。NDフィルターを内蔵し、リモートコントローラーやWEBアプリで遠隔操作ができる。記録メディアはCFexpress Type AとSDXCカードのデュアルスロットを搭載。

▲専用コントローラーRM-IP500。

 

▲カメラのすべての操作が行えるWEBブラウザベースのアプリ。

 

FR7はオーケストラ撮影の可能性を広げてくれる?

2023年11月サントリーホールにて行われた「ファビオ・ルイージ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」のコンサートにおいて、ソニーCinema LineのPTZカメラ『FR7』をステージ上に3台導入し、他のカメラと合わせて10台のマルチカメラでライブ配信を行なった。

「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」は1888年に設立され、世界三大オーケストラのひとつとして名高いオーケストラである。また会場のサントリーホールは日本のクラシックの殿堂とも呼ばれ、撮影側も最大限のクオリティーが求められる。今回はそんなフルオーケストラコンサートの配信現場でFR7を実戦投入したので、その使用感についてレポートする。





▲今回の配信は11 月8 日にサントリーホールで実施されたファビオ・ルイージ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるコンサート。

 

オーケストラのコンサートの撮影には、まだ多くの場合、放送用の箱レンズなど望遠域の広いレンズのカメラが使用されていると思う。これには主に予算や会場の広さなどが影響していると考えられるが、他の音楽ジャンルのコンサートと比べ、特にクラシックではカメラの設置場所が限られている。それはビジュアル的な雰囲気や画の印象がそれほど重要視されず、映像の目的があくまで演奏しているパートをしっかり見せることが求められるためと思われる。

私はクラシックやオーケストラのコンサートでも、説明的な映像を超えて、コンサート会場で感じるグルーヴ感をより映像でも伝えることを目指したい。曲の展開や雰囲気に合わせ、画角や構図、カメラワークなどを工夫し、グルーヴ感を演出するためには、ソニーのα7やFXシリーズを中心としたフルサイズ一眼やラージセンサーカメラの表現力が適していると考え、使用してきた。

望遠域の狭さはカメラの台数でカバーすることになるが、前述の通り、クラシックの場合は客席への設置場所が限られてくる。そこでステージ上にカメラを置く方法をとり、よりダイナミックな画を狙おうと目指すが、有人では場所が制限され、無人では固定カメラになってしまい、結局、他の有人カメラと比べて画作りを妥協せざるをえない。これまでの撮影方法は、ジブ用のリモートヘッドを三脚に取り付け、FX6と電動ズームレンズを使用してリモート操作で撮影するなど工夫していた。しかし、操作性や作動音に限界があり、大変苦労していた。

そんな経緯から、FR7の登場とファームウェアのアップグレードによる進化はオーケストラ撮影の可能性を広げるものとして大変期待していた。今回FR7をステージ上のリモートカメラとして使用し、FR7とクラシックやオーケストラのステージ撮影との親和性が非常に高いことを実感した。

 

使ってみてわかったFR7の魅力

まず静音性の高さ。クラシックでは音と音の間の静寂はとても大事だが、FR7ではリモートヘッドを使用していたときに苦しんだモーターや作動音はほとんど聞こえず、ホールでの録音にも作動音がまったく載らないことを確認した。

次に操作性。リモートコントローラーはRM-IP500を使ったが、ズームスピードが調整しやすく、繊細なズームワークができた。またジョイスティックでのパン・チルト操作も、斜めのパン・チルトとズームワークを組み合わせた複合的な動きにも対応できた。さらに、動きはじめと終わりの緩急も設定でき、自然なカメラワークを作れた。従来のようにカメラ本体で操作するよりも快適だと思う程で、条件が整えばすべての三脚の有人カメラがFR7に置き換わる可能性も感じた。またフォーカスはコントローラーでの操作に加え、iPadのタッチAFにも対応し、実際の撮影でも重宝した。

さらにソフトウェアVer.2.0で対応するサードパーティーのズームコントローラーにより、電動ズームレンズ以外のズームレンズも電動化できる。選択できるレンズの種類が増え、他の有人カメラと同様にカメラ配置を決める際、カメラのポジションとレンズの表現力を考慮したきめ細かいセレクトができ、格段に撮影時の演出の幅が広がった。

例えば今回、FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIをオーケストラ越しの指揮者を狙うカメラとして使用し、指揮者をシャープな解像感で捉え強い画になるような表現や、FE C 16-35mm T3.1 Gを使用したカメラでは、ティンパニーを広角のダイナミックな画角で捉えつつ、別のタイミングでは、列の中のホルン奏者のソロパートを浅い深度感で目立たせるような表現もできた。もちろん使いやすいFE PZ 28-135mm F4 G OSSを使用したカメラは、金管、木管、低弦部の中に置き、カメラ周りの様々な楽器のクローズアップからワイドの画角を、文字通り縦横無尽に撮影できた。

 

カメラ配置と使用レンズ、各カメラの役割分担

今回のコンサートでは合計10台のカメラを使用。各カメラの配置と役割は図や表の通り。FR7を3台ステージ上に配置した。映像はSDIでスイッチャーに送り、電源はPoE++のHUBからLANケーブルで接続。

 

ステージ上の楽器の配置とカメラ位置

 





 

レンズ表現のみならずカメラワークも効果的に演出に活かせるが、この時に大変便利だったのがアプリ内の機能「ポジション登録」「PTZプリセット」「トレース機能」だ。各カメラは担当する楽器がいくつかあるが、そのカメラポジションはある程度決まっている。なので譜面読みの指示に合わせ登録した楽器のポジションをタッチパネルで選べば、そこにカメラが向く。そのパン・チルトの速度もプリセット設定できるので、移動途中にスイッチャーに切られても自然なカメラワークで登録位置にワークすることができる。

また「PTZトレース」では、パン・チルト・ズームの動きをプリセットとして登録できるので、予めベストなカメラワークを登録しておけば、本番環境でも欲しいタイミングで狙ったワークを繰り返し行うことができる。実際にこれらを使った本番のオペレーションの様子は、ズームレバーやジョイスティックの操作というよりも、主にiPadのパネルでプリセットを選ぶ操作が主になっていて新鮮な光景だった。

 

今回のコンサートで活躍したFR7の機能

ポジション登録

▲FR7のWEBアプリでは最大100個のパン・チルト・ズームのポジションを保存できる。保存したプリセットは名前をつけて管理できるのも便利。

 

PTZプリセット、トレース機能


▲「PTZプリセット」はA地点・B地点を設定して直線的に移動するカメラワークを設定できるもの。パン・チルトの速度は50段階で設定できる。「PTZトレース」は11月28日に公開されたソフトウェアVer.2.00※で対応。パン・チルト・ズームの動きを最大16パターン登録できる。

 

WEBアプリのタッチAF

▲WEBアプリ使用時はタッチAFも使える。咄嗟にフォーカスを合わせたいときに大いに役立った。

 

サードパーティーのズームコントローラー


▲こちらもソフトウェアVer.2.00で対応。従来は電動ズームに対応する一部のレンズだけだったが、サードパーティーのズームコントローラーに対応し使用できるレンズの幅が広がった。現状動作確認済みなのはクロジールのCDM-SFR。今回は、70-200mmの望遠ズームで使用した。

 

まとめ

今回、オーケストラのステージ撮影におけるFR7の有用性を非常に感じることができた。コンサートのみならず撮影環境として条件の厳しいあらゆる現場においても、FR7は映像の表現の可能性を広げるカメラになるだろう。

 

 

配信ブースの模様

舞台袖に配置した配信ブース。スイッチャーはブラックマジックデザインATEM Television Studio Pro 4Kを2台使用。配信はOBSを使用した。スイッチャーの隣にFR7を操作するカメラマンが陣取り3台のFR7をそれぞれ操作していた。





 

 

 

●VIDEO SALON 2024年1月号より転載