CGからモーションキャプチャー、バーチャルプロダクションと多岐にわたる手法が確立され、映像表現の幅を広げているVFX。本記事では、東京国際工科専門職大学にて教鞭をとる大学教授 渡部健司さんを講師に迎え、駆け出しのクリエイターからCG・VFXのプロデューサー、ディレクター、スーパーバイザーまでを対象とした映像表現技術への知見を深めるトピックを、事例を交えて解説してもらった。

講師   渡部健司  Kenji Watanabe

東京国際工科専門職大学 工科学部 デジタルエンタテインメント学科 教授

JCGL(Japan Computer Graphics Lab.)、ナムコ(現バンダイナムコゲームス) を経て独立、CG/VFXでは1997年よりウルトラマンの映画及びテレビシリーズに参加。長年に渡りテレビCM、PV、映画、番組タイトルなどのCGI、VFX業界で、プロデュース、ディレクション、スーパーバイズを行う。CG/VFXの映像制作だけでなく、企業内CGI部門の立ち上げ、イベント、空間映像プロデュース、コンテンツWG、人材育成などにも力を注ぐ。



進化を続けるVFXの表現

VFXが日常に溶け込む時代に

VFXは新しい技術の投入により刻々と様相が変化しつつある

私は普段、東京国際工科専門職大学工科学部のデジタルエンタテインメント学科にて教授を務めています。私自身のバックボーンをお話しすると、長いことCG・VFX業界に身を置きながら映像制作をしてきました。代表的な作品でいうと、ウルトラマンのテレビ・映画シリーズに関わらせていただいたり、さまざまな企業のCG・VFX部門の立ち上げなどにも参加させていただきました。ここ最近では、次世代のクリエイターが日本からもっと活躍する場ができればと考え、若手育成のために大学で教鞭を取らせていただいています。

今やVFXの時代に入り、お茶の間でVFXを見かけない日はないほどに日常的なものになってきています。その一方でVFXは現在、新しい技術の投入により刻々と様相が変化しつつあるということを、今回の記事を通してお伝えできればと考えています。


●東京国際工科専門職大学(IPUT TOKYO)とは

東京国際工科専門職大学は、日本ではじめて情報分野で文部科学大臣に認可を受けたAI・IoT・ロボット/ゲーム・CGの「情報系」専門職大学。“Designer in Society (社会とともにあるデザイナー)”を教育理念とし、ICT(情報通信技術)やデジタルコンテンツ技術の修得はもちろん、ビジネスの最前線で行う「臨地実務実習」などを通じて、テクノロジーを駆使して未来をつくるデジタル人材を育成している。


デジタルエンタテインメント学科にはゲームプロデュースコースとCGアニメーションコースが存在する。編集・グレーディングや映像の試写ができるスタジオや、VICON(バイコン)を使ったモーションキャプチャーやグリーンバック撮影が可能なスタジオなどを完備。

homepage ● https://bit.ly/iput


● IPUT デジキャン! + 映像研とは

渡部さんは、自身の主宰するゼミ「デジキャン!」と、授業外でお互いに情報交換や研究開発、実験、成果発表などを行う「映像研(EIZOUKEN)」 を運営している。教育機関からプロを排出できる学びの空間を作り出すことを目的としており、受け身で教えられたものを修得するだけでなく、自ら探求・実験をしながら学び取る場を提供することで教育機関のできる限界を越えるべくチャレンジしている。

homepage ● https://bit.ly/iput-dc


VFXとは何なのか?

SFXからVFXへ

VFXはビジュアルエフェクトの略で、視覚効果と呼ばれるものです。ポストプロダクション(撮影後の処理)で、CGあるいはCGIなどで加工や修正などの合成処理を行うことを総称してVFXと呼びます。一方、SFXはスペシャルエフェクトの略で、昔ながらの特殊効果や特撮のことを指し、現場で撮影処理をすることを総称してSFXと呼びます。例えば、マットペイント、ミニチュアや特殊メイク、モーションコントロール、特殊造形なども含まれます。

歴史を紐解くとデジタル技術がなかった70〜80年代にはVFXという言葉はまだなく、総じてSFXと呼ばれていました。当時は、フィルムでのオプティカル合成のような後処理は入るものの、基本的な素材撮りは現場ですべて行い、それらを組み合わせていく形式でした。その後、80〜90年代にかけてCGの変革があり、流れが大きく変わっていったと考えてもらえればいいかと思います。

例えば、マットペイントはガラス板に絵を描き、カメラの前に据えて生合成をした時期やフィルムで合成していた時期もありますが、今ではデジタルペイントで描いたものや3DCGでモデリングしたものを組み合わせて合成するデジタルマットペイントになっています。また、スクリーンプロセスと呼ばれる、スクリーンの手前にいる役者さんやセットに対して、手前のフロントプロジェクションや後方からのリアプロジェクションで投影して生合成していた技術も、今ではLEDをバックに背景の画を映し出し、手前にリアルな被写体を置いて同時撮影するバーチャルプロダクションに変わりました。このように元々あった技術がデジタルで進化していき、VFXと呼ばれる技術になっていきました。


VFXの歴史は意外に古く、映画の創世と重なる部分が多くある。1895年にリュミエール兄弟が初めて映画館で「映画」を上映した頃、時を同じくして視覚効果を駆使したシーンが同年にはじめて作られた。

●『メアリー女王の処刑』(1895)/メアリー女王の断首シーンでは、フィルムを一度止め、本物の役者から首が切れる人形にすり替えて撮影された。これによって本当に断首されたと観客に思い込ませることがVFXの始まりであり、世界初の視覚効果映画であるとされている。


円谷英二は、戦前から特撮技術を研究、自ら円谷特技研究所を興し、特撮技術の向上に努めた。『キングコング』(1933)の特撮を真似たが、コマ撮りなどはせず着ぐるみという新しいクリーチャーを創り出した。


ジョージ・ルーカスが『スターウォーズ』のために作ったSFX工房。モーションコントロールカメラ、ミニチュア、特殊造形、特殊メイク、マットペインティングなど、当時のSFXにおけるすべてを兼ね備えた総合プロダクションがはじめて組織された。


ミニチュアや造形、特殊メイク、モーションコントロールカメラといった特撮全盛の時代から、デジタル化への流れの中でCGの時代へと変わりつつあった年代。過去には不可能だった表現がCGで挑戦できるようになり、今までとは違う可能性をもたらすようになった。

●『トロン』(1982)/世界初の本格的CG映画。

●『ウィロー』(1988)/モーフィングの発明。

●『アビス』(1989)/CGの有機的表現、水表現に挑戦。


CGIスタジオは実写合成やエフェクトの表現力を高め、実写に近しいリアリティを追求できるようになった。そのひとつが『ジュラシック・パーク』に見られる恐竜の表現。当初、トラディショナルな造型によるストップモーションを予定していたが、CG恐竜のリアルさに驚いたスピルバーグはCGの本格的使用を決めた。

●『ターミネーター2』(1992)/モーフィング、液体金属の表現

●『ジュラシック・パーク』(1993)/CGにおけるリアルなキャラクター表現。


CGによるキャラクターの動きは、モーションキャプチャーによって役者の演技を忠実に再現できるようになった。さらに、より細かな感情表現を顔の表情の動きまでキャプチャーできるパフォーマンスキャプチャーの技術によって、繊細な感情の機微を伝えられるようになった。

●『ポーラー・エクスプレス』(2004)、『ベオウルフ/呪われし勇者』(2007)

●『アバター』(2009)/フルCGでのパフォーマンスキャプチャーによる表現。


グリーンバックなどのクロマキー合成に変わる新しい現場での撮影手法としてバーチャルプロダクションが脚光を浴びている。古来、特撮で行われていたスクリーンプロセスの技法をLEDパネルやUnreal Engineなど最先端の技術と組み合わせることで、リアルタイムや即時対応など撮影現場に革新的な手法を生み出した。

●『ファースト・マン』(2018)、『マンダロリアン』(2019)/LEDが用いられた映画。


VFXの領域

SFX・VFXが包括する領域。まずは全体像を把握することが大切。



CG・Comp・FXの3つがVFXの核となるトライアングル

VFXというワードからまず思い浮かべるのは、CG(コンピュータ・グラフィックス)ですよね。そして、合成を意味するComp(コンポジット)、FX(エフェクト)があり、この3つがVFXの核となるトライアングルだと考えています。その周辺にVFXの中で進化してきたその他の要素があるイメージです。例えば、水飛沫や炎、爆発などを作る物理シミュレーションや、動きをトレースしてマスク処理をするロトアニメーション、その他マッチムーブやプレビズ、カメラマップ、クロマキー合成、プレビズから発展したオンセットビズなどがそれぞれVFXの領域として確立されています。

対して、SFXの領域は先に説明したマットペイントやスクリーンプロセスなどCG領域に隣接しているものもあれば、スペシャルメイクアップ・特殊造形などもあります。また、コマ撮りで生物を動かすようなストップゴーモーション、現場で行う爆発や水飛沫などのシミュレーションに近しいパイロエフェクト、同じく現場で行なうミニチュアワークなどもSFXの領域に含まれます。

そして、人や物の動きをデジタル化するモーションキャプチャー、複数台のカメラが動きを記録することで瞬時に物の形や色を解析し、1フレームごとの物の形をすべて書き出していくボリュメトリック、人の形や顔を高精細に再現するフォトグラメトリーなどが、ここ10年くらいの中で出てきた比較的新しい技術の領域になります。


● 解説動画