ビデオグラファーから映像制作活動をスタートし、最近ではドラマ作品を数多く手掛けている曽根隼人さんに、ドラマのシナリオ制作においてChatGPTを活用した事例を紹介していただく。さらに実際にある設定を想定し、シナリオを作っていく過程を順を追って見せてもらった。シナリオのノウハウをChatGPTに教えることで、より実用的になっていくことがわかった。
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講師 曽根隼人 BABEL LABEL所属 ディレクター / 株式会社Vook 取締役CCO
TVドラマ『憑きそい 』『インフォーマ』『封刃師』『乃木坂シネマズ〜STORY of 46〜』を監督。 無印良品のパリでのプロモーション映像”TOKYO PEN PIXEL”では世界三大広告祭のひとつ「ONE SHOW」や、アジア最大の広告祭「ADFEST」、「SPIKES ASIA」をはじめ多くの賞を受賞。大村市のPR動画”大村市なんて大嫌い”では、「福岡広告協会賞」「ぐろ〜かるCM大賞2019」で受賞した。 全国にクリエイティブな映像を伝える番組、NHK Eテレ『テクネ 映像の教室』『うたテクネ』では、プロデュサーとして参加。
ビデオグラファーからドラマ、映画制作へ
私は今は映画やドラマの監督をしてるんですけども、当初はブライダルの「撮って出し」から始まり、メーカーのイベント映像やプロモーション映像、MV、CM、テレビ番組を手掛けてきました。いわゆるビデオグラファーから始まり、今でもビデオグラファーの気持ちでいるんですが、2020年くらいから、もともと目指していたドラマや映画に携わりたいという気持ちが高まってきて、フジテレビで乃木坂46のみなさんと一緒にドラマ『乃木坂シネマズ〜STORY of 46〜』を作りました。これはFODで観られるので、ぜひご覧ください。
地上波のドラマの場合、脚本家が入りますが、自分も監督として脚本家と一緒に取り組む感じで、自分でシナリオ(脚本)づくりを始めました。その後の作品でも脚本家が入ってるんですけども、やっぱり最終的には現場で監督が脚本をコントロールすることが多いんです。脚本というのは、現場に対するラブレターみたいな意味合いもあります。監督は脚本家が書いてくれたものをベースに書き直したりしていくことが多いんですね。最近ではFODオリジナルホラードラマ 『憑きそい』の監督を担当しましたが、これも、FODで配信されているのでぜひご覧いただきたいのですが、脚本は脚本家に書いていただいた上で、自分でそこから書き直す作業をしていました。
今も映画を作ってるんですけど、毎日、脚本を書いてる状況です。脚本家という職業は存在しますが、映画やドラマをやる上では監督も脚本を書けることが、すごく重要なスキルです。ひとりで書いていると煮詰まったり、アイデアの限界があったりしますが、いろいろな人が書いたものに積み重ねていくことで良い脚本になっていくのだと思います。
なぜオンラインサロン?
映画制作のオンラインサロンで勉強会をしたり、実際撮影して映画を作って上映会をやっています。参加者には役者さんもいて、私の機材もあるので作ろうと思ったらすぐに作れることがメリット。仕事の現場では制約があって実験的なことができないので、ここで実験して失敗することで学んでいけます。
ChatGPTにシナリオを書かせて実際に短編を作ってみた
オンラインサロンで制作した短編ドラマ『恋する焼き菓子工房』より
2023年2月にChatGPTに脚本を書いてもらって撮影した短編映画『恋する焼き菓子工房』より。設定として、専門学校を舞台として4人の男女が登場し、試験の前に切磋琢磨しながら、トラブルを乗り越えて、最後は仲直りするという展開。会話や設定で意味不明な部分も多々あるが、短編ドラマのような展開の流れはあるという不思議なものになった。
OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボットであり、生成AIの一種。当初は無料で公開され、現在はChatGPT3.5までバージョンアップ。性能が向上した「GPT-4」は、ChatGPT Plus(有料プラン:20ドル/月)に課金したユーザーが利用できる。9月には音声および画像認識機能が加わり、11月には画像生成AI「DALL·E 3」や画像を入力として受け入れ可能になるなど、急速に進化している。
ChatGPTのスピードは時短に繋がる?
ChatGPTが登場して、2023年のはじめくらいから、これを脚本づくりにいかすことはできないだろうかという検討を始めました。ChatGPTとはOpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボットであり生成AIの一種です。PC(WEBブラウザ)やスマホで利用でき、こちらが質問(プロンプトと言う)をするとネット上のある膨大なデータを参照して、文章ですぐに答えてくれます。その名のとおりチャット(会話)なのですが、適切な質問をすることで、求めているものに近づけていくことができますし、追加で質問をしていくことができます。質問(プロンプト)によって引き出せるものが大きく違ってくるので、聞く側がどういう質問をするかというノウハウや使いこなしの知識が実は重要になってきます。
ChatGPTは膨大なデータベースを参照するわけですが、それが必ずしも正しいわけではなく、間違ったことも平気で答えますし、整合性がとれていないこともあります。また、世の中にあるデータを参照しているわけですから、どうしても「ありがち」なものになる傾向はあります。ただ、瞬時に回答してくれるので、まずChatGPTに答えてもらって追加で質問したり、設定を詰めていくとか、たたき台を作るという使い方なら充分活用できそうです。そもそも脚本家に作ってもらったものをたたき台にして監督とディスカッションして修正してもらうとか、こちらで修正していくといった脚本づくりでは、どうしても人間がやることですから、それなりに時間がかかってしまいます。ところがChatGPTでは、瞬時に答えてくれて、修正にも応えてくれるわけですから、時短という意味でも活用できそうです。
設定を作ってさらに詰めていく
最初に「4人の男女が専門学校の試験の前に切磋琢磨する短編映画の物語を考えて」というような質問をしました。そこからディテールを詰めていきます。単にそこから会話を作っていくと、ハプニングというかドラマチックなことがなにも起きないと平坦なものになってしまうので、何かハプニングを起こしてもらい、そこから登場人物同士の衝突が起き、最後に仲直りするみたいなものになりました。
「このシーンをもっとドラマチックにして」とか、「そのトラブルが起きたときのふたりのセリフを考えて」という感じで、脚本を作っていきます。基本的にChatGPTに委ねますが、こちらで誘導しながら作っていきました。
実際にその脚本をもとに、オンラインサロンで撮影してみました。役者さんもいるというのがいいところで、できあがった脚本を見て、「このセリフ、へんだね」とか、「このニュアンスはどういうことなんだろう?」と、ChatGPTが作った脚本に対して笑いあいながら和気あいあいと作っていきました。脚本というのは、一度役者さんも交えてやってみるというのが私はすごく大事なことだなと思います。
この脚本を作ったときは、昨年の2月段階で精度も低いですし、もう少し脚本づくりの基本を押さえて質問していけば、精度が上がっていくのではないかと思いました。そこで、次ページ以降では、「三幕構成」や「物語の13フェーズ」といった脚本の基本を押さえて質問をしていくことで、実際に脚本がどうなっていくのか、実際にやってみたいと思います。
1回で脚本が完成するわけではなく、ChatGPTに物語の骨子を考えてもらった後に、登場人物の設定や、トラブルの内容や、登場人物の具体的な会話を考えてもらうことで、脚本が詰められていく。