青森県で10代〜20代の若者たちと一緒に取り組んだ短編映画制作プロジェクトを中心に、青森との出会いとそこで得た様々な気づき、地域の映像を撮る想いについて語ってもらった。



講師 藤代雄一朗 Yuichiro Fujishiro

1984年、東京都生まれ。2016年にDRAWING AND MANUALに参加し、2021年に独立。主な仕事に、TOKYO2020閉会式 『日本の踊り』、第72回NHK紅白歌合戦『気仙沼のいま』、水曜日のカンパネラ、SEKAI NO OWARI、サンボマスターのMVなどがある。青森をはじめ、日本各地の地域を取り上げたドキュメンタリー映像を制作している。

homepage ● http://yuichirofujishiro.org/




青森県ショートフィルム『からっぽ』

2022年、秋。津軽生まれの女子大生・工藤ハルカ(21)は引っ込み思案な就活生。ある日東京に向かっていたところ、旧友の就活生・三上アオイ(21)と久しぶりに再会する。東北新幹線が終日運転見合わせになってしまい、落ち込むハルカを見たアオイは、交通費を元手に、半ば強引にハルカを地元旅に連れ出す。就活に悩めるハルカとアオイの、一泊二日の逃避行を描いた青春ムービー。

主演:藤巻百恵、髙橋若那

AOMORI SHORT FILM PROJECT 21-22製作

青森県ショートフィルム『からっぽ』

©AOMORI SHORT FILM PROJECT


東京出身の僕が青森を撮る理由

青森を好きになり、共に作る楽しさを知った

東京で生まれ育ち、他の場所に住んだことのなかった僕が、なぜ青森の映像を作ることになったのか? そのきっかけは、10年前の青森県との出会いにさかのぼります。当時僕は友人と一緒に「リンゴアメ」というサイトを運営しており、りんごと言えば青森だろうという軽いノリで、ネタ探しのために青森県の弘前市に行ってみたんです。そこで知り合ったのが、リンゴミュージックという芸能事務所の社長でした。僕らはお互いの得意分野で一緒に面白いことをやろうと意気投合し、リンゴミュージックを通じて劇団の立ち上げやミュージックビデオの制作などに携わりながら、東京と青森を行き来する生活が始まりました。

そうしているうちに、東京から一緒に通っていた友人が弘前を大好きになり、2015年に広告代理店の仕事を辞めて移住することになりました。同じ頃、僕はWEB業界から映像業界に転職。彼は青森で、僕は東京で頑張りながら、また一緒に面白いことをやれたらいいねと話していたところ、翌年に青森県庁が主催する「AOMORI Media Labo.」という事業が立ち上がり、友人がその仕事を引き受けることになったのです。これは青森県内の大学生が県の魅力と暮らしの価値について情報発信するプロジェクトで、僕と友人はその中の「映像コース」を担当し、十数人の学生と一緒に地元の映像を作るワークショップを開催しました。ちょうど地域発の面白い映像が色々と出始めていた時期で、自分たちも3分〜5分程度の長さで独特なストーリーやハッとするような意外な展開のある映像を作ってみようという企画です。制作は学生がコンテを書き、サポートをしながら一緒に撮影、編集は僕ひとりでやるという流れで進めました。青森の若者と一緒に映像制作する企画の原点になったプロジェクトだといえるでしょう。

同じ年に、商工会議所からの依頼で『若手りんご農家の静かな挑戦 青森県りんご品評会』というドキュメンタリーを撮影しました。青森県を日本一のりんごの産地にした原点でもある、りんご品評会に向けて努力する農家の人々を捉えた作品です。遠く離れた田舎町のスナックに夜な夜な通い、カメラを片手に農家のおじちゃんたちのりんご作りにかける熱い想いを聞きました。それまでもメイキング映像などを撮ったことはありましたが、自分たちだけで取材対象者を見つけて作り上げるのはこれが初めての経験でした。

そして2018年に、今回のプロジェクトの原点となる「AOMORI SHORT FILM PROJECT」が立ち上がりました。元々は継続的な企画として計画されたものではなく、これまでのプロジェクトで関わった人々—AOMORI Media Labo.に参加した学生、ミュージックビデオを作った時に出会った現地のクリエイター、弘前在住のディレクターやカメラマン—と一緒に映画を作ろうという話になり、『君は笑う』という短編映画を撮るために1回きりの企画として考えられたものでした。脚本と監督は友人、カット割り、撮影、編集は僕が担当したのですが、友人が考えた物語が青森で出会った人々の力で出来上がっていく工程を間近で見ることができ、すごく楽しい体験になりました。

様々な気づきを得て、青森にもっと関わりたいと思うようになった

弘前の人と触れ合う中で、僕はそれまであまり耳にしたことのなかった津軽の言葉に温かさと大きな魅力を感じるようになりました。これが青森を好きになる原点だったように思います。

年に数回しか青森に通わない自分も、移住した友人も、あくまで「よそもの」だと自覚しています。言葉としては冷たい感じもしますが、旅行者とも異なり、その土地にもう少し踏み込んで関わっているからこそ得られる感覚です。「よそもの」ならではの視点を強みにし、それを自分たちの原点としてやっていきたいと意識しています。

「AOMORI Media Labo.」で出会った学生の多くは、地元に残るか別の都市に出るかを悩んでいました。行政側には若者の県外流出を抑えるために地元の魅力を発信したいという意図がありますが、悩んでいる若者たちを見ると、「地元はいいよ」という単純なメッセージだけでいいのかと思うんです。大事なのはやはり、自分たちが生まれ育った土地が素敵だと認識すること。その気持ちさえあれば、一度離れても心は繋がっていられるし、戻ってもいいと思えるかもしれない。彼らと出会ったことで、青森の若者の力になりたい、それを仕事のテーマにしたいと思うようになりました。

『101回目への弘前公園の桜』や『家族のかたち、大鰐のくらし』の制作は、それぞれの地域にある誇りを意識する機会にもなりました。映像を観た地元の方々から「自分たちの愛する風景を撮ってもらえた」と言われ、なにげなく撮影していた風景の中に青森の人たちの大事な誇りがあることに気づかされたのです。これからもその地域の誇りを見つけて撮り続けたいと思うようになりました。

最初の「AOMORI SHORT FILM PROJECT」で感じたのが、その地域の人と一緒にものを作り上げる「共創」の楽しさでした。地元の学生やクリエイターと協力し、その土地で出会った人たちと、その土地でないとできないやり方でひとつの作品を完成させ、それを喜んでもらえるということ。それはすごく幸せな体験です。移住という選択をした友人だからこそ実現できたことで、僕は彼をとても羨ましく思いました。

『よみがえる下風呂小唄』を撮る中で再確認したのが、文化や景色は放っておくと消えてしまうという事実です。行政が進める町おこしは施設を新しくするような方向のものが多く、文化や景色を残すどころか壊してしまう場合もあるでしょう。それ自体は止められないかもしれませんが、僕が地域の暮らしや風景を映像に残すことで、その土地にとって本当に大事な景色や文化を後世に伝えるきっかけを作れるかもしれないとも思うのです。

もっと青森の映像を撮ってみたい

青森の人々との共創の経験を経て、東京に住む自分にも何かできることがあるのではないかと思った僕は、それから本腰を入れて青森での映像作りに取り組み始めました。それで最初に作ったのが、『101回目への弘前公園の桜』(2020)というドキュメンタリーです。2020年は弘前公園のさくらまつりが始まって100年目という記念すべき年だったのですが、コロナで開催中止になった上に公園自体が閉鎖され、住民ですら中に入ることができなくなってしまいました。誰も見ることのできない桜を映像で残そうと、日本一と称される弘前公園の美しい桜と、りんご農家の剪定技術を使って桜の木を手入れする樹木医「チーム桜守」の姿を追いかけました。

翌年には、弘前の隣町である大鰐町への移住・定住を呼びかけるPR映像『家族のかたち、大鰐のくらし』(2021)を手がけました。小さな子供からおじいちゃんおばあちゃんまで、4世代がひとつの家に暮らすりんご農家の一家を捉えた映像です。彼らにとっては当たり前の日常なのですが、僕にはその家族の暮らしがとても美しく感じられ、美しいと思うまま撮って映像にしました。この2作は高い評価に恵まれ、いくつかの賞もいただきました。

今も制作を続けているのが青森県風間浦村のドキュメンタリーです。県の北端にはマグロで知られる大間町がありますが、その少し手前に位置する、下風呂温泉という温泉郷を舞台にしています。バブルの頃は賑わっていたものの震災やコロナの影響で客足が減り、かつては30軒ほどあった民宿も今では数軒しか残っていません。明るい素敵な女将さんたちがいるけれど、いつまで続けられるかはわからない……そんな温泉郷の暮らしを撮影しています。ひとつの作品は既に公開されていて、『よみがえる下風呂小唄』(2022)は、かつて温泉郷で歌われていた「下風呂小唄」を旅館の女将さんたちが歌って復活させようとする道のりを描いています。

藤代さんがこれまでに手がけてきた主な青森のドキュメンタリー

『若手りんご農家の静かな挑戦 青森県りんご品評会』
青森県はなぜ日本一のりんごの産地になったのか。りんご品評会から見えてくる、農家の方々がりんご作りにかける誠実な情熱に迫る。


『101回目への弘前公園の桜』
さくらまつりが中止になり、弘前公園が閉鎖された2020年春。日本一と称される弘前公園の桜と、その桜を守る「チーム桜守」の姿を追う。



『家族のかたち、大鰐のくらし』
青森県大鰐町に暮らす、あるりんご農家の日々を捉えた移住・定住PR映像。一家に生まれた女の子の目に映る大鰐の景色を写す。主題歌は空気公団。



『よみがえる下風呂小唄 〜下風呂温泉郷のいま〜』
青森県風間浦村の温泉郷でかつて歌い継がれていた「下風呂小唄」を復活させ、楽曲ができるまでの様子を描いたドキュメンタリー。