企業やブランドの価値を確立するため、通常のCMとは違った魅力を発信するブランデッドムービー。本記事では、アジア最大級の国際短編映画祭SSFF & ASIAが展開する「BRANDED SHORTS」の作品選定を担う磯山亜希さん、ショートフィルム制作事業プロデューサーの角保 凌さんを迎え、国内外におけるショートフィルムの傾向、ブランデッドムービーの作り方などを詳しく解説してもらった。

講師   磯山亜希  Aki Isoyama

2008年よりショートショート実行委員会に入り、2011年よりプログラミング・マネージャーとして映画祭上映作品を統括。シネマニラ(フィリピン)、ザグレブ映画祭(クロアチア)、SXSW(アメリカ)などの映画祭で審査員を務める。2016年よりブランデッドムービーに特化した部門BRANDED SHORTSにて作品選定を担当。

講師   角保 凌  Ryo Kakubo

広島県出身。株式会社ビジュアルボイス 制作/イベント事業プロデューサーとして米国アカデミー賞公認映画祭「SSFF&ASIA」では運営制作の統括、また国内各地で行われるイベント事業のプロデュースやショートフィルム制作事業のプロデューサーとして作品制作も手がけている。


ブランデッドムービーとは何か?

企業・ブランドの価値を確立するための映像作り

ブランディング構築やイメージ向上を目的として制作する映像

磯山 磯山亜希と申します。2008年にSSFF & ASIA(ショートショートフィルムフェステバル&アジア)を運営するショートショート実行委員会に入り、主にショートフィルムの選考やインターナショナル関係の業務、海外のショートフィルム映画祭の審査員などを務めていました。2016年に、企業・ブランドのブランディング構築やイメージアップを目的に制作する”ブランデッドムービー”に特化した部門「BRANDED SHORTS」が映画祭の中で立ち上がり、現在はそちらをメインに作品選定などを担当しています。

角保 SSFF & ASIAを運営する株式会社ビジュアルボイスでショートフィルムの制作、イベント事業のプロデューサーをしている角保 凌です。SSFF & ASIAの映画祭運営統括の他に、様々なイベントでの屋外上映や国内各地で行われるイベント制作のプロデューサー、ショートフィルム制作事業のプロデューサーなどもやらせていただいています。

磯山 今回は、BRANDED SHORTSの詳細についてと、角保さんがプロデューサーを務めたショートフィルム作品を例にブランデッドムービーの制作プロセスについて詳しく解説していきます。

『ショートショートフィルムフェスティバル&アジア』とは?

米国俳優協会(SAG)の会員でもある俳優 別所哲也が、米国で出会った「ショートフィルム」を、新しい映像ジャンルとして日本に紹介したいとの想いから1999年にアメリカン・ショート・ショートフィルムフェスティバル創立。2001年には名称を「ショートショート フィルムフェスティバル(SSFF)」とし、2004年に米国アカデミー賞公認映画祭に認定された。

また同年、アジア発の新しい映像文化の発信・新進若手映像作家の育成を目的とし、同年に 「ショートショート フィルムフェスティバル アジア(SSFF ASIA 共催:東京都)」が誕生し、現在は 「SSFF & ASIA」を総称として映画祭を開催。2018年には、映画祭が20周年を迎えたことを記念し、グランプリ作品はジョージ・ルーカス監督の名を冠した「ジョージ・ルーカス アワード」となった。 2019年1月には、20周年の記念イベントとして「ショートショートフィルムフェスティバル in ハリウッド」が行われ、2019年の映画祭より、ライブアクション部門(インターナショナル、アジアインターナショナル、ジャパン)およびノンフィクション部門の各優秀賞4作品が、2022年からはアニメーション部門の優秀賞を含む5作品が、翌年のアカデミー賞短編部門へのノミネート候補とされる権利を獲得した。

homepage ● https://shortshorts.org


エンタメを活用した企業ブランディング

BRANDED SHORTSの潮流

BRANDED SHORTSとは?

2016年に米国アカデミー賞公認アジア最大級の国際短編映画祭『ショートショートフィルムフェスティバル&アジア』が設立したブランデッドムービー専門の部門。

ブランデッドムービーの定義

映画と広告が融合したハイブリッドな映像フォーマット。

ブランデッドムービーを正当に評価をした上で紹介したい

BRANDED SHORTSの説明をする前に、SSFF & ASIAの歴史について簡単に説明します。1999年に俳優の別所哲也がLAでショートフィルムに出会い、日本でもこれを広めていきたいということで、「アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル」という映画祭が東京・原宿に誕生しました。その後、2004年に米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭に認定をいただき、同時に映画祭の受賞監督とショートフィルムを作るプロジェクトがスタート。様々な企業や自治体がショートフィルムを作り始めました。2011年にアニメーション部門、2018年にノンフィクション部門が設立され、その間にあたる2016年に広告部門となるBRANDED SHORTSが設立されたという歴史があります。

BRANDED SHORTSとは、企業や自治体が制作するブランデッドムービーにフォーカスし国内外の事例をショウケース、評価する部門です。立ち上がった経緯としては、2004年以降、SSFF & ASIAが企業と映画監督との架け橋になり、ショートフィルムを作る機会が非常に増えてきたことをきっかけに、映画祭側としては、クリエイターや企業が作ったブランデッドムービーを正当に評価をした上で紹介したい考えがありました。私たちの考えるブランデッドムービーとは、シンプルに言えば映画と広告のハイブリッドなフォーマットで作られた映像のことを指します。つまり、映画としての映像の強さもあり、その企業やブランドが伝えたいメッセージもある。このふたつの要素がしっかりと融合された映像フォーマットのことを、ブランデッドムービーとして定義しています。また15〜30秒のTVCMなどと比べて、ストーリーテリングやエンタメ色が強いことも、ブランデッドムービーの特徴的な点だと考えています。


応募作品の傾向

海外は社会課題やマイノリティ 国内は国民性やメンタリティを扱う作品が多い

BRANDED SHORTSには毎年600本ほどのショートフィルムが多種多様な業種の企業・団体から集まり、8つの審査基準によりノミネート作品が選考され、その後に映画監督や撮影監督、俳優、広告会社のクリエイティブディレクターなど各業界の審査員によって受賞作品が決まる流れとなっています。応募作品の傾向として、海外の作品はチャレンジング性を感じるものが比較的多く、社会課題やマイノリティ、ダイバーシティなどを扱うセンシティブな内容もあります。海外では、チャレンジングな内容であっても視聴者はポジティブに見る傾向にあるので、ブランディングとして強いのかなと思いますね。一方、国内の作品は日本の国民性やメンタリティに寄り添うものが中心です。スケールとしては海外より規模は小さくなりますが、家族などのパーソナルな部分を描く作品が主で、広告主の存在意義を伝える映像が比較的多い印象を受けます。

応募数

BRANDED SHORTSは2017年から作品公募を始め、2020年のみコロナ禍により制作数自体が減ったが、数字としては基本的に右肩上がりの状況が続いている。2023年に国内の作品が増えている理由としては、経済産業省がブランデッドムービーに特化した助成金を出し始めた影響が大きく、日本でも土壌が整ってきた結果と言える。

※衛星メディア関連は除く


BRANDED SHORTSに応募しているクライアントの業種は多種多様。特にビジネス用品・サービスなどのB to B向け企業が上位に。


一方、マスコミ4媒体の広告費を見ると、情報・通信や食品、化粧品などの消費者に近い業種が多額の広告費を投入していることが分かる。


出典:電通 2022年 日本の広告費|業種別広告費

応募作品のカテゴリー

ブランディングと一括りにできないほど表現の幅が広がっている

BRANDED SHORTSの中には、企業の純粋なブランディングとは異なる視点で制作されたブランデッドムービーも数多くあり、インターナショナル(海外)部門、ナショナル(国内)部門の他に、HR部門、観光映像大賞といったカテゴリーも設けています。

HR部門は、人材採用につながるブランディングを目的とした作品がメインとなります。今までは、社員のインタビュー形式のものやオフィスがどんな雰囲気なのかを表現する映像が多かったのですが、近年ではドラマ仕立ての作品なども増えてきています。観光映像大賞には、観光振興を目的として制作された作品だけでなく、移住促進や地域の魅力を伝えるという目的の作品などがあります。

このように、ブランディングと言えど様々な形での表現があり、一言で言い表せないほど幅が広がっている印象を受けます。