ビデオグラファーとして活動してきて、予算や時間の制約に悩んだことがない人はいないはず。やることは多いが予算も時間も限られている。ではどうしたらいいのだろうか? スタジオ勤務から、テレビ番組の制作、ウェディングなど様々な映像分野を経験してきた鈴木佑介さんが、フリー映像制作経歴20年の経験をもとに、自分だけでなく、周りのスタッフも幸せになれる考え方を紹介していく。

講師 鈴木佑介

フリーランスの映像作家/DP。1979年神奈川県逗子市生まれ、逗子在住。日本大学芸術学部映画学科 演技コース卒業。「人を描く」ことを専門に WEB媒体を中心に広告・プロモーション映像などをワンストップで手がける。執筆業の他、講師・映像コンサルタントとしても活動。最近ではスタジオポートレートを中心にスチル撮影業も始める。Blackmagic Design 認定 DaVinci Resolve18 トレーナー。RODE / NANLITE 日本公式アンバサダー。






そもそもあなたにとって映像制作とは?

できることなら好きな映像で仕事を続けていきたいと思っているはず

いま、映像制作の仕事で閉塞感を感じていらっしゃる方は多いのではないでしょうか? ビデオグラファーというブームは、それこそビデオサロンがネーミングして作ってきたところはありますが、たしかにビデオグラファーが制作する映像がWEB媒体を中心に爆発的に増え、多くの人たちが参入してきました。一方で単価はどんどん安くなってしまっているということもあると思います。みなさん、できることなら映像で仕事したいと思っているはずですが、仕事をしながらも、「いま自分がこれをやっていて、なんかいいことあるのかな? 将来は大丈夫なんだろうか?」と感じている人が多いような気がします。悩んだ末に、映像ではない仕事に転身していったビデオグラファーも数多くいます。

そんなときに改めて聞いてみたいのですが、あなたにとって映像制作とは何なのかということです。ウェビナーでは正直に答えていただいたのですが、三度の飯よりも映像制作が好きで儲からなくてもやる! という人はたぶん少数派で、みなさん、「できることなら好きな映像で成り立つような仕事をしたい」と思っているのではないでしょうか。自分もそうです。

今回は、予算や時間という制約を乗り越えて、幸せに映像制作をするのはどうしたらいいのか、フリーになって20年のわたしの経験からお話ししたいと思います。


● ウェビナー当日のリアルタイムアンケートで、あなたと映像制作の関係について、本質的な問いをしてみた

映像制作は何よりも好きですか?



映像制作の何が好きですか?



お金が稼げたり、人気が出るなら他の仕事でもいい?






映像の仕事がやってくる構図とは?

映像制作業務には基本的な構図というものがあります。どういうことで映像の仕事が生まれ、我々のところに落ち、それが納品に繋がっているのかという話です。

既存のシステムを図にしてみました。あまり図にして理解している人は多くないかもしれませんね。まずは映像を作りたいと思っているクライアント(依頼主)がいます。こういうことをやりたいと思っていますが、それを考えるのは専門ではないので、広告を代理する人、エージェンシー(広告代理店)に発注します。そのエージェンシーのなかには、広告をとってくるセールスの営業がいるだけではなく、とってきた仕事を企画・演出する部門があります。つまりコンセプトを考えて、キャッチコピーを作り、アートディレクションをしたり、こういう映像を作ったらどうかと考える部門ですね。

そのエージェンシーの案を具体化するのに、社内ではできないので、プロダクションを選定して発注します。ここで出てくるプロダクションというのが、我々がやっていることに一番近いところだと思います。

プロダクションとは、その企画を実現するにはどうしたいいのか、示された予算内でどうやって具体化するのかを企画し実行するということです。納品までのスケジュールを管理して、キャスト、スタッフを手配し、ポストプロダクションをどうするかを考えます。具現化していくのに代理店のクリエイティブと折衝しなければなりません。もし社内だけでは人材や機材が賄えないということになれば、専門職のスタッフを揃えたり、レンタル機材を発注したり、ナレーションやMAのポスプロを押さえたりなど、外注する必要があります。いわば演出、撮影、編集といった実作業以外に制作進行の仕事が山ほどあります。

クライアント、代理店、制作会社という関係のなかで、代理店が予算の半分から6、7割をとることもあります。またこういう関係ですから、制作会社のディレクターが好きにできるわけでないですよね。特徴のあるディレクターで、その人の演出が買われていない限り、代理店側のプロデューサーやクリエイティブの言いなりになるしかないのが実情です。



映像制作業務における既存の枠組みとシステム



依頼主の基本思考・行動構造



代理店の基本思考・行動構造



制作会社(プロダクション)の基本構造




ビデオグラファーというと、企画から撮影、編集もするディレクターという意味で使われているが、つまりそれは「ミニプロダクション」だと思う。個人がミニプロダクション化しているということだ。そのためには、代理店との交渉から、企画、映像制作の実作業、制作進行、ポストプロダクションのテクニカル部分までの大半をひとりでできなければならず、様々な能力が求められる。




広告代理店のクリエイティブ業務も請け負う

これがいままでの枠組みで、ハイエンドではこの流れは変わりませんが、全体にお金がなくなってきているので、現場に落ちてくるお金が減っているというのが問題なのだと思います。それでは我々はどうしたらいいのか。テクニカル部分の一スタッフとして雇われるのか、それとも代理店のクリエイティブ部分までふくめて担当するのか、ということだと思うんです。

実際にローバジェットの案件や地方の案件は、代理店の役割もしながら、プリプロダクションから、プロダクション、ポストプロダクションまで複数の仕事を組み合わせてやっていくことが多くなっているのではないでしょうか。

実はわたしもそういう仕事をやってきました。個人でも映像制作の大半のことができる「ミニマルプロダクション」ということです。クライアントからすると、エージェンシーを通さない分、安く抑えることができるメリットがあります。われわれとしても取り分が多くなりますが、いっぽうでそれはスーパーマルチタスクをしなければならないということです。

ビデオグラファー人口が増えることによって、予算が下がってしまっているのに、スーパーマルチタスクをしなければならないから作業量自体は変わらない。そこに問題があるのではないかと思います。



「準備」と「思いやり」に尽きる

クリエイターになりたい方に欠落しているのが、プロダクションにおける「制作」の能力だと思います。みんながやりたがらないところですが、現場をハッピーにするには、「制作」が重要です。結論から言うと、これは「準備」と「思いやり」に尽きます。いかに準備していくか、そして、一緒に働く現場スタッフのことをどれだけ思いやれるかということ。わたしがやっていることをシェアしようと思いまうが、現場でしっかり準備してスタッフに思いやるということは、結局は自分に返ってくるので、結果的に自分が楽することになる。結構本質的なところだと思います。

映像制作の予算というのは、寿司屋に似ています。いくらで握ってくれと言われたら、それに見合うものを出す。夜で2000円だったら、さすがにマグロは入らないかななど予算次第でできることは変わりますよね。経費だけでなく、自分が働く分の取り分も必要です。わたしはデッドラインを決めていて、それを下回るなら断ります。たとえばプリプロ、撮影、ポスプロ含めて実働10日くらいの仕事があるとしたら1日5万円で50万円。それが30万円だとしても1日3万円。それならまあ悪くないだろうと考えれば、長く仕事を続けられそうです。たとえば経費だけで80万円かかるとしたら、自分のギャラは50万円として、総額130万円ということになります。

次にスタッフの経費ですが、これは相場があるのでまずはそれを知ることです。1日いくらもらえれば幸せか。1日といっても、8時間くらいで収めるべきですが、12時間以上になりそうなときは、1.5倍から2倍にして見積を通しておくようにします。要は思いやりです。