様々な葛藤とその解決策を教えて!

大学生友人チームから法人へ変わる際に起きたこと、取り組んだこと

代表者がある意味、一強状態であったほうがいい

スタートアップの創業者間の揉めごとの話はよく聞く話だと思います。弊社はまさに友達同士でできあがった会社ですが、会社になってから3年間、それ以前も含めると5、6年とやってきて至った結論は、トップがちゃんとリーダーをできていれば問題ないのかなと思っています。

元々の始まり方としてはサークルからでしたが、仕事の受け口としては私が仕事を取ってきて、それを再委託でやってもらう。つまるところ一番最初にゼロからみんなでスタートしたというよりは、仕事に関しては私個人が先にやっていたこともあり、サークルにいるときはただの友達、でも仕事をするときは、上下というわけではありませんが、守らなきゃいけないラインを引いてくれていたと思っています。

私自身が工夫したこととして、仕事に誘うときは仰々しい発注書を作って渡したり、今だと制作者ガイドブックを会社で作ってそれを渡したり、友達同士だからといってある種ナメられた状態で始めないようにしました。

これは代表者だけはなく、一緒にやってくれるメンバーも思慮分別がつくことが大切です。代表者が仕事とプライベートを切り替えて、「仕事は仕事だから、きちんとやろう!」と強く言い続けられるような線引きが最低限ないと、SNSで見かけるような揉めごとは起こると思います。そこは一概に友達同士だからというよりは、ライン引きがきちんとできるかどうかだと思います。



一緒にいてくれること自体に感謝する

優秀な人材が集まってくれば集まってくるほど、心の健康状態が不調になるメンバーが出てきます。特にサークルという広い受け口があったので、目指す方向が同じ人達が入ってくるわけです。そのため、3Dをやりたい人が2〜3人いたり、カメラマンになりたい人が5〜6人いたりしました。そうなると、「あぁ、俺のポジションってどうなるんだろう?」みたいに周りを気にしてしまってポテンシャルが発揮できない人も出てきます。

代表者は“自分のメンタル管理ぐらい何とかしてくれ”と思ってしまいがちです。そう思いたくなる気持ちは分かりますが、誰しもがそう簡単にできるわけではありません。

私自身も当時、良くも悪くも陥っていたのは、自分を過小評価していたために、周りにもこれくらいはできるだろうと同等のものを求めていました。それは周りから指摘されて気付けた部分ではありました。

結論から言うと、人に期待しすぎずに、一緒にいてくれること自体がありがたいと思うこと。いろんなポジションが世の中にある中で、自分と一緒にいてくれる…そのことに感謝する気持ちを常に持ち続ける。イラっとしてしまった時に、「いや、この人がもし自分の周りからいなくなっちゃって大丈夫なんだろうか? この人はどういう気持ちで、いま自分の周りにいてくれてるんだろう?」ということを、一度引いて考えることは意識してやっていることですね。



仕事への取り組み方の意識改革

枠組みを作ることで組織が動く

今だから言える数年前の弊社の問題点として、初稿から納品・完パケ時のクオリティの上がり幅が大きすぎたことです。逆に言うと、初稿のタイミングのクオリティが低すぎました。要は間に合っていないんです。毎案件、ソフトのデバッグというか、「これが分からない、あれが分からない」ということをひたすら調べ続けるのに時間が大幅に使われていて、これは年数を積み重ねることによってスキル的に成長し、解消していきました。

また、社内チェックを徹底するように、必ずクライアント提出の数日前、バッファを持って社内でチェックするタイミングを持つようにしています。

例えば、加藤がトップだけれども、その下にひとり、作業する人を付け、その人からはマネージャーに現場の進捗を共有しないといけない、というような組織の枠組みを作る。下に誰かが付くと上はちゃんとしなければという気持ちが必然的に芽生えてきますし、そのような枠組みを敷いてあげることによって、きちんと組織が動くようになっていきます。



マネージャーを採用して信頼を勝ち取り、リピート率を上げる

組織化の点で言うと、現在は正社員は5名ですが、5名のうち私ひとりが代表として、最近ではあまり案件に直接関わることが減り、広い動き方をしています。もうひとり、専門のマネージャーがいて、経理や窓口対応、案件のPM的な部分もやってもらっています。要はCGをやっているのは3人しかいないという状況です。5人の会社でその内ふたりが、いわゆるマネジメント的な動き方をしてるというのは想像しづらい方もいらっしゃると思います。

私自身も最初はすごく悩んで、「贅沢なリソースの使い方なんじゃないか? もっと制作リソースを増やして、案件を回せるようにしていくのが先じゃないのか」ということを考えていましたが、正直な話、会社を改革するという点でみると、マネージャーを採用したことが一番大きかったと思っています。

制作しながら何かをするのは大変なんです。自分で作っていると言い訳もできますので、とにかくスケジュールやクライアント対応の部分に責任を持つ人をひとり置くことが本当に大切。そこができていないと、その人の仕事が成り立っていないことになるので、クリエイターに対して「いや、こうしろ」という話し合いが始まる訳です。それに対し、クリエイターが最終権限を持っていると、自分で押し潰すことができる。制作と管理という、やらないといけない部分が分離していることによって、絶対にこの闘いは続くので、最終的に折り合いがつくかたちになる。

ここを早めに分離させたのはすごく大きかったし、メール対応も、ほぼ当日か翌営業日中には返すようになりましたし、コミュニケーションのモレがなくなったことで、実際にリピート率がとても上がっています。

クリエイターが全部マネジメントの管理をしていたり、私がやっていたときは、「どうもリピート率が悪いな」と思うことがあり、クオリティというよりは進行的な部分で完全には信頼してもらえていないと思っていたので、あえてマネージャーを入れる決断をしましたが、そこに関しては正解だったと思っています。



クリエイティブからは身を引き、将来のことを考える余白を作る

1年半ほど前から私自身があんまり案件に関わらないようになってきてまして、これも意識的にやっています。もともと自分も作り手だったので、カメラマンもしていたし、モーションもやっていたし、After Effectsも大好きでしたので、作業量を減らすのは悲しい部分がありました。

やはり案件の数を回していくことも重要ですが、私自身が会社の次について考える時間を確保していかないと、今の受託をこなすだけになってしまいます。もちろん徐々にクオリティは上がっていきますし、成長していけるとは思いますが、成長曲線をグっと伸ばすのは、別に仕掛ける人間がいないとできないと思うようになり、あえて私はまた別の展開を探す方向に仕事を切り替えています。

そこで今まで実作業しかしていなかった人達に、ディレクションや企画提案なども少しずつ下ろして、試してもらっています。私は今週1週間、ほぼ出張で会社に出ていませんが、4〜5案件ぐらいは同時並行で動いていて、ほぼノータッチで勝手に回る状態になっています。もちろんマイルストーンでチェックタイミングを作り、全部見ていますが、ずっと付きっきりということはなくなりました。

これには大変な覚悟が必要でした。自分でやったほうが全然早いからです。自分で編集したら3時間で終わることを、今までやってなかった人にコミュニケーションをしながらお願いすると、3時間が3日になるくらい時間がかかってしまいます。だから、「もう時間ないから俺やっちゃう」となりがちだとは思いますが、そこはぐっと我慢して、「徐々に権限を下ろしていくことは意識的にやらなきゃいけないこと」と強く決心して進めたことによって、今現在、自分自身がすごく楽になっています。

考える余白ができ、「どういう風に会社を育てていこう」というところまで考えられるようになったのは、すごく良かったことだと思っています。








おすすめの管理ツールや営業手法は?

社内の管理ツール

スケジュール、クオリティ、進行それぞれで責任者を明確にする

基本的には卒業したら正社員になるかたちがベースになっています。ただ撮影部に関しては、フリーランスで自分で稼げるメンバーなので、うちの案件だけではなく、別のディレクターの指名で撮影部として入ることができるように、基本は全員業務委託です。撮影部は特に、中にこもらずに、CMクラスの撮影を知った上で、それを新世代の形に落とし込んでいかないといけないと思っているので、そのほうが両者ともやりやすいと思います。

弊社でのプロジェクトは多いときで月に15件、同時並行で進めることもありますが、その案件ごとにプロジェクトデザイナーとして担当者を決め、その人にディレクターのような管理をお願いしています。さらに管理の際に、マネージャーが全案件を二重でチェックしています。

プロジェクトを進める際は、一番最初に縦積みのスケジュールを作ると思います。しかし、それを作るソフトはあまりなく、エクセルなどで作られていると思いますが非効率です。そこで弊社では専用のソフトを自社開発して、ガントチャート(横軸に時間、縦軸に作業内容を記した棒グラフ状の一覧表)の形式で入力し、簡単に管理できるようにしています。このソフトは今後、もう少しキレイに整え外部にも公開したいと思っています。

ミーティングや提出期限、スポットの予定などの全体の予定日をこの中に入れつつ、ミーティングや提出期限といったスポットの予定だけGoogleカレンダーにも入れるようにしています。スケジュールを引く作業と、マイルストーンをきちんとリマインドするのは、マネージャーにも一緒にやってもらいますが、基本的な進行は案件担当者がやります。

責任の所在をきちんと決めるのは、なかなかできていないケースもあると思います。この部分で誰が責任を持つのか? という点があやふやになっているケースも多かったんです。そのため今気をつけているのは、スケジュール、案件のクオリティ、進行それぞれに、誰が最終的な責任を持つのかを明確にすることです。明確にすると見違えるようにしっかり動き始めました。そこはかなり気を配ってやっているところです。


プロジェクトのスケジュール管理するソフトを自社開発(画像はボカシています)。




管理・連絡ツールは最適なものを探し続ける

社内ツールの中には「タスク管理」というチャンネルがあり、所属しているクリエイターに対して、前日と当日の朝には、「明日は何をやらなきゃいけないですよ」、「どういうミーティングがありますよ」というメンションをマネージャーから毎日飛ばし、抜け漏れを防いでいます。

社内の連絡には「Discord」を使っています。経過を辿ると、最初が「Slack」、続いて「LINE WORKS」、「Chatwork」、メタが出しているメッセンジャーのような「Workplaceチャット」と試してきて、最終的にDiscord に落ち着きました。元々、サークルのほうではDiscordを使っていて、Discordの良さは分かっていましたが、ゲーマーっぽい雰囲気のUIが仕事用のツールとしては相応しくないと感じ、いろいろ模索しました。

ブランドのイメージとしてはSlackのほうが好きでしたが、見逃しが多く、UI的に日本語が読みづらい面がありました。次のLINE WORKSですが、他のUIは全部左側にユーザーアイコンがあり、右に文字が連なっていく形で、LINE WORKSでは自分は右から出てきます。あのバブル形式が分かりやすいと思い導入してみたのですが、全体的に挙動が重かったのが難点でした。

Chatworkは実はかなり気に入って、丸1年以上全員分契約して使っていましたが、レガシーなところがネックになりました。動画や画像ファイルのやり取りが重かったり、スマホアプリの挙動が良くなかったり、アカウントの途中切り替えがやりにくかったので、「メッセンジャーがいいじゃん?」となってWorkplaceチャットを入れましたが、メッセンジャーほど完成度が高くなく、結局Discordに戻り、3年以上使っています。案件ごとにカテゴリーを作って権限管理して、運営。ミーティングルームをDiscordの中に作ることができて、すごく便利でオススメです。

案件管理には、「Milanote(ミラノート)」を使っています。ダブルクリックすると付箋みたいなノートが出てきて、それをボードの中に入れることによって階層構造を作成できるツールです。どこにでも配置できるので、紙に殴り書きしてデスクの上を埋めていくような感覚で利用できます。「Notion(ノーション)」を使われている方が多いと思いますが、きちんと管理しないと見づらくなってしまいます。Notionほどきちんとまとめられるわけではありませんが、ある程度ラフにまとめていくには、かなり使いやすいツールです。ぜひ使ってみてほしいです。

あとは見積書、請求書、納品書、外注発注書の作成ですね。フリーの駆け出し時代はGoogleのスプレッドシートで管理していましたが、どうにもキレイにDXできてないと悩んでいた矢先に紹介してもらったのが「board(ボード)」というツールです。これはとてもよくできていて、プロジェクトベースの仕事をされている方にオススメです。


社内連絡にはいろいろ試して「Discord」を使用。


案件管理には「Milanote」を使用。


クラウド請求書作成ソフト「board」。






営業手法

広報発信が実は効果があった

弊社がどんな営業をしてきたか? まだまだ発展途上なのでもっと頑張らないといけない部分もありますが、ご紹介します。まずひとつ大きかったのは、クリエイターEXPOに出たことです。駆け出しで、これから頑張っていこうという方達にはオススメできます。正直100万円以上の案件がいっぱい取れるという雰囲気ではありませんが、40万〜100万円くらいのレンジのお仕事を増やしていきたいという方なら検討するとよいかもしれません。

そして“お問い合わせ窓口営業”です。これも何パターンかやりましたが、結果から言うと、ここで取れた仕事は“うちじゃなくてもいい仕事”が多いです。「一応営業来たし、リソース的に今不足しているからIDENCEさんにお願いします」みたいな仕事が来てしまいます。もちろん、お問い合わせ窓口営業の仕方にもよるとは思います。「ここのブランドが好きだから、うちならこういう企画ができるので」と企画持ち込みで営業すればそういった話にはならないと思いますが、「こういうことをやってます。ぜひ作りませんか?」みたいな、いわゆる定型文を作って送りまくると、仕事の質が下がってしまいます。このやり方では、心情的にあまり嬉しくない仕事が多くなるため、最近はあまりやっていません。

後は“プロデューサーに出会う”ことです。これは映像業界内での仕事の増やし方です。弊社でいうと創業したては7割がクライアントから直にいただく仕事で、3割が映像業界の制作会社、代理店からの発注でした。それが最近では逆転しています。映像業界からの発注が7割で、他が3割です。弊社としてはもう少しクライアント直の仕事を増やしていきたいという気持ちはあります。

クライント直の案件を増やしていくにしても、映像業界の中できちんと認めていただくことはすごく重要なことだと思ってます。きちんと認められている人が新しいこと、奇抜なことをやるから面白いのだと思います。Facebookで誰かひとりと連絡をしてみたり、ひとりでいいので、人脈を持ってる方とつながれるだけで、ご飯やパーティーに呼んでいただけて、一気に名刺交換でき、業界内の知り合いが急に増えるという経験を何回かしています。

“結局は、人”。どんなにクオリティが高いものを出していても、会わずに仕事が来ることはまずないと思います。クオリティが高いものをSNSで出して、声が掛かったら一回会ってみて…という道筋もあると思いますが、一回会っておきさえすれば、初動分は先にゲットできるわけなので、人に会っておくのは重要なのかなと思います。

最近気づたところで、めちゃくちゃ重要だと思うのが“広報発信”です。弊社のホームページで“magazine”を出してみたり、月に1本、Vookさんに技術検証記事を出したり、SNSで発信している「#今日のIDENCE」という形でイラストレーターにイラストを描いてもらい、弊社の何気ない1コマを絵にして出したりもしています。こういった活動は最初は大変です。すぐに仕事につながるわけでもありませんし、労力がかかりますので、これを継続するのは難しいとは思います。

それでも、初めてお目にかかったプロデューサーさんから「IDENCEって聞いて調べたら、いろいろ書いてあるから誕生秘話とかも読んじゃったよ」みたいに言われます。映像業界と関係がないクライアントさんやご年配の方でも、「note全部読みました。それで感心して、ぜひこういう考え方の人達と一緒に仕事したいから」と任せていただいたこともありました。

実際に、会社のサイトのアナリティクスを見ても、実は「Letter」ページの伸びが数字にも表れています。最初は全然読まれていなかったので、これを自分ひとりでやらないといけなかったら続いてなかったような気もしますが、マネージャーが頑張ってやってくれています。これも組織化することのメリットですね。その人の役割を決め、そこに対して給料を払ってるという状態を作ったから続いていくわけです。これを実践してちょうど1年ぐらいですが、ようやくメリットを享受できている印象があります。

いくらワークスを出していても、働いてる人達の顔が見えてきませんから、どんな会社なのか分からない。興味の持ちようもないので、少しでも中の雰囲気が伝わっていくだけで、興味を持ってくれる人もいるのだという、本当に大きな気づきでした。

「YouTubeもやろうか」という案もありましたが、生々し過ぎるのもブランディングをやってる身としておいしくないと思えました。会社のオフィスが煌びやかで、みんなキレイな服を着て出てくるのであれば問題ないのかもしれませんが、あまり生身の人間が出過ぎてしまうと、逆にディスブランディングになる可能性もあります。


WEBサイトのLettersのページがよく読まれていて、興味を持たれていることがわかる。







法人にすべきかどうか

クリエイティブに没頭したいなら組織化しないほうがいい

組織化すると、想像以上にやらなければいけないことが増えます。会社にして最初1年はひとり社長の会社でしたので、「そんなに増えないじゃん」と思っていたのですが、人数が増えるとものの見事に増えました。

もちろん、雑務的なタスクもありますが、一番大きいのが人に関するものです。“経営者の悩みの8割は人だ”という話を聞くことがありますが、これは本当にそうでした。

私はもともと、人をマネジメントして組織を作ることが好きだったので楽しんでやれていますが、作るのがシンプルに好きで、そういったマネジメントはそんなに好きではない人からすると、必要に迫られて会社を作ってはみたものの、負担に感じるケースも往々にあると思います。もし、そうなら無理に法人化するのではなく、フリー同士でやるほうがいいのかな、と思います。

特に映像業界はフリーランスがとても多い業界です。フリーランスがいることが当たり前で、これだけ許されている業界も珍しいと思うので、充分にフリー同士でやっていけます。利益的な面でも、ひとり頭で儲けられるお金は意外とフリーでやっているほうが有利な部分もあります。

会社になるといろいろな経費が嵩みます。もちろん、ひとり社長として形だけ会社を作るのはすごくいいと思いますが、作ることがシンプルに好きなのであれば、クオリティだけに専念する選択肢もアリなのかなとは思います。

ただし、総合的に自由な役回りができるのは、経営者クリエイターの特権だということも感じています。

まず、自由に提案ができます。特に地元の案件でよく感じますが、ざっくばらんに問題意識があった場合、「これ、君ならどうする?」と言われたときに好きに提案ができたり、東京での現在のポジショニングでは絶対に関わらせてもらえないような予算もあるプロジェクトを完全主導できる案件に関わることができます。

そして、その案件を見た東京のプロデューサーが声を掛けてくれて、また別の大きな案件に繋がることも実際にありました。

そういった特殊な関わり方ができるのは、会社としてやってるからこそです。会社という受け皿を持っていると、多様な仕事の請け方ができます。



資本主義上の成功=自分にとっての幸せとは限らない

お金目的で起業するのは、起業家気質の方であればいいことだと思います。周りの起業家やスタートアップ経営者の方の話を聞いていると、本当に欲望が無限です。「会社をどんどん大きくして、年商何100億にまでしたい」などと語る人がいっぱいいて、住む世界が違うと感じ始めています。私はどこまで行っても結局はクリエイター部分が大きいのかもしれません。映像業界はフリーでも充分稼ぎやすい業界なので、お金のために会社作るという選択肢を持つのは、クリエイター気質であればあるほど、「もしかすると違うかもしれない」と思います。

実際にタワマンに住んでみないと見えない景色がある、という話もありますが、逆に言うと、タワマンに住んでいるとボトムの部分で見えない景色も広がってくると思います。無限に視野が広がっていく訳ではないので、自分にとって一番幸せなラインがどこなのかを一旦止まって見たほうがいいかもしれません。勝手な憶測ですが、東京で暮らしていて思うのは、自分の不幸を換金して暮らしてる人が多いんじゃないのかな、ということです。

自分の幸せがどこなのかを探る余裕がなくなり、お金を稼ぐことばかりに意識が向かってしまっている。だからこそ私は今後も、自分が楽しいと思い、周りが幸せでいられる。そこからはみ出すような成長の仕方は絶対にしないようにしたいと常々思っています。



AIの急速な台頭への見解と対応

独自のメソッドを持ち、サービスとして形にして独自性を出す

AIが急速に台頭し、もう少しでOpenAIの動画生成AI「Sora」がやってくると言われています。Soraは入力されたプロンプトに対して結果を出力する訳ですから、それと同じ仕事の仕方をしていると、余裕でAIに乗っ取られる可能性があると思っています。だからプロンプトを一緒に考える仕事にシフトしていかないと、仕事がなくなる可能性だってあります。そうならないためには、ブランディング企画ができるようにしていかないといけませんし、独自のメソッドを持つことが大切になってくると思います。

その企業には、すでに確立されたやり方があり、「そのやり方で映像を作ってほしい」という仕事なら、その先で使っている技術は何でもよくなってきます。弊社がAIを操作して映像を作ってもOKということになります。「なんならAIを使ってもいい」くらいにシフトするほうが得策です。

そのために弊社が最近打ち出しているのが、私達のメソッド「Future Scape Design」というものです。最初にご紹介した「Nikon Future Vision for CES 2024」や「Vortex City Future Vision」のように、お客様のイメージを一度空間へ落とし込み、それを「フューチャースケープ」と名付けて定義します。ひとたび“場”を作れば、増改築もできますし、3D空間上なのでカメラを入れ替えて切り取り方を変えれば別の映像を作ることも可能です。「ひとつワールドを持っておこう」という提唱です。今までプロジェクトごとに提案させていただいたものをひとつのメソッドとして定義し、「これが弊社のやり方です」と謳っています。


たとえばVortex City Future Visionは架空の街を3DCGで作り上げたが、決して無機質なものではなく、生活感あふれる雰囲気に仕上げられている。この3D空間の場は、これをベースにして様々な要望に対して、作り変えていくことができる。