このページではDRAWING AND MANUALのプランナー/脚本家、唐津宏治さんを講師に迎えて、“物語”で感情を動かすストーリー・脚本づくりを学ぶ。マーケティング的にも物語は有効で、視聴者の感情を揺さぶることで映像はより効果的に機能する。想起させたい感情をどうやって起こさせるか、キャラクターやログラインの立て方、人を揺さぶる脚本づくり…など、さまざまな角度から言葉に関する仕事をしてきた唐津さんが、なぜ「物語」を大切にしているのか、事例を交えながら解説する。

唐津宏治

1978年生まれ、東京都出身。DRAWING AND MANUALでは、コミュニケーションデザイン、コピーライティング、企画、ブランディング、インタビュー、脚本執筆、作詞など、主に言葉に関する業務を担当。「東北STANDARD」プロジェクト、徳島県共通コンセプト「VS東京」開発など。映画『桜谷小学校、最後の174日』『ふたごとうだつ』『ボケとツッコミ』『Drum’n’ Roll』『TUNNEL VISION』『Cast:』、Mr.Children『here comes my love』『Your Song』『Singles』、BUMP OF CHICKEN『Aurora』、横浜DeNAベイスターズ『FOR REAL -遠い、クライマックス-』、株式会社GABA『Excuse me』『I fish fish』『Sweet on you』、ジャックスカード『うちのお兄ちゃん』などの企画・脚本を担当。

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“ショートドラマのつくりかた”はとにかくたくさん「書く」ことから

今回はショートドラマのつくり方について、僕なりのノウハウをお伝えできればと思っています。ショートドラマのつくり方というお題に対して、本当にシンプルにお答えすると「書く」ということです。書けば、作れる。しかし、書きたいけど書くのが難しいという方が多数いらっしゃると思うので、なんとか書けるようになってもらいたい…というのが今回の狙いです。


たくさん書けばうまくなります。ドラマカーブをどうしよう、ストーリーテリングってどうやったらうまくいくんだろう、インサイティングインシデントは何だろう…テクニックはあると思うんですけど、そんなことは一度全部忘れて、とにかくたくさん書いたらうまくなるし、テクニックのことは次第に分かってくるものです。

唐津さんが携わった作品



GABA『Excuse me』は「物語」を使ったブランドムービーの例。冒頭写真は作品の字コンテと絵コンテ。尺は90秒だが、写真内にある359文字の簡単なスクリプトが映像のもとになっている。自分の中にある「話」を「物語」にして商品や企業の特徴とうまく接続させれば、効果的なショートドラマを作るのは難しくないと唐津さんは言う。


ジャズ界の帝王マイルス・デイヴィスも「必要なのは才能じゃない。練習、練習、練習、それだけだ」と言っていたので、たぶん間違いじゃないはずです。あのACミランの10番を背負った本田圭佑さんも「量をこなしていないやつに質を語る権利はない」と言っています。


「なぜ、書けないのか?」という問いへの仮説を僕なりに考えてみましたが、おそらく、何を書けばいいのか分からないということだと思います。何か書くこととテクニックを知ることはちょっと違って、たとえば大谷翔平のピッチング技術を理解していても同じような球は投げられないじゃないですか。だからこそ何を書けばいいのか、というところから理解する必要があるんです。

まず言葉を整理していきましょう。話、物語、ストーリー、ドラマ、脚本など近しい言葉が乱立していて、フォーカスが絞れないから具体的なイメージが持ちづらいんじゃないか、と。もちろん辞書や教室・学校によって定義は違うかもしれないですけど、今回は僕なりの定義としてお話しします。

ダジャレみたいですけど、「話す」は「放す」が語源になっているそうで、つまり自分の中にある伝えたいこと、印象的なエピソードなどを外に向かって誰かに放す(=話す)、ということです。みなさんも日常会話で「昨日こんなものを食べたんだよね」とか「休みの日にこんなことをしたんだ」と話すと思うんですよね。「話」というのはすでにあなたの中にあるもので、何かを新しく考える必要はないんです。

つまり「話」は誰でも書けますよね。自分の中でいま誰かに伝えたいと思ってることを時系列に沿って言語化するだけなので、めちゃくちゃ簡単です。「脚本」が書けない、「物語」が書けないという方は、まず「話」を書くという練習をすることが最初のステップだと思います。

では「ストーリー」とは何か。語源を辿っていくと、「ヒストリー」から転じて作られたというのが定説としてあります。「ヒストリー」は歴史的な事実という確固たるものですが、「ストーリー」は少し範疇が広くて、想像やウソでも良いというのが言葉の定義です。たとえば主人公がタイムスリップして父と母が出会うパーティを邪魔する…みたいな。これは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の例ですが、まったくのウソでもふと思いついた妄想でも、人に伝えたくなる何かがあるんだったら、「ストーリー」として機能するはずです。

「ストーリー」は事実ですらなくていい…そう考えると「ストーリー」もすぐに書けるんじゃないかなと僕は思っていて。もしかしたら身の回りで面白くて印象的なこと(事実)が起こりにくい環境にいらっしゃる方もいるかもしれないですけど、「ストーリー」というところまで想像を広げて考えると全然書けると思うんです。



相手が何を聞きたいか想像すれば「物語」も書くことができるのでは?

次は「物語」とは何か。僕なりの定義は「面白く語ること」です。相手を意識して、時には時系列を入れ替えて、面白く語る、と。話の順序を入れ替えるというのもひとつのポイントですが、たとえば導入で結論めいたところから話し始めたりすることで、相手の興味を引きつける…とか、ちょっと面白く語るような手法を取り入れたものは「物語」と呼べると思います。となると、「物語」も書けそうじゃないですか。映像の仕事で演出や編集をされている方は、「物語」に必要な話の整理や共感を高めるような演出も得意だと思うので、その時点で書けるんじゃないかな、と。

「ドラマ」というのは「物語の上での登場人物の“動き”」です。人の動きを表現するのが映像だとしたら、その動きのことを「ドラマ」と呼びます。動きが大きければドラマチックになるし、動きがほとんどなかったら「この物語にはドラマがない」という印象になります。ここまでお話ししたら分かると思いますが、これも演出や編集じゃないですか。だから「ドラマ」も書くことができるはずです。とにかく自分が話したいことをただ話すのではなくて、相手が求めてることは何かを考えて、そこに役者が動くことを想像して、ドラマチックに動かしていく。それが「物語」自体の強度を高めたり、見る側の印象を強めたりすることができるんです。

「脚本」「シナリオ」は設計図みたいなものです。基本的には役者の動き、セリフ、ト書き、柱で構成されます。柱は「シーン1●阿部家 居間〜台所(朝)」のように、そのシーンがどんな場所で、どんなシチュエーションで、どんな照明なのかが分かるように書いているものです。ト書きというのはそこにどういうものが配置されていて、どういう映像が撮られるのか、役者の動きやシチュエーションをさらに細かく説明するためのメモのようなものです。

ただ、この「脚本」の形式はちょっと特殊じゃないですか。普通の文章とは違いますよね。「脚本」の形式は必要に応じて書けば良くて、それをめちゃくちゃうまく書けるようになるぐらいなら、いろんな「物語」をたくさん書いて、アウトプットしていったほうが良いと個人的には思います。

簡単にまとめると、「書く」練習をするのであれば、日常生活からいろんな「話」をインプットして、その見聞きしたものから想像して、「物語」の形式にアウトプットとするのがオススメです。そうすれば「物語」のテーマに迷うこともなくなるし、「書く」ことの苦手意識も減らせるのかな、と。

フォーカスを絞るために近しい言葉を整理・定義する

「話」「ストーリー」「物語」「ドラマ」の違いは?



「ドラマ」は物語の上での登場人物の“動き”の連続

「物語」はアクションとリアクションの相互関係で進んでいくが、映像や演劇では演じる役者がいるため、役者が動くことで何が起こってるのかを説明する必要がある。まずは相手が求めている「物語」を考えて、「ドラマ」に着目しながら想像し、役者を動かしてくことが求められる。強度の高い「物語」と「ドラマ」が書ければ、登場人物を換骨奪胎しても通用するため、ケースに応じてアレンジすることも可能だ。

一般的な物語による一例



主体的な動きのないドラマの一例


動きを強調したドラマの一例


登場人物を換骨奪胎した一例