辻村深月氏による原作小説『ユーレイ』をもとに生まれたYOASOBIの楽曲『海のまにまに』は、美麗なアニメーションと原作を踏襲したストーリーとなるMVが話題となり、大きく注目された。本記事では、MVを手がけた監督の土海明日香さん、副監督の史耕さんを招き、実際に使用したコンセプトアートや絵コンテ、キャラクターデザイン表など、作品制作における裏側を余すことなく披露してもらった。
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講師 土海明日香 Asuka Dokai
色彩豊かなビジュアル表現を特徴としたアニメーション作家、監督。個人制作のアニメーションショートフィルムは国内外の映画祭に出展され上映される。近年、アニメーション監督としてミュージックビデオやCMを手がけている。映像作家100人 2021/2022選出。
WEB ● https://www.asukadokai.com/
講師 史耕 SHIKO
実写、CG、手描きアニメなど幅広い演出を得意とする監督、プロデューサー。2022年にアニメーション制作チーム「騎虎」を設立し、アニメMVを中心に制作の企画、プロデュース、演出を行う。
WEB ● https://kiko.tokyo/
『海のまにまに』
【作品概要】 楽曲はYOASOBIと4名の直木賞作家とのコラボレーションプロジェクトの第3弾作品であり、書籍「はじめての」に収録される辻村深月氏の小説「『ユーレイ』——はじめて家出したときに読む物語」が原作となっている。
【STAFF】監督:土海明日香/副監督:史耕/作画監督:成瀬 藍/仕上げ監督:さくらっちょ/美術監督:みちのく/撮影監督:tyao / アニメ制作:騎虎
アニメーション制作チーム「騎虎」ができるまで
見劣りするものは作れない誰よりもいい作品を作りたいという想い
史耕 自分たちは2022年にアニメーションスタジオとしてチームを結成し、そこから約2年ほど経ちました。役割分担としては、僕が主に案件の受注だったり、チームのマネジメントといったプロデューサー的な立ち位置で、土海明日香がディレクションやイラストなど主に手を動かす役割になります。
もともとは、株式会社トヨコーさんのCM依頼を僕が受けたときにキャラクターデザインやアニメーションを描ける方が必要で、以前からSNSで見かけて気になっていた土海にオファーをしたのが出会いでした。そのCMを作っていく中で、土海の映像の作り方、ベースとなる色合いや丁寧さなども含め素晴らしいクリエイターだと感じ、今後も一緒にやっていこうと決めて、「騎虎(きこ)」を立ち上げました。
土海 私は、美術大学を卒業してフリーランスとしてアニメを作っていました。当時、油絵の試験に落ちてしまいそこからなぜか映像に行って、アニメーションを作り始めるという変な流れを辿っていたんですが、その後ひとりでアニメの制作や仕事をしていたところ、史耕さんに声をかけられ、今では規模の大きな作品制作まで任せていただけるようになり、本当にありがたい道を歩ませてもらっています。
史耕 僕自身は東京に住んでいますが、土海は山形に住んでいて、拠点が別々のところにありながらも一緒にやっているという珍しいタイプのチームです。アフレコやカッティングのときは土海に東京へ来てもらったりもしますが、今回紹介するYOASOBI『海のまにまに』のMV制作ではオンライン上でのやり取りのみでほとんどが成立しました。本作の制作依頼を受けたとき、すでにYOASOBIは日本の音楽業界を牽引するような存在だったため、制作にはかなりのプレッシャーもありました。また、この作品自体が4名の直木賞作家が書き下ろした小説をYOASOBIがそれぞれ楽曲にするというプロジェクトだったため、要は4本の映像作品企画が動いているという状況で、「見劣りするものは作れない」「せっかくやるなら誰よりもいい作品を作りたい」という想いがあり、かなり気合いを入れた作品にもなっています。
今回の記事では、『海のまにまに』MV制作におけるワークフローや、映像の構成とストーリーについてを、制作時に使用したイメージボードやコンテなどを用いながら詳しく解説していきます。
MV制作のワークフロー
ワークフロー
明確なスケジュールは決めずに「いいものを作ってほしい」という依頼だった
史耕 最初にYOASOBI側からお伝えいただいたのは、この楽曲は辻村深月さんの小説をもとに書かれるものだということ、現時点ではラフの音源だけがあって歌詞がまだ決まっていないということでした。ただ、大体の締め切りは決まっていたので、先んじてコンセプトとなるイメージボードと小説の印象からキャラクターを作り上げていこうという流れになりました。
スケジュールとしては、いわゆる通常のMVであれば2〜3カ月程度で制作するのが通例ですが、本作の場合は「いいものを作ってほしい」ということで明確には決めず、半年くらい先まで見越しての制作スケジュールでした。
コンセプトアート
家出をする瞬間の儚さと冒険心を同時に感じられるようなイメージを描いた
史耕 まず、最初に「この映像をどういうものにするか」というコンセプトアートとなる1枚を、土海と本作で背景美術を担当しているみちのくさんに起こしてもらいました。また、原作小説があるというお題目だったので、なるべくリアリティを持って作り、より共感性の高いものにしていきたいと考えていたのと、小説を読んだ上で儚い少女の精神性を描いた作品だと感じていたので、その部分をしっかりとカタルシスに導いていけるようなフレームのシーン作りや、画を徹底的に綺麗に仕上げるといったところを最初のコンセプトとして固めていきました。
土海 主人公のは中学生で、思春期の中で家出をする瞬間の儚さと冒険心を感じられるようなイメージボードになっています。舞台は夜の海なので実際にはもっと真っ暗だと思うんですが、家出をしたときのワクワク感を映像に出せるように綺麗な青にしていて、そういった美しさや綺麗さみたいなものを大事にしながら作っていきました。
史耕 ビジュアルの美しさや、そこにファンタジー的なフィクションが入りながらも皆に共感を与えられるところが土海の強みであって、例えば月は本来こんなに大きいはずはないし、海の中にピンク色が入ることもないんですが、そこに一味足せるというのが彼女の持ち味なのかなと考えています。
また、少女の立ち方や儚さ、華奢具合など、線が細く海の中に消え入ってしまいそうな雰囲気を持たせたかったので、そういった部分は相談しながら作っていった記憶がありますね。
映像的な狙いとしては、絵柄にアナログの風合いを持たせて「タッチ線」と呼ばれるテレビアニメのラインでは乗りづらいようなものに一工夫を入れることで、より叙情性や感情表現の豊かさを持たせています。YOASOBIのMVならではのニュアンスがタッチとして残るというか、映像的なエッジになるものを残したいという意図があり、こういったデザインを作っていきました。