クラウド技術を活用したワークフロー解説

野外の撮影現場

プロキシデータだけを自動アップロードするBlackmagic Cloud Live Sync機能を活用する

野外の撮影現場においては、午前中に撮影を行なって13時までに公開するような短い納期への対応などが求められます。また、予算の都合上ワンオペでの現場が非常に多く、そういった場合にはカメラマンがファイルのバックアップから編集スタッフに送るためのアップロードまで、全てをひとりで対応しなければいけません。

そういった際に例えば、撮影用のカメラがBlackmagic Cinema Camera 6Kであれば、容量の重いRAWと容量の軽いプロキシを同時収録することができます。さらに、スマホをカメラにUSBで繋いで、テザリングモードからインターネットに接続し、収録したプロキシデータだけを自動でクラウドストレージにアップロードしてくれる「Blackmagic Cloud Live Sync」機能を活用することができます。アップロードが始まるとBlackmagic Cloud Storageにデータが保管され、あらかじめ設定しておいたPCでDaVinci Resolveを開いておけば、自動的にプロキシデータが同期される仕組みになっています。

他社のカメラにもクラウド対応している製品はありますが、基本的に録画を停止してからでなければアップロードが始まらないものばかりなんですよね。ブラックマジックデザインのカメラの場合は、上記の機能を使うことで停止ボタンを押さずともグローイングメディアの状態で遠隔地にも同期してくれるので大変便利です。



【「Blackmagic Cloud」とは?】

「Blackmagic Cloud」とは、2022年にDaVinci Resolve 18から導入されたDaVinci Resolveのためのクラウドシステムの総称。Blackmagic Cloudを活用することで、撮影・編集、素材共有、試写といった映像に関するワークフローを一括でクラウド管理することができ、チーム内や複数のPCとリアルタイムで同期させることができる。また、「Blackmagic Cloud Storage」を活用することで、素材データをDropboxやGoogle Driveなど他社のクラウド製品を挟む必要がなくなり、ブラックマジックデザインのシステム内で全てを完結させることが可能となった。


DaVinci内でCloud Storage同期状況を確認する画面。






カメラから直接クラウドストレージに素材をアップロードする仕組み




「Blackmagic Cloud Live Sync」で同期したデータをリアルタイムで編集

Blackmagic Cloud Live Sync機能を使えばカメラの録画ボタンを押すだけで、収録をしながらDaVinci Resolveに撮影データを同期させることができる。撮影はリアルタイムで行われているため、タイムライン配置後もクリップを伸ばすことが可能。








野外撮影に必要な機材

コンパクトに運用するためにスーツケース内に全ての機材を収めている。映像制作用のVマウントバッテリーではなく、高性能モバイルバッテリーを採用。小型化/軽量化により電力消費の多いシネマカメラを野外で長時間運用可能に。







スマートフォン

5GおよびWi-Fi6対応のスマートフォンをカメラ本体にUSBケーブル1本でテザリング接続する。5G回線が不安定な室内ではより高速なWi-Fiに接続し、より安定した収録ファイルのアップロードが可能。



リグシステム

Smallrig社製の各種リグ・ハンドルを組み合わせてスマートフォンとバッテリー、マイクなどをカメラ本体にマウントすることが可能。また、NATOレールやコールドシューを各接合部に採用することでワンタッチで迅速な取り付けが可能。



マイク

コールドシューマウント対応のショットガンマイクやワイヤレスマイク受信機を装着可能。



バッテリー

Anker社製の最新モバイルバッテリーはカメラ接続時に残りのバッテリー残量使用時間が表示され、カメラオペレーターがバッテリー交換のタイミングを把握しやすくなる。また、カメラ内蔵のバッテリーと組み合わせることで録画を停めずにバッテリーのリレー交換が可能。



ジョイント

NATOレール



レンズ

Lマウントレンズを装着可能。



カメラ

Blackmagic Cinema Camera 6K






スタジオ収録現場

ルーターのWi-Fiにアクセスすれば全員がリアルタイムで映像をチェックできるシステム

スタジオ収録の場合、録画を停止せずにリアルタイムで素材チェックを行う必要のある現場が存在します。例えば、化粧品を売るためにその場でメイクを行い、商品紹介をしてからリアルタイムで商品を販売する現場などです。ライブ配信中の精密な色調整は難しいですが、クライアントとしてはアーカイブでフル尺を配信するときには、化粧品の持つ正しい色に調整をしたいですよね。そういった場合、これまでであれば収録をその都度止めて、カメラから抜いたSDカードをPCに挿し、DaVinci Resolveに読み込んでから確認を行うという流れでした。

また、お客様の熱が冷めないうちにダイジェスト動画を素早く公開する必要もあります。この場合、編集作業に相当手慣れた人材を当日にアサインできなければそもそもの対応自体が難しくなってしまいます。

こういった現場の場合は、まずCinema Camera 6KをHDMIで「HyperDeck Shuttle HD」に繋ぎます。このレコーダーにはネットワーク収録機能が備わっており、LANでルーターに繋ぐことでネットワークストレージへ収録データを送ることができます。つまり、ルーターのWi-Fiにアクセスすれば全員がリアルタイムで映像をチェックできるシステムを組むことができます。重いファイルでも有線で繋いで見ることができ、配線を敷設できない現場でも無線でアクセスすればグローイングファイルとして収録データを録画停止することなく参照できます。これにより、収録後すぐに映像をチェックできたり、リアルタイムでのカット編集が可能になるなど、今までのワークフローの概念自体が大きく変化したと言えると思います。



求められていること

❶ 短納期

・配信の1時間後にダイジェスト動画を作成

・1本フル尺の編集とアーカイブ配信


❷ 正確性

・人物と商品の正しい色味



今までの課題

・収録が終わってからでなければカメラのSDカードを抜けない(素材を確認できない)

・収録後の1時間以内に公開する必要があるが、作業に慣れている人でなければ間に合わない



解決策

 「HyperDeck Shuttle HD」と「Blackmagic Cloud Pod」を使用し、録画を停めずにリアルタイムで素材チェックを行う



録画を停めずにリアルタイムで素材チェックを行える仕組み

ローカルネットワークで構築された環境のため、ProResなどの重たいデータも高速で共有することが可能。また、Cloud Podに保存されたデータは外付けSSDで容易に持ち出すこともできる。





スタジオ収録に必要な機材

Blackmagic Cinema Camera 6K

ワイドダイナミックレンジに対応したフルフレームの24×36mm 6Kセンサーのデジタルフィルムカメラ。高ビット深度のBlackmagic RAWとH.264プロキシを同時収録可能。






Blackmagic Cloud Pod

背面に10G Ethernet接続を搭載するネットワークストレージ。複数のユーザーが接続しても高速なファイルアクセスを実現する。プロキシワークフローにも対応しているため、リアルタイムで即座にメディアを共有することが可能。





HyperDeck Shuttle HD

卓上型ディスクレコーダー。映像機器と組み合わせることで、映像を収録・再生したり、クリップ再生機として記録メディアに保存されたクリップを再生できる。





上記機材の他、Wi-FiルーターとSSDを用意。「ブラックマジックデザイン製品以外で同様の環境を構築しようとすると、数千万円程度の機材システムが必要になると思います」と清本さん。










編集スタッフの自宅

遠隔地にいる編集スタッフがリアルタイムで作業を行える環境を構築

僕らが提携しているフリーランスの編集スタッフの環境は、ライブコマースの現場から動画ファイルがそれぞれの自宅に無償提供しているネットワークストレージに自動的に同期され、ダウンロードされる仕組みになっています。ライブコマースの現場の場合、各メーカーが順番に商品説明を行うため、メーカーごとのアーカイブ動画を作る必要があります。その場合、配信の2〜3時間後にはアーカイブ動画の公開となり、さすがに現場作業では間に合わないため、遠隔地の編集スタッフにグローイングファイルを送ってリアルタイムで作業してもらうことになります。

なぜ、編集スタッフの自宅にネットワークストレージを提供しているかというと、映像制作をする方であれば基本的にPCで作業を行いますよね。その場合、1TBなどの膨大なデータのダウンロードが突然始まってしまうと、PC容量の問題でそもそもダウンロードができないというケースが発生してしまう場合があります。なので、素材ファイルはネットワークストレージで集中的に管理をして、PCの容量を圧迫させないために、スタッフの自宅に「Blackmagic Cloud Pod」を配備しています。



求められていること

❶ 短納期

・配信の2〜3時間後にダイジェスト動画を作成

・複数本の編集とアーカイブ配信



今までの課題

・素材アップロード完了の連絡後に手動でダウンロードを行うため、待ち時間が発生する

・PCの容量が足りず、ダウンロードに失敗する

・編集ファイルを他のスタッフと手動で共有するため、待ち時間が発生する


解決策

「Blackmagic Cloud Pod」に素材を同期させることで、編集スタッフのPC容量を圧迫せず、スムーズに編集作業ができる



PC容量を圧迫することなく編集作業が行える仕組み

「Blackmagic Cloud Storage」と契約することで、BMCC6Kなどブラックマジックデザインのカメラから直接ファイルをアップロードできるようになり、「Blackmagic Project Server」と契約をすることでライブラリが割り当てられ、編集ファイルを作ることができる。「そちらに他の編集スタッフをゲストで招待することで、皆が作業をリアルタイムで進められる環境が構築できるようになります」と清本さん。





「Blackmagic Cloud Pod」の設定画面より「Sync proxies only」を選択することで、遠隔地で作ったプロキシ素材だけが自動的に同期されるようになる。







システム導入の目的は明確に!

最新機材やクラウドを導入するのは“作業時間”を減らすため

自動化する指示を人間が出すのであれば人間が動くコスト自体は変わらない

2〜3年前に「こんなことができたらいいな」と思っていた願望に対して、当時はその仕組みがありませんでしたが、2024年以降は映像業界にもクラウドやIP伝送など最新技術の登場により、多くのことが実現可能になりました。しかし、最新のシステムを導入する前に、その目的を明確にすることが大事です。例えば、生成AIが流行っているからといって動画を自動生成したとしても、AIへの指示は人がプロンプトを入力してボタンを押しているわけですよね。そこまで自動化ができるのであればいいですが、結局人がやっているのであれば人間が動くコストは変わりません。最新の機材やクラウドを導入するのは、あくまでも作業時間を減らすということが目的だということを忘れないようにしましょう。



低コストで一気通貫のシステムが実現可能な時代へ

統合ワークフローを組むことで表現やアイデアにコストをかけることができる

少し前までであれば、こういった一気通貫のシステムを組むためには何千万円とコストがかかっていたのですが、本記事にて紹介したようなシステムであれば全てを合わせても20万円行くか行かないかくらいで組むことが可能です。資金力のない映像制作チームやローバジェットでやらなければならないフリーランスの方でも、放送局がやっているような便利なシステムを低コストで組むことができ、その分でよりリッチな表現や画期的なアイデアにコストをかけることができるようになりますので、ぜひ皆さんも挑戦してみてください。

また、今回紹介したようなクラウドシステムを活用したワークフローについてお悩みの際や、DENDENと一緒に動画編集の仕事をやってみたい、ライブ配信の現場をやってみたいなどのご要望があれば、お気軽に弊社までお問い合わせいただければと思っています。



清本さん注目の新製品 CLOUZEN 「TAINER」

韓国メーカーCLOUZENのポータブル・バックアップストレージ機器 「TAINER」。本記事では、Blackmagicのカメラを使ったワークフローを紹介したが、TAINERを活用することで他社製カメラでも似たようなワークフローを組むことができる。本製品は内部にSSDが内蔵されているため、メディアストレージを直接挿してバックアップボタンを押すだけで、PCを介さず容易にバックアップを取ることができる。また、OneDrive、Google Drive、DropBoxなどのクラウドサービスと連携することができ、スマホからのテザリングやWi-Fi環境さえあればPCを開くことなくクラウド上にデータを共有することができる。ただし、残念ながら日本では現状未発売とのこと。

公式サイト:https://www.clouzen.net/




内部にSSDが内蔵されている。



メディアを挿すだけでバックアップを取ることが可能。