クリエイティブ業界では、様々な形態でのクリエイターが増え、独自のワークフローでクオリティの高い作品を制作するクリエイターが存在する。本記事では、夫婦でクリエイティブユニットとして活動するNIOのおふたりを講師として招き、NIO独自の制作体制、ビジュアルコミュニケーションの方法論についてなど、NIOが手がけた事例を用いながらクライアントワークにおける実践的なテクニックを解説してもらった。

講師 NIO

1993年 大阪出身。東京都在住。大学卒業後、映像プロダクションにてエディター業務に従事する。現在はオタクカルチャー系映像制作チーム「異次元TOKYO」に所属。ディレクター/オフライン・モーションエディターとして活動。漫画やアニメ、銭湯、ラジオが好き。

HP ● https://www.vinio.net/

X ● https://x.com/wearenio






クリエイティブユニット『NIO』とは?

ふたりのバックグラウンドを活かし手触りや質感に重きを置いた作品を制作する

TAKUTO NIOとは、TAKUTO NIOとKANA NIOの夫婦ふたりで活動するクリエイティブユニットです。グラフィックデザインやイラストレーション、3DCG、映像編集など、僕らがこれまでにやってきたバックグラウンドを活かして、手法にとらわれることなく手触りや質感に重きを置き、ビジュアルや映像を制作しています。具体的には、「フィルムディレクター」「3Dイラストレーション」「AR・VR・WEB」といった3つの大きな軸を中心として考えています。

 僕個人の経歴としては、大学で映像制作を専攻し、卒業後はプロダクションに入って、広告やMV、テレビアニメのコンポジットや編集などをやっていました。そこから転職し、3DCGアーティストとしてお仕事をいただきつつ、現在は映像ディレクターとして活動しています。

KANA 私は四年制の大学を卒業後、エンタメやカルチャー好きが高じて音楽レーベルに入り、A&Rをやっていました。退職後、グラフィックデザイナーの職を経て、現在は3DCGアーティストになり、総合的なアートディレクションや3Dキャラクターアートの制作、デザインなども行なっています。

TAKUTO 今回の記事では、これまでNIOが携わってきた様々な作品を事例に、NIOの仕事の進め方や、ビジュアルに対してどのようにNIOがアプローチしているのかなど、実践的な内容を詳しく解説していきます。



パーソナルワークとして取り組んだ『After Fiction』シリーズ




3Dモデルと2Dイラストを融合させた、静止画とアニメーションの個人制作シリーズ。「架空、虚構、想像、妄想…、アイデアの芽が様々なフィクションをたくさん旅した後、3Dとなって現実に飛び出してきた世界」を表現したいという想いから「After Fiction」と名づけた。


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なぜ夫婦で制作しているのか?

NIOとして活動するまでの経緯

お互いの苦手領域を補完するうちに必然的にふたりで作業するようになった

KANA 以前から、私のイラストを夫が動かすという分担でたまに一緒に仕事をしていたんですが、もっと一緒に何かを作れる機会があればいいねと話していました。そして、ちょうどその頃3DCGに興味が出てきていたんです。

TAKUTO 実は、僕も昔から3DCGをやっていたんですが、モデリングをやってもあまり上達しなかったんです。でも、KANAには絵心があり素養もあったので、モデリングの領域も多分うまくいくだろうなと思っていました。特に、ZBrushの習得が早そうだと感じたので、買い切りのZBrushを購入して勧めたところ、思った通りいろいろと作れるようになって。その後は、テクスチャーやマテリアルも作らないといけないのでSubstance Painterも習得してもらったというか、勝手に覚えてくれました(笑)

KANA 私としては、グラフィックやイラストの仕事も慣れてきたのでそろそろCGもやりたいなと思い、TAKUTOの勧めでZBrushを始めてみたんです。元々絵は好きだったんですが、デッサン力や基礎力にコンプレックスがあって。でも、ZBrushだとイラストよりも断然思い通りに描けることに気がついたんです。そこから、興味の方向性が2Dから3Dになり、静止画から動画へと変わりました。当時がちょうどコロナ禍だったこともあり、どこかへ出かけられない代わりにチュートリアルを漁ったりして、それが遊びみたいになっていたなとも思います。一方で、TAKUTOはライティングやモーション、コンポジットなどが得意だったので、お互いの苦手分野を補完しながら、強みを伸ばすことができ、必然的にお互いへ来た仕事をふたりで作業するようになりました。そうしたなかで、クレジットを「NIO」に統一して、ユニットとして活動することにしたんです。






夫婦だからできる!同時進行のスケジューリングが可能に

ふたりで作業をすることで、家内制手工業のような小さなプロダクション機能が完成。作業自体も隣同士の席で行うため、すぐに話ができ、補い合いやすい環境が構築された。


NIOでは、「フィルムディレクター」「3Dイラストレーション」「AR・VR・WEB」といった3つの軸を中心に考えており、各領域の重なる部分での制作を行うことで、より表現の幅が広がるような作品づくりを目指している。




NIO独自のワークフロー

高速で主観と客観のラリーがいつでもできることがNIOの強み

KANA 当時、ふたりで制作を始めた頃は「自分たちは、ひとりでは天才クリエイターになれないけれど、ふたりで一般的なクリエイターの1.5人分になろう」という話をよくしていました。

この生活を続けて2年ほどが経ち感じるのは、あらゆる作業工程においてふたりで考えてパスし合うため、ふたり以上の思考(試行)回数になっているということです。

ひとりでの制作の場合、プロデューサーやチームメンバーが壁打ち相手となるので、速度感のあるラリーが難しいときもあるかと思いますが、私たちの場合は高速で主観と客観のラリーがいつでもできるのが強みです。



一人のクリエイター

一般的なクリエイターの作業フロー





NIOの場合 = 高速で主観と客観のパス回しができる

NIOの作業フロー。「パス回しの回数が多い分クオリティにも繋がるし、ひとりの天才が猛烈に働くよりも、支え合いながら人間らしい生活が送れるという意味で、メンタル面でもプラスになっていると思います」とKANAさん。





NIOが手がけた映像作品

Vaundy 『replica』 MV 監督&3DCG




テレビ東京ドラマ 『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』OP映像監督&3DCG




Anonymouz 『あらいざらい feat. 春野』MV監督&3DCG




Hump Back 『恋をしよう』 Lyric Video 監督&3DCG




パソコン音楽クラブ 『FINE LINE』トレーラー映像 3DCG




水曜日のカンパネラ 『赤ずきん』MV 3DCG