独学は手っ取り早い。しかし、働きながらの独学やゴールが曖昧な独学は、長続きしないのもまた事実。そこで、DNEGバルセロナスタジオで活躍する岩崎航輔さんは、世界中のデジタルアーティストが集うオンラインコミュニティが主催する3Dコンペに参加することで、確かなスキルアップを実現しているのだとか。

講師 Kosuke Iwasaki 岩崎航輔

DNEG所属、Lead Unreal Engine Artist。カナダ、スペインのVFXスタジオにてハリウッド映画やストリーミング配信シリーズに従事。部署をまたいだ幅広い領域をカバーする3DCG・VFXジェネラリスト。新しいツールや技術の習得を目的に、積極的にコンペやコミュニティチャレンジに参加。国内外多くのコンペで受賞・入賞を果たしている。知識と経験を還元すべく、社外向けセミナーやワークショップを通じて後進の育成・情報発信にも力を入れている。

XArtStation






ビデオグラファーから3Dゼネラリストへ

テクノロジーとアートの両面から学び続けることが求められる

僕は今、DNEGというVFXカンパニーのバルセロナにある拠点でゼネラリストとして映画やドラマなどのVFX制作に携わっています。現在のメインツールはUnreal Engineで、サブツールとしてBlenderやHoudiniなどを使っています。

実はキャリアのスタートは、ビデオグラファーでした。主にウェディングやスノーボードなどのアクションスポーツの映像を手がけていました。今は仕事でカメラを回すことはありませんが、撮影の感覚を忘れないように旅行へ行ったときはVlogを撮ったりして楽しんでいます。フォトリアルな画づくりが求められる仕事では、実写の経験がすごく役立っています。

大学生のときにアメリカへ短期留学したことがあって、そのときに自由な文化に魅せられました。卒業後は、神戸のAVII IMAGEWORKSというプロダクションに入社して、撮影、編集、VFXとなんでもやらせてもらいました。ですが「将来は、北米で働きたい」と思っていたので、Lost BoysというバンクーバーにあるVFXを学べる専門学校へ1年通ってNukeによるコンポジットを習得しました。卒業が近づいた頃からインターンとしてIndustrial Light & Magic(ILM)バンクーバーでデジタルペインティング業務に携わり、卒業後はそのままチームに雇っていただきました。Lost Boysに推薦してもらえたことが大きかったと思います。僕が入った部署はILM内でもすごく特殊なチームで、2Dアーティストが3DCGも扱えるようになってゼネラリストとしてさまざまなプロジェクトの急場を支えるという活動をしていました。この頃の仕事がすごく楽しかったので、今でもゼネラリストとして、新しい技法やツールを積極的に取り入れてます。



岩崎さんが2021年に「Views」へ投稿したVlog




Demoreel 2025 Kosuke Iwasaki




コンペを利用すると、確実にスキルが習得できる

コンペに参加するメリット

平日は疲れていて、YouTubeを観ていたら夜中……。休日も疲れていて、起きたら午後……。といった経験はありませんか? 仕事に加えて、独学で確かな成果を得るには強い意志と気力が求められます。そこで僕は、コンペやCG・VFX系のコミュニティチャレンジへ参加するようにしています。応募した作品が入賞すれば客観的な評価にもつながるし、規定のルールやスケジュールがあるため、半強制的に取り組めるので「余裕ができたらやる」といって放置することが避けられます。








「3D Community Challenge」とは?

YouTube登録者数130万人以上Pwnisherが主催する3DCGコンペ

僕はこれまで国内外10以上の様々なコンペに参加してきました。今回紹介する「3D Community Challenge」は、Pwnisher(パニッシャー)こと、Clinton Jones/クリントン・ジョーンズが主催する3DCG系のコミュニティチャレンジです。クリントン自身もVFXアーティストや映像ディレクターとして活動していて、YouTubeチャンネル「Pwnisher」は登録者数130万人を超えていて(2025年5月時点)、CGやVFX関連のチュートリアル、作品解説、コミュニティチャレンジに関する動画などを投稿しています。

半年に1回ぐらいのペースで開催されていて2025年1回目となった「Chasm’s Call」で第10回を迎えました。初心者からトップレベルのプロまで、誰でも参加可能で、毎回3,000人以上が世界中から参加しています。トップ5に選ばれたクリエイターには個別インタビュー動画を公開。そしてトップ100に入った作品は、まとめ動画で紹介されます。商品も豪華なので、回を重ねるについてハードルも高くなっています。



YouTubeチャンネル「Pwnisher」




Pwnisher主催Discord 「Create with Clint」







第6回『Endless Engine』(2023)

『Endless Engine』ルール

ルールの内容

僕が初めて参加したのが『Endless Engine』です。第6回目の3Dコミュニティチャレンジで、「乗り物」がテーマでした。ルールを守っていれば、使用するソフトウェアは不問。YouTubeの規約に反する表現はNGですが、二次創作や市販アセットの利用も認められています。また、このときは最終ムービーへの生成AIの利用はNGでした。






テンプレートのムービーファイル
主催者が作成したサンプルムービーの例
主催者が作成したサンプルムービーの例
主催者が作成したサンプルムービーの例




公式サイトを見る







ゼネラリストとして全工程を手がけてみる

参加の動機は、ちょうど転職するタイミングで、新しい仕事場ではHoudiniを組み合わせたパイプラインが構築されていました。そこでHoudiniを勉強しつつ、ゼネラリストなりに、モデリングからコンポジットまでの全工程を自分でやってみようと思いました。ワークフローは表の通りです。制作期間は1ヵ月ほどでしたが、もちろん仕事をしながらの作業だったので、本当に大変でした(苦笑)。





コンセプト&モデリング

キャラクターや乗り物のデザインワークでは、リファレス収集に加えてMidjourneyも利用しました。



Blenderでモデリング、テクスチャリングはSubstance 3D Painterで行いました。この工程は、ただひたすら地道な作業を続けました。



テンプレートファイルをベースにプリビズを作成しました。完成した作品は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』オマージュ全開です(笑)