数々の商業アニメーションで活躍し、近年はBlenderをフルに活用して2Dと3Dミックスしたアニメーションワークフローを開拓しているりょーちもさん。今回はその最新事例となった『ライアンズ ・ワールド』アニメシリーズにおける新しいアニメ制作の実験やその成果を解説してもらった。

講師 りょーちも Ryotimo

アニメーター・キャラクターデザイナー・アニメーション監督・CGディレクター。商業アニメーションで2Dアニメーターとして活動開始。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『時をかける少女』などで原画を担当、『鉄腕バーディー DECODE』でキャラクターデザイン・総作画監督、『夜桜四重奏』シリーズではキャラデザイン・総作監・監督を兼任。『亜人』『正解するカド』『GODZILLA 怪獣惑星』『映画 HUGっと!プリキュア♥ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』など3D作品にも演出や絵コンテなどで参加し、2D3Dのミックスのアニメ制作方法を取り入れている。






Blenderを活用したアニメ制作の実験

各シリーズで新たな表現の実験を重ねた『ライアンズ ・ワールド』

Blenderで完結するワークフローで作ることになるまでの経緯

改めて自己紹介をすると、僕はりょーちもというハンドルネームで活動しているアニメーター・キャラクターデザイナー・アニメーション監督・CGディレクターです。2Dアニメーションをやっていたときにキャラクターデザインや総作画監督(以下、総作監)、監督を兼任していました。その後、3Dの仕事もやらせてもらう機会があって、エピソードディレクターやテクニカルのサポート、2Dと3Dをミックスした作品のアドバイザー・管理をするようになったんです。その間にBlenderのスキルを習得してしまい、最終的にこれまでの役職を投げ捨てて、現在はBlenderおじさんになってしまったという経歴です(笑)。

これまではTVや劇場版の商業アニメーションをメインに活動してきましたが、近年はYouTubeで公開している作品も手がけるようになりました。この作品群で商業の制作スタイルから個人ベースの制作スタイルに切り替えたんです。ある意味で独自開発の手探り状態だったので、すったもんだありましたが、ようやくここまで来たぞ! というのが今回のお話しする内容になります。

今回事例として扱うのは『ライアンズ・ワールド』というYouTubeチャンネルで配信されているアニメシリーズです。ライアンくんと彼のファミリーが出演しているチャンネルで、いろんなコンテンツを配信しているんですけど、その中のアニメーションパートを担当させていただきました。我々が担当したアニメ作品で現在配信されているのが2シリーズ、5月の時点ではまさに3シリーズ目を制作中…という状況になります。

すべてのシリーズでBlenderを使っているんですけど、1シリーズ目の「忍者編」では編成されたばかりのチームだったこともあり、どこまでBlenderを使うか議論がありました。プロデューサーとしてはBlenderで完結することよりも少人数でやることが目的だったので、リスクが高いようだったら別のソフトを使うことも想定していたんです。

ただ、3Dセットの中でキャラクターのアニメーションをつけてプリヴィズを作るというのは「忍者編」から始めていました。アニメーション制作は本番作業の前、プリプロでどれだけセッティングできるかがカギになります。よく使われるのが絵コンテですが、Blenderによるプリヴィズ制作ならその段階で映像になっているということですね。早い段階で“結果”が見えるので、クライアントとの調整もプロダクションの前にやってしまえる、と。なので、クライアントからの大きなリテイクは発生せず、リテイク相談もかなり少ない量でした。この経験から、Blenderで完結するフローで次シリーズも作ることになったんです。



YouTubeチャンネル『ライアンズ ・ワールド』とは?

世界的に有名なキッズYouTuberが運営する、登録者約3,930万人(2025年5月時点)、累計視聴回数600億回超のYouTubeチャンネル。りょーちもさんが監督・総作監などを務めたアニメパートがこれまでに2シリーズ(各3エピソードで構成)が配信されており、制作手段を模索した。





アニメシリーズ1 『Ryan’s World Ninja Adventures Animation』

動画前半の実写パートではライアンファミリーが登場。トラブルを解決するためにアニメの世界で冒険をする…というストーリーが展開。





アニメシリーズ2 『Ryan’s Rescue Squad Saves Robot City From FIRE | Animation』




シーズン1のシーンカット

少しアートアニメ寄りなタッチ




シーズン2のシーンカット

よりキッズ向けにして主線も加えたスタイル

シーズン1は「どこまでBlenderでできるのか試させてもらった段階だった」と振り返るりょーちもさん。シーズン2では作画の自由度がより高くなり、3Dに日本のアニメーションの2D作画スタイルを混ぜる、主線アリのタッチで制作することになった。




2シリーズ目の「レスキュー編」ではキャラクターのビジュアルが少し変わりました。よりキッズ向けなタッチで頭身も下げていますが、主線が入っているのがポイントです。これはクライアントから「主線ありの日本のアニメーションの作画にしてほしい」という要望があったからで、Blenderで3Dベースの作り方をしつつも、主線が入るように工程にも変化が求められました。

ちなみに主線アリ/ナシでは作業のカロリーの差がかなりあります。簡単に言うと、3Dモデルに高い精度が求められますし、キャラクターの演技による破綻がすべてバレてしまう…この調整に苦戦することになりました。

いま挙げたのは一例ですが、『ライアンズ・ワールド』ではBlenderを活用して2Dルックのアニメーションを作るため、いくつかのワークフローの実験およびチャレンジをしました。各シリーズでそれぞれ新たな表現の実験を重ね、その都度実践してきたことを更新していったんです。

この過程はあまり表に出せていなかったので、今回は3シリーズ目で完結するのを節目に、3つのシリーズを通してやってきたBlenderでのアニメ制作の実験やその成果をピックアップしてお伝えさせていただきます。