フォトグラファーとプロデューサーが語る、EOS MOVIEによるテレビCM制作の舞台裏


写真とカメラの総合展示「CP+」(2月9日~12日)の関連イベントとして2月11・12日にわたり開催されたキヤノン「EOS MOVIE スペシャル・セミナー」より、テレビCMにフォーカスしたセッションの模様をレポートする。出演は成神利美氏(フォトグラファー/キャラッツ所属)と森口典孝氏(プロデューサー/原宿サン・アド)。


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向かって右が成神利美氏、左が森口典孝氏。司会進行はコマーシャル・フォト川本副編集長(左端)。
人数も撮影場所も限られた条件で機動性を発揮
成神氏と森口氏は7~8年のつきあいがあるそうで、何度も一緒に仕事をした間柄。森口氏は「EOS 5D MarkⅡを入手しました」という連絡を成神氏からもらっていて、Honda フィットのCMにキャメラマン候補としてリストアップした。「今回の企画は、撮影現場で素早くアングルを決めて撮らないといけなかったので、クリエイティブ・ディレクターと相談してスチル系の人がいいという話になり、彼を候補に入れたのですが、作品のクオリティなどからすんなりと決まりました。」(森口氏)
フィットは2007年に現在のモデルがデビュー、2010年にマイナーチェンジを行っており、今回制作したのはそのCM。フィットは国内売上台数トップを記録するなどHondaの中でも重要なモデルで、常に改良や研究が重ねられている。このCMはその開発者にスポットを当て、デザイン、設計、車体のチェックやテスト、組み立てなどさまざまな工程を経てクルマが生まれるまでをドキュメントするコンセプト。「研究所というのは機密保持のためひじょうに管理が厳しく、すぐには撮影許可が下りません。入れる人数も制限されます。“いつ撮れるかわからないけどとにかく来てくれ”という感じでした」(森口氏)
EOS 5D MarkⅡを使う動機について、成神氏は「スチルカメラマンが違和感なく(動画でも)使えるという意味で、5D MarkⅡかなと。ISO感度も変えられるのがいい」。小型ゆえの機動性も大きなメリットで、今回の撮影でも従来のカメラなら大型のドリー(移動台車)が必要なシーンでも簡易式の小型ドリーで済ませることができた。
ロケ地となったのは、和光と栃木の研究所と鈴鹿にある製作所。撮影日はのべ4日。先述のとおり、クルマのCM撮影は機密管理がひじょうに厳しい。ロケハンを行おうにも、「申請のために必要な書類の量がハンパない」(森口氏)うえに、カメラの持ち込みが許されない場所が多い。そのため、事前に撮影プランをじっくり練ることはあきらめて、現場で判断しながら撮り進めていくことにした。即断即決が求められる撮影になったが、「5D MarkⅡを使いだしてからそういったケースが多くなったし、経験値からいってもイケると判断しました」(成神氏)
今回の撮影で現場への立ち入りを許されたのは、クライアントの担当者を含め8名。しかも撮影ができる場所も限定されていた。「今回、現場に入ったのはクリエイティブ・ディレクターとアート・ディレクター、そして撮影は成神さんともう1名。通常は演出を担当するCMディレクターがいるのですが、今回は起用していません。撮影隊が二人しかいない条件で、成神さんが『ここ!』という感じで素早くアングルを決めて撮り、クリエイティブ・ディレクターがオッケーを出していきました。成神さんは、みんなが納得するカットを撮るのが早いので助かりました」(森口氏)。ドリーのレールのセッティングを含め、わずか30分で撮影したシーンもある。走行テストした試験車を分解検査するシーンは、普通の会議室を使って撮影。エレベーター雲台を使って俯瞰目で全体を捉えた。
今回のCMの目玉でもあるハイブリッドモデルが工場ラインから出てくるシーンは、撮影当日に3台だけ組み上がるという情報をもらっただけで、何のテストもなくぶっつけ本番で撮影した。「この辺だろう」と見当をつけて、三脚を据えてカメラを固定、ハイブリッド車が組み上がるまでずっとラインを追っかけた。
「段取りして香盤表を作ってやるCM撮影と違って、ドキュメンタリーに近かった」と振り返る森口氏に対し、「僕は割りと楽観的だった。アングルを切るのはスチルの感覚と近いので、そこはやりやすかった」と成神氏。使用したレンズは全てズームで、大半のシーンで24-72mmを使用。やや広角気味で、手ブレ防止はオン。「キヤノンのズームは単玉に比べても画質はあまり劣らないし、レスポンスも良い。16-24mmの広角ズームでも歪みは少ないのがいい」(成神氏)。クルマのサイズ感が悩みどころで、コンパクトに見えすぎてもいけないし、重厚感が出すぎてもよくない(フィットは小型車)そうだ。
成神氏はピクチャースタイルは毎回自分で設定する。今回はコントラストをやや弱め、シャープネスを抑え目に設定。森口氏によれば、撮影素材から色味はあまり変えていないとのこと。同時にポスターや雑誌広告の写真も5D MarkⅡで撮影。「成神さんの撮った画を見ていいなと思っていて、グラフィックの最終打ち合わせの段階で、この時撮ったスチルを使おうということになりました」(森口氏)。少し色味を調整しただけで、アングル等は変更していない。
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原宿サン・アド/プロデューサー森口典孝氏         フォトグラファーの成神利美氏(キャラッツ所属)
何の違和感もなくファーストインプレッションで撮れる
続いて、成神氏がEOS MOVIEで手がけた他の仕事を紹介。まずは白泉社の羽海野チカ原作のコミック『3月のライオン』のCM。「つながればいい」というコピーがあり、いろいろな場所でコミックを読んでいる一般読者(よく見ると著名人も含まれているのがミソ)の映像がつながっていく。ロケ地は月島周辺と千駄ヶ谷の将棋会館(将棋がテーマの作品なので)付近。2日間で25パターンを撮影したが、その中のいくつかは、作中に登場するシーンに合わせた場所とアングルになっている。実際にはもっと多くのパターンを撮っているそうで、ロケハンが結構大変だったとのこと。
天候がめまぐるしく変化したのでハイライトには注意し、ローコントラスト気味で撮影している。EOSならではの機動性を活かし、スチル用のプレート(板に雲台を取り付けた自作のプレート)を使用したローアングル撮影も行った。当初は頼まれていなかった写真も撮影。スタッフの確認用に現場でテスト撮影して色を作って見せたところ、「これはいい」ということになり、25パターンすべて写真も同時に撮影した。「5D MarkⅡだと、ムービーもスチルもそのままで撮れる。今回は一般読者を多く撮ったけど、装備が軽いので警戒心を持たれず、自然な感じで撮れました」
イオンの「フリースタイル学習机」のCMは、CG素材との合成。EOS MOVIEの素材にCG合成という組み合わせは、今まではあまり例がなかったが、「前もってCG制作の人と相談すれば問題はない」(成神氏)。商品にタレントも絡むため、5D MarkⅡではボケすぎるということで、EOS 7Dを使用。体育館を使用しての撮影だったが、明暗差が大きいため通常のCMに近いライティングを行なっている。
アメリカンホーム保険のCMはキッザニア東京でロケ撮影しているが、撮影が朝5時~6時の1時間しか許されないという厳しい条件。1シーン1テイクしかできないという「ほぼドキュメンタリー」形式。ライティングもできないため、ISO感度を3600まで上げているが、「画面に粒子が出ているけど、それが現場っぽさになった」(成神氏)という効果も。成神氏によれば、現場はかなり暗くて「肉眼でもこんな明るさでは見えなかった」そうだ。モニターアウトで確認をとる時間もなく、プロデューサーのチェックは撮影終了後だったという。
最後は「にほんのうた」プロジェクトで制作した『村祭』(監督・石井英統/唄・香西かおり+仙波清彦)。これは手持ち撮影を多用し、一部はゴム吊りの手法を使って撮影。パイプを渡したところにゴムでカメラを吊るすのだが、カメラが小型軽量だからこそできた手法だ。少ないスタッフで短時間で撮ろうということで、カメラは1台で、成神氏は一人で撮影とVEをこなした。
「撮影にかけられる時間がどんどん短くなっている」(森口氏)という状況にあって、EOS MOVIEは素早いジャッジと作業が求められる撮影で威力を発揮している。成神氏は「フォトグラファーの立場から見ると、何の違和感もなく入っていけるし、ファーストインプレッションで撮れるのがいい。ライティングが少なくて済むので、現場の空気感が壊れない点も魅力。スタッフの数も少なくできるけど、その分、技術は必要になりますね」と述べ、締めくくった。
レポート=編集部・本吉