ブラックマジックポケットシネマカメラ、宇宙に行く


最近メディアにも取り上げられて話題になっている「風船宇宙プロジェクト」
風船を宇宙空間まで飛ばして地球をカメラで撮影するというものだ。
そのカメラとして、小型で階調豊かな動画が撮れるブラックマジックポケットシネマカメラ(Blackmagic Pocket Cinema Camera)が使われている。
そのプロジェクトの撮影について、岩谷圭介氏、仲雷太氏(a.k.a. raitank)を取材した。

(レポート◎ブラックマジックデザイン・荒井幸子)


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▲風船で宇宙空間まで引き上げられたBlackmagic Pocket Cinema Cameraで撮影された地球。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観た岩谷少年は、登場人物の科学者、エメット・ブラウン博士(ドク)のような大人になるという夢を抱いた。成長した少年は、少しでもドクに近づくべく北海道大学の工学部機械工学科に進む。そこは、ロボットやロケット、飛行機、車、その他身の回りにある機械すべてを作る学科だ。
卒業までに、学生としては十分すぎるほどの成果を出したが、彼の憧れるドクに近づけているとは感じられないものだった。そこで卒業を1年伸ばし、自分の夢への足がかりを模索した。そんなときに出会ったのが、バルーンを使った宇宙撮影だった。
海外ニュースサイトで、アメリカの大学生が自作の宇宙カメラで地球を撮影する、という記事を読む。「宇宙」というと巨額の資金をかけ、様々な先進技術を必要とする国家プロジェクトであり、高い技術を持つ先進国しか携わることができないというイメージがあったが、そんな固定観念を覆すものだった。
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記事の内容は、その大学生が街で購入できるものを使って制作した装置をバルーンで高高度まで送り込んだ、ということだけ。詳しい技術的な説明は皆無だった。それでも、岩谷氏が「自分でもやってみたい!」と思うには充分だった。
彼は、そこにドクの姿を見たのだった。
2011年に風船を使用した「風船宇宙」のプロジェクトが開始された。失敗を繰り返し、その失敗から多くのデータを得ながら、改良を重ねていった。2012年には、日本初となる上空30kmからの宇宙撮影に成功し、2014年には確実に宇宙を撮影し、回収できる装置が完成した。
「Blackmagic Pocket Cinema Cameraを知ったのは、ちょうどこの頃です。完成した装置で、安定して撮影できるようになりましたが、映像の画質に不満を感じていました。より美しい宇宙と地球を撮影するために、新しい装置開発をしたいと感じていました。そのとき、とても美しい空撮映像を見て、感動し、Pocket Cinema Cameraの名前を知ったのです」と岩谷氏は語る。
「実は日本の法律上、風船で飛ばすことのできる重量には制限が設けられています。そのため、風船に搭載するカメラは軽量であることが必須でした。その点、Pocket Cinema Cameraは最高でした。スリムでコンパクト、しかも軽いですから」
宇宙撮影を行うためには、風船の上昇時間よりカメラの記録時間が長くなくてはいけなかった。そこで、共通の知り合いを通してこのプロジェクトに参加することになった、グラフィックデザインや映像制作を行う仲雷太氏が、長時間撮影を可能にする周辺機器を揃えた。
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▲左・岩谷圭介氏、右・仲雷太氏。
「撮影装置自体は衝撃吸収用に発砲スチロール製のカプセルに入っており、落下時にはパラシュートが落下速度を落とすとはいえ、インパクト地点で不測の自体回避のため撮影機材は一式1kg以下に抑えなければいけませんでした。レンズには300gのPana Lumix G Vario 7-14mm f/4.0を使い、外部レコーダーやバッテリーも軽量のものを選びました」と、仲氏は説明する。
撮影機材以外の周辺機材は、バルーン、ヘリウムガスボンベ、GPS端末、電子アラーム、パラシュート、発泡スチロール、ラップトップコンピューター、凧糸。これらは、空の世界を撮影し、その後回収するために必要な機材だ。
感度や露出の設定について仲氏は
「事前にDSLRの内蔵インターバルタイマーで撮影して、そのデータのExif情報から逆算して今回の動画撮影設定を導き出しました」と話す。
「ISO800、24fps、露出f/16、シャッターアングル144度、NDフィルターは -4段という設定で白飛びも黒潰れもない素晴らしい映像がとれました」
風船の打ち上げが行われたのは北海道の十勝平野。落下時の安全対策として、単位面積あたりの人口密度が低く、なおかつ、なるべく人の活動時間帯を避けるために早朝に行われた。打ち上げ前に、カメラや外部レコーダーの設定を再確認し、記録を開始。発泡スチロールのカプセルに熱安定化装置を取り付けたカメラとレコーダーを入れ、そのカプセルを凧糸でバルーンに接続した。レンズのクリーニングおよびすべての機材の動作確認を行い、打ち上げ。
バルーンは分速300mで上昇していき、その間も、Pocket Cinema Cameraは撮影し続けた。30分後には高度1000mを超え、85分後には高度28500mの最高点に到達した。バルーンがバーストして降下を開始。90分後にバッテリーが尽き、撮影終了した。そして115分後にパラシュートが展開し、小麦畑に無事着陸した。
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撮影された映像は仲氏によってDaVinci Resolveでカラーコレクションされた。
「『風船宇宙』のグレーディングで心がけたことは、『なるべく作らない』ということです。なにしろ “宇宙の風景” です。それだけでインパクト絶大ですから、僕個人の意図を極力排してナチュラルな色合いにしようと思いました」と言う。
「僕は2.5KのBlackmagic Cinema Cameraが出た時から、ずっとBlackmagicカメラの絵をグレーディングし続けています。RGBのバランスをどう調節すればナチュラルな色味になるかは、すでに熟知していますので、今回行なったグレーディングで出てきた絵は、たぶん肉眼で見てもそう違わないはずだと思っています」
「映像を見て感動した最初のシーンは雲の中に突入した時でした。これまでほとんど真っ白にしてか撮影できていなかった雲が、それぞれの雲が固まっている様子が見て取れたのです。このような景色はそう簡単に見られません。私たちが雲の中から雲をみるというは、飛行機に乗っている時ですが、飛行機は時速数百キロメートルで飛行しているため、自らの周囲の雲の様子を見るのには向きません。風船は時速20キロメートル程度ですから、景色を眺めるのは最適なんです」と岩谷氏は言う。
「さらに、厚い雲を抜けた瞬間に広がる青空、そして細部までわかる雲海、清々しい太陽の光。Pocket Cinema Cameraで撮影した雲の上の世界は感動的なものでした。途中、私の設計ミスでフィルターとレンズの間の空間で結露が生じてしまいましたが、これもまた美しいのです。
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 最高高度に達すると、結露が蒸発し、地球と宇宙が映し出されました。私たちは厚い大気に守られて生きていますが、地球規模で見ると大気は非常に薄く、地球に張り付いている膜のようなものです。風船はこの膜より高いところまで上昇しますので、宇宙と地球が見えるのです。ここから見ると地球と宇宙の輪郭を確認できます。この薄い大気の輪郭は、色合いが微妙でこれまでのカメラでは、バンディングが発生してしまっていました。それが宇宙へと続くグラデーションとして撮影できたのです」
「Pocket Cinema Cameraが重かったら、この宇宙撮影は成功しなかったでしょう。このような素晴らしいカメラを開発したブラックマジックデザインには感謝がつきません。今後もPocket Cinema Cameraを使い、新しい宇宙と地球の表情を撮影し続けていきます」と結んだ。
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(サイトに動画あり)