自治体の創業支援事業をPRするWebムービーを
DJI OsmoとGH4で4K撮影


レポート◎工藤雄司
環境映像などのブルーレイやDVDを発売しているシンフォレストの役員でありながら、同時に新しいビジネスモデルの可能性を追求し、昨年、パラレルキャリアとして個人事業YujiKudo.comを立ち上げた。シェアオフィスKO-TOの一角のブースをオフィスとして借りている。


自治体PR動画

 新宿から中央線で約20分、東京の郊外、多摩・武蔵野エリアに位置する小金井市。市内で創業する人を増やすこととその定着を目的に始まった市の創業支援事業のPR映像を作ることになった。これまで印刷物によるPRは行なわれてきたが、動画を用いるのは初めての試み。私は地元在住で地域に根ざした制作活動も行なっていた関係で、本件にカメラマンとして関わることになった。一口に自治体PR動画といっても目的や手法などいろいろなものがあるが、一つの事例として読者の皆様の何かの参考になればこの上ない。
 今回の映像は武蔵小金井駅と東小金井駅の構内デジタルサイネージで流すほか、ユーチューブにアップし公開するという。これまで行なってきた印刷物でのPRと違い、市内向けというよりも、市外近隣どころか、東京都全域ひいては日本全国に向けて小金井市の創業支援事業をPRできることに期待を寄せていた。シティプロモーションとしての要素もあるという。
 関係者みなで再認識し共有できたのは、きれいにまとめて上手にできました、で終わるよりも、とにかく観てもらわないことには始まらない、という点である。とはいえ、予算的にできることは限られている。

機材選びと内容の検討

 犬猫の動画撮影、特に犬の散歩シーンを撮るのに最適と思い、発売と同時に個人的に手に入れたのがDJIのOsmoである。機材面だけで話題性を少しでも集めるのなら、今はドローンや360度VRだろうが、予算的な問題もあるし、撮影場所がJR中央線の高架下であることなどもある。ワンオペの規模でかつ何か面白い撮り方ができないかな、と思った時に真っ先に浮かんだのがOsmoであった。それを利用してKO-TO内部から近隣店舗までをすべて一筆書き的に主観移動で撮るという発想につながる。そこに一部、インタビュー映像をインサートしていく構成になった。
KO-TO…小金井市が開設した東小金井事業創造センターの通称がKO-TO(コート)。 KO-TOには区切られたシェアオフィスエリアのほかに、フリーアドレスのコワーキングスペースがある
 しかしそれだけではあまりに物足らない。少しでもバズらせたいのなら、もう少し突拍子もないネタを仕込めないのか、皆が考えあぐねる中、ディレクターがその会議スペースの周辺に並ぶ、あるものの名前を口にする。「こきんちゃん」―これは小金井市のイメージキャラクターで、デザインしたのはかの映画監督・宮崎駿さんである。実はスタジオジブリの本社は小金井市内にある。もちろん、宮崎監督に何かを依頼することは難しいが、キャラクターの規定ルールを守れば、今回の映像ならばこきんちゃんのぬいぐるみを活かせるのである。「全カットにこきんちゃんを盛り込む」という話で盛り上がり、長い会議は終わった。

収録の現場


インタビューやFIXのカットはすべてGH4を使用。移動ショットはすべてOsmoを使った。
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▲FIXのカットではGH4を使用。
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▲移動撮影ではOsmoを使用した。
Osmoで一番思案したのはやはり音声収録である。その頃、ビデオサロンに載っていたOsmoの外部マイク特集なども参考にしながらいろいろ試した結果、やはりできる限りマイク自体をOsmo本体からは離したほうが望ましいと感じ、ワイヤレスを使うことにした。
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と言っても、業務用のワイヤレス環境を用意する予算的余裕はないため、通信方式にブルートゥースを用いたソニーのワイヤレスマイクロホンECM-AW4を利用。本機は本体にマイクを内蔵しているほか、ステレオミニ端子のマイク入力を備えているため、状況に応じて本体マイクと、別途用意したオーディオテクニカのモノラルピンマイクAT9904を使い分けた。
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 肝心のマイクの設置場所だが、今回は常に収音したい対象が真正面にあるため、ヘルメットをかぶり、その上に設置。実際には保険とアンビエンス録音目的で、ZOOMのレコーダーH1も同時に回すため、リコーのヘルメットストラップマウント「O−CM1536」を取り付け、そこにワイヤレスマイクとH1を固定した。さらには、保険の保険でZOOMのレコーダーH2も机の下などに、隠しマイク的に設置した。
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技術的なトラブル


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 撮影中、技術的には2つのトラブルが生じた。ひとつはOsmoの熱が原因と思われる想定外の挙動である。Osmoのバッテリーは思いのほか減りが速いというのは、それまでの撮影で把握していたため、当然予備も用意し臨んだが、暖房の入った屋内での撮影時終盤、録画ができないという予測不能な挙動が生じた。少し休憩を設けていただき、電源オフにして冷やした結果、回復。
 その後は屋外、しかも雪が降るほど寒い屋外のため、熱という点においては問題にならず、結果的に救われた。
 その一方、もうひとつのトラブルはその寒さが原因と思われる。モニターで使うiPhoneが突然、電源オフに。バッテリー切れである。用意しておいたモバイルバッテリーをLightningケーブルでiPhoneに接続し、給電しながら撮影を続行。小型のモバイルバッテリーのため、自分のポケットに入れておけるので、Osmoの機動性を失わずに急場をしのぐことができた。
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 機材は常に、実践の状況下で初めて知る独特の現象がある。昔からそういう経験を重ねてきた。どんな機材も理解を深め、使い込んでこそのものだと思っているが、今回も貴重な現象を知ることができた。あくまで、現場を乗り切れたから言えるわけではあるが。
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▲一筆書きの主観映像なので、カットが割れない。ディレクターの穴水奈津子さん(工藤さんの向かって左隣)、出演者と打ち合わせして何度かリハーサルをした後で本番。
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編集と構成

 今回、撮影後の編集はディレクターがファイナルカットプロで行う。撮影はすべて4Kで行なったが、納品仕様はフルHDとなっている。一回目の試写は、クライアントにあたる小金井市商工会産業振興プラン推進室「黄金井の里」で、そこの責任者やKO-TOの責任者、テロップデザインをお願いするデザイナー、音楽をお願いする作曲家の方などが一堂に会し行われた。
 最初のバージョンは「4分40秒」。ほぼ台本に沿った構成になっている。会議で出てきた意見を率直に記すと「何を言いたい映像か分からなかった」「雪のインパクトが強過ぎる」、そして何より一致した意見が「長過ぎる」である。長過ぎる、は編集でどうにでもなるが、メッセージが伝わらないのは大問題である。
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 とにかく早いタイミングである程度腑に落ちる青写真まで到達していないと間に合わないと考え、音楽もテロップも入っていない「4分40秒」バージョンのMOVデータをもらって、使い慣れているエディウスプロに取り込んで「1分51秒」バージョンを作った。結果としては、基本的にはその「1分51秒」バージョンをベースに、一部、短か過ぎると感じたシーンは再び伸ばすという大枠が決まった。
 この原稿を書いている時点では、音楽がどの方向性で落ち着くのか、駅のサイネージで流す15秒バージョンがどうなるのか、すべてが完全に見通せた訳ではない。しかし、一番メインとなるユーチューブ公開用の本編『「満員電車に乗らない」働き方』のゴールは見えた。

まとめ


 個人的な感想としては、今回、オーソドックスに当たり障りなく制作し、形だけきれいにおさめるところに終わらせず、「できる限り再生数を増やしたい、それでいてきちんと伝わるものを作りたい」という点について、関係者皆が前向きに理解を示し続けていただけたことが本当にありがたく、素晴らしいと感じた。
 ただバズらせようというよりも、これでもだいぶ伝えたいことをきちんと伝える部分に比重が置かれた仕上がりだと思うが、やはり少しでも多く方に観てもらえることを願う。
 なお、雪による撮影時の制約や、テンポ感のある編集を重視した関係などで「全カットにこきんちゃん」は実現しなかった。それでも意外なところに仕込まれていたりするので、ぜひ、こきんちゃんが何回登場するのか、探してほしい…。撮影後、急に愛着が深まり、ぬいぐるみをひとつ買ったほど。かわいいですよ。
↓ちなみにこれがこきんちゃん
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◉本レポートは、ビデオサロン2016年4月号のレポートを元に構成しています。