大須賀 淳(スタジオねこやなぎ)
第22回:活用事例「KOJIMA STATION」(KONAMI)編
今月の取材先…「KONAMI」
今回は、東京ミッドタウン内にある株式会社コナミデジタルエンタテインメントの本社にお邪魔しお話を伺った。KOJIMA STATIONの配信は、この本社内から行われている。
今回ご紹介するのは、大手ゲームメーカーKONAMIのゲームデザイナー小島秀夫氏が率いる制作チーム「小島プロダクション」による配信番組「KOJIMA STATION」。小島氏は多くのファンを持つカリスマ的なゲームデザイナーで、筆者も1980年代のMSX2パソコン用にリリースされていた初代「メタルギア」や「スナッチャー」といった、特に小島氏初期のゲームに心踊らされた世代だ。現在のゲーム機に比べればはるかに制限された環境での「演出力」によるゲーム性の創出が強く印象に残っている。そうしたエンターテインメントの遺伝子は動画配信の場面にもしっかり受けつがれており、多くのファンを持つ人気コンテンツとなっている。
現在のゲームは超ハイクオリティな映像と音声が欠かせない。配信が専門ではないとはいえ、最先端で活躍する「プロの仕事」によるコンテンツは、ハイエンドではあるが参考になるはずだ。
小島秀夫氏やスタッフによる、最新ゲームの情報などを現場から映像でいち早く伝える情報番組「KOJIMA STATION」のウェブページ。トップに最新の放送が貼り付けられている(YouTube)。「METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES」の発売に併せた2014年3月の開始以来、毎週木曜日の19時から、基本的に週一ペースで配信され、原稿執筆時点ですでに21回を数えている。配信に加えて、放送のアーカイブもされており、配信時間に間に合わなかったり、過去の見逃した番組もチェックすることができる(ページをスクロールした下)。
http://www.konami.jp/kojima_pro/station/jp/
KOJIMA STATIONの収録配信システム
KOJIMA STATIONのセットはオフィスに常設されているが、カメラや照明などは配信日の午後から担当者がセッティングを行なっているとのこと。時折、セット外にシステムまるごと持ちだされる場合もあり、可搬的な構成で組まれている。
●ローランドのVR-50HDでスイッチング
カメラやパソコンからの複数のソースは、ローランド「VR-50HD」にまとめられている。社内にはSD解像度の旧機種「VR-5」もあり、現在も他の配信で使われている。コンパクトながらマルチフォーマットで多チャンネルの入力が可能な点に加え、業務機としてのハードウェアの信頼性も含めて選択されたとのこと。
●メインカメラはソニーのAX1
メインカメラはソニーの4Kカメラ「FDR-AX1」を使用。配信では現在最高でも720pの解像度だが、将来的に発展した使用の余地も考えてチョイスされたとのこと。買い直しは結局高コストになる場合も多いので、こうした将来を見据えた選定を有効に行いたいところだ。
●小型ペデスタルまで利用
カメラは合計3台で、基本的に1人のカメラ担当者がオペレート。メインカメラはザハトラー製の小型ペデスタルに設置されている。照明は、海外の映像コンテンツによく見られる色合いを目指し、試行錯誤してセットされているそうだ。
●素材出し専用のMac mini
配信システムの横には、配信用のパソコンとは別に素材出し専用のMac miniが置かれ、HDMI経由でVR-50HDに接続されてスライドなどの素材出しに使われている。たとえば社内で余っている数年前のパソコンなどでも、こうした素材出し用途には充分使える場合が多く、安定性も含めて素材出し専用のマシンを置く意味は大きい。
●Skypeを利用して海外中継も
素材出しのMac miniからSkypeの画面を出力してVR-50HD上でスタジオの映像と合成し、海外から同時中継する放送なども試みられている。従来であれば衛星を使って放送局でしか成し得なかったスタイルが、無料のWebサービスを使って実現できるという、まさにこの時代ならではの手法だ。
●映写機や小物が雰囲気を出している
セット内には映写機や大型の照明、フィルムのスプライシング用具など、映画に関するアイテムが配置されている。
音声には別ミキサーを使用している
KOJIMA STATIONでは、ワイヤレス、有線合わせて6本程度のマイクが使用されることもあり、スタジオ内にモニターの音声も流しているので、音声は別途ミキサーで処理された上でVR-50HDにステレオで送信されている。こうしたオペレーションは、社内のサウンドチームの担当者が行なっているとのことだ。
マイクや送出素材の音声は全てアナログミキサーのMackie 1604vzlに集約されてミキシングされている。パソコンのモニターには配信現場には珍しいDAWのAbleton Liveが立ち上がっており、サウンド担当者が自分の慣れたツールでシステム構築しているのがうかがえる。
VR-50HDにはステレオにまとめられた音声が送られるので、オーディオチャンネルは一つしか使われていない。こうした切り分けを行うことで、むしろシステム全体の流れは分かりやすくなる。
「スペシャリスト揃い」の社内人材を活用
1994年に発売された初代PlayStationやセガサターンといった世代のゲーム機からは、3DCGや実写映像などよりゴージャスなビジュアル表現が可能となった。その時代からゲームメーカー内では映像制作のノウハウも蓄積されており、それらのスペシャリストの技が配信でも随所で活かされている。
●社内でCGも作成
コーナー冒頭のアタック映像などは、テレビ番組とも肩を並べるレベルの完成度の高い映像が用意されている。こうした素材は「メリハリ」を付けるのに効果的で、ゲーム制作で培われた演出センスが発揮されているのを感じられる。
●完成度の高い事前収録コーナー
KOJIMA STATIONは全編生配信ではなく、コーナーによっては事前収録されたものを完パケで仕上げて再生している。編集は担当者によりPremiere、EDIUS、Final Cut Pro、After Effectsなど得意・好みのものを使用し、生に比べ数多くのテロップなどを入れて仕上げ、より分かりやすくなるよう配慮している。
バラエティに富んだコンテンツ内容
KOJIMA STATIONの人気の秘密は、実に多彩なプログラム内容にもその一因がある。配信が本業ではないとはいえ、エンターテインメントを生業とするプロ集団だけあって「楽しませる」ことにかける力の入れようには圧倒される。
スタジオでの生トークやゲーム実況から、レポートなどの完パケ映像、映画評などゲームと直接関係のないコーナー、ユーザーとの交流も含め、実にバラエティに富んだ構成となっている。配信開始時刻は毎回決まっているが、番組全体の尺は回によってかなり前後するとのこと。
KOJIMA STATIONの配信体制
KOJIMA STATIONの配信は、出演者を除くと、カメラ兼フロアディレクター、スイッチャー、配信の監視(2名)、ミキサーという5名のスタッフで運用されている。元々は音声のみのPodcastとして2005年にスタートし、そちらも300回以上の配信が行われた人気シリーズで、「ネット配信」という側面ではそれらも大きな蓄積になっていると考えられる。
配信プラットフォームは、YouTube、Ustream、Twitchの3つに同時配信されている。この中でYouTubeのみ解像度が720pで、残りは480pとなっている。現在はYouTubeのアクセスが最も多いとのことで、国内では約半数がスマホからのアクセスだそうだ。アーカイブでの視聴も多く、子供から社会人まで幅広いファンを獲得している。
視聴者は国内にとどまらず、海外からのアクセスも多い。特に、新作の情報発表があるショー関連の回は、日本以外の地域からの視聴が急増する。回によっては、英語の字幕を付けるなどの試みも行われている。
小島秀夫氏よりひとこと
映像でしかできないことを“生”にこだわってやっていきたい
現在はPlayStation4のシェア機能を使うと、ユーザーの皆さんも自分のプレーを世界に向けて発信して他のユーザーとコミュニケーションがとれるようになりました。こうした時代の到来を見越して、僕らは自由度の高いオープンワールドのゲームを創ってきたので、僕ら自身も、ユーザーの皆さんに向けたプレゼンテーションや、コミュニケーションができる場を持ちたかったんです。
以前は、Webラジオの番組をつくってきましたが、映像でしかできないことを“生”にこだわってやりたかったんです。今はパソコンとツールがあれば、どなたでも簡単に映像が創れる時代になりましたが、僕らはエンターテインメントのプロですから、映像のクオリティひとつにしてもプロなりの仕掛けをしないとダメだと思っています。なので、映像の演出やセットなどの環境には気を遣い、かなりの時間と労力をかけています。
ゲームの制作と番組の制作を並行して行うのはかなり大変ではありますが、こうした放送はとても重要だと思っています。なので、放送のペースについては今後検討していきますが、番組自体は続けていきたいと思っています。生放送にもこだわっているので、アーカイブでなく、この番組を生で見るために生活を合わせてもらえるような、そんな魅力的な番組にしていきたいと思います。(株式会社コナミデジタルエンタテインメント エグゼクティブコンテンツオフィサー 小島プロダクション監督)
取材を終えて
KOJIMA STATIONは「社内製」とはいえ、映像や音声の専門家も含むプロのエンタテインメント集団が行なっているという点ではおいそれと真似できるものではない。しかし「自分の専門分野の技術や知識を活かした動画(配信)を作る」という点では、動画活用のストレートな王道とも言えるのだ。画質・音質より重要なそのポイントをぜひしっかり押さえよう!