Webのためのムービーを制作するケースが増えている。
制作スタイルも従来の大規模なチーム制作ではなく、
一人のディレクションで、
演出もレンズ選びもライティングも行い、
モデル、クライアントとのやりとりも行う。
そんな現場では当然、制作ツールも変わってくる。
もともとはフォトグラファーながら、
最近はムービーの仕事も増えてきたというNICK YAMAZAKIさんに、
Webムービー制作現場の機材選び、ワークフローなどをお訊きした。
Web上では動画を中心に見せていくブランドが増えてきた
今回のNICK YAMAZAKIさんの仕事は、オーストラリアのRhythm.(リズム)というサーフィンのアパレルブランドのWebムービーの制作。
Rhythm.のWebサイトでは初めての日本撮影、日本制作のムービーになる。ムービーはRhythm.のブランディングサイトにアップされる。
Rhythm.に限らず特に海外ブランドはムービーを積極的にWeb上で活用している。Web上では動画を中心に見せていくという方向性が強くなっていて、その動画はよりイメージ寄りのムービーが求められている、とNICKさんは言う。動画の画質が上がったことで、モノの質感が充分に表現できるようになり、写真の延長としての動画表現が増えてきたのだ。少し前までは、動画といえば、メイキング、ビハインドシーンのような用途での使われ方が多かったが、ここ1年、NICKさんに限っては「動画だけ」という依頼も増え、それがメインになりつつある。
今回のムービーは日本のプロサーファーがRhythm.のアンバサダーになり、それに合わせて作られるもの。
サーフィンシーンの撮影はスタジオでの撮影とは違い、天候や波に大きく左右される。同じ波はひとつもないので、それを逃さずに天気状況を見ながら撮影日を選び、前日に「明日はいい波になりそうだ」という連絡を受けると、千葉の海に向かう。ほぼぶっつけ本番と言ってよい。
海岸でのサーフィン撮影に加えて、雰囲気のある彼のカフェでも撮影したい。カフェで広げても邪魔にならず、現場でも相手と映像を確認しながら撮影していきたい。今回はロケ現場に持ち込む機材を極力減らし、プレビューと編集ができる、マイクロソフトの Surface Book をチョイスした。
フォーカス性能を重視してソニーαシステムを選ぶ
撮影スタッフはNICK YAMAZAKIさんとアシスタントのみ。
まさにフォトグラファー的な少人数体制だ。
こういったケースでは機材はフォーカス性能含めて何よりも機動力が求められる。今回NICK さんが撮影機材として選んだのは、ソニーαのシステム。まずオートフォーカスの速さと精確さを優先してα6300をセレクトした。そしてもう一台はα7S II。両機ともコンパクトであり、フォーカスがサクサクっと合う。振り返ってみて「これは凄かった」と高く評価する。しかも4KだけでなくHDの120pハイスピードが撮れるのもポイントだ。
そしてレンズはFE 70-300mm F4.5-5.6 G OSS。撮影現場は千葉の九十九里浜の海岸だ。ハワイなど海外のサーフィンポイントでは600mmくらいの望遠が欲しくなることも多いが、千葉の海では300㎜くらいがちょうどよい。α6300はAPS-Cセンサー(スーパー35mm)で望遠側にシフトするので、焦点距離としては充分である。
そしてメイキングの寄りのカットでは90mmマクロのFE90mm F2.8 Macro G OSSも使用した。
撮影素材は、4K/24p、4K/30p、フルHDの120pと様々。ロングボードのゆったりしたサーフィンシーンでは滑らかな動きを出すために120pが必須である。
屋外の海岸の明るさでは液晶パネルはほぼ見えないので、EVFが使えるのもありがたかったと言う。
ディレクションの重要性
今回はブランディングの映像なのでアートディレクター的なセンスが重要になる。Rythm.のブランディングサイトには、多くのムービーがアップされているが、どれもセンスが良く、そのイメージは共有したい。
NICKさんはフォトグラファーとしての仕事では、現場でAdobe Photoshopを開き、クライアントにイメージを見せることも多い。
NICKさん自身、自分の経歴を振り返ってみると、フォトグラファーになるきっかけは、“デジタルツールが使えるようになったこと”が大きかったと言う。
仕事のスタートは制作会社でのカメラマンのブッキング。10代の頃にカリフォルニアに英語とサーフィンで留学した。大学を卒業してモデルエージェントも兼ねる制作会社に入社。海外撮影も多く、毎日のように世界から来るフォトグラファーの撮影を組んでいた。
日本からアートディレクターが来て撮影することもあったが、そこで通訳しているうちに、自分でもディレクションの能力があればディレクターやフォトグラファーとして仕事ができるのではないかと気が付いた。
これからはデジタルの時代になる。
そこでAdobe Photoshopを自分で勉強し始め、その場でロゴを入れたりしてクライアントにプレゼンすることから始めた。大御所のフォトグラファーはメールを使うくらい程度であり、デジタルにはそれほど強くない。ディレクションのセンスがあり、デジタルツールが使えれば、これからのフォトグラファーとしてやっていけるのではないかと思った。
デジタルツールの後押しがあれば、新しい世代が世に出てくることができる。
Surface Bookだけで完結できる
今回、NICKさんが現場に持っていったのは、マイクロソフトのSurface Bookだ。Surface Bookはモバイルに最適なサイズながら、パワフルなWindowsノートPC。キーボード部に独立型グラフィックチップを搭載することで、データ処理量の多い映像編集のようなクリエイティブな作業にも充分使用できる。
液晶ディスプレイの解像度も3000×2000であり、フルHDを余裕でカバーするだけでなく、色の再現性も高い。ポイントはAdobe Premiere Pro CCのプレビューを快適に行えるNVIDIA GeForce グラフィックスプロセッサを積んでいること。
これで定番の編集ソフトAdobe Premiere Pro CCを現場で使うことができる。
Adobe Premiere Pro CCはWindows版もMac版もあり、アプリの中に入ってしまえば、WindowsでもMacでもそれほど大きな違いはない。普段Macを使っている人でも戸惑うことはないだろう。NICKさんは動画編集では以前はFinal Cut Proを使っていたので、最初のうちはPremiere Proの操作に慣れなかったが、バージョンが上がるたびに分かりやすくなってきているので、これから始める人は入りやすいのではないかと言う。
撮影したデータはSDカードスロットからPremiere Proに直接読み込むこともできるし、デスクトップにそのままコピーして、カードはさらにカメラに戻して撮影を続けることもできる。今回のWebムービーの場合は尺も短いので、今撮ったものをカードから直接再生して、みんなで見て確認することができる。それほど分量はないので、本体のデスクトップにコピーして作業でき、バックアップのために後でUSB HDDにコピーすればよい。
ファイルは4Kの素材で24p、30p、HDの120pが混在している。混在していても問題なく編集ができた。自分の頭の中で波の動きを想像しながら、このシーンは24pで撮影しようと判断しながらフレームレートを決め、編集段階で50%のスローをかけた素材もあったが、思った通り、雰囲気のいいスローになってくれた。
実際にSurface Bookを使ってみていい意味で驚いたのは、付属のSurfaceペンによる使い勝手の良さだった。
編集作業は都内のスタジオに戻ってきてから行なったが、おおまかな編集の繋ぎはペン操作でできてしまうし、ペンのタッチが繊細なので細かい作業もすることができる。
これは想像した以上だった。ちょっと違う感覚が新鮮だった。よくできているなと思う。
ペン操作は、いままでにない“感触”で、ひじょうに柔らかくて繊細。たとえばレタッチ作業などは、ペンからの強弱、ブラシの流れなどが的確に伝わるので、自分としてはしっくりきたと言う。
通常の編集はノートPCスタイルでできるし、ペンを使うような作業では、キーボードを裏返して接続するキャンバスモードにするとよい。使うシーンに応じてスタイルを変えられる多様性が気に入った。
Rhythm_Japan from NICK YAMAZAKI on Vimeo.
今回のRhythm (サーフ・アパレル)ムービーのポイントはオーディエンスが見ていて“サーフィンの気持ちいい部分”が伝わるように重点を置きイメージ寄りに制作した。
従来のストーリーがあるようなムービーは、もともと映像をやってきた人のほうがノウハウを持っているが、Webのムービーはストーリーよりはイメージの積み重ねで見せていくような表現が向いている。そういったムービーにはフォトグラファー的なセンスが、より求められるのかもしれない。
そのための制作ツールは少人数スタッフ制作に相応しく、できるだけコンパクトであり、迅速に作業できるというのがありがたい。Surface Bookのようなツールは、コンパクトでありながらパワフル、そしてコストパフォーマンスが高い。まさに最近急速に盛り上がっているウェブ動画制作のための最強のツールだろう。
NICK YAMAZAKI
PROFILE
パリ、ニューヨークでプロデューサーとして活動後、フォトグラファーに転身。プロダクション会社F shoot production代表。8月から代官山マンサードスタジオと業務提携スタート。海外のクリエーターも参加するリトルプレスLINC Magazineの発行も手がける。そのリトルプレスがきっかけで国を超えたコラボレーションも始まっている。スチルは雑誌のような紙媒体、ムービーはWebサイトという、その特性を活かした仕事を積極的に提案している。
Surface Book
・サイズ:約232.1 mm x 312.3 mm x 22.8.0 mm(最薄部 13.0mm)
・重量:約1,579kg (外部GPU搭載モデル)
・CPU:第 6 世代 Intel® Core™ i5/i7
・記憶域:128GB/256GB/512GB/1TB
・メモリ:8GB/16GB
・ディスプレイ:3000 x 2000 (267PPI) 13.5インチ PixelSense™ ディスプレイ
・バッテリー駆動:動画再生最大約12時間
・参考価格(税別):¥185,800~
Surface Book について詳しくはこちら。
https://www.microsoft.com/ja-jp/atlife/campaign/surfacebook/