本内容は、ビデオサロン2009年1月号(12月19日発売)のために、12月1日、キヤノン本社で行なった取材のインタビュー形式版である。記事は、本誌を参照してほしい。聞き手は、本誌筆者の長谷川教通氏と編集部、答えていただいたのは、キヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部カメラ開発センター副所長の原田義仁氏と、同カメラ事業部カメラ商品企画部部長の前野浩氏のお二人である。
▲カメラ開発センター副所長の原田氏(右)とカメラ商品企画部部長の前野氏。
予想もしなかった映画関係者からの反応
長谷川 11月末にEOS 5D MarkⅡが発売されましたけど、なにかと話題の多いカメラですね。今まで、HD動画関連の取材というのは?
前野 カメラ雑誌の取材の中で、動画機能に触れるということはありましたけど、動画専門誌からの取材というのはないですね。
編集部 でも、発表されてから、HD動画に対する反応というのはかなりあったのではないですか?
前野 そうですね。想像以上にありましたね。
編集部 ただ、プレスリリースなどでは、あまりHD動画のことは前面に打ち出していないですね。
前野 はい。基本は静止画のカメラですから。静止画のカメラとして2110万画素のCMOSを採用していますし、5Dのマーク2という位置づけですから。
長谷川 動画については、どういった方面からの反応が多いんですか?
前野 やはり映画関係ですね。暗いシーンで、シャロー(被写界深度の浅い)な映像を撮りたいというニーズがある方々だと思います。
原田 そこは予想もしない世界だったので。
編集部 え、そうなんですか? でも、このカメラの発表日には、アメリカのほうで、ショートムービー風の作例が動画でアップされましたよね。ということは、最初からそういう市場を予想されていたということではないのですか?
原田 いや。開発の段階では、まったく予測していなかったですね。
天体撮影用から始まったライブビュー機能。その延長にHD動画撮影がある
編集部 では、今回のEOS 5D MarkⅡにHD動画機能を入れようという発想はどういうところから始まったのですか?
原田 コンパクトカメラにはいまや動画撮影機能はほとんどついています。コンパクトカメラにできるのに、一眼レフカメラでどうして動画が撮れないのかということを聞かれたときに、一眼レフにはミラーがあってね、という原理的な話をしていたのですが、その原理的にできないことを解決するのが技術です。まずはセンサーの映像をスルーで見られないかというところからスタートしました。その技術開発と市場の要望がマッチングしたのが、EOS 20Daという天体撮影用のモデルだったんです。天体望遠鏡に装着して、夜の星の点像のピントを合わせるために、センサーの映像を直接見たいという要望がありました。
前野 もともとキヤノンのデジタルカメラはノイズが少ないということで、天文関係の方には人気があったんです。
原田 その中で、こういう機能が欲しいね、ということで、センサーの映像をスルーで見せるというライブビューがスタートしたんです。それができれば自然の流れとして、それを記録したら、ということになります。
前野 20Daというのは、2005年の2月の発売でした。
原田 それがライブビューのスタートですが、2006年は出していないんです。2007年からライブビューを全面展開し始めました。2年間続ければ次はその動画を記録してしまえばいいじゃない、という流れになります。
編集部 なるほど、技術的にはそういう流れなんですね。ただ、現在、コンパクトカメラも含めてデジタルカメラの動画撮影機能がすごく流行っているかというと、必ずしもそうでもないですね。
前野 たしかにそうですが、動画機能のないモデルを出すと、市場からは受け入れられにくいという状況はあります。やっぱり機能のひとつとして動画撮影は求められているという認識があります。全員に使われているわけではないんでしょうが、コンパクトなタイプであれば、作品を作るというよりは、メモ的な使われ方をされている人は多いと思います。また子どもの運動会では、10倍ズームレンズがついたモデルであれば、わりと使っていらっしゃる方も多いようです。
原田 動画のほうが臨場感を伝えやすいということもありますし。あとは記録メディアが安くなってきたということも動画機能が受け入れられる背景にあるでしょう。
デジタル一眼レフのHD動画。その使用シーンをどう想定しているのか。
編集部 ただ、一眼レフに動画機能を入れるとすると、メモ的なものか、これで作品を撮るのか、商品コンセプトとして難しいのではないですか? たとえメインは静止画だとしても。
前野 難しい質問ですね(笑)。あくまで今回のEOS 5D MarkⅡは静止画がメインのカメラなんです。弊社としても、ビデオカメラを出しています。そちらは動画撮影に必要な機能、音声ですとか、ズームですとか、過不足なく搭載しています。それをEOS 5D MarkⅡに実装するというつもりはありません。どっちの機能を優先するかと言われれば、静止画のほうを優先したいと思っていましたので。従いまして、動画の操作性とか、機能などは、ある程度限定的にならざるをないと思っています。
長谷川 ただ、今のところは限定的なところがあるにしても、ユーザーからの予想しなかった反応があるとすると、一眼レフに動画機能を搭載するということが、別の意味をもってきませんか。もっとも、それは市場に出してみて分かった、ということですから、このモデルで改善するわけにはいきませんが。
原田 今回は「とりあえず入っている」というレベルなんです。露出制御もプログラムAEでしか使えません。そういうことに対して、もう少し作画意図を出していきたいという声が来ていることは確かです。それは今後の製品開発にフィードバックしていかなければならないと感じています。
前野 まだ発売して数日ですから、我々のところに入ってきている声というのは、9月、10月にお貸し出しをしたプロの映像作家の声がほとんどなんですね。本当のユーザーの声というのはこれからだと思っています。その声も含めて今後の仕様を考えていきたいですね。
原田 正直に言いまして、今の動画機能は、AFにしても、「言い訳付き」なんですね。そういった「言い訳」部分は、今後、改善していかなければならないということは、これまでの反応で充分に認識しております。また、ソフトウェアで対処できる部分もあるでしょうし。そういったレベルのものは、エンジニアとして粛々と対処していくことになるでしょう。あとはデジタル一眼の動画というマーケットがどれくらいあるのかというのは、分からないんですよ。
ハイアマチュア向けの製品が存在しないビデオカメラ市場
長谷川 ホームビデオの市場はたしかに頭打ちになっていますし、本体の価格としても、少しずつ下がっています。たとえば御社のHF11などはあれだけの高機能で高画質なのに、10万円程度で買えてしまう。いくら技術を投入してもそれでは儲かりませんよね。では、EOS 5D MarkⅡのような、30万円、40万円という価格帯の市場があるのかというとたしかに疑問ですね。ニーズはあるだろうけれど、数はそんなに多くないのかもしれないし、必要な機能の見極めも難しい。おそらくHF11のレンズを少し良くする、くらいしかできないかもしれませんね。一方で、50万円から100万円近くの業務用カメラはありますが、その間が作れない状況です。ハイアマチュア向けの市場はなんとかならないのだろうか、という思いはありますね。
編集部 そういうときに出てきた「動画カメラ」がEOD 5D MarkⅡだと思うんです。まさにその抜けているゾーンを埋めて、新しい市場を作り出してくれるものではないか、という期待があります。
というのも、動画に興味のある潜在層というのがあると思うんです。現在の家庭用ビデオカメラの場合は、たとえHDになっても、どうしても被写界深度も深くて、「味」がない。本体サイズ優先で、レンズも小型化しなければならない。虹彩絞りすら採用されていないのですから、ボケ味という言葉も無縁です。もちろんXL H1SやG1Sのクラスは別ですが。コンパクトカメラでは満足できないという層も必ずあるはずです。ビデオカメラというマーケットだけで製品を出すとしたら、やはりH1Sクラスになってしまうか、子育て層向けのコンパクトカメラになってしまうと思います。でも静止画という大きいマーケットをベースにしていれば、同程度以上の性能のものをかなり安く動画ユーザーは手に入れることができるのではないか、という期待ですね。
すべてはセンサーのサイズの大きさに帰結する
長谷川 単なる子どもの成長記録ではなく、趣味の映像といったときに、今の動画用の小さい撮像素子のものではなく、ダイナミックレンジの広い大判の撮像素子を求めるニーズがあるのではないかと思います。
原田 たしかにEOS 5D MarkⅡのHD動画の魅力のすべては、大きいサイズのセンサーに帰結するんだと思います。シネマ関係の方が興味を示されるのもそうです。現在主流のビデオカメラとの差別化はここにあります。それは静止画でもまったく同じことで、一眼レフのデジタルカメラをやるときも、コンパクトカメラとの差別化はどこなのと言われたときに、結局は「センサーの大きさ」なんですね。大きなサイズのセンサーがあれば、暗いところも強くなるし、シャローな画が撮れる。それは動画でも同じなのかなと思います。
編集部 コンパクトデジタルカメラのHD動画も検証してみたんですが、EOS 5D MarkⅡとはまったくレベルが違うんですね。コンパクトカメラのHD動画であれば、ビデオカメラ陣営はそれほど脅威に感じないでしょうし、ビデオファンが評価できるものではないと、正直思いました。ところがEOS 5D MarkⅡのHD動画は荒削りだけど、桁が違う。つまり、センサーのサイズと性能がすべてなんだということが、はっきり分かりました。
長谷川 今までのビデオカメラとはまったく別物の絵が出てますよね。細かい部分で、指摘したいところはたくさんありますが、基本的なポテンシャル、特にダイナミックレンジからくるパワーが圧倒的。これに多種多様なレンズが持つ表現力が加わると、可能性はさらに高まる。これをベースに、新しい市場が生まれれば、おもしろいという気がします。
HD動画を実現した技術ポイントとは?
編集部 今回のHD動画を実現した技術ポイントを整理したいのですが、ひとつは新開発の2110万画素のCMOSセンサー、そしてDIGIC 4にライブビュー。
原田 さらにポイントとしては、動画コーデックですね。これまでのモーションJPEGだったので、多少厳しいところがありましたが、それをMPEG4 AVC/H.264に変更しました。
編集部 H.264に変更した理由は?
原田 モーションJPEGは、スチル系の技術です。それを動画圧縮用のコーデックを選ぶとすると、当初はMPEG4にしようかという話もあったのですが、もうちょっと画質と効率を考えて、それよりはMPEG4 AVC/H.264のほうがいいだろうということになりました。
編集部 これは40MbpsのCBR?
前野 それは残念ながらお答えできません。
原田 AVCHDのように24Mbpsという制限はないので、CFカードに書き込める範囲で自由に設定しています。被写体によっても変わります。もともとデジタルカメラの画像というのは、被写体によってデータ量が変化するんです。そこは再生機を考慮して制限のあるビデオの世界とは違う発想です。
編集部 4GBで12分という制限があるのは?
前野 それは単純にファイルフォーマットの制約ですね。
編集部 発熱があるから、それで強制的にストップしているということではないんですね。
前野 はい。
編集部 このCMOSからのフルHD動画の作り方は? いったん全画素を読み出して、そこから1920×1080を作り出すということをやっているのですか?
原田 とてもそれはできないですね。静止画としても1秒4コマくらいしかできないんですね。フルHDの2Mサイズを読み出すとすると、10分の1くらいですよね。部分的に加算したり、部分的にまびいたりして、リサイズすることで、1秒間30コマを読み出しています。
長谷川 読み出す面積としては、左右はセンサーいっぱいで上下は切り捨てているわけですよね。
原田 そうですね。
長谷川 処理速度が上がれば、もっと画質はよくなる?
原田 いや。回路の処理速度というよりも、もともとが静止画用のCMOSですから、動画の読み出しまではそんなに考慮されていないんです。動画のことを考えるなら、根本的にCMOSの設計を見直す必要があるでしょうね。
長谷川 もし、動画のことを考慮して全画素を60フレーム読み出せるような仕様にしたら、静止画に悪影響はあるんですか?
原田 そういう回路が入れば、スチルのほうに影響がくる可能性はありますね。ただ、そこは技術で影響のないようにしていくと思います。
長谷川 この先をみたら、静止画と動画の両方を考えたCMOSの開発の方向もあるということですね。
原田 技術的には可能です。
▲フルサイズのCMOSセンサー。動画カメラとしては、放送用カメラやシネカメラでもあり得ない巨大サイズだ。
動画用のプログラムAEの制御
編集部 露出制御は基本的にプロラグラムAEですが、かなり絞り込まれるという印象があるのですが。
前野 日中の屋外ではそういう傾向はありますね。
原田 静止画用のライブビューモードと動画モードは考え方を変えていまして、ライブビューはスチルを撮るための手段なんで、ISO感度にしても、スチルで設定したものを流用していて、「露出シミュレーション」という位置づけなんです。動画モードは、撮った映像がスムーズに見えるのが最優先というのがあります。30フレームのプログレッシブなので、できるだけパラパラ感がないように、あまり露光時間、つまり電子シャッターですね、これが高速側にいかないようにという意図があります。センサーが高感度ですから、これ以上明るさを落とせないということになれば、どうしても絞りは絞り気味になってしまいます。
編集部 屋外ではCMOSの感度が高すぎるんですね。ということはNDフィルターを入れるしかない。
原田 日中でEV15くらいまでいくと、最終絞りまでいってしまうんじゃないですかね。センサーを低感度にしたいんですが、手がないんですよ。これまで動画のサンプルが何本もWebにアップされていますが、雰囲気が出ているいいシーンというのは大概夜のシーンなんです。それは絞りが開くし、そもそもセンサーの感度が高いから、S/Nがいいし。だから特に夜のシーンで真価を発揮できるんです。
前野 映画なんかでは、どんどんNDフィルターを活用していただければと思います。逆に感度を上げることはユーザー側では難しいわけですから。
編集部 電子シャッターの設定はどうなっているんですか?
原田 基本的にEV15くらいの明るさまでであれば、1/30秒ですね。あとはどんどん高速シャッター、たとえば1/8000秒くらいまで上がります。ISO感度はその時点で一番下、ISO100相当になっていますから、それしか露出の調整方法はないわけです。
編集部 AFは動画撮影中は効かないですね。
原田 AFボタンを押せば効きます。もともとライブビュー中もボタンを押せば効くというAFなんです。動画記録中も押している間だけ、コントラストAFが作動します。
前野 ただ、ワンショットといういい方をしていまして、連続的に効くものではありません。
編集部 クイックモードにしても一瞬ブラックアウトしますし、ライブモードでも、押すと一度絞ってフォーカスを合わせるようで、大きく露出や画角が変わるので、基本的に動画撮影中は使用できませんよね。
前野 そうですね。
長谷川 ビデオカメラのようにAFを合わせ続けるということは技術的に可能なんですか?
原田 可能ではありますが、コンパクトカメラほど楽ではないです。センサーが大きい分、どうしてもシャローになりますから。たとえば人の顔を検知しようにも、ぼけていると顔かどうかも認識もできませんから。ただ、難しくても今後やらざるを得ないでしょうね。
編集部 逆にMF時のピント合わせは、5倍拡大、10倍拡大という機能がありますが、動画撮影では5倍でも充分すぎるほどで、オーバースペックなくらいですね。
前野 スチルではそれくらいの機能が求められていますので。ライブビューモードで10倍拡大してきちんと合わせてからシャッターを切るという使い方をされますから。
スチルカメラとビデオカメラの市場はどうなる?
新しいジャンルの動画カメラの誕生なのか?
編集部 今回、HD動画機能を採用したカメラを2機種発売して、ビデオカメラの市場にも影響を与えるのではという意識はありますか?
前野 それはあまりありません。やっぱり撮影機は、目的にあった形をしていることも重要だと思います。もちろん、「ついでに撮る動画」というレベルもあるだろうということで、コンパクトカメラには動画撮影機能が入っていますが、少しはビデオカメラの市場を奪っているかもしれない。ただ、ビデオカメラのほうも、静止画も撮れて「ダブルOK」という製品が出てきていますから、その部分で静止画の市場を奪っているという事実もあるだろうと思います。両方からアプローチはあるけど、結局、どっちをメインで撮りたいのか、ということで、製品は分かれると思います。餅は餅屋じゃないですけど、今のビデオカメラの良さというのも、あると思うんです。
ただ、EOS 5D MarkⅡがこれほどまでに話題になってきているのは、これまでのお話にあったように、センサーのサイズが違うと、画が違うよねということ。実は映画のなかでしか見たことがないような映像がこんなデジタル一眼レフカメラ撮れるのかという驚きだと思うんですね。そこに関しては、新しいジャンルだと思うんです。
この映像は現在の業務用ビデオカメラでも撮れないものですから、共存していけると思います。もしビデオカメラの市場をとろうと思ったら、だんだん、従来のビデオカメラの格好になっていくと思いますよ。それでは今度は静止画が撮りにくいカメラを作ることになる。それは我々が望むところでは、ない。
編集部 わたしもこのEOS 5D MarkⅡは新しいジャンルの動画カメラだと捉えたいと思っています。ビデオカメラに代わるものではないと。そうでないと市場も広がっていかないし、趣味としてもおもしろくない。
このカメラで新しい文化が流行るといいなと思っています。
たとえば今、WEB動画のハイビジョン化が急速に進んでいますが、WEBにアップするとしたら、従来のビデオカメラではなくて、プログレッシブで撮れるほうがマッチする。プログレッシブでしか撮れないことが逆にメリットになります。
前野 撮り方から公開の仕方まで、動画の楽しみ方が変わってくるかもしれませんね。
写真の趣味の領域では、「風景」というのはひとつの大きいジャンルですが、一方ビデオで「風景」というのはあまり大きい領域じゃない。どうしてかなと思うと、たぶん、プロが作る風景映像というのは、NHKとかBBCでしか撮れないレベルになっているんですよ。つまり画質というだけでなく、クレーンや高速度カメラを利用して、とてもアマチュアが真似できない映像になっているんですね。ふつう我々が使っているホームビデオって、表現としてはパンニングとズーミングくらしかできない。ところがNHKのテレビ映像は、カメラ自体が動くじゃないですか? とてもそこまでは真似ができない。しかし、どこか風景を撮りにいったときに、前景のもみじの葉から、奥の湖と山の風景にピントを送っていくというのが、このカメラであれば、それなりにできる。静止画の写真の世界というのは、手前のもみじに合わせるのもひとつの写真だし、奥の風景に合わせるのも写真。ところが今のビデオだと全部にピントがあったものしか撮りにくい。ところが被写界深度が浅いからピントの位置を生かした映像表現ができる。もっとも実際NDフィルターを使わなければならないでしょうが、一応工夫すればできる。
今まで一般ユーザーができる範囲としては、パンとズーミングくらいしかなかったのが、そこにフォーカス送りも加わってくると、一歩プロの表現に近づけるのではないかと思います。
2009年はデジタル一眼レフのHD動画がブームになる?
長谷川 デジタル一眼レフの動画機能というのは、ニコンもやりましたし、2009年はパナソニックもやってきますから、ひとつのジャンルとして確立するかもしれませんね。
原田 実はそれほどコストをかけなくて、できるんですね。ですから参入はしやすいと思います。あとはAFとかズームという部分をどれくらいやるかというのが、難しいんです。
長谷川 パナソニックなどはコーデックはAVCHDでやる方向のようですが、そのあたりキヤノンとしてはどうお考えですか?
原田 うちとしてはそこは疑問ですね。AVCHDで、しかもプログレッシブじゃなくて、インターレースということになると、一コマ抜き出そうというときに不利になります。静止画ベースのカメラとしては、プログレッシブしか考えにくい。AVCHDは1080で24pはあっても、30pとか60pという規格はない。あと、AVCHDの制限である24Mbps以下というのは果たしていいのかという思いはあります。デジタル一眼レフの大きなセンサーから得た情報から作った207万画素の映像を圧縮するのに、それでは足りないのではないかという気持ちがあります。
カメラというのは入力装置なんですね。ソースをそんなに落とす必要はないんじゃないでしょうか。できるだけ上のレートで撮っておいて、必要に応じて落とせばいいんですから。
編集部 そうなんですよ。すばらしい意見です。
長谷川 それは、録音でも録画でも、記録するものはみんなそうです。運用性ばかり考えて落とす必要はないんです。そうしないと、いいオリジナルの素材は残らない。パッケージ側はしょっちゅう変わるんですから。いっそのこと、2000万画素の60pの動画が残ればいいんですよ。
原田 そうしたらハードディスクをカメラの横につけなければなりませんね(笑)。
長谷川 パネルのほうは、もう4Kの液晶があるんですから、これからフラットディスプレイは、フルHDから4K、そして8Kの世界にいくと思います。あっという間に全部フルHDになってしまったんですから、あとはやることがない。すぐに4Kの時代になりますよ。
編集部 そうなると、動画はともかくとして、デジタル一眼レフの静止画を見せるディスプレイとしてかなり魅力的ですね。
前野 そうですね。今のフルHDパネル程度ではもったいないですからね。
異業種どうしがこれからどう融合していくのか
編集部 冒頭に映画関係者からの反応が大きかったということお話がありましたが、30pではなくて、24pにしてほしいという声は当然ありますよね。
原田 そうですね。それはできなくないんですが、CMOSの場合は、ローリングシャッター現象で、パンニングなどで像が歪むということがありますから、30pで読み込んだり、60pで読み込んで24pに落としていくという方向でしょうね。技術的には。
編集部 さらに60pや120p駆動で読み込んで、24p再生すれば、美しいスローモーション映像が得られますが、そういったいわゆるバリアブルフレームレート撮影も実現してほしいですね。
原田 30pというのは、昔からコンパクトデジタルカメラが30pでやってきましたから、その流れなんですね。24pと言われたときは、我々もびっくりしました。そういう世界もあるのかと。
前野 ヨーロッパでは25pが欲しいと言われていますしね。
長谷川 そこをやっていくとなると、映画関係のほうにシフトするということですから、また厳しい世界ですよね。
前野 そうですね。次はこれを、というリクエストがどんどん来るでしょうからね。
原田 ただ、デジタル一眼レフのスタイルをかえてまで実現することはありません。
編集部 このデジタル一眼レフのHD動画に期待している人たちは、このカメラが、いわゆる「ビデオカメラ」に進化することを望んでいるわけではないと思うんです。今回インターBEEに出展されましたけど、機能的に満足がいかない部分を詰問する人はほとんどいなくて、応援するような、暖かい気持ちで触っていた人が多かったように思います。現状、これで撮れるものを撮ってみようというスタンスだと思います。
前野 キヤノンとしては、インターBEEに毎年出展していますが、我々としては異業種なんですね。
原田 そういう意味では、言葉が通じないということがあるんです(笑)。実はフィルムカメラからデジタルカメラに移ったときもそういうことはありました。かつて印刷屋さんから、このカメラは何dpiですか、と聞かれたことがあるんです。彼らにしてみると、スキャナーの感覚なんですね。動画の領域に入っても、同じようなことはあります。
編集部 たとえばこのCMOSですが、写真業界では明るさではどういうスペックがあるんですか。ビデオであれば、家庭用ビデオカメラは最低被写体照度、放送用カメラであれば、2000lxでFがいくつというスペックがあるのですが。
前野 EVという単位ですね。
原田 写真の人が、ゲインをISO感度で言うのに対して、ビデオはゲインで何dBといいますから、それ以外にも用語の違いはたくさんあります。
前野 そのあたりもすり合わせていく必要はあると思います。
原田 10年以上前にデジタルカメラを始めたときに、部署内で用語の違いをそろえるのが大変だったんです。ビデオ出身者、フィルムカメラ出身者など様々ですから。最短撮影距離にしても、静止画の場合は、フィルム面からの距離ですが、動画の場合は、レンズの先端からの距離ですから、そこでも話が合わなかったりします。ただ、コンパクトカメラはレンズ先端から、というのが多いんですよ。生まれ育ちが違うと、用語が違います。
長谷川 デジタルカメラがスタートしたときに、異業種が融合して新しい市場が生まれたように、このデジタル動画の世界も、ビデオでもスチルでも、映画でもない、新しい世界に発展するといいですね。レンズもビデオも、スチルカメラもよく分かっているキヤノンだからこそできる展開を期待しています。
編集部 本日はどうもありがとうございました。
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