サイバーエージェントとテレビ朝日が共同出資で設立したAbemaTVが好調だ。AbemaTVはオリジナルの生番組を配信するチャンネル「AbemaSPECIAL」や、テレビ朝日報道局が制作する「AbemaNews」をはじめ、ニュース、スポーツ、アニメ、バラエティ、ドキュメンタリーなどおよそ30の専門チャンネルをパソコンやスマートフォンの専用アプリで無料視聴できるインターネットテレビ局。アプリダウンロード数は4月11日の本開局から8月21日までに700万ダウンロードを記録している。
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▲各チャンネルの番組はテレビのように時系列で番組がストリーミング配信され、月額960円のプレミアムプランに加入すれば見逃した番組もオンデマンドで視聴できる。

AbemaTV社内には、6つのスタジオが構築されており、自社制作の番組を中心に24時間体制で各番組の収録・配信が行われている。AbemaTVの開局が2016年4月11日。実際にスタジオ開発に着手したのは2016年1月だという。たった2~3ヶ月の間に6つのスタジオを持つ放送局を作ってしまったというのだから驚きだ。

内部には6つの生放送対応スタジオを完備

【メインスタジオ】
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メインスタジオはテレビスタジオさながらの仕様で構築された白ホリの大型スタジオ。メインスタジオの照明はテレビ朝日のスタジオと全く同じものを使用している。すべてLEDなので熱くならない。
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メインスタジオのカメラはソニーPXW-X320が4台。三脚はザハトラーENG2CF。雲台はビデオ18S1。グランドスプレッダーはSP100。これらにドリーSを取り付けて可動式カメラになっている。ズームリモコンはプロテックのAS-1S、ビューファインダーはHDF-700VSKを組み合わせて使用。
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写真左はリーベックのジブクレーンSWIFT JIBに搭載されたソニーPWM-300K2。ワイドコンバーターはフジノンWCV-X85を装着している。クレーンの手元にはビューファインダーを取り付けて、映像を確認しながら、リモート電動雲台REMO30でパン・チルト操作ができる他、フォーカスリモートコントローラーFR-S10できめ細かなフォーカス操作にも対応できる。写真右は隣接する倉庫に収納された高所作業車。スタジオの照明等の調整に使用する。

【スタジオ1】
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スタジオ1はラジオ的な番組向けの配信スタジオ。カフボックスも用意されている他、スタジオ内にはDJブースも設けられていた。
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▲DJブース

【スタジオ2】
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麻雀番組専用の配信スタジオ。全自動卓が常設され、撮影はパナソニックのリモートカメラAW-HE70SKを使用し、天吊りを含む7台体制で収録。制御の信号と電源をLANケーブルで送っている。取材の時はセットが組まれていたが、セットがない麻雀番組の場合には、副調整室とスタジオのガラスの写り込みで、各プレーヤーに配牌がばれないようにするためにロールスクリーンを設置するなど工夫されている。また、天井には360度の円形にバトンが組まれており、そこに照明を配置。麻雀の牌に影が当たると見づらいので満遍なく明かりが当たるよう設計されている。天井にはエアー用のガンマイクやカメラなども吊られている。
「カメラマンの動きによって相手がテンパイかどうかがわかってしまうので、それを防ぐためにリモートカメラを採用しています。本番ではスタジオ内にプレーヤー4人以外に人はいない状況で集中して麻雀ができる環境を作ってます」
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▲副調整室のリモートカメラコントロール。各カメラの映像はパナソニックAG-HMR10AでパラレルREC。

【スタジオ3】
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壁のパネルを取り外せるようになっており、番組ごとにセットチェンジが容易にできるように工夫されている。照明は各種LEDが合計12灯設置されているが、注目なのはARRIのLEDライトSkypanel S60-C。2,800K-10,000Kの色温度可変機能を備える他、色相・色彩調整機能を搭載し、番組の演出内容に応じて様々な色の照明を作ることができる。
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▲ARRI Skypanel S60-C
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▲副調整室の調光卓で照明の色を調整できる

【スタジオ4】
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【スタジオ5】
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スタジオ4と5はクロマキー合成に対応したスタジオ。四方をグリーンバックのカーテンで囲んで収録する。合成以外にもセットを組んで通常の番組収録にも使用する。こちらのスタジオにもARRIの照明が導入されている。
AbemaTVでは、朝10時から午前3時まで1日20本近くもの番組を収録・配信しており、入れ替わり立ち替わりで全スタジオフル稼働している。各スタジオとの行き来がしやすいようにスタジオ2から5までは副調整室を繋げてつくっており、配信中の映像を他のスタジオのパッチにつないで送ったり、スタジオで番組が終わった瞬間に隣のスタジオに移動できるといった工夫もされている。

スタジオ1、3~5の撮影システムは共通

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カメラはソニーPWM-X200の4台体制。ワイドコンバーターはズノーWCX-200を装着。プロテックHDS-7STUDIOを使ってスタジオカメラ仕様に。パン棒にはズームリモコン・プロテックAS-1Sを取り付けてあり、ビューファインダーは7型のHDモニター・プロテックHDF-700SKを使用。三脚はザハトラーFSB8/2DにドリーDV75を装着。光コンバーター・プロテックPS-470を使ってカメラ映像とリターン信号、電源などを一本の光アライブケーブルで副調整室に送っている。
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▲プロテックの光コンバーター・PS-470。
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▲各スタジオには副調整室のスイッチャー(TriCaster8000)に繋がる光ケーブルのコネクターユニットを設置。オーダーメイドで作ったものなのだとか。

各スタジオの副調整室はTriCaster8000を基盤に構築

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各スタジオにはスイッチャーとして、ニューテックのTriCaster8000を導入。TriCaster8000はWindowsベースの24チャンネルライブスイッチャー。カメラ入力をはじめ、ネットワーク入力、デジタルディスクレコーダーなど多用な素材の入力に対応できる。8つのM/Eバスを備え、M/E列をM/E列の素材として入力できるReentry機能機能も備える。本体内で8つのソースを同時に録画することもでき、再放送用データの録画にも活用している。
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配信用のパソコン。TriCaster本体にもライブ配信機能は備えられているが、リスクヘッジの意味で配信と制作部分を分けて行う。制作部分は外部の技術会社、配信部分をAbemaTVのスタッフが担当している。配信ソフトはテレストリームのWirecast 7 Proを使用し、1080/30pと720/30pの2パターンでエンコードしている。
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▲TriCasterからのプログラムアウトを記録するレコーダーはテレビ朝日での放送も視野に入れて、XDCAMレコーダー・ソニーPMW-RX50を採用し、SXSに記録する。
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▲ミキサーはヤマハのデジタルミキサーTF5を使用。BGMや効果音用にCDプレーヤーやiPadも用意。
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▲メインスタジオの照明の調光卓はウシオライティングのHedgeHog4。
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▲GPSを搭載し、1秒も狂わない放送用の時計を使用。

テレビ朝日やロケ先との信号をやりとりする回線センター

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回線センターはテレビ朝日本社やロケ先など外部からの中継を受ける施設。例えば、サッカーやゴルフ等、海外のスポーツ中継はテレビ朝日の衛星で受けて、局内からIP伝送され、AbemaTVのスタジオで実況・解説を入れて配信するといった形で利用されている。
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一人でも持ち運びできる中継システムLiveUは複数のモバイル回線を束ねてHD映像を伝送できるシステム。リュックのように背負って中継を行う。これを5台導入しており、中継番組で活用している。実際の番組ではLiveU複数台を持ちだして、ロケ先からの映像ソースをスタジオ内のTriCasterでスイッチング、テロップ入れを施して送出することもあるという。
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▲LiveUでは数秒の遅延があるため、スタジオと中継先で掛け合いをするシーンなどの使用は厳しい。それに対処するためにNewtekのTalkshowを導入して、リアルタイムの掛け合いに使用する。Talkshowでは、オンエア時の状態で中継先に映像を送ることができるので、現地のスタッフもテロップの載った状態などを確認しながら中継できる。
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P-Tecの時計。本機はGPSを受信して、各スタジオの時計に正確な時間を送るために特注したもの。
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▲メディアグローバルリンクスのMD2810を導入し、各スタジオの映像をSDIで入れて、上写真のように館内の至る場所に設置されたテレビモニターに分割表示。スタジオの使用状況等が一覧できる。テレビのマスター放送ではここにデータ放送や電子番組表を入れてスカイツリーから発信しているが、それと全く同じ装置を入れて、館内のテレビモニターに流している。
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▲演者用のマイクはシュアのワイヤレスマイクULXD1-JBを導入。ラベリアマイクの他、ハンドマイクSM-58も揃えている。
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▲ワイヤレスマイクの受信機・シュアULXD4QとULXD4D。
ULXD4Qは、1ユニットで4波受信できるULXD4Qを7台、2波受信できるULXD4Dは1台用意し、合計30波のB帯ワイヤレスマイクを用意。
「この受信機は4連で1個になってるじゃないですか? 例えば、1つのスタジオで演者が5人来たとなると受信機が2ついるわけです。でも、2つ目の受信機は3波分が余分になってもったいない。これまではその都度、スタジオに受信機を持ち込んで対応していたんですが、そうした手間を省力化するために、まずは全スタジオのワイヤレスマイクの30波を回線センターで一気に受信して、各スタジオで必要な数の電波を振り分けているんです。あと、分配することもできて、演者さんがスタジオ1と2を行き来するような場合でもワイヤレスマイクが途切れないようにすることもできるんです」
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▲各スタジオへのワイヤスマイクの振り分けは写真のように色違いのケーブルを使って、ジャックを差し替えて行う。こうすることによって無駄なく30波を各スタジオに振り分けられる。
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▲Ferrofish A16 MKⅡで回線センターで受けた音声を光ケーブル一本で全スタジオに送ることができる。当初は映像をBNCケーブルで送る予定だったが、それでは150本ものケーブルの配線が必要になる。また、音声も全スタジオに16chを光1本で送っているが、キャノンケーブルが300本近く必要に…。1週間という限られた工期のなかで構築しなければならなかったため、こうしたシステムを採用したという。
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▲インカムは52台用意。IPネットワーク上に配置したWi-Fiアクセスポイントを中継機として通信ができるiCom製のものを使用している。

編集室やMAルームも完備

【MAルーム】
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▲MAルーム。手前の扉がナレーションブース。
MAルームは番組の整音作業やナレーション収録を行う。特徴的だったのはモニターにブラックマジックデザインのVideoAssistを使っていたこと。多くの放送局では、20インチ程のモニターで映像を確認するのが普通だが、AbemaTVはスマートフォンでの視聴をメインに考えているため、5インチのVideoAssistをモニターに採用し、テロップなどの確認を行なっている。
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▲ブラックマジックデザインのVideoAssist
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▲ナレーションブースの中。
【編集室】
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パーテーションで句切られたスペースにiMacが6台設置されており、編集ソフトはPremiere Pro CCをインストールしている。ここにもオンエア確認用のVideoAssist。
【アーカイブ】
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AbemaTVの番組はすべて巨大なNASに保存されており、最終的なアーカイブはLTOテープを使って残している。このテープを渋谷本社と外苑前のAbemaTV両方に保管している。

楽屋や仮眠室、シャワールームも

AbemaTV内には20部屋の楽屋があり、メイクさんも常勤している。「不夜城」ということもあり仮眠室やシャワールームも完備している。
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▲女優鏡を設置した楽屋。
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▲シャワールームと仮眠室

オフィスと屋上

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▲編成や制作などのスタッフが働くオフィス部分。元々はフィットネスクラブのプールで、水銀灯のなごりなども残っている。
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▲オフィスの一角には壁一面がホワイトボードの会議室があり、企画会議のアイデアなど内容を書き込める。
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▲屋上にはイベントスペースのようなものが。
屋上からは国立競技場跡地が一望できる。2020年には東京オリンピックの会場にもなり、AbemaTVのスタジオからテレビ朝日がオリンピック中継の場所として活用することも見込んでいるという。
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▲取材を終えて、エントランスから頭上を見上げると「Thank you」の文字が。