2020年3月号特集【「写真」から「動画」へ】の中で、機材導入についてお話いただいたお二人=フジヤカメラ店◎北原弘明さんと、フジヤエービック◎鶴田大輔さん(本誌ではP.56~57)の対談(後編)をお届けします。

動画を撮るための機材について深い知識や情報を掲載。また同特集では機材のみならず「動画撮影」で知っておきたい知識や考え方がたくさん載っていますので、ぜひ本誌とあわせてお読みください。

VIDEO SALON 2020年3月号

 

カメラ以外に動画撮影で導入すると有効な機材

編)鶴田さん、カメラがすでにあってプラスαを導入するとしたら、順番的に導入するおすすめ順みたいなのはありますか?

鶴■まずは照明ですね。

編)マイクとかモニターとかいろいろありますけど、まずは照明、と。

鶴■照明があれば映像がリッチになります。色温度やシャッタースピードの基礎を踏まえて、手の届くリーズナブルなLEDからで良いから試してみることをお勧めします。きちんとライティングさえすれば、映像品質は絶対向上します。初めは映像用の照明でなく、手持ちのデスクスタンドのライトでも良いから、正しい照明の使い方を覚えるのが一番てっとり早く動画のクオリティをあげることに繋がります。

特に写真と動画の違いは、ライティングで「その場」を作らなければいけないこと、 ストロボとの違いはそこですよね。定常光の照明は昔はハロゲンで、交換球がひとつ5千円くらいして、発熱も大きく頻繁に交換も必要でした。それが今では、LED照明が一灯あればそこそこ明るくなります。レフ板を持っていなくても、白い板や布などで代用もできますし、100円ショップのアイテムを組み合わせても、レフ板の代用品は安価にDIYできるので。いずれにしても光源は必要なので、ゼロベースならまずLED照明の導入をお勧めします。

 

編)おすすめのLED照明はありますか? いろいろなタイプがあるでしょうけれど…

鶴■サンテックのLG-E268Cはオススメですね。iPadみたいなサイズで薄型、一個一個の球が小さくそれが内側外周に配置されディフューザーで柔らかな光になっていますから、直接光としてそのまま使えますし、色温度も変えられます。LEDライトは光の直進性が強いので、光源が直接目に入ると眩しく顔をしかめたみたいな固い表情になりがちです。ですので、影も出にくい、やわらかい光が使いやすくておすすめです。

 薄型LEDで非常に柔らかい光を照射するLG-E268C。光量や色温度もコントロールできる。

 

編)そうですね。これだけ軽くて薄いとちょっと仕込みでも使いやすそうですね。…ところで、カメラにクリップオンでの照明はアリでしょうか、ナシでしょうか?

鶴■非常灯が必要な状況だったらアリ、それ以外は基本的になくても困りません。報道などのドキュメントで、真っ暗でライトがないと何も映らない状況なら必要です。通常使用だと、近距離で強い光源は影も強く出て眩しいので、あまり出番はないですかね。

編)なるほど。

鶴■とにかく意図に沿っているか否かですね。

 

編)オススメ機材の二つ目をあげるとすると?

鶴■マイクをお勧めします。マイク選びはレンズ選びと似ていて、広めにステレオ感を出したい時と、雑音を消してインタビューしている人の声を際立たせたい時では使うマイクが異なります。ポートレートの撮影と風景撮影で使う機材やレンズが違うのと一緒ですね。他をマスクして際立たせたいんだったらガンマイクだし。より広がりのある音で空間のひろがりを表したいならステレオマイク、となります。

編)マイクを欲しいと来られるお客様は、一本ずつ買う方が多いのでしょうか? それとも複数を買われますか?

鶴■たいてい1本で、まずガンマイクを購入される方が多いですね。インタビューでカメラの内蔵マイクで全然綺麗に音が撮れなくて、声をしっかり撮りたいと思う方からのご相談は多いです。

編)お客様は、XLRとかミニプラグなどの違いはご存知なのでしょうか

  1本のピンにいくつかの極を持たせたミニプラグ(上)、業務用として抜けにくく性能面も高いXLR(キャノンプラグとも呼ばれる)。

 

鶴■XLR端子を一眼に求める方はある程度機材に詳しい方が多いです。よくあるケースは、量販店などで会議録音用の安価なマイクを試しに購入してみて、それがイメージしていたような音質ではないため、より良い録音がしたくて相談に来られる方が多いです。

業務用ビデオカメラで撮影経験があるお客様は、マイクの基礎的知識のある方が多いですが、スチル撮影に軸足を置いて、最近動画も始めたお客様は「フレーミングはできるけれど、音のことは全然わからない」という方が非常に多いです。

そこで、求めている音質を「レンズのF値」に置き換えて「レンズで言えばこのモデル」と言い換えると、本当に欲しい機能と予算の落としどころを納得して購入いただくための近道になるケースが多いです。安さにこだわりすぎて必要な品質に満たない製品を購入すると、かなり高い確率で上位モデルに買い直しされるケースが多いですね。

 

編)具体的な製品名でいうとだいたいどの辺りをおすすめしますか?

鶴■カメラに乗せるステレオミニ接続で、1万円以下ならRODEのVideo Micro、もう少しご予算があってコンパクトさと高音質どちらも重視する方にはゼンハイザー MKE400、ステレオとモノラルが両方必要なら切り替えて使えるアツデンの SMX-30がお勧めです。

RODE Video Micro

ゼンハイザー MKE400

アツデン SMX-30

また、XLR接続のガンマイクなら個人的にはゼンハイザー MKE600を一択でお勧めします。記録している音と記憶している音にギャップが少なく、指向性が狭すぎないのでカメラを向けた対象物を丁度よく捕らえます。XLR接続だけでなく、マイク本体に単三乾電池を入れて一眼などのステレオミニ入力にも直接入力ができ、利用シーンや使用機材を選ばず長くお使いいただけると思います。予算的にもう少し安価な物でしたらソニーのECM-VG1もお勧めです。ウィンドジャマーが付属してコンパクト、XLRファンタム接続が必須なので、一眼で使用するにはXLRファンタム対応のICレコーダーやXLR音声ユニットなどのオプション品が必須で、サイズ的にも予算的に大型化してしまいますが。

ゼンハイザー MKE600。一眼で使用するにはXLRユニットを組み込んで音声入力する。もしくはXLR→ミニプラグ変換アダプターのついたケーブルを使ってカメラに直差しすることもできる。

 

鶴■ここからは個人的な意見ですが、最初の1本でしたらまずはRODE Video Microをお勧めします。高品質なウィンドジャマーやショックマウントが付属し、非常にコンパクトで持ち運びも苦にならず、一眼内蔵マイクから明らかに音質向上を感じられると思います。そのコンパクトさから、上位機種を買い増ししても手放せない方がとても多いです。

そして予算は上がりますが、さらにコンパクトで音も良いSENNHEISER MKE400は小型マイクではイチオシです。音に芯があり、ブロワーを持ち歩くのと同じぐらいのサイズ・重量で、クリップオンタイプでは一番好きなマイクです。

編)MKE400の音はどんなキャラクターなんですか?

鶴■MKE600をちょっと派手めにテレビでいうとダイナミックモードみたいな。少し分かりやすく派手にした感じです。

編)人の声が聞き取りやすいとかそういう感じでしょうか?

鶴■そうですね、ゼンハイザーのマイク全般に感じるのは、量感が良くナチュラルで、記録と記憶にギャップが少ないこと。RODEのマイクは聴こえ方を狙ってチューニングされている感じが感性と合うかどうか。この辺りは好みや感覚的なことなので、実際に聞き比べてお選びいただくのが間違いないです。

 

カメラにヘッドホン端子は不要??

編)ところで鶴田さんの話にすこし出たように、6000シリーズの中で6600以外はヘッドフォン端子はないので、北原さんそれはどうですか? 困りませんか6400は。

北●そこまで困らないですね…。鶴田さんみたいに動画畑から来てる人ほど音の違いとかは分からないです。どっちかというと音質よりも自分の子どもの声を大きく撮りたい、そのくらいのレベルなんで。ガンマイクつければだいたい達成されます。

編)では現場でモニタリングしなくても、今まで痛い目はみてはいない‥?

北●痛い目、実は1~2回あるんです。多分、マイクの差し込みが抜けちゃってて‥音が録音されてない事件がありました。

編)内蔵マイクを使うより、それは痛い・・やっちゃいけないやつですね。(汗)

北●プロの世界だと許されないことですよね。ヘッドフォン端子はおそらくマストなんだろうなって、そういう時に思ったことはあります。僕らアマチュアでは長回しすることほとんどなくて、かつどんどん切っちゃいますから、そうするとそんなに大きなダメージにはならないですが。

 

オススメのカメラはズバリ!?

編)最後に鶴田さん、動画カメラとして今イチバンのオススメは何でしょうか?

鶴■それはもう、パナソニックS1Hですね。GH5も動画カメラとしてとても人気がありますが、S1Hはオールマイティでさらに優秀だと思います。特に手ブレ補正のすごさは圧倒的です。動画に向いていますし。

編)写真向けの手ブレ補正と動画向けの手ブレ補正、その辺のお話聞かせてもらえますか?

鶴■スチルに比べ動画収録は長いタームじゃないですか。スチルの手ブレ補正はシャッターを切る瞬間、息を殺した時に補正効果が最も効くようチューニングされています。静止画向けの強い手ブレ補正は、補正効果が解除された動きだしに変な揺れが発生し、それが映像に出てしまうことがあります。

編)それぐらいだったらもう、バシって止めなくてもなるべく自然なほうがいいですよね。

鶴■一眼のボディ内手ブレ補正のチューニングは基本的に静止画向けで、動画向けじゃないと思うんです。ピタっと脇をしめて三脚で撮っているような撮り方には有効なのですが、動いたり止まったりを繰り返す場合にはすこし違ってきます。(カメラマンの)行動と補正の波長が合っている時はいいのですが、カメラ側の手ブレ補正の動きと体の動きが逆相になった時が気持ち悪く、特に長玉つけた時にボディ内手ブレ補正を切り忘れると、蜃気楼みたいな揺れが望遠域で特に顕著に出る場合があります。

編)S1Hは、違うんですか?

鶴■S1Hは全然違いましたね。まずボディ内手ブレ補正が6段ですごく優秀なのと、行動が切り替わった時のいなし方がすごく上手なんですよ。だから、たとえばオートフォーカスもそんなに速くないけど、ミスが少ないです。いろいろなところにフォーカスがいっちゃうみたいな、ドギマギする感じがない。スッとは合わないけど、ジワっと合っていく。その感じが、手ブレ補正にも言えます。

編)S1H、高額ではありますけど各所で評価が高いですよね。さっきから気になっていたのですが、その、シンプルながらすごく使いやすそうなS1Hシステム、じっくり撮らせてください。

鶴田さん、北原さん、今日はお忙しい中本当にありがとうございました。

 撮影させてもらった鶴田さんのS1Hシステム。「このカメラはシンプルで充分なんです。手ブレ補正が素晴らしいので基本、手持ちでいけますし」ということで、トップハンドルを着け、その上にマイク(ゼンハイザーMKE600)を乗せる、という実にシンプルスタイル。右手側グリップにはピークデザインのClutch(クラッチ)。これでホールド感もぐっと上がり、手持ちでもしっかり撮影できる。

VIDEO SALON3月号本誌記事にはこのほか鶴田さんオススメの三脚システムもご紹介。また、機材導入実例のページにはこのS1Hシステムを実際に運用して訴求動画を制作している北沢産業の記事も。ぜひご参考に。

 

VIDEO SALON 2020年3月号