制作現場で評価する周辺機器〜『Ace 500』 HDMI入力対応/1080/60pワイヤレスビデオシステム


Report◉田村雄介
協力◉RAID  

 

●手が届く価格帯

無線ビデオシステムとはカメラから出された映像を、トランスミッター(TX)を介し無線でレシーバー(RX)に飛ばし、レシーバーからの出力で離れた場所にあるモニターなどにリアルタイムで映像を表示するシステムだ。使用例としては屋外やジンバルワーク時などケーブル結線が難しい環境でもディレクターやオペレーター自身に映像を見せられる、ブツ撮り時やヘアメイクの修正などの際に撮影対象前で簡単に写りをチェックしながら調整ができるなど、一つあるだけで現場の進行がガラリと変わってくる。

今までもTeradekだけではなく様々なメーカーが、無線の伝送距離やHDMI、SDIなど端子対応の種類、そういった部分で差別化しつつ様々な価格帯・スペックのものが現時点で取り揃えられていた。

では今回のAce500は何がすごいのか? ということになると、まずは身も蓋もなくズバリ価格だ。既存ラインのBoltだとボトムラインのBolt500セットで20万円オーバーだったのがAce500は実売で14万円前後となっている。

この差はどこから生まれているのかというと、ユーザーから見える範囲では「ボディ素材の変更」と「オプションのアンテナが取り付け不可」この2点ではないだろうか。

しかしながら所有して使用した実感として、上記2点がまったくデメリットに感じない。金属ボディからプラボディに変更されたことにより重さはTX126g/RX146gとBolt500の半分と驚異的な軽さとなってる。加えてアンテナが無くても十分な伝送クオリティを発揮してくれる。屋内から屋外などの意地悪な条件でも近距離、10m前後くらいであればしっかり伝送してくれる上に、後に記す実験では見通しの良いところで公称値500ft(約150m)を期待以上に実現してくれた。この価格でこの伝送クオリティは本当に嬉しい。またRXを増設すると4台まで同時にワイヤレス表示ができることや、Bolt500シリーズで受信できていたRX全てのラインナップで(SmallHDのBOLTシリーズやSidekick含む)AceのTXを受信可能など互換性も大いに確保してくれている。

従来このスペックの無線ビデオシステムを導入するためにはなかなかのコストがかかり、必要とわかっていてもつい二の足を踏んでしまう…海外で見つけた良さそうな機材は「技適」が取れていなかったり…とそんな悩ましい思いを持っていたユーザーへ向けた「飛ばし元年」の幕開けにふさわしい機材だ。

▲BMPCC4Kから直接Ace500→ディレクターモニタのFocus7へ飛ばすセットアップ例。後述するコツ一つでとてもコンパクトになる。131,000 円(税抜/TXのみ、RXのみは72,000円/RAID WEB SHOP)

●サポートされている解像度:1080 p 23.98 / 24/25 / 29.97 / 30/50 / 59.94 / 60
1080psf23.98 / 24/25 / 29.97 / 30
1080i 50 / 59.94 / 60
720p50 / 59.94 / 60
480p59.94 / 576p50(HDMIポート経由のみ)
480i(NTSC)/ 576i(PAL)
●電源入力
バレルコネクタ7〜17 VDC
●外形寸法:TX=6.7 x 11.9 x 1.5 cm/RX=8.6 x 11.5 x 1.5 cm
●質量:TX=126g、RX=146g

▲GH5から702 Brightを通してAce500→ディレクターモニタのFOCUS7へ無線伝送している使用例。

▲今回のAce500に関してはあまりにもマストバイなのでRAIDでの取り扱い開始で即購入した私物のAce500が出動。すでにあちこちの現場で投入しているが本当に満足度が高く、現場の(≠撮影の。そこは無線関係ない…)クオリティが上がった気さえしている。そこでAce500の代わりにRAIDさんより借りたのが前回に続き今回もFOCUS7。後述するが実はここにもちょっとした秘密がある。

 

●セットアップ

今回のセットアップはTXが1例、RXが2例となる。まずはTX、カメラ側になるが、ここは是非同時購入して欲しいオプションがある。それはAceに直接取り付けられるバッテリープレートだ。これがあることによってケーブルでの電源供給を考えずに小型カメラなどでも非常に簡単なセットアップが可能となる。中型・大型機でもD-Tapや電源口には限界があるので、少なくともTXにはバッテリープレートを装着するのが安心だ。対応バッテリーもSONY、Canonと選べる。電源供給が完了したら後は好みの位置に小型のボールヘッドやシューマウントで装着するだけ。ワイヤレス伝送の邪魔をしないためになるべく垂直に高いところへ取り付けるのがベターだ。

また、SDI出力のみのカメラを使う際はSDI⇄HDMIのクロスコンバートが可能なSmallHDのモニターなどを介して接続することになるが、中型・大型機を使用されている方は特に違和感なく使用できるだろう。

続いてRX側だが、まずはここ最近Amazonで人気のFeelworld FW279Sを用意した。操作性、機能などに物足りない部分はあるがディレクター用のモニターであれば十分な性能を発揮する。そこにSmallRigを合わせ、本体付属のD-TapケーブルでVマウント駆動できるようにすると長時間の使用が可能となるため、ディレクターモニターにはうってつけだ。今回モニターはLP-E6のバッテリー駆動にしているがこれもD-Tapから給電してしまえばさらに電源はシンプルになる。また、今回使用しているBolt用のクイックリリースはAceでも問題なく使用でき、非常に便利に使えた。

続いて本命のFOCUS7との接続。なんとFOCUS7のカメラ給電用コネクタから直接Ace500に電源供給できてしまう。もちろんFOCUS7 Bolt 500 RXのような一体型のスマートさは求められないが、代わりにどのモニターでも受けられる汎用性を保ったままに、追加バッテリーいらずの軽量セットアップができるという大きな利点が生まれる。今回は汎用のケーブルにFOCUS7給電口用の3.5mm×1.1mmアダプタを噛ませているが、ケーブルコネクタの極性さえ気をつければ自作も容易な物。メーカー推奨ではないかもしれないが個人的にはアリなセットアップではないかと思う。FOCUS7のマウント穴も底面背面と用意されているため写真のような組み方が可能だ。持ち歩きにも軽く、ディレクター陣には大いに喜ばれるのではないだろうか。

TX(送信機)のセットアップ


▲TX側の組み立て。軽量さからくるセットアップの容易な点はカメラオペレーター的には非常にありがたい。

▲注意なのがLバッテリープレートでバッテリーのハマりがとてもキツく最後まで刺さらない。ここは是非改善してもらいたい。

 

RX(受信機)のセットアップ

▲Amazonで人気のFeelworld FW279Sに装着。L字のHDMIケーブルやアダプタを使用することでとてもスッキリと配線できる。使用したSmallRigのパーツはMonitor Cage 2233、Bolt Bracket 2107、NATO Rail 1933、Rail Clamp 1564、Battery Plate1846。RXのクイックリリースは収納時にとてもありがたい。このモニターも安価ながら2200nitsの明るさがあり使いやすい。


▲なんとFOCUS7からAce500を直給電!FOCUS 7 Bolt 500 RXほどのスマートさはないが汎用性を保てるためとてもありがたい。

▲実にシンプル。

▲今回ディレイチェックも行なってみたが結果は収録画面上で約0.13~0.17秒のディレイしかなかった。とても優秀。余談だがBMPCC4Kの内蔵モニター自体も若干ディレイがあってこちらは約0.04秒。

 

●伝送のチェック

最後に伝送距離のチェック。陸上トラックの内側を使い、音モア(http://www.443c.com/product/otomore/otomore.html)を装着した息子と二人でどこまで離れたら映像が見えなくなるかをチェック。

まずはどこまで離れたら切れるかのチェックでどんどん離れていく息子。想定していた距離を超えて上記図の200m近くまで離れてなお伝送は続く。しかしお互いがNGポイントの辺りでやっと伝送が切れると、次に距離を縮めて映像が復旧したのはOKポイントの距離、即ち公称値の約150m付近であった。正直完全に抜けのいい環境とはいえここまでしっかり伝送してくれるとは思わなかった。伝送復旧も完全に自動で範囲に入った瞬間に復旧するような挙動だった。この自動再リンクも現場では非常にありがたいことだ。

中小規模の現場で無線伝送を入れたいけど叶わなかった現場というのは、今までに多数あると思われる。その画を確認できなかったわずかな差一つでディレクター判断を誤った、そんな現場だってあるだろう。前回のFOCUS7でも語ったが憧れの機材にどんどん手が届くようになっている昨今、何を選び、導入のタイミングをどうするかが非常に大事な要因になる場合がある。今回のAce500はそこそこ早い段階で導入しておくと、撮影力以外の部分で評価されることが多々ありそうな予感がする。とにかく最高にありがたい代物であることは間違いない。

伝送距離のチェック

▲今回の実験会場は見通しの良い陸上トラックで行なった。結果約150mきっちり飛んだ。切断後の復帰も遠距離のまま自動。

 


▲よしみカメラの音モアを付けた息子と声&手旗信号でチェック。本人曰く聞こえやすかったそうだ。

▲150m付近まで行くと、もう豆粒サイズ以下。レンズも100-400mmを付けていても足りないのでモニターで倍に表示した。


▲切れるか切れないかのギリギリライン。息子はほぼ動かずカメラ側を動かしたところでアウト。


▲徐々に戻ってOKポイントの約150m地点まで戻ると自動的に復旧。

 

◉RAID WEB SHOP   https://www.raid-japan.com
03-5765-2044 受付日時 / 月 – 金 10:00 – 19:00

 

ビデオSALON2019年9月号より転載

vsw