映画『ビューティフル・デイ』を見る上で、動画クリエイターに注目してほしい3つのポイント


文●松本 敦Groovoost inc.

6月1日より全国公開されるホアキン・フェニックス主演、リン・ラムジー監督の映画『ビューティフル・デイ』。第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞と男優賞W受賞をした話題の映画。そのプロモーション・キャンペーンに携わった動画クリエイターの松本 敦さんが本作から動画クリエイターが学ぶべきポイントを解説する。

『ビューティフル・デイ』は動画クリエイターにこそおすすめしたい映画

僕は今、6月1日から公開される映画『ビューティフル・デイ』のプロモーションキャンペーンに携わっています。後ほど紹介しますが、映画の宣伝のためのTwitter動画等を制作しております。このようなキャンペーンを実施する際には、「どのようなターゲットに向けてどのような方法でアプローチするのか」を最初に考えます。今回の映画は考えれば考えるほど「動画制作に関わるクリエイターの方におすすめしたい!」という気持ちがあり、編集部に連絡して、この記事を書かかせていただくことになりました。

 

まずはこちらの予告編をご覧ください。

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映画『ビューティフル・デイ』

61日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー

http://beautifulday-movie.com/

 

コピーライト

©Why Not Productions, Channel Four Television Corporation,
and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved.
©Alison Cohen Rosa / Why Not Productions

提供
クロックワークス、アスミック・エース

配給
クロックワークス
映倫区分【PG-12】指定作品

■あらすじ

元軍人のジョーは行方不明の捜索を請け負うスペシャリスト。ある時、彼の元に舞い込んできた依頼はいつもと何かが違っていた。依頼主は州上院議員。愛用のハンマーを使い、ある組織に囚われた議員の娘・ニーナを救い出すが、彼女はあらゆる感情が欠落しているかのように無反応のままだ。そして二人はニュースで、依頼主である父親が飛び降り自殺をしたことを知る…。

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予告編をご覧いただくとわかる通り、「かなり癖の強い映画」です。春からGWにかけて上映された『レディ・プレイヤー1』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のようなわかりやすいエンターテインメント作品とは明らかに一線を画します。極力、説明を排除した作りで、観る人の想像力を要する作りになっており、そういう意味では「観る人を選ぶ映画」と言えるでしょう。

 

動画クリエイター的に勉強になる3つの注目ポイント

今回の記事では、この映画を見るうえで、動画クリエイターにとって役立つ3つの注目ポイントを紹介します。それは_____

  1. 卓越したビジュアルストーリーテリング
  2. 言葉をどのように映像に落とし込むか
  3. 精神状態を表現した「音楽」

もちろん、エンターテインメントとして純粋に映画を楽しめば良いという意見もあると思いますが、あえて映画の見方を絞ることによって、動画クリエイターにとっては学ぶべき点が浮かび上がってきます。では、それぞれのポイントについて説明していきましょう。

 

1.卓越したビジュアルストーリーテリング

監督・脚本はイギリスのリン・ラムジー。なんと女性監督です。作風から察するにゴリゴリのハードボイルド好きの男性が作ったのかと思っていました。ちなみにラムジー監督の前作は『少年は残酷な弓を射る』で、この作品も本作同様にかなり癖の強い作品で、見た後にずしりと「何か」が心に居座るようなインパクトがありました。ちなみにラムジー監督は映画に取り組む前は、もともとスチルカメラマンとしてキャリアをスタートしたそうです。そのことが「ビジュアルでストーリーを見せる」というところにもつながっているのではないかと感じました。予告編は、かなりダークでハードなシーンが多いですが、劇中では時おり息を飲むような美しいシーンもあります。それはきっとラムジー監督に写真家としてのベースがあったからこそなのでしょう。

映画のワンシーンを切り抜いてみても、それぞれが一つの写真作品のようです。

 

また、あまり言うとネタバレになってしまうので深くは言えないですが、この映画では本作では「あえてその画を見せないことで、ストーリーを伝える」という手法も多用されています。例えば、ホラー映画では血が飛び散るようなシーンでも、それをあえて見せないことが多いものです。しかし、あえて見せないことで、観客の頭の中でその「怖さ」が増幅されて、実際に見ているよりも「怖さ」を感じることができます。

 

 

2.言葉をどのように映像に落とし込むか

この映画は、もともとは小説だった原作をラムジー監督が脚本を練り、映像化しました。日本では早川書房より原作本が出版されております。

リンク:http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013895/

 

脚色により原作と違う部分はいくつかありますが、動画クリエイター的にこれを活用するとしたら、事前に原作を読んで「自分だったらどのように映像化するか」という視点で映画を見てみると、上記で紹介した「ビジュアルストーリーテリング」の視点も楽しめるのではないでしょうか? 本誌の連載にもある「極・ト書き一行のカット割り!」にも以前書かれていましたが、映像を作る上で発想のスタートとなるのは「言葉」であることが多いです。

 

今回のTwitterキャンペーンでは小説と絡めて、映画とリンクするシーンを予告映像として、いくつか作りました。よろしければこちらを御覧ください。

 

●原作小説と絡めたTwitterでの予告編動画の例

 

3.精神状態を表現した「音楽」

音楽を担当したのはイギリスを代表するロックバンド・レディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッド。主人公のジョーは精神的に不安定であり、そのなんとも言えない危うさや緊迫感を音楽でさらに盛り上げています。時に心拍数が高まるかのような音楽もあれば、今にも壊れてしまいそうな心を表現するかのような不協和音に近い音楽まで、まさに精神状態を表現した音楽表現にも注目です。

さらにラムジー監督はインタビューで「音楽自体がこの作品のキャラクターの一人になっている」と語っており、曲ができてから映像を編集をやり直すほど音楽にはこだわりを持って作られているとのことです。キャンペーンではこの音楽にフォーカスし、いくつか特徴的なスコアを先行配信していますので、ぜひチェックしてみてください。

 

●音楽にスポットを当てたTwitterでの予告編動画の例

「音楽」にフォーカスして観るとまた別の発見があるかもしれません。

 

「見えないもの」を「どう見せるのか」という挑戦

この映画を見て一番感じたのが「不安定な精神状態」や「心の闇」などの「見えないもの」を「どう見せるのか」というラムジー監督の挑戦だと個人的には感じました。それゆえに難解な部分もあり、結果的に「観る人を選ぶ」ことになる作品かもしれません。しかし、挑戦的な作品であるだけに動画クリエイターとしては体験して感じることが多い一作となると思います。「五感を刺激する映像体験」を是非劇場で音楽に包まれながらご自身で体験してみてください。

 

【映画を楽しむならこの一冊もおすすめです】

玄光社:ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論「BETWEEN THE SCENES

レビュー記事:https://movie-for-life.com/archives/5034