韓国でWEBドラマとして配信され、若い世代を中心に人気となった韓国ドラマ『BLUE BIRTHDAY』。その日本版リメイクとして関西テレビとエイベックス・ピクチャーズが共同制作した『ブルーバースデー』。本記事では、撮影を務めた松宮まなぶさんとDIT・カラリストを務めた三浦 徹さんから撮影・グレーディングにおけるテクニックや制作時のエピソードについて語ってもらった。
取材・構成◎編集部 萩原 文◎永渕雄一郎(midinco studio)
▲連続ドラマ『ブルーバースデー』で撮影を務めた松宮まなぶさん(左)とDIT・カラーグレーディングを手がけたSPICEの三浦 徹さん(右)。
鶴房汐恩(JO1)と松井愛莉のW主演で、韓国のWEBドラマ「BLUE BIRTHDAY」をリメークしたタイムリープ・サスペンス・ラブストーリー。
■監督:御法川修/高橋雄弥/藤江儀全■脚本:山岡潤平/伊澤理絵■撮影:松宮まなぶ■照明:石川裕士■録音:滝澤 修■編集:小堀由紀子■DIT・カラリスト:三浦 徹■音楽:YOSHIZUMI■主題歌:JO1「Romance」(LAPONE ENTERTAINMENT)■制作プロダクション:スタジオブルー■制作著作:カンテレ/エイベックス・ピクチャーズ
■原作:『BLUE BIRTHDAY』(脚本:ムン・ウォンヨン/ク・ソヨン 監督:パク・ダンヒ 制作:PLAYLIST)
©PLAYLIST/エイベックス・ピクチャーズ/カンテレ
トーンで区別化された現在と過去のシーン
――本作では松宮さんは撮影、三浦さんはDIT・カラリストを担当されていますが、どういった経緯でオファーがあったんでしょうか?
松宮 監督の御法川修さんとは以前テレビドラマでお付き合いがあって、ここ最近でまたお仕事する機会が増えて。それで「今回も一緒にやりませんか」とお誘いいただきました。三浦さんとは昔からドラマでご一緒させていただく機会が多く、気心もしれているのでカメラテスト段階からDITとして入っていただいて一緒にルック開発を進めていきました。
—―撮影にあたって監督とはどんなやり取りをしましたか?
松宮 『ブルーバースデー』には韓国の原作があって、本作はその日本版リメイクとして制作したものです。設定としては20代の女性が写真を燃やすことでタイムリープして高校時代に戻るという話なので、現在と過去を行ったり来たりします。現在と過去の違いを衣装だけでなく、過去はアンバートーン、現在はブルートーンという形で色でも区別したいと監督から話があり、それを三浦さんと相談しながら決めていきました。監督は最初に「現在のトーンはネガティブなブルーではなく、今は今でしっかりと生きている自立した女性が引き立つようなブルーのトーン。過去のトーンは、いい思い出と感じさせつつも、大事な人が自殺する話なので、そこが生々しくならないように。その上で韓国版とは違ったトーンを作りたいね」とお話をしていました。それを踏まえて、三浦さんと相談しながら、あのトーンに着地していきました。
▲現在のシーン
Blackmagic RAWが可能にしたスムーズな作業環境
――撮影時のカメラは何を使用しましたか?
松宮 Blackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2、Black magic Pocket Cinema Camera 6K(BMPCC 6K)の 2台です。ハイスピード撮影ができて高画質、コストパフォーマンスに優れたもの、ポスプロに負担がかからない、2カメ時のAカメ/Bカメで違いが出ないものがいいなと。三浦さんに相談したら「RAWで1080/300fpsが撮れるし、BMPCCを使えばカメラを切り替えたときも違いが出ないので、ブラックマジックデザインのカメラがいいんじゃないですか?」と言ってもらって、今回採用することに決めました。
三浦 天候が晴れたり曇ったり、カメラの種類が違ったりすると、色を揃える作業がすごく大変なんですよね。だからまずはRAWで撮れることが大前提です。現場が慌ただしかったりすると、1絞り間違えて暗く撮ってしまったり、2カメで露出が合っていないこともあって、カットごとに馴染ませるにはすごく時間を要するんです。Blackmagic RAWではマスターのカメラリセットで明るさをすぐ変えられるので、現場で明るさが違っていてもグレーディングで明るさを上げ下げでき、素早くマッチングできる。そういった面でBlackmagic RAWで撮影してもらえば作業もスムーズになると考えました。
――1話あたりの撮影期間はどのくらいでしたか?
松宮 撮影自体は1話あたり2〜3日ですね。それくらいで撮っていかないと終わらないペースでした。
――撮影で特にこだわった部分があれば教えてください。
松宮 屋上から飛び降りるシーンや図書館で彼女に本が当たるのを守るシーンなど、できるだけ時間を長く見せたいシーンはハイスピードの300コマで撮りたいなと思いました。屋上から飛び降りるシーンなんかはスタントマンが下にマットを敷いて、本当に屋上から飛び降りてるんですよ。今回はグリーンバックもほとんど使わずにリアルなアクションをやってもらうシーンが多かったので、できるだけハイスピードを使いたかったんです。
――撮影用にLUTは作られたんでしょうか?
松宮 作りました。過去のシーンでは、「chocolate」というフィルターをカメラテストで入れて、それに対してLUTを三浦さんに何パターンか作ってもらいました。その後、僕と監督とプロデューサーで、どのLUTが今回の作品に合うかを相談しながら決めたものを現場で当てました。それを照明部がモニターで確認しながらライティングしていきます。ただ単にRec.709の色域に戻すLUTではなく、目指すルックに近いものを当てるほうが、スタッフはもちろん俳優にも仕上がりのイメージの共有ができるのでいいと思います。
時間に追われる連続ドラマで効率的にカラーグレーディングするために
――予めLUTを作っておくことで、カラーグレーティングの作業効率も上がるのでしょうか?
三浦 作業効率はかなり上がります。1からグレーディングで色を作り込むよりも遥かに早いです。今回過去のシーン用に作ったものは茶色い色味になるLUTだったので、少し落ち気味の部分も現場で補ってライティングされていたり、LUTによって弊害が出るようなところは全て現場で整えてくれていたので、作業がすごくやりやすかったです。
――1話ごとにグレーディング時間はどのくらいですか?
三浦 今回の作品は割と時間をかけているほうだと思うんですけど、12時間くらいですかね。一般的にはこういったテレビの枠だとそこまで時間をかけてグレーディングはしないかと思います。
――グレーディング時に便利だった機能はありましたか?
三浦 DaVinci Resolveの「リモートバージョン」という機能(下囲み参照)が相当便利でした。
松宮 特に今回は話数が増えていくごとに回想や前話の振り返りが繰り返し出てくることが多かったので、毎回遡ってその画を探してこなきゃいけないんですよ。
三浦 カット数が多いとそれを探すだけでも時間がかかるんですよね。そういうときリモートバーションを使うと、以前に使った素材と同じグレーディングにしてくれるので本当に助かりました。
DaVinci Resolveの機能。カラーページでソースクリップのサムネイルを右クリックすると表示される。デフォルトでは「ローカルバージョン」の設定になっていて、100カットあったら、100カットそれぞれのローカルバージョンが存在する。一方、「リモートバージョン」を選択すると、ソースの素材が同じであれば、ひとつのソースクリップに施したカラーグレーディングが適用されることになる。そのため、タイムラインが分かれていても、ソースクリップが同じであれば同じグレードが適用される。
フィルターワークにより独特のトーンとなったタイムリープ
――カラーグレーディングで印象に残っているシーンはありますか?
三浦 やはりタイムリープの場面ですかね。日本のテレビドラマだと回想や過去のシーンになるとワントーンのセピアとか全部茶色みたいなのが多いじゃないですか? 今回は半分だけフィルターをかけて過去と現在が混ざるような感じにしたほうが面白いんじゃないかということで、ベーストーンはノーマルで周りだけ茶色くなるとか、ワントーンにならないよう気をつけました。
――タイムリープした後のトーンが混ざり合うようなルックが斬新でした。
三浦 あれは現場でフィルターを入れてアンバーを残そうという、松宮さんのアイデアですね。
松宮 いきなり世界がタイムリープするより徐々に世界が変わっていくほうが見ている人が没入できるかなと思いました。そのためにはどうしたらいいかと考えたとき、アナログ的にフィルターを入れて撮影したらいいんじゃないかなと。DaVinci Resolveでそのフィルター効果を再現したシーンもあったりします。そっちは三浦さんがワイプを切りながら位置を動かして、フィルターワークと同じようなことを再現してくれていますね。
▲現在から過去へとタイムリープしたばかりのシーン。現在の青いトーンと過去の茶色いトーンが混ざり合っている。
――chocolateフィルターは、どのメーカーのものを使ったんですか?
松宮 本来であればTiffenのレンズフィルターを使いたいところなんですけど、今回は予算の都合上照明用のフィルターを流用しました。そのため、絞りが2段分くらい暗くなっちゃうんですよ。暗所での撮影のときは感度を上げて撮影しました。そうすると意図していないノイズが出てしまうときがあるので、その場合はDaVinci Re solveでノイズ除去しました。自分の使いたいものが感度的に使えない場合、今まではそれを現場では諦めて後からグレーディングすることでワントーンになってしまいがちだったんですが、現場でフィルターを入れてアナログの手法にグレーディングで上乗せすることで、ワントーンではなく自分達が狙っているルックに仕上げることができたのかなと思います。
連続ドラマの撮影からポスプロまでのワークフロー
――全話の撮影からポストプロダクションまではどのくらいの制作期間かかったんでしょうか?
松宮 撮影自体は全話1カ月くらいです。ポスプロは撮りながら進めていたので全体では3カ月くらいかかっていると思います。撮影が終わってからは割と余裕があったのですが、前半が忙しくて。特に撮影から1話完パケまでの時間があまりなかったのと、今回は関西テレビ放送の作品なので大阪まで納品しなければならないというのもあって。その際にデータだけじゃなくバックアップ用にXDCAMも納品するという形だったので、そういうのも含めて時間がタイトでしたね。
――撮影からグレーディングまでのワークフローは?
松宮 撮影データをポスプロを担当したテクノマックスにデイリーで入れていって、そのデータのクローンをもとにオフライン編集用の作業データを作ってもらいます。編集部がPremiere Proで編集したEDLとXMLのふたつのファイルを、DaVinci ResolveにリンクしてRAWからグレーディングするという流れです。オフライン編集自体はQT(QuickTime用のmov形式動画ファイル)でやっていて、編集が終わってピクチャーロックしたものを最後にグレーディングしています。
三浦 Blackmagic RAWのデータ自体が軽いので受け渡しも問題なかったです。
――今後、おふたりがチャレンジしたいことは?
三浦 35mmフィルムで撮った作品をスキャンして仕上げたいですね。やっぱりフィルムの質感はデジタルでは再現できないものがあるので。
松宮 僕もフィルム時代に育っているので、そういうのは好きですね。実際に連続ドラマなどをフィルムで撮るのはコストやリスクの問題があって。『ブルーバースデー』でもエピローグ部分を8mmや16mmのフィルムで撮影するアイデアがあったんですが、最終的にその部分だけ独自のLUTを三浦さんに作ってもらって撮影する形に落ち着きました。フィルム撮影はいつか実現できたらいいなと思っています。
——本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。
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