Report◉ビデオサロン 一柳

10月の上旬はまさにステディカムウィークだった。10月6日にはナックイメージテクロジーでステディカムの開発者、ギャレット・ブラウンさんの講演会が開催され(別項でレポートします)、8日からは、埼玉県熊谷市のホテル・ヘリテイジにおいて、五泊六日の泊まり込みワークショップ、Steadicam Gold Workshop 2018 Japan(ステディカム・ゴールド・ワークショプ)が行われたからだ。ゴールド・ワークショップは銀一がステディカムの代理店になってからは初となる。

ティッフェンインターナショナル公認のワークショップはゴールド、シルバー、ブロンズの3種類がある。どのワークショップも、発明者であるギャレット·ブラウンによって承認されたシラバスに従ってトレーニングできる絶好の機会となる。昨年2017年に開催されたブロンズ・ワークショップは、2日間の通い制で1日のみの途中参加はできないというものだった。シルバーワークショップでは、シネマ・ブロードキャスト向け大型機種から中型リグの経験を積むことを目的とし、3日間の通い制。ちなみに2016年のワークショップの受講料の合計金額は税込162,000円(ワークショップ会場費、機材の使用料、受講中の飲物とスナックや昼食を含む)。そしてゴールド・ワークショップだが、シネマ・ブロードキャスト向け大型機種を使った経験を積むことを目的として行われるものになる。なんと五泊六日! インストラクターと寝食をともにして、ステディカムの思想、技術、カメラワークを完全にマスターする。ワークショップの受講料の合計金額は、税込み50万円である。ただしこれにはワークショップ会場費、機材の使用料、宿泊費と会期中すべての食事、受講中の飲み物とスナックを含まれている。高額なワークショップだが、定員16名はすぐに埋まり、キャンセルが出たもののすぐにそれも埋まってしまった(結局17名の参加になった)。

ちなみにこのワークショップには日本在住者だけではなく、中近東や香港など、海外からの参加者も多かった。北米西海岸に行くよりも日本に行くほうが安くて近いという理由だからだそうだ。

このワークショップで得られること:(告知ページより)

ステディカムの組立と、カメラやアクセサリーとのフィッティング
ステディカムの原理とオペレーションについて理解する
ダイナミックバランスを含む、バランスのとり方
ヴェストの正しい装着方法
アームの正しい調整方法
レストポジションを理解する
動き始める・止まる動作
ポストによるパン
ボディパン
横方向のショット
円形のショット
引きながらのショット
進行方向のスイッチ
椅子から立ち上がる演者に対するショット
階段でのショット
曲がり角や狭い通路でのショット
ローモードへの変更
ビークルマウントとそれに関わる機材を理解する
逆サイドでのオペレーションを理解する
映り込みしない方法を理解する
悪条件下での撮影を知る
現場での振る舞いやクライアントや監督への交渉方法

今回は特別に初日の数時間、ワークショップの模様を覗かせてもらった。

初日の午後に到着すると、すでに4チームに分かれて、それぞれインストラクターがついて、順番に基本のカメラワークを行なっていた。カメラとステディカム本体は各チームに一台だが、ベストは全員に用意されている。ギャレット・ブラウンさん(下の写真、左)みずからが1つのチームを指導。

チームはずっと同じインストラクターがつくのではなく、時間がくるとローテーションして、インストラクターが変わり、同じトレーニングを繰り返す。

床に三角形で黄色テープが貼られている。最も長い辺を被写体がまっすぐ歩くのを、最初は下がりながら撮影し、斜め後ろに下がり、被写体の横に回り込み、しばらく平行移動して撮影しながら、被写体の後ろに回り込んでフォローするという動き。

インストラクターによるお手本の撮影。

一人ずつやってみる。

一見簡単そうに思えるが、下がりながら、被写体を構図から外さず、しかもカメラをぶらさず、体の向きをかえるときにカメラやバッテリーなどが体に当たらないように取り回すのはテクニックが必要なようだ。

順番に体験していき、インストラクターが個別に指導していく。

多くの人はすでにステディカムを体験したことのあるカメラマンだが、基本の姿勢を正される人が多かった。ついモニターをみてしまう時に猫背や前かがみや首が傾いてしまうしまうが、きちんと直立して、真上から引っ張られて立つように注意されていた。もちろん人によって癖の出方は違うので、アドバイスは違っていた。中にはつまようじを咥えさせられる人も。

次のそのバリエーションとして、被写体とすれ違うようなカメラワーク。迫力を出すために、カメラマンも被写体に近づいていき、横に逃げてサイドから撮った後に、カメラを反転して、去っていく被写体から遠ざかっていく。

そのバリエーションとして、近づくカメラマンのスピードが違うカメワラークも。

この辺りの基本のカメラワークの練習はステディカムだけでなく、すべてのジンバルオペレーターに役立つかもしれない。

つづいて、座学になり、ステディカムの原理と構造の解説。

ステディカムがどういう原理で成立しているのか、スタティックバランスとダイナミックバランスについて。

参加した編集部員(私)にとって、スタティックバランスはまだ理解できるが、ダイナミックバランスを合わせていくのが、概念的にも操作的にも難しそうに思えた。

講義を聞いた後は、また4チームに合わせて、ひとりずつ、一からステディカムにカメラを乗せ、バッテリー、モニターを装着、ケーブルを接続し、スタティックバランス、ダイナミックバランスを合わせていく。やはり苦労している人は多かった。ステディカムはオペレートだけでなく、セッティングにも経験とノウハウが必要なようだ。

このワークショップは、IDXが大量のバッテリーを用意したり、レンタル会社がカメラなどを貸し出しなど、オールジャパンでサポートしていた。

今回、わずかに数時間、覗かせてもらっただけだが、その間だけでも、かなりみっちりとトレーニングが行われていた。

あるインストラクターからは「きみは初日だけ取材するのか? 明日からクレイジーショットがいっぱいあるのに残念だね」と言われた。クレイジーショット…いったいどんなショット何だろう?という思いが頭を妄想のように駆け巡るが、明日はビデオサロン本誌の責了なので、残念ながら失礼することにした。

これが5日以上続くわけで、本当に密度が濃いワークショップだと思う。ステディカムの開発者であるギャレット・ブラウンさんは39年ぶりの来日だそうで、おそらく今回がギャレットさんが日本で直接教える最後のワークショップということになるのだろう。(後日談ですが、銀一の担当・柏原さんによると、ギャレットさんはこれが最後かなということだったのですが、帰国するときにまた来日したい!とおっしゃっていたそうです。もしかしたらまた日本でのワークショップの機会があるかもしれません)

1970年代に発明されたステディカムは、現在も映画やテレビで大活躍している。現在、電動ジンバルを利用したスタビライザーが普及しているが、プロのカメラマンの多くは、より自分の意図を反映しやすい、つまりディレクターからの要望を正確にカメラワークに反映しやすいアナログのステディカムを愛用している。そこはオペレートの技術やセンスによって巧拙がある部分。しっかりテクニックを学ぶことによって、カメラマン、ステディカムオペレーターとして自分のレベルを上げられる余地が充分に残されている。ステディカムの奥深さの一端を垣間見たワークショップ見学だった。

ステディカムの日本公式ウェブサイト