キヤノンから登場したフルサイズ機のエントリーモデルEOS R8を映像制作ユニットHakumeiのふたりに実際のミュージックビデオの現場で使ってもらい、撮影からポスト処理まで一連のフローのなかでのEOS R8の使用感や魅力を教えてもらった。

取材・文●高柳 圭/構成●編集部 萩原  協力●キヤノンマーケティングジャパン株式会社

 

 

もなか。 『愛常』MV

アーティスト・もなか。氏による楽曲「愛常」のMV。別れた大切な人への揺れ動く感情や、フラッシュバックする思い出などが、主人公の女性の表情や空気感によって表現されている。

 

 

キヤノンEOS R8

オープン価格(実売264,000円)ボディのみ

上位機EOS R6 Mark IIから受け継いだ約2,420万画素イメージセンサーと画像処理エンジンDIGIC Xを搭載。6Kオーバーサンプリングの4K/60p動画撮影が可能で、4:2:2、10bit、Canon Log 3の録画にも対応。連続30分の録画時間制限が取り払われ、最大2時間までの連続撮影にも対応できるようになった。

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ふたりのチームで映像制作を手掛けるHakumeiの制作スタイル

キヤノンEOS R8はフルサイズのEOS Rシリーズの中で最も軽量で、シンプルな操作性ながら本格的な画作りにも対応できるエントリーモデル。今回は気鋭の映像クリエイターHakumeiのふたりがEOS R8を使ってミュージックビデオ(MV)を撮り下ろし、動画機としてのEOS R8の魅力や可能性について語っていただいた。


Hakumei
Instagramで10万人のフォロワーに支持されるKaito Iwashitaさん(左)とJun Hirota さん(右)による映像ユニット。Kaitoさんは企画・ディレクション・撮影・編集を手がけ、Junさんはプロデューサー・撮影・照明を担当している。

 

Kaito Iwashitaさん、Jun Hirotaさんはそれぞれ個人のクリエイターとして活躍する傍ら、2022年12月からユニットとして本格的に活動をスタート。

「僕は約3年前からスノーボードをしている時の様子などをVlogのような形で動画に収め始めました。最初は山や海の風景が中心でしたが、シネマティックな表現で人物を撮りたいと思い、同時期にInstagramのリール機能を見つけ、そこに1週間に3投稿を目指して動画制作を始めました。1年ほど続けていく中で、投稿した作品がバズり始めて、仕事の依頼も増えてきて映像クリエイターとして独立して活動を始めました」(Kaitoさん)

一方、JunさんはInstagramでKaitoさんの作品を見ていたファンのひとりで、たまたまKaitoさん本人と出会う機会があり、意気投合したという。Junさんは映像の仕事を始める以前、ネットのマーケティング関連の仕事をしていた経歴があり、Kaitoさんの作品の何が人々の心に刺さるのかを掘り下げる中で一緒に作品づくりをしたいと考えるようになった。

「Kaitoの作品はシネマティックで“エモい”色味が注目されますが、個人的には画の構成がとても良く、特にMVではストーリー性を表現しながら、観る人に想像の余地を与える余白がうまく取り込まれていて、何度も観たくなる魅力が生まれています」(Junさん)

ふたりの制作時の役割は、Kaitoさんがディレクターとなって企画・演出や撮影、編集を担当し、Junさんがプロデューサー的な立ち位置で進行などのマネジメント業務を行いつつ、撮影や照明も手がけている。

「クリエイターは才能があるだけでは売れないケースもあって、作品づくりに集中できる環境を整え、仕事として成立させていくチームの存在は大きい。個人で映像制作をするクリエイターが増える中で、協力しあって作品を作るスタイルは今後増えていくと思います」(Junさん)

 

 

ユーザーフレンドリーな操作性ながらルックにこだわった画作りにも対応できる

今回のMVは、もなか。の「愛常」という曲をもとに制作された。1週間という短期間での制作だったが、スピード感のあるHakumeiの制作スタイルと、EOS R8の携帯性や操作性の高さが活かされ、魅力的な作品が完成した。ロケ地は横浜の港周辺をメインに、ひとりの女性を主人公として、大切な人と離れた悲しさや巡る思いを想起させる作品の世界観が描かれている。


室内での撮影風景。撮影ではRF35mm F1.8 MACRO IS STM、RF50mm F1.2 L USM、RF85mm F1.2 L USMを使用。特に50mmは描写はフレアの質感もよく作品のなかで多用した。

屋外での撮影風景。外部モニターにフードを取り付けて映像を確認。

夜間撮影。低照度の撮影でもノイズが少ない。チューブライト1本という最低限のライトで撮影できた。

 

「僕は基本的に絵コンテは描かずに、自分の撮ってきた写真でイメージを組み立てていきます。MVの場合は先に曲を繰り返し聴いて、編集ソフト上でどの箇所に盛り上がりや画の切り替わりがほしいかマーカーを付けていきます。全体の構成を大事にしつつ、撮りながら一番良いシーンを見つけていきます」(Kaitoさん)

EOS R8は本格的なフルサイズのカメラでありながら、写真や動画を撮り始めた初心者にも扱いやすい機種であり、Junさんは「映像クリエイターが作品づくりに使用するために過不足ないスペックが揃っている」と言う。

「仕事で使うカメラに求めることは、まず10bit以上で撮影できることです。グレーディングを前提としているので、それに対応するCanon Log 3(10bit)は重要です。また、最大60pのクロップなし、6Kオーバーサンプリングの4K撮影が可能な点は、エントリーモデルの機種として、特に価格の面でもメリットが大きいのではないでしょうか。動画を始めたての頃に、こんなカメラに出会っていたらすぐに手にとっていたと思います」(Kaitoさん)

一方、仕事でライブの撮影も行うJunさんは「本体がコンパクトかつ軽量で、機動性が高いのは利点。特にライブは1日中カメラを抱えて撮り続けるので、重量という負担が軽減されるのは良いですね。操作系の面でもダイヤルやほとんどのボタンが右手側に集約されて操作がしやすく、メニューがシンプルで直感的に使えたのもエントリーユーザーには優しい設計だと思います」

 

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小型・軽量なEOS R8の特性を活かして全編を手持ちで撮影

REC中のR8の画面。モニターに赤枠が表示されて逆REC対策にもなる。

 

ボタンもダイヤルも少なくシンプルな操作性でエントリーユーザーにも優しい設計。Qメニューで撮影に必要な設定は即座に呼び出せて、動画と写真の切り替えスイッチもわかりやすい。動画と写真で露出やホワイトバランス設定も分けられるため、ハイブリッドシューターにはおすすめだという。

 

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ストレスなく作りたいルックを追求できる

「このMVではあえて手ブレ補正をOFFにし、マニュアルフォーカスを使って、“完璧すぎない画”を撮ることで、主人公の気持ちの揺れ動きや、観る人が共感しやすい親近感のある雰囲気をつくっています。加えて、今回の撮影ではキヤノンのRF50mm F1.2 L USMレンズをメインで使用しており、このレンズはキレイなフレアや境界線の柔らかさ、ボケ感の表現が僕の求める世界観にもマッチしました。また、カラーグレーディングはDaVinci Resolveで行なっていますが、Canon Log 3は人物のスキントーンがキレイで、またノイズも少なかった。自作のLUTを使うことでクオリティの高い画がすぐにできて時短になりました」(Kaitoさん)。

クリエイターの作品へのこだわりをストレスなく表現できるルックが標準で備わっているのは、動画制作の初心者にとってもうれしいポイントだろう。

「Kaitoの作品は楽しい感情だけでなく、悲しさ、寂しさを表現して、観る人の共感を生むのが特徴です。そのクリエイターの頭の中にあるイメージを、具体的な表現に落とし込めるカメラだと感じました」(Junさん)

「動画には各メーカーの個性が表れるので、自分が求める表現に親和性のある画を形にしてくれるカメラを見つけることは重要です。その中でEOS R8は、多彩なルックを始め、幅広い表現に対応するカメラとしてぜひ多くの人に手にとってみてほしいです」(Kaitoさん)

 

Canon Log 3は自分が表現したい色を素直に再現してくれた

今回の作品では編集・カラーグレーディングはDaVinci Resolveを使用した。動画の圧縮はH.265。タイムラプス時のみALL-Iに対応するが、通常の動画記録はIPBとなる。Kaitoさんは2019年のMacBook Proインテルモデルを使用しているが、プロキシを使えば快適に編集できたという。

カラーグレーディングの画面。オリジナルのLUTを当てて、全体のコントラストをカーブで調整。最後に空の色相をティール(青緑)に調整している。屋外のシーンはLUTを当てればほぼイメージに近い色味になったので、最小限のグレーディングで効率的に作品づくりができた。

 

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