取材・構成=Heatin’ System 通訳=Dan Tanda Wilkinson

コスプレイベントの会場をSteadicamを担いで歩くビデオグラファーがいる。彼の名はマット・ペリッツァリ。プロ顔負けのハイエンドな機材でコスプレイヤーたちを撮影する参加者は少なくないが、そのほとんどがスチールの撮影で、彼のようにSteadicamを駆使してカメラワークにまでこだわっている参加者は他に見当たらない。今回は、自身のYouTubeチャンネルにハイクオリティなコスプレ動画を多数アップし、視聴者から人気を得ている彼の撮影現場に密着し、その舞台裏をのぞいてみた。

 

Matt Pellizari

カナダ出身。友人たちとゲームについて語るPodcastの配信をはじめ、YouTubeチャンネルも開設。現在は日本に在住し、CMやMV、グラビア映像などの制作を手がけながら、コスプレ映像を撮影している。

twitter
https://twitter.com/rtplostlink 

YouTubeチャンネル「Rescue the Princess!」で映像を配信している。
https://www.youtube.com/user/rescuetheprincess/

よく使う機材

カメラ ソニーα7s II
レンズ シグマ35mm F1.4 DG HSM、24-70mm F2.8 DG OS HSM、8-16mm F4.5-5.6 DC HSM
特機 ティッフェンSteadicam Pilot


▲愛機はα7s II。SIGMA Artシリーズの単焦点とズームレンズを組み合わせて使うことが多い。

▲MVのようなHS撮影とカメラワークにこだわるためSteadicamは必須。


▲コスプレ会場で異彩を放つ撮影スタイル。

 

COSPLAY VILLAINS

古今東西のヴィラン=悪役が夢の共演を果たす映像。各キャラクターのイメージショット、アクションシーン、炎を使った演出など、1日がかりで廃墟での撮影を行なった。コスプレイヤーたちはTwitterで参加を募ったという。

Staff&Cast
監督・撮影・編集⇨Matt Pellizari 撮影・助手⇨たけくる(T.K)、Netageo、メルコス SFX⇨NaThalang 音楽⇨Perturbator 出演⇨マイケル、こだま、きぬごし、昼行灯、ペペ、一之瀬雪乃、飛翔、ユリコタイガー、ハナ、NANA、ルナル、照井るゐ、安藤ねね、ひでΩ

 

WINTER COMIKET COSPLAY  SHOWCASE  COMIKET95

昨年末に東京ビッグサイトで開催された「コミックマーケット95(2018冬コミ)」の映像。ハイクオリティなコスプレを披露するレイヤーたちをドラマチックに撮影した。イベント系の動画は数十万回再生されることも珍しくない。

Staff&Cast
監督・撮影・編集⇨Matt Pellizari 音楽⇨Koven コスプレイヤー⇨茶々丸、JILL、シスル、ユリコタイガー、七星めろん、ケーキ姫、こう。、椿なぎさ、yami、伊織もえ、小柔、カモミール、神楽坂真冬、天津いちは、ロスト、なつ、皇瑛司、セリア ほか

 

「大好きなアニメやゲームの世界観を“リクリエイト”している感覚。コスプレイヤーさんと一緒に映像でしかで表現できないものを作りたい」

—— コスプレ映像を撮り始めたきっかけは何でしたか?

当時はカナダに住んでいて、好きなゲームについて語るYouTubeチャンネルをやっていたんです。ある日、ゲームのイベントに行ったらコスプレイヤーがたくさんいて、ちょっと面白いなと思って写真と動画を撮ったのがきっかけですね。そこで撮ったイベントのコスプレ映像もYouTubeにアップするようになって、いつの間にかコスプレ映像専門のチャンネルになっていった。

—— 日本在住はいつからですか?

ちょうど5年前ぐらい。日本の文化に興味があったからですね。特にアニメやゲーム。コスプレ映像は趣味だったんですけど、日本に来てからチャンネルを見てくれた人から仕事をもらえるようになりました。CM、MV、グラビア…今はいろいろやらせてもらっています。

—— アニメやゲームで好きな作品は?

「鋼の錬金術師」が一番お気に入りのアニメ。ゲームだと「ゼルダの伝説」「メタルギア」「ペルソナ」…。僕のコスプレ映像は大好きなアニメやゲームの世界観を“リクリエイト”している感覚なんです。だから同じアングルやカメラワークを再現してみたいという気持ちもあります。今はコスプレイベントの撮影だけじゃなくて、ひとつのアニメやテーマをリクリエイトするような作品も撮るようになりました。「Cosplay Cinematic」というシリーズで、YouTubeチャンネルにアップしています。

—— コスプレ映像を撮る難しさとは何だと思いますか?

日本に来た時、コスプレイベントで動画を撮ってる人がいなかったんです。「すみません、動画で撮らせてもらっても良いですか?」と聞いても、「ダメです」「なんで写真じゃないの?」と答える人も多かった。動画をNGにしているコスプレイヤーさんもいたみたいで、“動画は良くないもの”という風潮を感じましたね。でも、心の広いコスプレイヤーさんたちが「動画も面白いじゃん!」と言ってくれるようになって、今ではみんな僕のことを知ってくれているからラッキーな状況なりました(笑)。ただ、長い列ができている人気のコスプレヤーさんを撮りたいけど時間がない…そんなこともあるからイベントの撮影は難しいですね。

—— コスプレ映像のどんな部分が面白いと感じていますか?

例えば映画を見て「このショット真似したい!」と思ったら、それをコスプレ映像でやりたいし、ハイクオリティな衣装を見つけたらそれを撮ってみたいし…いろんな面白さがあって答えるのが難しいですね(笑)。いつも思うのは、コスプレイヤーさんは自分でコスチュームを作って、アニメやゲームのキャラクターになりきる“パッション”がすごい。それは僕も同じで、ビデオグラファーとして、コスプレイヤーさんとの共同作業で良い作品を撮りたいというパッションがある。写真だけでは表現できない表情とか動きとか、1+1が3にも4にもなるような映像を一緒に作っていきたいんです。

 

 

コスプレ映像をうまく撮影するコツ

 

1.コスプレイヤーから信頼を得る

動画に慣れていないレイヤーもいるため、まずはどんな映像になるのか理解してもらうことが大切。過去に撮影した動画を見せてから撮影を行うこともあるそうだ。

2.映像では“ダマせない”動きを演出

撮影の持ち時間が限られているからこそ、的確な指示が求められる。言葉の壁はあるが、ジェスチャーを交えて被写体の動きやポーズを細かく演出していく。

3.そのキャラクターの個性を知る

気になったレイヤーに声をかけていく中で、知らないキャラクターと遭遇する場合も。そんな時はレイヤー本人から特徴を教えてもらい、動きやポーズを決めていく。

 

▲映像に興味を持ってレイヤーが、一緒にモニターを見ながら確認することも。

▲被写体が複数いる場合は、動きのタイミングを詳細に決めていく必要がある。

▲コスプレイベントで撮影しながら、アニメやゲームの情報をインプットしていく。

 

 

ANIMEJAPAN 2019 COSPLAY SHOWCASE

日本最大級のアニメイベント「ANIMEJAPAN 2019」(3月23日〜26日@東京ビッグサイト)のコスプレショーケースを撮影した映像。限られた撮影時間とスペースの中で、カットを模索しながら作品に仕上げている。

Staff&Cast
監督・撮影・編集⇨Matt Pellizari 音楽⇨Yunomi コスプレイヤー⇨しらゆき、じんの、まゆう、KEISUKE、宮本彩希、りなしぃ、一之瀬雪乃、もか、望月もち子、ありかみう、泉れおな、天津いちは、ターニャ、アリア、カモミール、のたま。、えなこ、伊織もえ ほか

 

ビデオSALON2019年7月号より転載