2025年2月27日(木)から3月2日(日)までの4日間、パシフィコ横浜で開催された「CP+ 2025」。本記事では、そこで行われた玄光社のVIDEO SALONとCommercial Photoがプロデュースしたイベント企画「CREATORS EDGE Spring Edition」の高井哲朗さんのセミナー模様をお届け。2月28日(金)17:20-18:00にステージAで行われたこのセッションでは、何もない空間に被写体を置き、ライティングでその姿・形を描写するスタジオスチルライフ撮影、通称「ブツ撮り」についての「ゼウス高井哲朗によるすすめ」をレクチャーしていただいた。
レポート●武石 修

「商品撮影」は自分が神になれる遊び
ゼウスクラブへようこそ!
ここ4年くらいはコマーシャル・フォトで「ゼウスのスチルマジック」を連載していました。
短時間でどれだけ見せられるかわからないですが、ここで普段の撮影と一緒のことをしたいと思います。
外で撮影するのと違って、スタジオの中では完全にブラックボックスなんです。
光が無い状態の中、(照明機材の)光で演出をする。
その中で1つの世界を作るのがブツ撮りの魅力です。
それが創造主ゼウスのようなので「私がゼウス」ということになっています(笑)。
自分達で小さな世界を作る。
それはもう自分が神のように駒を動かして世界を作るわけです。
そこで1番肝心なのは光。
「スタジオの白い空間は何もない宇宙の始まり。光を操って宇宙を創造しよう」
ということなんです。
スタジオスチルライフはあなた方自身が神になる遊びができる世界だということです。
「偶然性」の大切さ

それでは連載で撮影した写真をいくつか紹介していきましょう。
こちらは化粧品ボトルの写真です。(PIC01)

鏡のようなアクリルを下に敷いて、そこに枠があって水が溜まるようになっています。
下が鏡だから上の商品が映り込む。(PIC02)

右の図がライティングのセット図です。(PIC03)
後ろの背景を照らしているバックライトが4灯あって、3灯にカラーフィルターを付けているんですね。
そして背景に模様があるんですが、それはLEDのスポットライトで作ってます。
どちらかと言うとストロボ自体は柔らかい光なので、全体的に広がってしまう。
だから強めのライトを近づけて、スポットライトとして当てています。
要するに立っている人にスポットライトを当てるような感覚です。
商品そのものに目が行くようにライトを当てます。
さらに花が暗くなっているので部分的にライトを当てます。
最後に影が薄くなるように天井バウンスで柔らかくしています。

最後の仕掛けとして、張ってある水を手で動かして波を作り変化を出しています。(PIC04)
なぜそうするのかというと、人間がものを動かすと決まりすぎてしまう。
それだけを撮っても面白くないし、普通の写真になってしまいます。
そこに神の力というか偶然性を取り入れる。
それが写真の面白さになるんです。
モデルに例えれば何かを揺らすとか、風を当てるとかすると表情が突然かわりますね。
だから、水面を揺らすことで動きが感じられるような写真になるわけです。
例えば「この化粧品は柔らかいでしょう」「ほんのり肌につけて柔らかな雰囲気になるような」
という物の奥に秘められたイメージを写真で表現する時に偶然性を利用するということです。
モデル撮影をしたことのある人ならわかると思いますが、モデルがポーズを決めたら撮ってしまいますね。
でもそれだけだったら面白くないですよ。
そこで、風を当てるだとか色々なテクニックを使うことでモデルの人間性が浮き立ってくる。
それが見ている人の心を動かすんですね。
イメージを膨らませて物語を作る

次は登山をイメージしたピッケルの写真です。(PIC05)
撮影は私のスタジオで、一緒に撮影をしたその回のゲストの人が持ち込んだテントの前に、
石を置いて山のイメージを作っていきました。


屋外にあるテントに光がほんのりあるというイメージです。(PIC06)
それが写真の背景になっています。それから靴ですが、寝るときに脱いだ靴という感じで、
ランタンからの光が当たっているようにピンスポットの光を入れました。
ピッケルをどこに入れようかと思って、「ピッケルは岩場だろう」ということで、石の上にピッケルを置きました。
ピッケルの色が暗いので、まずピッケルにハイライトのラインが出るよう一発入れました。
これには細長いバーライトを使っています。
靴の下の寝袋はたき火の光が当たるイメージで、石が置いてあるサイコロ(白い木の箱)に後からバウンスさせています。
これは気持ち当てるくらいです。
銀色のピッケルだとここまでライトを入れなくても良いんですが、黒いのでライトを入れないとエッジが出てきません。
なので右側からLEDでピッケルのギザギザの部分などを強調しています。
月夜のイメージでちょっと青い光にしています。

仕上げは、朝靄が出たようなイメージで偶然性のニュアンスをだしました。
カチッとした写真の中に少し偶然性をなにか入れたいと思いました。
そこで小型のスモークマシンで、白っぽく煙を入れています。
このとき、カメラの前にラップを貼って煙を散らさずに溜めておけるようにしています。
これで完成です。(PIC07)
実演:自由度の高いLEDライトを活用

さて、ここからはステージの上で、デキャンタを被写体にライティングの実演をしてみます。
使用機材は
・broncolorシロス400L 2灯
・Aputure INFINIBAR PB3 1灯
・amaran 300C 1灯
です。

乳白のアクリルボードをボトルの後ろに置いて、後ろからのライト1発で撮ってみました。(PIC08)
商品撮影はよくこういう状態で撮ります。
透過光でボトルのレリーフを際立たせるわけです。
透明物の基本的なライティングは背景から一発です。

次にサイドからソフトボックスでハイライトを入れます。(PIC09)
このバックライトとハイライトの2灯は、カタログやパンフレット撮影の基本的なライティングになります。
バックライトの方向を動かすことでボトルの立体感を調整できます。
画家がデッサンで自分の世界を作るように、ブツ撮りでも基本的な光の見え方を鍛錬すると写真の見極めができるようになります。
写真を劇的に変えようと思ったら光を変えることです。

今度はamaran 300CというLEDを使ってみます。最近のLEDは素晴らしいんですね。
かつてならストロボにカラーフィルターを何枚も付け変えなければならなかったのですが、LEDは簡単に色を変えられます。(PIC10)
価格もストロボより安いし、いろいろ遊べます。


バーライト(Aputure INFINIBAR PB3)は虹色に光らせられるのでこれをうしろからあててみます。(PIC11)
メイン光の色も変えると無尽蔵に色が作れるので面白いんです。

またこのように、バーライトは前に持ってきてエッジを入れるのにも使えます。
LEDは際限なく調整できるので見極める力が大切になります。
その目を養うのに商品撮影は一番効果的だと思います。
光と色を考えられるようになると自分の中に形ができる。
それがオリジナリティになります。
AIの時代には自分の個性を持っていないと生き残れないでしょう。

最後に小型のスモークマシンで煙も加えてみます。(PIC12)
この偶然性が面白いところです。
下に這わせるような部分的なスモークを作ることもできます。
動いているからタイミングが難しいですが、これが写真の一番面白いところです。
光を知って世界を広げる

少し時間があるので、連載の記事からバービー人形の撮影を振り返ります。
この人形はジュエリーデザイナーが飾り付けたもので、本物のダイヤも入っていて存在感のあるものです。

撮影は自分のスタジオですが、自然光のラインが壁に入っていました。
自然光なのでどんどん動くんですが、ちょうど目の位置に来た瞬間に撮影しています。
背景はLEDライトで紫にしています。
そして右の人形に左からカラースポットを当てています。
さらに右からボックスでメインとなる光を当てています。
最後にバックライトを入れて髪を光らせました。
スチルライフの考え方は、物を物として見ないでその奥でなにか物語をつくるようなイメージで撮影を進める。
そうするとブツ撮りの楽しさを感じられると思います。
表面的な写真だともうAIに負けてしまう。
物の奥を出そうとして撮っている写真家は生き残っていますね。
シャッターを押したら適当な光でも写る時代だけれど、光を知ればもっと面白い世界を作れます。
皆さんもゼウスになりましょう!

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Vol.2
「光を操るスタジオ・スチルライフ ライティングのアイデアと実践」