7月に愛知県岡崎市で実施された第4回目の「CREATORS’ CAMP」。3日間という限られた時間のなかで作品を1本完成させるハードな映像制作合宿ではあるが、リピートする参加者もいるほどの人気イベントだ。同行取材をして感じたイベントの魅力を4つのポイントとしてお届けする。

取材・文●編集部 伊藤

 

「CREATORS’ CAMP」はどんなイベント?

ソニーマーケティングが運営する実践型のワークショップで「チームで地域のPR映像を制作すること」がテーマとなっている。映像制作と本気で向き合いたい人を対象に参加者を募り、2泊3日のなかでゼロから企画・撮影・編集作業を進め、作品を完成させる。参加費は33,000円で、そのほかの交通費や宿泊費は参加者が個人が負担する。

 

①愛知県岡崎市からのオファー

  • クライアント:愛知県岡崎市
  • 依頼内容:自治体PR映像の制作
  • 納品物:動画コンテンツ1本(4K)
  • 動画尺:1~3分

②動画の内容の希望

  • クリエイティブな若者が集まる街になるように岡崎市の魅力を発信したい
  • ターゲット:日本各地に住んでいる人、訪日観光客
  • まだ知られていない岡崎の観光スポットを伝えたい
  • ひとつの街にグルメ、都市、自然、伝統が豊富にあることを伝えたい

 

1日目:開会、自己紹介、チーム決め、企画構想、撮影準備、クイズ大会

企画構想時のひとコマ。付箋を使いながら動画の構成を決めるチームも。

 

2日目:撮影、編集

35度を超える猛暑日のなか、岡崎市内の二七市(ふないち)を撮影中の様子。

 

3日目:編集、納品、講評会、結果発表、閉会

午前中は納品前の最終作業に各チームが追われた。ミスや作業漏れなどがないかでチーム全員で映像をチェック中。

 

ポイント1:ひとチームに1名! 講師からの手厚いサポート

このイベントのなかでは3日間を通して、3~4名で構成されるチームごとに講師が1名配置される。企画から撮影、編集といった制作の各場面で講師陣からアドバイスや手ほどきを受けることができる。

チームのメンバーと談笑する映像クリエイターのUssiyさん(左)。3日間のなかではYouTubeを中心とした活動のなかで培ってきた最後まで視聴される映像を作るためにできる工夫を伝授する場面も。
先日自身のYouTubeでドバイへの移住を発表した映像クリエイターのDINさん(右)。2日目のロケでは自らもカメラを手にしながら撮影のアドバイスをしていた。
カメラの使い方をレクチャーする映像クリエイター/シネマトグラファーのKai Yoshiharaさん(右)。
真剣な表情で映像をチェックする映像クリエイターのY2さん(左)。
編集時、タイムラインにアドバイスするD.O.P/フォトグラファーのRyo Ohkawaraさん。
クライアントワークとして観光PR映像をつくるために必要な要素を論理的かつ客観的に考え、企画に落とし込みべきとのアドバイスが印象的だった映像ディレクターのSHOTROKさん(右)。
今回が初参加となった映像ディレクター/ビデオグラファーENDAさん(左)。さまざまな映像を手がけてきたことで蓄積された経験とノウハウから各場面で的確かつ明快なアドバイスを授け、作品を完成へと導いていった。

 

 

ポイント2:クライアントワークを想定した機材を使っての映像制作

使用カメラはFX30で、今回は各チームに3台手配された。レンズは下記の5種類。参加者や講師たちからの声を参考に、カメラ台数やレンズ本数を中心した使用機材は回を重ねるごとに大幅に充実してきている。三脚以外にジンバルも用意され、画づくりにバリエーションを生むことができる。「普段はスマホでの撮影が中心だが、気になっていた機材を実践のなかで試す貴重な機会になった」という参加者の声もあった。

  

  • カメラ:FX30×3台
  • レンズ: FE 70-200mm F2.8 GM OSS II、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、FE PZ 16-35mm F4 G、FE 24-70mm F2.8 GM II、FE 50mm F1.4 GM
  • アクセサリー: MRW-G2、ECM-VG1、ECM-B10、ECM-W3、CEA-G160T
  • NDフィルター: Tilta Mirage Matte Box×2個
  • ジンバル:DJI RS 4 Pro Combo
  • モニター:ASUS PA279CV-J、
  • 三脚:Libec NX-100MC (平和精機工業)
  • アップル iPad
貸し出し機材の一部

 

ポイント3:チーム制作ならでは役割分担を体験できる

映像との関わり方や経験も異なるさまざまなメンバーでチームを構成するのが特徴の今合宿。2日目はおもにふたつのチームに同行したので、それぞれどんなスタイルで撮影を進めていったのか紹介する。

ENDAさんが担当したチームBは、自身でカメラマンやディレクターを担当するのははじめてという3人で構成。初日の打ち合わせによって、岡崎の新旧のコントラストをテンポよくリズミカルに見せる内容に。その分、必然的にカット数も多くなり、ロケ地も計10カ所と他チームと比べて随一の多さに。事前の打ち合わせでディレクターという役割を決めつつも、全員でカメラを回すことに。

初日の企画構想時にENDAさんからのアドバイスに耳を傾けるチームBのみなさん。
最初のロケ地・二七市(ふないち)にて。自身が本格的にカメラを回すのははじめてというメンバーがほとんどで、三脚の使い方を基礎から教えてもらいながら準備を進めていく。
狙った画を撮るためにどのレンズを使えばよいのか、焦点距離と画角の考え方をレクチャーしている場面。
2カ所目のロケ地は一隆堂喫茶室という喫茶店。営業中で店内には一般の利用客もおり、周囲に配慮しながらの撮影に。
ジンバルを使った撮影にもチャレンジ。店内の雰囲気が伝わるエクストラカットをおさえておく。
徳川家康の側近として仕えた徳川四天王像のある桜木橋付近での撮影風景。写真では見えないが、カメラ前には岡崎をPRする「オカザえもん」のマスコットをぶらさげ、後ろにある像と重ね合わせている。iPadをモニターとして使用し、両者がきちんと重なっているか細かく確認しながらカメラを回す。
マンホールのふたの真上にカメラを構え、ジンバルでカメラを回転させながらの撮影。高さや画面の中でのマンホールの位置を固定させる必要があり、苦戦している様子。映像をチェックしているメンバーが声をかけながらカメラ位置を調整する。
岡崎城に移動し、今度は徳川家の家紋を先ほどと同様の手法で撮影する。
ENDAさんから安定する持ち方の指導も。

チームBへの同行はここまで。全メンバーがカメラマンとして撮影に挑戦したチームBは、ENDAさんにサポートを受けながら必要な素材を撮りだめていった。細かい部分ではあるが、最初はとまどっていた機材の荷下ろしも数を重ねるごとにスピードが増し、そばで見ていて短時間の間にどんどん撮影に必要な知識を吸収している様子がうかがえた。

 

一方、午後から同行したチームEはディレクターやカメラマンとして映像制作をしてきた参加者が中心。突然現代にタイムスリップした侍が「涼」を求めて岡崎の各地を奔走するというストーリー仕立ての映像を企画し、3人のメンバーがそれぞれディレクター、カメラマンを担当し、2日目の撮影に臨んでいた。

講師のSHOTROKさんとサポートスタッフ高羽さんを含めたのチームEのみなさん。4カ所目のロケ地「男川やな」での撮影の様子。
自前の衣装を活用して侍に扮するメンバー。演技をするのはこれがはじめてだという。
撮影場所とシーン、セリフをまとめた字コンテのような資料を事前に用意し、撮影に入った。
左側に写る橋の上での演技を望遠レンズで狙う。
それをディレクター担当のメンバーが手元のモニターで確認し、OKかNGかを判断していく。演者の動きとカメラワークを合わせなければいけないショットで、何度かリテイクを重ねた。時間も人数も限られているためディレクターが各メンバーに大きな声で指示を伝え、現場をまとめる。
次に撮影したのはあゆのつかみ取りのシーン。上流からあゆを放流してもらい、水面ぎりぎりから全身が映るようカメラを回す。つなぎたいイメージの画が撮れるまで何度も繰り返す。
チームEの最終ロケ地である岡崎城に移動。
侍が雪駄で砂利を走る足音を収録。細部へのこだわりがうかがえる。
撮影のラストとなるのはトランジションでカメラの上をまたぐカット。SHOTROKさんがスタンドインし、飛び越え方のイメージを共有する。事前に細かく踏み切り位置や画角を確認したことでバシッと決まり撮影は終了!

冒頭で述べたように、チームEは縦割りで分業をしたうえで、それぞれが自分の仕事に集中するというスタイルだった。実務経験者がほとんどということもあり、実際の現場さながらの段取りと雰囲気で撮影が進行していった。

ここでは主に2チームの動きを紹介したが、チームごとに撮影スタイルはよってさまざま。ビデグラファースタイルでの撮影が多いためディレクター的な立ち回りを経験してみたいという参加者もいれば、そもそも写真から映像に挑戦してみたいと申し込みを決めた参加者や、普段はプロダクションマネージャーとして働いているが自身でも撮影に挑戦してみたいなど、これまでと異なる映像との関わり方ができるのもこの合宿の魅力のひとつだろう。

 

ポイント4:自らの作品に直接フィードバックがもらえる

3日目の昼に納品が完了すると、全チームの作品上映を行い、講評会と結果発表に移る。上映と講評会はチームごとに作品のアピールポイントを発表し、上映に入る。それを審査員が採点し、講評会で作品ごとにコメントしていくという流れで進行。

チームを受け持った講師からのフィードバックのほか、1チームにつき2、3名の審査員たちが作品のいい点/改善点を指摘していく。ディレクターとしての企画に対するコメントや、シネマトグラファーとしての撮影に対するコメントなど、各立場から率直な意見が飛び交った。

真剣な表情で作品を評価する審査員たち

たとえば、グラフィカルな画面構成で岡崎の水とそれを使用して作られる食品をアピールしたAチームの作品には、グラフィックデザイナーの経験もあるDINさんから評価とより見やすい画面配置にするためのアドバイスが。

Aチームの作品の一場面。飲料メーカーのCMをほうふつとするような自然風景を背景に、明治時代から続く老舗のうどんやあゆなどを大胆に配置し、難易度の高い表現に挑戦した。

さらに、戦国時代の武将たちがZOOM会議に参加しているというユニークなアイデアで魅せたチームGの作品の発想には複数の講師から評価の声があがった。

家康の家臣たちがZOOM会議の中で岡崎市の見どころを紹介していくチームGの作品。

大勢が見ているなかでの評価ということもあり、参加者にとっては緊張感が高まる瞬間。しかし、それ以上に映像クリエイターとして活躍している講師陣からプロ目線の忌憚のないアドバイスをもらえたことは、一連の制作過程を客観的に振り返り、次に活かすための貴重な機会になったであろう。

また講師たちが作品のなかのどんな部分に目を向け、何を理由に評価するのかを間近で感じられたことは、「映像の見方」という点でもそれぞれ参考になる部分があったはずだ。

 

栄えある優勝に輝いたのはチームF

今回、優勝に選ばれたのはFチームの映像。徳川家康を表した「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」の句をなぞらえ、「気づかぬなら 気づくまで待とう 岡崎市」というキャッチコピーを中心に、岡崎の魅力に気づかない人/気づいている人という対比で見せる企画力が評価された。

1位に輝いた喜びをかみしめるチームFのみなさん(中央4人)、サポートスタッフのレディオさん(左)、そして講師のUssiyさん。

 

CREATORS’ CAMPの詳細はこちら

特設ページ
https://www.sony.jp/ichigan/a-universe/creatorscamp/

ソニー株式会社
https://www.sony.jp/