ニコンのAPS-Cセンサー(DXフォーマット)の中級機、D7500が発売された。ニコンのデジタル一眼動画機能(Dムービー)は画質の評価も高く、機能は着実に進化しているのだが、動画ユーザーの間でそれほど浸透しているとは言い難い。動画ユーザーが今これから選択するDSLRとしては、ソニーα7S IIを筆頭に、パナソニックGH5、ソニーα6500あたりで決まりといった感があり、そこに富士フイルムのX-T2やオリンパスOM-D E-M1 Mark IIが食い込んでくるという構図ではないだろうか。DSLRの雄である、キヤノンとニコンについては、これまで使い続けてきたレンズ資産があって継続して使っているユーザーは多いが、動画機能についてはソニー、パナソニック、富士フイルムといったミラーレス陣営の後塵を拝している状況である。

キヤノンについてはEOS MOVIE(5D Mark IIやMark III)でこのジャンルを作ってきたメーカーでありながら、フルHD/60p対応や4K対応、Logなどで、ソニー、パナソニックに遅れたとったこともあり、物足りない思いをしている人は多いはず。

ただ、ニコンについては、いちはやく1080/60pにも対応したり、HDMIからの出力も実現したり、4K記録にも対応するなど、キヤノンより積極的にムービーに取り組む姿勢を見せている。4Kムービーについては、昨年春にフルサイズ機(FX)のD5、APS-C機(DX)のD500でドットバイドット(クロップされる)で、4K/30pでの本体記録を実現。さすがにLogは搭載していないが、その前から動画撮影に向いたFLATモードを採用しており、このモードはたしかに動画時に使いやすい。

今回登場したD7500は、D500の動画機能とほぼ同じである。だから動画機能優先であれば、より廉価なD7500のほうがお買い得と言えそうだ。実売からすると、α6500と同じような価格帯である。今回、参考にするために手元にあった富士フイルムX-T2と撮り比べてみることにした。価格はX-T2のほうがやや高めだが、APS-Cセンサーで、4K/30pまでのカメラということでは位置付けは似ている(本来はα6500と比較したいところだが)。

では、まず動画撮影メニューを見てみよう。

ニコンのDSLRは、動画撮影メニューが別に分類されていて、動画ユーザーにとっても設定がわかりやすい。動画撮影時は、ライブビューはレバーをムービーのほうにしておき、ボディ右下のLVボタンを押すと、光学ファインダーはブラックアウトして、液晶パネルに映像が映し出される。RECボタンは本体上部の人差し指で押す位置にある。

画像サイズ/フレームレートをみると、4K(UHD)の30pを選択できるようになっている。このあたりはD500と同じだ。もちろん1920/60pも選択できる。

ピクチャーコントロールは動画向きのフラットモード(FL)が使いやすい。ピクチャーコントロールは静止画と動画を別に設定できるので、たとえば静止画はスタンダード、動画はフラットという設定もできる。

メニューに入らなくても、iボタンを押すと、動画時であれば、動画関連の機能を呼び出すことができる。画像サイズ/フレームレートもiボタンから変更が可能。

マイクレベルもiボタンから入って、オートとマニュアルの切り替え、レベルの調整が可能。きちんとレベルメーターも表示される。

ゼブラ機能はないのでだが、白とびを警告するハイライト表示機能がある。表示の輝度レベルをこまかく設定することはできないが、DSLRのモニターサイズであれば、基本的に白とびを監視するという使い方をする人が大半だろうから、これは問題ないだろう。これもiボタンからON/OFFの設定ができる。

D7500の液晶はタッチパネルタイプになっており、フォーカスはタッチAFが可能なのだが、ピントを合わせる動作でどうしてもレンズが前後に大きく動いてしまう。撮影中にも操作できるのだが像の動きと音が入ってしまうので、実際には事前に合わせるための機能。このあたりは、キヤノンのデュアルピクセルCMOS AFとキヤノンレンズの組み合わせのほうが優れている。

ニコンDムービーではAFに頼るよりもマニュアルでのフォーカス合わせ操作が快適。ボディ左側にある拡大ボタンで拡大表示できる。拡大したときの画像品質が高いので、フォーカスを確実に合わせることができる。しかも、ハイライト表示も反映されている。

今回、D7500を使ってもっとも好印象だったのが深くしっかり握れるグリップ。これは特に動画用ということではないのだが、とにかく持ちやすいのだ。この辺りは個人差があるので結論を言うのは難しいのだが、気になる人はショールームやショップで実際に手にとってみてほしい。

そして、大きく手前に出てくる液晶パネルも良い。デジタル一眼レフの場合、ミラーレスのようにファインダーでの動画撮影はできないので、モニターは液晶パネルのみになってしまうが、このグリップと液晶パネルの組み合わせは撮影ポジション的にも安定している。あとは晴天屋外でのモニタリングをどうするのかは問題として残る。

APS-Cのミラーレス機、富士フイルムX-T2と比較してみる。サイズというよりもボディに対する考え方がまったく異なり、X-T2はできるだけボディをコンパクトにしかもフラットにしようとしているのに対して、D7500はグリップ重視。X-T2の場合、動画撮影ではボディの下にパワーブースターをつけないと29分までの撮影ができないので、その状態だと運用上はサイズの差はあまりないかもしれない。

 

D7500のスタンダードとフラット

D7500とX-T2を同じ条件で撮り比べてみた。D7500はキットレンズ(18-140 VRズーム)、X-T2は、XF18-135mmとタイプの近いズームレンズを使用した。ピクチャーコントロールのスタンダードとフラットを比較してみる。

⇩D7500のスタンダード(4K UHDムービーからの1コマ切り出し。掲載するためにjpgで圧縮しています。以下同)

⇩D7500のフラット(4K UHDムービーからの1コマ切り出し、以下同)

これに対して、X-T2だが、動画向きのフラットなモードというと、Log(F-Log)はあるのだが、これはSDカードに内部記録できず、HDMIからの外部出力しかできない。フィルムシミュレーションはどれも静止画を想定しているので、かなりコントラストは高めである。そこで一番柔らかいネガスタンダードを選ぶがそれれでもまだ硬い。シャドウを-2、ハイライトも-2、シャープネスを一番下げてこれくらいになる。コントラスト感でいうと、D7500のスタンダードとフラットの中間くらいといったところ。ぜひX-T2本体内でのLog記録ができるようになってほしい。

⇩X-T2 ネガスタンダードから調整

猫のポーズが違うのはご了承いただきたい。

4KとHDの画角の違い

D7500は4Kはドットバイドットなので、フルHDに対して画角は狭くなる。それはどれくらいなのかも見てみた。

⇩屋外でD7500の4K撮影(フラットモード) 非常に精細で、輪郭に不自然な強調感はない。

⇩D7500のHD撮影(フラットモード)ズームレンズのズーム位置は変えずに、HDに切り替えると、こういう画角になる。かなり画角の変化は大きい。もっとも高倍率ズームの中間位置であれば、調整も簡単だが。

⇩X-T2 HD(ネガスタンダード) X-T2ではどうかというと、まず先にHDを。フィルムシミュレーションはネガスタンダードから調整した状態。すべてオートホワイトバランスだが、緑の発色が違うのが印象的。

⇩X-T2 4K(ネガスタンダード)ズーム位置を変えずにX-T2の4K。わずかに狭くなるが、D7500ほど差は大きくない。

⇩X-T2 4K(プロビア)ちなみにX-T2でスタンダード(フィルムシミュレーションのプロビア)にするとこういうトーンと色の調子になる。ただしシャドウ、ハイライト、シャープネスは同じ調整をしている。

D7500とX-T2の4Kを同じ条件で撮ってみると、解像度的には同等で、どちらも輪郭は素直ですっきりとクリーンな4K映像という印象で好ましい。

D7500のフラットモード

X-T2のネガスタンダードから調整。D7500のフラットに対してややコントラストが高く色が乗っているだけで割と近いイメージ。調整でどうとでもなるレベルだ。

 

4KとHDでの高感度時のノイズと解像度

4Kカメラの中には、HDにするとガクッと解像度が落ちてしまったり、極端にSNが悪くなるカメラもあるが、この2モデルは、HDにしても本来の解像度を保ち、ノイズが増えることもない。特にD7500のHD映像はきれいな印象を受けたので、4KとHDでそれぞれISOを上げていって、ノイズと解像度がどう変化するかチェックしてみた。明るさはシャッタースピードで調整している。

以下の映像は当然オリジナルではなく、軽くするためにMP4で書き出し、さらにYouTubeにアップした段階でノイズの見え方はかなり変化してしまっているのだが、それでも実際に使う用途としてYouTubeにアップする用途が多いとしたら、これは現実的なテストかもしれない。

ISOはどのあたりまで使えるか、ということは被写体、用途、評価する人、視聴する画面によって大きく変わってくるが、ここではMacBook Proの15インチのRetinaディスプレイでみる限りという但し書きをつけたい。したがって、50インチの液晶テレビで見れば、もっと辛口評価になるが、2台並べて比較し、かつ同じ条件で4KとHDを撮り比べれば傾向は見えてくる。

D7500の4KはISO1600までは◎、3200までは◯、6400はぎりぎりOKかどうか微妙なところなので△、ISO12800はノイズが増えかなり甘くなるので、15インチ液晶でもすぐに分かるレベルだから×。逆に言えば6400あたりまでは解像度を保っている。一方X-T2の4KはISO1600までは◎、3200までは◯、6400も◯をつけられそう。12800が最高ISOなのだが、当然ノイズは増えているが解像度がそれほど落ちない。D7500とX-T2の4KムービーはISO1600までは互角だが、高感度になるとX-T2が良い。とはいえその高感度とはどれくらいのことを言うのかが問題で、1600、3200あたりであれば甲乙つけがたいと思う。

HDにしても、前述したとおり、両者とも印象が悪くなるということはない。D7500はISO1600までは◎、3200は◯、6400は、4Kよりもノイズが少なく見えるので、◯〜△といったところ、12800は△〜×。やはり実写で思った通り、HDにしたほうがS/Nという点では若干良い。X-T2のほうも途中までは大きく印象が変わることはなく、ISO1600までは◎、ISO3200は◯、ISO6400も◯なのだが、ISO12800になるとノイズが目立つ。4Kでもノイズがあるのだがより4K時はノイズが細かく、HDではそのノイズのサイズが大きいという印象。X-T2は4K映像のクロップも小さく、高感度時のS/Nもいいので、極力4Kを使用して、HDの場合でもダウンコンバートして使いたいカメラだ。D7500はクリーンな4K映像はとても魅力的だが、画角が変化せず、高感度時のS/NがいいHDが使いやすい。

この2台、4Kムービー、HDムービーともに魅力的なカメラだった。

ニコンDムービーの画質の実力はD810、D750、D500と受け継がれているもので、画質そのものは文句のつけようがない。ニコンの魅力はレンズの良さにもあるのだが、実は動画で足をひっぱっているのはレンズのAF動作である。どうしてもフォーカスを合わせる動作、ウォブリングを解消することができない。動画におけるAFを改善しようと思ったら、キヤノンのようにセンサー側にデュアルピクセルCMOS AFのような技術を導入し、さらにレンズの設計も変えていかなければならない。すでに市場に出ているレンズを一気に塗り替えるわけにはいかず、簡単にできる話ではないだろう。ニコンで動画を撮る場合は、AFの追随は諦め、事前にしっかり合わせるか、マニュアルで合わせることになる。しかし、それは動画のプロフェッショナルは普通に行なっている作業であり、本格的に動画に取り組む場合には足枷にならないだろう。

ファミリームービーで、ウォブリング動作が映像に入ってしまっても気にしないという使い方であれば、どんどん液晶で被写体をタッチしてフォーカスを合わせ直せばよい(ただしレンズの駆動音は入る)。

また、D7500はHDMIからは録画可能な4K信号を出力しながら、本体で記録しつつ、アトモスNINJA FLAMEなどの外部レコーダーで4K記録することができる。しかも本体の液晶パネルにも映像を表示することができる。D7500は、画質の良さ、フラットモードの扱いやすさ、ボディの使い勝手からして、もっと映像制作現場で使われていいカメラだと思った。

今回は手ブレ補正までは検証できなかったが、次回機会があれば、α6500と比較したり、手ブレ補正も比較してみたい。(編集部)