4月にラスベガスで開催された国際放送機器展NAB Showで発表され、話題を集めたDaVinci Resolveのコンパクトなコントロールパネル・DaVinci Resolve Micro Color Panel(Micro Color Panel)。日頃は最上位モデルのAdvanced Panelを使いこなし、CMや映画作品などの分野で活躍するカラリストの小林亮太さんの目に、このMicro Color Panelはどう映るのか? 実際に使ってもらい使用感をレポートしてもらった。

テスト・文●小林亮太(オムニバス・ジャパン)

Micro Color Panelのキー配列と操作感

Micro Color Panelのキー配列。

新しいカラーグレーディング用のパネルとしてDaVinci Resolve Micro Color Panelがリリースされました。サイズは横幅364×奥行き182mm。重さ1.18kgと小型軽量ながらも、3個のトラックボールと、12個のノブ、40個のボタンが配置された本格仕様になっています。また、上部にはiPadを立てるためのスリットが作られており、DaVinci Resolve for iPadを使用する際はコンパクトな設計で作業ができるようになっています。接続はUSB-C、Bluetoothに対応しており、とても簡単にセッティングが可能でした。

Micro Color Panelのトラックボールとリング。

トラックボールとリングは、かなりしっかりとした作りになっています。Advanced PanelやMini Panelのものと比べると、小型化されていますが、ボールの高さもほどよく、リングには刻みが彫られているのでしっかりとグリップして操作できる構造になっていました。


パネル上部に配置されているノブの高さは低めですが、程よい大きさになっていて、回転させる時に特にストレスは感じませんでした。iPadを立てる用のスリットに指がちょうど収まってホールドできるのが、個人的には使い勝手が良かったです。また、iPadをスリットに立てて使用する際は、使用頻度の高い「Saturation」のノブを使いやすくするために左詰めいっぱいで設置するのが良いと思います。


パネル右側には走行系のコントロール、ノードの移動、リファレンスの移動などのキーが設置されており、左側にはコピー、ペースト、UNDO、REDO、ノードのデリートやDISABLEなどが並びます。Advanced Panelでも似たような配置になっているキーも多いため、感覚としては把握しやすかったです。


また、左隅に設置されたSHIFT UP/DOWNキーと併用することで、同じキーに最大3つまでの機能が登録されているので、40個のボタン以上の操作が可能になっています。さらにWipeと画像の位置&サイズ調整もこのSHIFT UP/DOWNキーを押しながらトラックボール/リングで操作できます。


キーのストロークはかなり軽めの押し心地でした。長時間作業でもそれほど疲れを感じることはなかったです。各ボタンにはバックライトが付いているので、暗所でも確認しながらの作業が可能になっています。また、OFFSETやDISABLE、PLAYSTILLなどは押された状態で、色が変わる仕様になっているため、状況を把握しながら安全に作業できるようになっています。Micro Color Panelは基本的にプライマリーカラーグレーディングで使うパラメータを調整することをメインに設計されているので、セカンダリーを使用した細かな作業をする場合は、マウスでの調整が必要になります。

Micro Color Panelだけでどこまでの操作ができるのか?

今回はMicro Color Panelだけで作業をどこまでできるのかを見てみたく、映画案件でカットの合わせ作業をどんどん進めることを想定して検証してみました。カットの移動や、ノードの移動、オン/オフ、リファレンスとの見比べなどよく使う操作は、パネルに一通り揃っているため、慣れればマウスをほぼ使わないで作業することが可能でした。


オススメの操作が「SHIFT UP+AUTO COLOR」キーを押すことで、ふたつ前のクリップで設定したグレードを適用できることです。会話シーンなどカットバックで人物が交互に編集されている時に、この機能が活躍してくれます。ちなみに「SHIFT DOWN+ AUTO COLOR」キーを押すと、ひとつ前のクリップのグレードを適用できます。両方とも僕がカラーグレーディングの作業で、普段からよく使う機能なのでこれらの機能が搭載されていることは、とても助かりました。

SHIFT UP+ AUTO COLORキーを同時に押すと、2つ前のクリップに施したカラーグレーディングの効果を適用できる。

OFFSETボタンを押してOFFSET、TEMP、TINTを操作するモードへ切り替えてみたり、「SHIFT UP+OFFSET」でプライマリー↔︎Logモードへの切り替えを駆使しながら操作してみたのですが、必要なボタンがすべて最外周に設置されているので、手の置き所が決まってしまえば、スムーズに作業ができました。Micro Color Panelでは、HDRホイールにダイレクトにアクセスできないため、プライマリーとLogを使用して作業することにしましたが、HDRホイールツールへの切り替えもできると個人的には最高だと思っています。ただ、ツールをマウス操作で選択して切り替えてしまえば、トラックボール/リングを使用しての調整はできるので、その手間を惜しむかどうかですね。


また、トラックボールとSHIFT UPキーを使ったワイプ操作に関しても、似たような操作をAdvanced Panelでもしているので、Micro Color Panelの操作に慣れれば使いやすいと思いました。ただ動作の配置が違うため、両方を使っていると混乱するかもしれません。Micro Color Panel ではGainトラックボール/リングでワイプのパン&ティルト/Sizeの調整ができ、Advanced  Panelではオフセットのトラックボール/リングをWipe調整モードにするとワイプのパン&ティルト/Rotateの調整ができるようになっています。

物足りなかった点としては、キーのリピート機能がないので、画をコマで送りたい場合はNEXT/PREV FRAMEキーを連打する必要があります。キーは軽いのですが、連打するのは流石につらいため、ここは改善を望みます。また、作業時はリファレンスとして、ギャラリーにスチルした画像だけでなくオフライン映像を比較で見ることが多いのですが、リファレンスの切り替えがボタンに登録されていないことや使用頻度が多いAppend Node Graphが登録されていないことなどが個人的には残念でした。ただ、現在は使用できないUSERキーが将来的にアップデートされて、好きなコマンドをアサインできるようになるそうなので、そのタイミングでこうした点は解消できるかもしれません。この辺りが解決されると、オペレーションを体得すればキーボードなしでもスムーズに作業できるポテンシャルを秘めていると思いました。

また使ってみて感じたのが、DaVinci Resolveのソフト内の設定をユーザー自身がMicro Color Panelで使いやすいように検討する必要があるということです。カットを移動した時に、どのノードにいるかという設定や、パラレル/レイヤーノードをノード移動で選択できるかどうかといった設定など、細かな部分を詰めていけば、より使い勝手は上がると思います。

DaVinci Resolveのカラーの設定で細かく挙動を設定していけばMicro Color Panelの使い勝手をより向上させることができる。

Micro Color Panelは小型ゆえに作業に没頭できる環境を作りやすい


Micro Color Panelの最大の利点だと感じたのが、小型省スペースがゆえの拡張性を秘めていること。そして、作業に没頭できる環境を作りやすいことです。普段使用しているAdvanced Panelよりも狭い範囲にトラックボール、ボタンが配置されていることによって、手を動かすストロークが狭くなり、とてもスピーディーに作業することができました。また、パネルの奥行きが182mm、一般的なキーボードも140mmくらいなので、手前に腕をおくスペースをとったとしてもモニターまでの距離をかなり近づけることができます。モニターとの距離感が近いことで細かな部分まで確認がしやすいこと、集中して作業できることが最大のメリットだと感じました。


Micro Color Panelはパネルだけでもかなりの操作が可能ですが、セカンダリーの機能面が弱いので、監督やカメラマンとのセッションで、細かな作業をする部分ではAdvanced Panelには及ばないのですが、たとえば立ち会いのない仕込み作業で黙々と作業するような環境ではとても有効だと感じました。今は昔ほどキャリブレーションに関してもハードルは高くないため、きちんとしたキャリブレーションを行なったPCモニターやiPad Proのリファレンスモードなどで使用すれば色に関しても信頼して作業ができる環境を作ることができるはずです。

その他、キーボードショートカットを登録できるデバイスなどと組み合わせるなど、小型な部分を生かして、より自由にカスタムできるので、まずはMicro Color Panelでどこまでできるかを理解して、個々人が足りないと感じるものを足していくことでオリジナルの環境を検討するのが良いでしょう。

◉製品情報
https://www.blackmagicdesign.com/jp/products/davinciresolve/panels#micro-color-panel