レポート⚫︎宏哉
Deity Microphones は映像制作の現場で活躍するマイクなどを中心に製品開発をしている中国の音響機器メーカーで、照明機材で有名なAputure社の兄弟ブランドだ。
Inter BEEへの初出展は2019年で、ミラーレス一眼カメラなどに搭載する小型のクリップオンマイクなどを販売。パーツやケーブルなどにブランドカラーの山吹色をあしらった特徴的な製品を展開している。
今回は、Deityから登場しているタイムコードギアについて紹介する。
編集部注
第1弾として、ワイヤレス・タイムコード・ジェネレーターのTC-1と、ステレオ収録可能な小型の音声レコ—ダーPR-2を取り上げます。なお、展示会では、ラベリアマイクで使用するデジタルワイヤレスマイクロフォンステム、THEOSが参考出品されているが、技適(技術基準適合証明)が取得された段階でレポートします。現在のところ2024年末くらいを予定されているようです。
Wireless Timecode Generator “TC-1”
TC-1 は小型軽量で正確なタイムコードを生成するワイヤレス・タイムコード・ジェネレーター。複数台の TC-1 ユニットを揃えることで、様々な映像・音声機器のタイムコーを同期させることができるギアだ。
映像制作におけるタイムコードの重要性というのは、ビデオサロン 2023年10月号でも説いているため、ぜひそちらも参照してほしいのだが、複数台のカメラや録音機材を用いた撮影環境で、タイムコードは時間軸を司る映像制作の指標だ。
TC-1 は手のひらサイズ…もとい指でつまめる 53.4×40×21.8mm の大きさで、本体重量も41gと軽量。充電式のリチウムイオンバッテリーが内蔵されており、3時間ほどのフル充電で24~28時間の駆動時間を確保する。
本体には1インチの有機ELディスプレイと1ボタン+1ダイアル を備えるシンプルな作り。その他にタイムコード入出力用のロック機構付き 3.5mmφ TRSジャックと充電・アップデート用の USB Type-C 端子をひとつずつ備える。
ひとつの TC-1 を Master(親機)にして、他の複数の TC-1 のタイムコードを同期できるほか、DEITY製品専用アプリの Sidus Audio を使って、スマートフォンから登録済みの TC-1 を一気に同期させられる。スマホを用いる場合は、TC-1本体は電源をオンにする以外に操作は不要だ。スマホからの同期操作はとても便利で、スマホが取得している現在時刻(リアルタイム)をプリセット値として TC-1に送り込めるので、ユーザーがいちいち現在時刻を打ち込んだり腕時計とにらめっこしながら操作する必要がない。
対応するフレームレートは23.98/24/25/29.97/29.97DF/30/50/60 fpsとなっており、クロック精度は 72時間で1フレーム以下を謳う。
バッテリーの持ちとクロック精度から、その日の朝のセッティング時にTC-1 を起動し、使用する全TC-1 のシンクを合わせてしまえば、その日一日は電源入れっぱなしで再同期不要の運用が可能だ。
その後はカメラなどのタイムコード入力端子に接続するだけ。接続ケーブルは購入するキットによって変わってくるが、TRSコネクタタイプの他、オプションでBNC端子やARRI や RED などの本格的なシネマカメラに対応する Lemoコネクタータイプ、キヤノンEOS R5C やソニーFX3/FX30 対応の専用ケーブルなどもオプションで用意されている。
業務用のビデオカメラや、ハイエンド製品であれば外部タイムコードに対応する機種は多いが、そうした外部タイムコード入力を持たないミドルレンジやエントリーモデルなどでも TC-1 は活用できる。
TC-1 が出力するタイムコード『LTC』は、中身はアナログの音声信号である。そのため、音声として記録した LTC の信号を元にしてタイムコードをデコードすることが可能だ。TC-1 のタイムコード出力をカメラのマイク入力から音声データとして記録し、対応するノンリニアソフトや専用のアプリを使って、その音声データをタイムコードとして利用することができる。
その場合、カメラの音声データが音声タイムコード信号で埋まってしまう心配があるかもしれないが、TC-1 には内蔵マイクが用意されており、このマイクがカメラマイクの代わりに周囲の音声を収音してくれる。実際に記録されるのは、音声の左トラックにタイムコード、右トラックに TC-1の内蔵マイク音声となる。簡易的ではあるが、まったく現地の音声が記録されないよりは安心だろう。
筆者は現在8台のTC-1を所有し、撮影現場で使用している。イベント収録などで複数台のカメラはもちろん、ビデオレコーダや録音機器など使用する全ての機材でタイムコードの同期が行えるため、素材管理や編集での同期が大変にスマートになった。
PR-2 Stereo Pocket Recorder
PR-2 はステレオ収録可能な小型の音声レコ—ダーだ。大きさは 58×55×18mmで、重さは40g。ワイヤレス伝送の機能はなく、単体のレコーダとして利用する。
収録ビットは24bitと32bit Floatが選択でき、micro SDカードに記録。録音時間は16GBのカードの場合32bit Float利用時にモノラルで22時間の収録が可能だ。
音声の入力には、マイクレベルとラインレベルの両方に対応。ラベリアマイクの W.Lav Proが付属する。
昨今、32bit Float の録音機器は珍しくなくなってきたが、PR-2 を特徴付けるのは、またしてもタイムコードへの対応だろう。PR-2自体がタイムコードジェネレータの機能を有しており、内部でタイムコードを生成できるほか、そのタイムコードを外部に出力して同期(JAM)させることも可能。例えば、撮影に使うカメラがタイムコード入力可能な機種であれば、PR-2 で生成したタイムコードを入力することができる。反対にカメラのタイムコードを PR-2に入力して同期することも可能だ。
また、TC-1 や アプリSidus Audioとの連携もでき、他の撮影・録音機器とタイムコードが同期した録音ファイルを作ることが可能。
Sidus Audio を使うことで、遠隔での録音や再生、PR-2の設定などを行える。
個人的に面白いと思ったのは“AI SmartLvl”という機能。説明書によると、AIによるゲイン調整機能らしいのだが、実際に使ってもみると「ノイズキャンセラーなのでは?」と思えるような成果を出す。
“AI SmartLvl”を選ぶとマイクのアイコンが表示され、そのアイコンを選択実行するとIdentifying…と表示され、3秒ほどかけて PR-2の周囲の環境音を認識する。この時、録音したい人物の声などは発しないようにする。
環境音の認識が終わってから録音を行うと、全体的なノイズレベルが下がり、声だけが明瞭に収録されるようになる。空調が効いていたり、パソコンが稼働しているなど雑音がある環境で使用すれば、ノイズリダクションを行なったような効果を得られた。
ワイヤレスマイクシステムの場合は、受信機をカメラに取り付ける必要がある。しかし、PR-2は単体のレコーダのため、カメラ側に受信機などは不要で、撮影機材をコンパクトにできる。さらにタイムコード同期を活用することでスマートな撮影環境を作ることができるだろう。
Deity Microphones https://deitymic.com/