みなさんは日頃の撮影において「タイムコード」をどれほど意識しているだろうか?『タイムコード・ラボ』という屋号を掲げて、テレビ制作やイベント配信、ビデオパッケージ制作などの映像技術の分野で、カメラマンやスイッチャー業を生業とする宏哉さんがいま注目しているタイムコード機器を紹介する。

レポート◉宏哉   協力◉アスク・エムイー

タイムコードの基礎知識についてはこちらのWEBページを参照

タイムコードの設定は、大きく分けてふたつの設定を考える必要がある。ひとつは DFかNDFか、そしてREC RUN(レックラン) か FREE RUN(フリーラン) か。タイムコードの基礎知識と設定については以下を参照。

https://videosalon.jp/howto/timecode/

タイムコードは映像制作の大切な裏方

映像制作においてタイムコード(TC)は、映像の絶対番地だ。時間軸でデータを扱う映像制作では何時何分何秒何フレームにどういった映像が映っているのかというのは、重要な情報であり、制作をスムーズに進めていく上での陰の立役者だと言っても良い。TCがないと、複数のカメラで撮影した映像や音声の同時性を把握するのが難しかったり、クライアントとメールのやりとりで修正箇所などを確認するのが困難になる。TCは撮影の現場から編集・完パケまで、常に映像制作を裏で支えているのだ。

UltraSyncシリーズ

今回紹介するATOMOS社のUltraSync ONEとUltraSync BLUEはタイムコードの活用環境を大きく変えてくれるアイテムのひとつだ。UltraSyncシリーズはワイヤレスタイムコード製品で世界をリードするTimecode Systems社が開発し、現在は ATOMOS 社から販売されている。

最大の特徴は小型軽量でワイヤレスでのタイムコード同期を可能としていることだ。またTC専用の入力端子を持たない民生機器であってもフリーランのTCを入力してマルチ収録システムに組み込めるソリューションでもある。

UltraSync ONE

ATOMOS / UltraSync ONE 61,600円

55mm x 44mm x 17mm /質量 39g という小型軽量設計のため、ハンドヘルドカメラやミラーレス一眼カメラなどの小型カメラにマウントしても邪魔にならないサイズ感。手に持ってみるとマッチ箱大のサイズで重さはほとんど感じないぐらいに軽い。本体には、ダイバーシティアンテナが内蔵されており約200mの範囲で安定した電波の送受信が行える。また小型軽量にもかかわらずバッテリーは25時間以上保つということで、1日中撮影を行なっても充電残量を気にせずに使用できる。

▲視認性の高い OLEDディスプレイを搭載し、シンプルなメニュー操作で各種内部設定が可能。

UltraSync ONE はタイムコード端子を持つ機器との有線接続でタイムコードの同期を行える。そして UltraSync ONE 同士をワイヤレス同期させることで、撮影・収録機器同士もワイヤレスでタイムコードの同期が可能になる。UltraSync ONE 同士の同期は RF (Radio Frequency) 信号で行われており、Wi-FiやBluetoothの周波数帯ではなく「920MHz帯近距離無線」といわれるバンドを使用する。そのため他の電波機器と干渉しにくく、安定した信号の伝送が可能になっている。なお、国内代理店の株式会社アスクが取り扱う UltraSync シリーズは、すべて技術基準適合証明取得済みのため、免許や申請が不要で、安心して使用できる。

UltraSync ONE は外部機器からTCを受け取って、それを各機器にワイヤレスで同期させることもできるし、UltraSync ONE自体がタイムコードジェネレーターとなってTC管理の中核を担うこともできる。

通常の使い方であれば、親機(Server)となるUltraSync ONEを1台設定し、残りのUltraSync ONEは子機(Client)に設定。使用する全機のRF周波数の国/地域とRFチャンネルの設定をそろえておく。

あとは、親機でTCの初期値やFPS(フレームレートと DF/NDF)などの設定を行えば、自動的に全子機とTCの同期が行われる。UltraSync ONE の親機からは常に RF にTC信号を乗せて発信しており、その電波の圏内にいる子機はその電波からTCを同期させる。もしも圏外になっても子機の内部タイムコード(フリーラン)に切り替わりTCの出力を継続できる。そして再び親機の圏内に戻ると、親機からのTC信号に同期する。なお、子機の台数制限はなく、1台の親機に対して無制限に子機を増やすことができる。

UltraSync ONE 本体には カメラやレコーダーなどと繋ぐための DIN 1.0/2.3コネクタが備わり、専用のケーブルが用意されている。DIN 1.0/2.3コネクタはロック機構を備えるため、不用意にケーブルが抜けることがない。

同梱のケーブルは、DIN 1.0/2.3コネクタ to BNC変換ケーブルになっており、業務用機器との接続に対応する。また別売りアクセサリーで 5pin Lemo・XLR・3.5mmミニジャックなどの変換ケーブルも用意されており、様々な機器に対応可能だ。

また、業務用機器や一部のハイエンド機のようなTC入力機能を持たない民生機器、エントリー/ミドルレンジのカメラでも、その音声トラックにTC信号を入力するという方法で、TC同期が必要なシステムに組み込むことができる(AUX TC)。もともとタイムコード(LTC)信号はアナログ音声信号の一種である。そのため、専用のタイムコードデータとして動画ファイルに格納せずに、音声が記録される音声トラックにTCを入れて、その「タイムコード音」を元にタイムコードデータを生成することも可能だ。

ブラックマジックデザイン の DaVinci Resolveなどの一部のノンリニア編集ソフトは、音声トラックに記録された「タイムコード音」を認識してタイムコードデータを生成することができる。そうした機能がないノンリニア編集ソフトでも、 VideoToolShed の LTC Convert App などのタイムコード変換ソフトを使って、タイムコード付きの動画ファイルに変換することが可能だ。

なお、UltraSync ONEを使ってカメラの音声トラックにTCを入力するとカメラの内蔵マイクの音声などは記録されずに「タイムコード音」のみになってしまう。現場の音声は、TC同期させた他の業務用カメラや音声レコーダーなどで収録しておく必要があるので注意だ。

UltraSync ONEにはもうひとつ大きな特徴がある。それが SYNCポートの搭載だ。SYNCポートからは LTC信号(タイムコード)の出力の他に、GenLock や Word Clock の出力も可能になっており、各機器の動作同期もワイヤレスで行える。

実はTCを同期しただけでは、映像信号自体の同期は行えていない。同期できているのはその時に刻まれるTCの値だけだ。映像(動画)というのは当然ながらコマ(フレーム)単位で瞬間瞬間を切り取っているわけだが、問題はこの「瞬間」がまったく同じか? ということだ。30fps の映像なら秒間30コマー1コマ 1/30秒という長さを持つが、現実世界の事象はさらに短い時間で発生・変化している。

そこで映像の各コマのタイミングまでも同期させてしまおうというのが、GenLock(ゲンロック)という機能だ。

GenLockを使えるのはGenLock専用の端子が設けられている放送業務用のENGカメラや一部のハンドヘルドカメラなどに限られる。セッティングとしては、同期のリファレンスとなる機器からの信号をGenLock端子にケーブルで繋いで同期を取る。UltraSync ONEの SYNC端子とカメラのGenLock端子を繋いでおけば、複数のカメラが離れた位置にあってもワイヤレスでGenLock を掛け続けることができる。これは画期的だ! なお、Word Clockはデジタルオーディオ機器同士の同期を取るのに利用される。

UltraSync BLUE

ATOMOS / UltraSync BLUE 35,200円

Bluetoothを利用してワイヤレスでタイムコードを同期させられるデバイス。質量とサイズはUltraSync ONEとほぼ同等。バッテリーは一度の充電で20時間以上持続。GenLock と Word Clockは省略。

もうひとつのスマートなワイヤレスタイムコード同期システムがUltraSync BLUEだ。UltraSync BLUE は Bluetoothを使って外部機器とワイヤレス接続し、1台で最大6台の撮影・収録デバイスのTCを同期できる。さらに、 UltraSync ONEと同じRF信号を使って複数の UltraSync BLUEやUltraSync ONEとのワイヤレス同期も可能である。また ATOMOS 社のビデオレコーダーの SHOGUN CONNECT や NINJA シリーズに ATOMOS CONNECT モジュールを装着することで、同様にRF信号でワイヤレス同期が可能だ。なお、UltraSync BLUEはUltraSync ONEと違って外部機器と有線接続するための端子は備えていない。

UltraSync BLUE は Bluetooth接続を行うため、連携させる機器と最初にペアリングを行う必要がある。また、 Bluetooth搭載の全てのカメラやレコーダーと同期ができるわけではなく、UltraSync BLUEに対応する機器だけが接続可能だ。

対応製品はミラーレスカメラの ニコンZ 9・Z 8、オーディオレコーダーの ZOOM F8n Pro・F6・F2-BT、TASCAM DR-10L Pro、ハンドヘルドレコーダー の TASCAM Portacapture X6・X8 など。まだまだ対応製品は限られているが、今後メーカー問わず、さまざまなカメラメーカーや音響メーカーで UltraSync BLUE と繋がるようになれば、タイムコード同期が一気にポピュラーなものになり、マルチデバイス収録の素材の取り扱いが大変に楽になると期待している。

ワイヤレスでレコーダーと連携

UltraSync BLUEはATOMOS SHOGUN CONNECT やNINJA シリーズ + ATOMOS CONNECTとRF を利用し、ZOOM F6 などとはBluetoothを利用してワイヤレスでタイムコード連携する。

現場での使用感

今回レビューするにあたって UltraSync ONE と UltraSync BLUE をお借りして、いくつかの現場に投入することができたので、使用例をご紹介しよう。

ひとつ目は、演奏会での利用だ。小学校の音楽発表会の記録撮影での仕事で、UltraSync ONE を複数台使って各機器のタイムコードを同期させた。

同期させる必要があった機材は、カメラ3台、映像レコーダー2台、音声レコーダー1台、そして当ラボの独自システムである Switching Loggerが1台。これらの機器にそれぞれUltraSync ONE が発生させるTC信号を入力して、TC同期を行なった。写真を見ていただいて分かるように、従来この現場のように機材が一箇所にまとまっているならば、タイムコードの接続はすべて有線接続で行なってもよい。だが、こうした現場であっても UltraSync ONE を使ったメリットは大きかった。

ひとつは、TCのスルー接続を考えてなくても良いこと。TCのスルー接続とは、機器によってはTCのINとOUTの両方の端子が備わっており、それらを数珠つなぎしていくことでひとつのTC発生源から複数の機器を同期させる接続方法だ。ただし、ハンドヘルド機やミラーレスカメラの場合は、ひとつのタイムコード端子しか備わっておらず、INかOUTの切り替え、もしくはINのみという仕様が多いので、TCをスルーさせることができない。そういう場合は、INのみとなる機器を接続の終端に持ってくる必要がある。今回の機材構成の場合は、ミラーレスカメラのパナソニックGH6と当ラボの Switching  Loggerが入力端子しか持たないため2台の機器が終端となり、もしもスルー接続で同期させるならばどこかでTC信号をふたつに分配させる必要がある。UltraSync ONE を使った場合は、すべての機器に直接TCを入力することができるので、そうした問題は考えなくてもよい。

また、もうひとつのメリットとしてはTC同期用のケーブルが不要なことで、「一時バラシ」が楽だったことだ。この現場の場合、本番の前日に機材のセッティングを行なっているのだが、設営が終わって各機器のチェックがOKになれば、カメラは三脚から降ろして翌日まで安全な場所で保管する必要がある。この時は、カメラは3台とも宿泊するホテルに持ち帰ったのだが、その際、カメラに接続しているケーブルが多いと翌朝の再セッティングが煩わしいことになる。TCケーブルがなくなるだけで、カメラまわりの結線はシンプルになり、再セッティングも素早く行えたのは助かった。

音楽発表会で複数のカメラのタイムコードを同期させた

ENGカメラにマウントしたUltraSync ONE。

ENGカメラでUltraSync ONEからTCとGenLockを同期する接続。

音声レコーダーとUltraSync ONE。

筆者が自作したSwitching Logger(左手前)とUltraSync ONEを同期接続。

カメラに接続されたケーブルが少ないことが分かる。

ふたつ目の現場は番組ロケの現場だ。ハンドヘルド機2台とミラーレス一眼カメラ1台、そしてZOOM のマルチトラックレコーダー F8n Pro を1台入れた撮影スタイルだ。出演者は5名で、イベント会場内を動き回りながら撮影。音声は演者別にマルチトラックで収録。各カメラは UltraSync ONE、ZOOM F8n Pro は UltraSync BLUE を使って、すべての素材のタイムコードが同期するようにした。

ロケの場合は、お互いのカメラが必要に応じて様々なポジションに入るため、TC同期を有線ケーブルで繋ぎっぱなしにしておくというのは現実的ではない。また音声とカメラマンの間も、すでに音声ケーブルが繋がっており、さらにTC用のケーブルを繋ぐと現場が煩雑になってしまう。カメラと音声間は、移動時にはケーブルを抜いて安全に素早く行動するスタイルを取ることが多いので、ケーブルが多く繋がっているとパフォーマンスが落ちるからだ。

従来、こういったロケのTC同期を有線接続で行う場合、1台のカメラを親機に、残りの機器を子機設定にして、撮影前にTCを有線入力。一度TCを入力すれば、ケーブルを抜いても後は各機器の内部クロックでTCがフリーランで走るため、基本的には撮影中はケーブルレスで動き回れる。しかし、カメラのバッテリー交換をしたり長時間経った場合は、習慣として改めてTC同期をやり直しておくことが多い。そして、忙しい現場では往々にしてTC同期のことは二の次になってしまい、そうした作業を忘れてしまうことも多く、気が付けばTCがズレてしまっている…という経験も一度や二度ではない。

今回、UltraSync ONE と UltraSync BLUE を使ってTC同期のワイヤレス化をしたことで、ロケ中はほとんどTCの取り扱いを意識することなく撮影や収録に集中でき、スタッフのパフォーマンスを上げるうえでも大きなメリットだった。

番組ロケの現場でハンドヘルドや一眼、マルチトラックレコーダーを同期


ZOOM F8n Proは音声さんの持ち込み機材で、UltraSync BLUEは初めて使ったとのことだったが、「初期設定も簡単で、確実にタイムコードが同期できているし、しかもワイヤレスなので、楽だった。これは自分も欲しい」と、収録が終わってから感想を聞かせてくれた。


UltraSync ONE は各ハンドヘルドカメラに取り付けて運用したが、小型軽量で取り付け位置にも困らず、2.5kgを越えるカメラには 39gという質量増加は誤差のようなものなので、カメラマンの撮影スタイルに影響することもなかった。

まとめ

ここ最近、タイムコードの扱いが疎かにされているのではないかと感じる場面が増えてきた。SNSで「TCなんて不要だ」という書き込みも見たことがある。マルチデバイス収録の素材であっても、現在はノンリニア編集ソフトの進歩でファイルに記録された現場音声から複数の素材の同期を取る機能などが実装されている。そうした機能を使えばTCを指標にせずとも素材の同時性を確保することは可能だ。

しかし、そうした機能が確実に使えるのは限られた条件での撮影環境だ。同期のサンプルとなる音源からカメラが離れてしまっていてはそもそも使えないし、街中でのロケだと雑音も多くてサンプルの抽出ができないかもしれない。

だが、どんな撮影環境であっても、タイムコードという絶対的な指標を使えば、素材の同時性が確保できる。

今回はUltraSyncシリーズを使い、マルチデバイス収録でのタイムコード同期の必要性について紹介した。タイムコードは映像制作に関わる人たちのワークフローを上流から下流まで陰で支え、映像制作において切っても切れない大切な存在だ。

今後どれだけ映像の解像度が上がり、フレームレートが増え、色域が広がリ、ダイナミックレンジが拡大しようと、タイムコードは変わりなく映像の中で走り続けるはずだ。だからこそ、映像制作に関わる者はしっかりとタイムコードの意味を理解し、管理し、スマートな映像制作環境を整える知識と経験を身につけてほしいと思っている。

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VIDEO SALON 2023年10月号より転載