【レポート】Libec TH-Vは可変ドラッグシステムを採用したエントリーに最適なビデオ三脚


REPORT◉宏哉

20242月に発売された三脚システム、Libec TH-Vは、平和精機工業のエントリーモデルTHシリーズの最新機種だ。同社のTHシリーズは、軽量でコストパフォーマンスに優れ、セットアップが簡単で使いやすい三脚システムとしてラインナップされている。

早速、TH-Vの紹介に移りたいところだが、その前に三脚(雲台)の基本的な機能を確認しておきたいと思う。ミドルレンジ以上の三脚を既に使っている読者は読み飛ばしてもらっても大丈夫な項目だが、これから三脚の導入を考えていたり、ステップアップを考えている方は、おさらいのつもりで読んでいただきたい。

 

耐荷重

カメラ用三脚を選定するときのポイントは、まず使うカメラの質量に適合しているかという点だ。三脚と雲台にはそれぞれ耐荷重(最大搭載質量)が設定されており、重すぎるカメラ機材を搭載すると破損や意図せぬ事故が起きることがある。

そのため自分が使いたいカメラ機材の質量が三脚メーカーが公表している耐荷重を超えていないかを確認する必要がある。カメラ機材の質量というのは、カメラ本体だけの重さではなくレンズやバッテリー、ビデオライト、ワイヤレス受信機など、撮影時にカメラに取り付けるアクセサリ類もすべて取り付けた状態での重さである。

反対に耐荷重よりも大幅に軽すぎると、カメラワークに支障をきたす場合がある。これは雲台のカウンターバランスの仕様に左右される。

 

カウンターバランス

カウンターバランスとは、カメラのティルト角を維持してくれる機構。ティルト操作(縦パン)を行なった際に、カメラが重力に引っ張られて傾いてしまう力に対抗して水平状態へと戻そうとする雲台の機構だ。

カウンターバランスがない雲台では、カメラをティルトダウン/アップした状態でパン棒から手を離してしまうと、そのままではカメラが傾いて真下や真上を向いてしまう。任意の角度でカメラを止めるには、パン棒を握り続けるか、ティルトロックをかけるしかない。

一方でカウンターバランスの備わっている雲台では、ティルトをした状態でパン棒から手を離してもカメラは任意の位置でそのまま止まってくれる。カメラが傾こうとする力に拮抗する反発力がカウンターバランスである。

カウンターバランスに適合すれは、パン棒から手を離しても任意の傾きでカメラが保持される

 

先述の軽すぎるカメラを使うと支障が出るというのは、このカウンターバランスの反発力が強すぎて、カメラワークを阻害してくることがあるからだ。

ビデオ三脚を謳う製品の多くはカウンターバランスを備えているが、それには固定式と可変式がある。

安価な三脚システムは固定式の物が多く、カメラとの釣り合いつまりバランスが取れる重量条件が決まっており、例えば「重心高75mm3.0kgのカメラに適合」といった具合いになる。

この重心の高さと機材の重さには相対関係があり一種の二次曲線をグラフ上に描く。

▲カウンターバランスチャート。左:固定式/中:段階式/右:無段階式 (出典:Libec)

 

この曲線の意味するところは、機材が軽い場合は重心が高いとバランスする。機材が重い場合は重心が低ければバランスするということ。固定式のカウンターバランス機構を採用する雲台でその恩恵を十全に受けるためには一定の条件を機材側で満たす必要がある。

一方、可変式カウンターバランスは、中級機以上の雲台に採用される。可変式の場合は、機材の重さ(+重心高)に合わせて、雲台側で最適な反発力に調整することができる。

多くの機種の場合、ダイヤル式の調整方法が取られており、またそのダイヤル式も無段階式と段階式に分かれる。段階式は先の固定式の二次曲線が複数個用意されていると考えてよく、例えば4段階式のカウンターバランス機構だと、4本の曲線がグラフ上に引かれる。そして重量+重心高の条件がこのいずれかの曲線の上にあればバランスが取れることになる。

無段階式のカウンターバランス機構の場合は曲線上だけではなく、一番弱い反発力と一番強い反発力がそれぞれ描く二次曲線の間に当てはまる条件を満たしていれば、カウンターバランスを調整することで正確にバランスさせることができる。そのため機材選定や撮影アクセサリの付け方などの自由度が高くなる。

なお、可変式カウンターバランスを採用する雲台でも最小適合重量があるため、大は小を兼ねないのがビデオ雲台の世界である。

 

ドラッグ

三脚(雲台)選びの最後のポイントはドラッグだ。

ドラッグ、ドラグ、フリクションなどと言われるが、パンやティルト操作する際の雲台の動きやすさ/動きにくさを決める機構が備わっている。「粘り」や「重さ」などとも表現することがあるが、このドラッグの品質が三脚の質そのものと言っても過言ではない。

カメラワークのしやすさや、その動きの質感を決めているのがドラッグであり、各三脚メーカーが最も技術力を注いでいる部分で、三脚の特徴が最も出るのがドラッグ性能だ。もしこのドラッグ粘りが雲台の動きにないと、例えばゆっくりしたパンやティルトが難しくなる。また一定の速度で滑らかに動かすのも難しい。

適度な抵抗・粘りがあることでカメラマンの腕から伝わってくる力の揺らぎをドラッグが吸収し、スムーズなカメラワークを実現してくれる。この粘りを出すために特殊なグリース()を使用しており、そうした機構を備えた雲台を「フルードビデオ雲台」と呼ぶ。このグリースの性質が各メーカーで違い、ノウハウでもあるため雲台の動きの性格が出るのだ。

そして、このドラッグも固定式と可変式の物がある。固定式は安価なエントリーモデルに採用されることが多く、パンもティルトもドラッグの強さは固定されている。

一方、可変式はミドルレンジ以上の機種に搭載されるのが一般的だ。ドラッグが可変式になることで、雲台に乗せるカメラ機材の質量や撮影内容に合わせてドラッグの強弱を調整できるため、カメラマンは意図したカメラワークを実現しやすくなる。パンとティルトにそれぞれドラッグの調整機構が用意されており、別々に調整が可能だ。


撮影の内容や機材に合わせてドラッグを調整する。

 

例えば、スポーツ撮影のように動きの速い被写体を撮る場合は弱めのドラッグに設定し、反対に料理接写などの細かく滑らかな動きが必要な撮影ではドラッグを強めにする……などして使い分ける。

可変式ドラッグにも段階式と無段階式があり、メーカーの設計思想が分かれている部分でもある。

 無段階式カウンターバランスと4段階ドラッグ調整システムを備えるLibec HS-350

 

このようにスペックを基準とした雲台の選定では『耐荷重』『カウンターバランス』『ドラッグ』の3点が最初に見るべき要素だと私は考える。

その他にも、三脚そのものの質量、グランドスプレッダーかミドルスプレッダーか、最低高と最大高といった点も自分の撮影スタイルや内容に合わせて選んでいく必要がある。

そして三脚選びでは、このスペックに現れない「フィーリング」の要素が最も肝心なポイントとなってくる……

 

Libec TH-Vの特徴

さて、今回 Libecから登場した TH-Vはどんな三脚システムなのかをレビューしていこう。最初にも述べているようにTH-Vはエントリークラスの三脚だ。ALX H TH-Z と進化しているシリーズで、このTH-VTH-Zの進化形と言えるだろう。最大の特徴がエントリークラスの雲台でありながら、可変ドラッグシステムを搭載したことだ。

安価なエントリーモデルでは固定式のドラッグシステムが採用されることが通例だ。しかしTH-Vは従来の TH-Zに可変ドラッグシステムを搭載したような仕様で登場した。

撮影内容や機材の質量に合わせて、ドラッグの調整が任意に行える可能性があるというのは、この三脚システムの活用の幅が広がることを意味する。

また無段階式可変ドラッグは同社の雲台としては珍しく、上位のNXシリーズ、HSシリーズ、RSPシリーズに至るまで段階式ドラッグシステムを採用している。

TH-Vは、そうした上位機種(金属積層ユニット型)とは根本的に違ったドラッグ機構を採用していると思われるが、入門クラスのユーザーにも可変ドラッグとはどういった効果をもたらすのか体感してもらう上では、良い試みだと思う。

水準器にはED照明が内蔵されている

 

TH-V の基本スペック

ここで TH-Vの基本スペックを確認しておこう。

最大搭載重量は5kg(重心高75㎜)。
カウンターバランスは固定。
ドラッグ切替は無段階可変フリクション。
三脚段数は3段。高さは最低高73cm~最大高163cm。重量は3.6kg。
スライドプレートは Manfrotto・Sachtler互換でSnap ON/OFF Plateを採用。スライドプレートのサイドイン/アウト機構でワンタッチでカメラを雲台に着脱できる。
DualHead機構となっており、ボール径は75mm。三脚のほかフラットベース機材のスライダーやフォト用三脚などにも取り付け可能。
伸縮式のミッドスプレッダー採用。
三脚バッグ付属。

ということで、やはり可変ドラッグ機構の搭載以外は、従来機TH-Zと同等と考えて良いだろう。

 

プロが現場に導入するならTH-Vはどう使うか?

TH-Vはアマチュアや三脚のステップアップを考えている既存ユーザーをターゲットにしていると思うのだが、今回は筆者のようなプロカメラマンの現場で使うことができるのか?という観点も踏まえてTH-Vの実力をチェックしていくことにした。

使用するカメラ選び

まずはTH-Vに乗せるカメラの選定だ。今回はテストではミラーレス一眼カメラのパナソニックDC-GH6とハンドヘルドカメラのJVC GY-HM650を使用。

GH6OM SYSTEMのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO SmallRigのカメラケージを装着。HM650はアクセサリー未装着で使用バッテリーは大容量のIDX SSL-JVC75を取り付けている。

この装備でTH-Vに載せてみたところ、GH6ではTH-Vのカウンターバランスの反発力が大きく、ティルトすると水平状態に戻ろうとしてしまう。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROはマイクロフォーサーズ用としては比較的大きく重めのレンズになるのだが、ミラーレス機で使用するにはTH-Vのカウンターバランスが勝ってしまうようだ。カウンターバランスの仕様を考えると、外部モニターを付けたりワイヤレスマイク受信器を搭載するなどしてGH6の重量を増し、重心高を高く持っていく必要があるだろう。

GH6とケージだけの組み合わせ。TH-Vにはやや軽い。

GH6にワイヤレスマイク受信器を取り付け、三脚アダプターVA-7Dを使って重心を高くした状態。この仕様ならバランスする。

 

一方、HM650では適合重量らしくカウンターバランスの反発力がちょうど良い具合に働いた。ただし、今度は反対にLEDビデオライトやワイヤレスマイク受信器などをHM650 に搭載して行くと重量と重心が上がりすぎてしまい、TH-Vのカウンターバランスが負けてしまうことになる。

JVCのハンドヘルドカメラGY-HM650(本体質量 2.45kg)はぴったりだった。

こうしたことから、TH-Vは重装備のミラーレス一眼カメラからストレート状態の軽量なハンドヘルドカメラに適合するようだ。TH-Vは固定式カウンターバランスなので、カメラ機材の方で重量や重心を調整して適合させるように工夫したい。

 

ドラッグ

いよいよ気になるドラッグ性能チェックだ。

TH-Vは無段階式ドラッグ方式を採用。Libec公式では 無段階可変フリクションと呼んでいる。これは上位機種のHSやNXのようにグリースを使う金属積層ユニットを採用した高級モデルでは「ドラグ(ドラッグ)」、THシリーズのような摩擦力による簡易的な機構を採用したモデルでは「フリクション」と、機構によって呼称を使い分けているためだ。TH-Vについてはフリクションとすべきところではあるが、一般論と織り交ぜて解説する都合上、すべてドラッグで統一したいと思う。

さて、可変ドラッグを備える雲台を使う場合、特に理由がない限りはパンとティルトそれぞれのドラッグの強さは揃えたほうが操作しやすい。 段階式であれば調整ダイアルを回すとカチッカチッと強さが切り替わり、またダイアルに数字が打たれているので簡単に強さを縦横で合わせられる。

無段階式は重すぎず軽すぎず、ちょうど自分の使いたい重さを設定できるのがメリットだが、ドラッグは連続的な変化をするため数値化しにくい。調整ダイヤルには指標となる数字が打たれている物が多いので、それを参考に縦横で近しい重さ状態に調整する。

なお、TH-Vは数字などの指標がドラッグ調整ダイヤルに打たれていない。図柄で抵抗が大きくなるか小さくなるかが分かるようになっているぐらいだ。 そのため、ダイアルを回しては雲台を操作するなどを繰り返して、好みの重さに調整するような使い方になるだろう。

先ほどのドラッグ説明の項目で、粘りを軽めにする場合と、重めにする場合の例を挙げたが、では通常はどれぐらいの重さが良いのだろうか? 

無責任に言ってしまえば「自分の好きな重さ(粘り)で良いんじゃない?」という感じなのだが、何かひとつ基準が欲しい人もいるだろう。そういう場合は、使用するレンズのズームリングの重さ(粘り)に近いフィーリングに合わせると良いだろう。そうすることで、パン・ティルト・ズームのそれぞれの動きの重さが統一され、それらを織り交ぜた複合的なカメラワークが違和感なく行えるようになるだろう。単焦点レンズだったらフォーカスリングの重さでも良いかもしれない。

その重さを基準にして、撮影用途に合わせてドラッグをより軽めにしたり、より重めにすれば、自分の中でのドラッグ調整の指標が生まれてくるだろう。

TILT FRICTIONPAN FRICTION の文字が書かれた無段階式ドラッグ調整ノブ

 

ドラッグ最低値(軽)

まずはドラッグの重さを最低値(軽)にしてそのフィーリングを確かめる。最低値でもドラッグにはそこそこの粘りがあり、スカスカにはならない。一番軽い状態でも滑らかなカメラワークができる粘りがある。

この際に確認するポイントはパンやティルトの動き出しだ。雲台操作は、静から動/動から静を行う操作でもある。その雲台を使って撮影された映像を観て、静→動/動→静の切り替わりの瞬間が分からない三脚は良い三脚だと言える。つまり、いつカメラが動き出して、いつカメラが止まったのかを視聴者に感じさせないような動きができるか? ということだ。

TH-Vは、この動き出し/動き終わりを滑らかに表現できる雲台性能を持っている。この滑らかな動きの遷移はドラッグを重くすればさらに重厚になって行くのだが、これに関しては後述する。

実はTHシリーズの前身とも言える ALX Hは、この静→動が苦手な三脚だった。静止した状態からパンをしようとすると、カクッと動き出してしまい滑らかなパンのスタートができなかったのだ。また多くの安価な海外製雲台が、この動作が苦手だ。

この動き出しのショックはドラッグ性能以前の問題だ。例えばセミナー撮影で、会場後方から講師を望遠で撮影しているようなシチュエーション。講師が演壇で多少左右に動くので、それをカメラでフォローしようとする。仮にカメラから講師まで 20m離れていて、講師が30cmだけ動いた場合、フォローのためにパンする角度は約0.86度だ。1度未満のパン精度が必要になる。

しかし安価な雲台では、1度や2度だけ動かそうとしても静から動に滑らかに遷移せず、力を掛け続けていきなり15度ぐらい動いてしまうようなこともある。こういう雲台は収録でも配信でも使えない。もちろん、舞台撮影でも商品撮影でもNGだ。

TH-Vは、この静→動/動→静の遷移を滑らかに行うことができるため、恐らく従来モデルの TH-Zも同様の品質を実現していると思われる。

 

ドラッグ最高値(重)

次にドラッグを最大値にして動きが一番重たい状態にしてみよう。言葉で表現するのは難しいのだが、最小値に対して滅茶苦茶重たくなるという感じではない。少ない変化量なので、最大・最小以外の中間部分での重さの差は無段階で調整できると言っても、なかなか実感できないかもしれない。

だが、ワークを行なってみると差はしっかりと出た。ドラッグが軽い場合よりも重くしたほうがパンの速度をかなり遅くすることができた。

雲台を評価する場合、雲台を素早く動かせるか? ということよりも、いかにゆっくり動かすことができるかということに私は注目する。

素早く動かしたいならばドラッグフリーのスカスカ雲台であれば、いくらでも素早く動かせる(コントロールは難しいが)。しかし、動いているか動いていないか分からないぐらいにゆ~~~っくり動かせる雲台というのは、採用されているオイル品質や機構に左右されるシビアな部分なので、雲台の性能そのものと言える。

TH-Vの場合、望遠端でゆっくりパンをした場合は「動いているか動いていないか分からない」とまではいかないが、じっくりと被写体を見せる低速度のパンは行える。広角端であれば、動いていることは感じさせないぐらいのゆっくりとしたパンが可能だ。

 

バックラッシュ

さてドラッグを重たくした場合、雲台には大きな課題が出てくることがある。それは「バックラッシュ」だ。バックラッシュとは「反動」「揺り戻し」のことで、例えば右にパンして目的のポイントで手を離すと、雲台が自然と左へ戻ってしまう現象のことだ。ドラッグの重さは動きに逆らう抵抗でもあるので、カメラマンが動かしたい方向とは反対の力が少なからず働いている。また雲台だけでなく脚部(三脚)にもわずかな捻れが生じている可能性がある。これらの抵抗や捻れが元に戻ろうとするときに現れるのがバックラッシュだ。

これも、カメラワークを阻害する要素なので三脚の性能を見る際にはチェックする項目となる。

TH-Vでもバックラッシュは確認できた。ドラッグを最大値にしてレンズの最望遠で撮影を行うと、特にはっきりと揺り戻しが確認できた。テストでは、遠方のビル群を右パンで撮影して、適当なビルの側面が画面のセンタマーカーに来たらパン棒から手を離すという形で確かめてみた。

下の画像で説明すると、センターマーカーの縦線とビルの側壁の境界部分はピタリと重なっていないといけないのだが、手を離すとじわりと左に雲台が揺り戻され、センターがズレてしまっている。

望遠端667mmでのバックラッシュ。右パンをしてビルの側面で画を決めようとするが(左)、パン棒から手を離すとバックラッシュの影響で左に揺り戻され、センターがずれてしまっている(右)

 

TH-Vは脚部も細く軽量で、また雲台部分も樹脂パーツが多いため、パン操作中に蓄積される捻れが大きくなってしまう作りである。

幸いなことにTH-Vはパン/ティルトのロックを掛ける場合に、意図せずに雲台が動くことがない。安価な雲台だと「この角度で固定したい」と決めてロックを掛けると、ロックの押さえ込みのギミックが雲台をわずかに動かしてしまうことがある。TH-Vにはそうした不具合は出ないので、パンが決まったらそっとロックを掛けて任意の画角で固定してしまうという運用で乗り切ることはできそうだ。

 

斜めパン

そして最後のチェック項目。斜めパンのスムーズさだ。私が雲台の性能をチェックするときに必ず行うのがこの斜めパンだ。

カメラレンズを望遠端にして、水平・垂直ではなく斜めに走る構造物を撮影する。この際にカメラのVFモニターにはセンターマーカーを出しておき、十字の中心が斜めの構造物をなぞるようにカメラワークを行う。30度、45度、60度など角度はいろいろだが、そうした直線物をスムーズにカメラでなぞることができるかをチェックしている。

例えば Inter BEE などの展示会ならば、天井のトラス構造の鉄骨をなぞったりしている。低品質の雲台だと、この斜めのワークが上手く行かず、縦横縦横縦横……という階段状にしか動かせない。反対に高品質の雲台は、縦方向や横方向に余計な力を奪われることなく、素直に斜めのワークが可能だ。

TH-Vは後者の雲台性能を持っており、特にストレスなく斜めパンが可能だった。テストでは、鉄橋を渡る列車や自転車で走る人を撮影してみた。私の意図通りに雲台をコントロールでき、被写体をフォローすることができた。

このような傾きのワークであってもTH-Vは滑らかに被写体をフォローできた。

 

ただし、望遠撮影だと被写体が離れていけば行くほど雲台自体の動き(移動量)は小さくなり、細かなブレが目立つようになってくる。こちらは三脚システム全体の軽さと脚部の剛性が影響していると思う。これは TH-Vに限った話ではなくハイエンドの三脚でも望遠時のブレを押さえ込むには、より大型の脚や雲台を使ったり、おもりを使ってブレを押さえ込んだりする必要がある。

なお、TH-Vにはおもりを吊すためのウエイト用フックも備わっており、望遠撮影や強風下での撮影時におもりで揺れを抑え込むことで、少しでも安定を得られるように工夫されている。

 

脚部

脚部は3段式でアルミ製。TH-Vの雲台と対応するカメラを搭載するには充分な強度を持たせた脚部だ。

左:最低高/右:最大高

 

THシリーズや、ひとつ上の NXシリーズの脚部でひとつ気になっているのが、脚の伸縮を行うためのロックノブの位置だ。

軽量化やコストの都合だと思うが、上段脚のノブも、下段脚のノブも脚部下方に備わっているため、ノブ操作を行うときは必ず屈まないといけない。雲台にカメラを載せたまま、この体勢で作業を行うと三脚が転倒する危険があるので、カメラを一度雲台から下ろすか、ふたりがかりで三脚の上げ下げはしたほうが良いだろう。

脚部のロックが下方にあるのは使いにくい。

しかし、このクラスの三脚を使うユーザー層や撮影体制はアシスタントを伴わないようなワンマンスタイルも多いと思うので、上段脚のロックノブだけは上部で操作できるスタイルのほうが、ストレスがなく好ましいと思う

 

実戦投入

借用期間中には、私の撮影現場にも持ち出して実戦使用を行なっている。

ただし申し訳ないがメイン三脚としての使用ではなく、無人の固定カメラ用の三脚としてだ。当ラボには、ハンドヘルドカメラ用のLibec HS-350RS-250D、ミラーレス一眼カメラ向けの Libec NX100などがあり、いずれもTH-Vよりも上級機種にあたる。メイン三脚はそうした上位機種を使用する。

「無人カメラ用なら安物の三脚で充分じゃないか?」と見限らないでほしい。実は無人固定カメラ用の三脚・雲台はプロであればちゃんとこだわったほうが良いのだ。

3台のカメラを使ったインタビュー撮影の現場。左手前がTH-V

 

プロの場合、当然ながら使用するカメラ機材に適合し、カメラワークもストレスなく行える上級機を使いこなしているであろうし、使い慣れているだろう。

そういうユーザーが、無人固定カメラ用だからと言ってチープな作りの簡易三脚を使った場合、結構ストレスを覚える……。安価な三脚システムはカウンターバランスもなければ、ドラッグによる適度な重みもないので、無人固定カメラの画角決めが大変に面倒な作業になる。重力で傾こうとするカメラを支えながら、1度単位の微調整も難しい雲台のクセに付き合いながら悪戦苦闘することになる。そして満足いく画角に調整し終えて雲台をロックをした瞬間に、今度はロックの押さえつける力でグイッと雲台が動いてしまって、先ほど決めた画角から少しズレてしまう……なんてことは皆さん経験しているだろう。

今回TH-Vを使用した撮影現場では、美術作品の作者のインタビューをその作品を絡めて撮影する必要があった。カメラは3台を用いて、うち2台は無人カメラ。その無人カメラも作者と作品のバランスを考えながら入念に画角を決めて撮影に臨んでいる。本番中は誰もカメラを触って調整することができないので、セッティング時の画作りがすべてになるシビアさを無人固定カメラは持っている。

美術作品インタビューでTH-Vを使用。

 

数人の作者を1日で撮影するため、1時間単位でインタビュー時間を区切って、それぞれの展示場所に移動して、撮り方を工夫しながら3台のカメラの画を決める。時間勝負のカロリー高めの撮影だった。

その際にTH-Vのストレスのない雲台のフィーリングが、素早くカメラアングルを決めるサポートをしてくれた。

誤解を恐れずに言えば、TH-Vを使ったことで何か特別スゴイことができた……というのは何もない。しかし、当たり前の作業が当たり前のようにストレスなくできたことが、この現場では何よりも重要だったと思う。

ミドルレンジの三脚 Libec NX-100だと無人固定に使用するには役不足だなと思う気持ちもあったので、既にハイエンドクラスの三脚をメインに据えて撮影しているユーザーであれば、サブ三脚や固定用三脚にTH-V を選択するというのはコスパの面でも良い。

 

まとめ

初めての三脚導入を考えているアマチュアならTH-Vは良い選択肢だ。固定式のカウンターバランスだが、バランス曲線を理解できればマッチングさせることが可能になるし、そういった試行錯誤はカウンターバランスそのもの理解に繋がるだろう。

また無段階式ドラッグで雲台の動きの変化を体感できれば、より上位機種の必要性も感じられるようになる。

三脚を使ったカメラワークを練習するにもTH-Vは良い教材だ。安価で性能の低いクセだらけの三脚で練習をしても、その三脚のクセを修正する練習になるだけで、ちゃんとしたカメラワークの練習にはならない。クセの少ない良質な三脚を選ぶのはスキルアップのためにも必要なことだ。

撮影現場でクセに振り回されない機材を選ぶことは重要。

 

一方、第一線で活躍するプロが、あえてTH-Vをメイン三脚として選択する理由はないし、メーカーもターゲットにはしていないと思う。ドラッグ性能も本格的にプロが使うには満足いかないものだというのが正直なところだ。

しかし THクラスの雲台はサブカメラや固定カメラ用には最適だ。先述のようにストレスのないセットアップができるというのは、日ごろ上位機種を使っているユーザーだからこそ実感できるメリットになるだろう。

私は無人固定用にALX Hを使っているが、それよりも性能が格段にアップしているTHシリーズの雲台は真面目に欲しいと思った。

左から順に ALX HTH-VNX-100H35。右へ向かって上位機種になる。

 

今回はTH-Vと一般論的な三脚性能のチェック方法を織り交ぜながらレビューしてみた。TH-Vに限らず三脚選びの参考にしてもらえればと思う。

良い三脚との出会いは、自分の撮影の腕を確実に押し上げてくれる。カメラワークに専念させてくれるため、厳密な画作りというものを追究できるし、画のパターンを増やす一翼も担ってくれる。一度良い三脚を使えば、三脚の重要性を骨身に染みて実感するだろうし、奥深さも体感するだろう。

エントリーモデルとなるTH-Vでその深淵を垣間見るのも良いだろう。

 

Libec TH-Vの製品情報はこちら(平和精機工業

 

vsw