プロカメラマンのファーストインプレッション DJI RS 3 Pro RS 2からの進化点は?


Roninシリーズ最新作は一眼ユーザーの間では
定番となったRS 2、RSC2の後継機、
RS 3 ProとRS 3が登場!
痒いところに手が届くアップデートや
LiDARスキャナーによるAF、別売モニターへの
ワイヤレス伝送など強力なアクセサリとの連携も。
今回は発売前の実機を映画・CMなどの
ハイエンドな現場からワンマンオペレーションの
現場までこなす田村雄介さんにテストしてもらった。

レポート●田村雄介

 

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せんせい! せんせーい!!
浪人(Ronin)「うむ(ゆらり)」
浪人(Ronin-M)「うむ(ゆらり)」
浪人(Ronin-MX)「うむ(ゆらり)」
浪人(Ronin-S)「うむ(ゆらり)」
浪人(Ronin-2)「うむ(ゆらり)」
浪人(Ronin-SC)「うむ(ゆらり)」
浪人(RS 2)「うむ(ゆらり)」
浪人(RSC 2)「うむ(ゆらり)」
浪人(Ronin 4D)「うむ(ゆらり)」
浪人(RS 3)「うむ(ゆらり)」
浪人(RS 3 Pro)「うむ(ゆらり)」
せっ、せん? せんせ…い?? せんせいっ! せんせぇぇー!!
というわけで! 何人…目? だっけ? の11人目の先生! DJI RS 3 Pro! 推して参るぅ⤴♥

 

RS 2ユーザーは戸惑いを 覚えた方も多いのでは?

まずはRS 3 Proを見た人達が思うであろう一言を。「RS 2から何が変わったの?」まだまだ世間では重量級シネマカメラ以外のフィールドで大活躍しているRS 2。そんなDJIのファンボーイ達が幾年か先にリリースされると思っていた妄想で空想な夢のRoninの新型モデル…Ronin 4Dのごとく4軸機構地上高センサー搭載な上にボディ重量はそのままで積載重量も7.25Kgにアップ。大概のどんなカメラを積んでもド安定な上に内蔵LiDARセンサーによるAFにも対応できる…そんな僕らの夢具現化ジンバルが出ると思っていた。そこに突如!3のナンバリングを冠したRS 3 Proが登場したことに戸惑いを覚えた方も多いのではないだろうか? かくいう某もまさしくそのひとり!

あらかじめ送っていただいたRS 3 Proを一通り眺め弄り、「むむむむむ無念!」と陰腹を召してDJIに進言しに行きかけたところ…というかビデオサロン編集長の萩原氏と共にDJI JAPANを訪問することになり「実際どうなんすか、RS 3 Proのスペックシートから読み取れない良きところとは一体どこなんでスカ⁉」と無礼を働きに行くことになったのでした。

 

Ronin 4Dの技術の一部を RS 2クラスのジンバルでも使える

そんなこんなでDJI JAPANにお伺いして色々なお話を聞かせていただいた結果、陰腹召してご進言申し上げるなんてとんでもない! あっ! やべっ! もう腹切っちゃってた! ぐえぇ~ボローンというところまでは溜飲が下がったというのは正直なところ。

細かいところがブラッシュアップされ、同時発表されたオプション品との親和性を最大まで高めるためのアップデートという認識で落ち着いたので、大切な某の命はすんでのところで救われた感じなのでした。
今回のアップデートは導入予算に折り合いが付けばRonin 4Dの技術の一部を従来のエコシステムを活かしつつ、RS 2サイズのジンバルでも活用できるところが本質。

代表的なところでいうとRS 2と同時にリリースされた前世代のAFシステムから格段のスペックアップを遂げたLiDARフォーカス。4D以外でも使えたらなぁと思っていたトランスミッターやモニター・コントロールシステム。ハイエンドに近づけば近づくほどに役に立つこれらの機能に加え、本体重量を変えずに各アームの長さを延長し、より多彩なカメラセットアップが可能になった。

具体的に数字を挙げていくとパン軸のアームが約1cm延長、ロール軸が縦横それぞれ約1.5cm延長となっている。チルト軸は変わらず。わかりやすいところでいうと、RS 2ではロール軸の目盛が7までだったものが8目盛まで増えている。つまりBMPCCシリーズに代表される横長筐体も載せやすく、前重になりがちなプライムレンズを装着した際にもバランスを取りやすくなったということ。

正直今回のセットアップで掲載しているGREATJOYのガラス金属ゴリゴリのアナモルフィックレンズなどはそれでもまだ動作に制限があるが、RS 2だと余計に歯が立たないのでこの辺りはありがたいアップデートだ。

4面図として並べて見てみると、さほど差はないかなと思いつつ、パン軸の差はなかなかに伸びたなと実感できる。このアームの細部に微調整の鬼が込めた想いを空想すると涙が溢れて撮影ができなくなるのであまり推奨はしない。

 

 

細かい進化が散りばめられつつも重量は極限まで抑えている

さらにこの延長アームを導入しながらもジンバル、バッテリーグリップ、三脚をつけた状態で約2~30gほどの重量増に収められているところ。そろそろRS 3 Proを受け取った方も多いなか「重くなった気がする」という意見があるのは、恐らくアーム延長分で持ち手にかかるテコの原理を高めてるせいではないだろうか、多分。

細かい素材のディテールをアームのスリット越しに2と3 Proで比較すると、カーボンアームの厚みがロール軸は厚くなり、パン軸は薄くなっているようだ。後述する自動ロック機構なども追加され重量UPしているのは窺い知れるところだが、その分、余計に軽量化への配慮が見えてうれしくなった。
他にもブリーフケース ハンドルの強化や、格段に使いやすく簡単な3ステップ調整で登録完了するLiDARセンサーAFシステム、感覚的に「あれ?こんなんだっけ?」という具合にさらにクセを消した良いチューニングを施されたと思われる制御、Bluetoothシャッター機能、機械式スイッチで切り替えできるようになったモード変更など、現在RS 2を所有していない老若男女は「まずこれを買うと幸せになれるゾ!」というアップデートが様々施されていた。

が、今回のRS 3 Proは総合力が非常に高まったとはいえ、実戦形式でのテストで食らった実弾は陰腹を縫い繕った某の腹をえぐって「せんせぇ~!」と叫ぶに至る充分な破壊力があったとお伝えしたいし、満面のニッコリが出る結果となった。

 

❶1.8インチの内蔵OLEDタッチモニター。RS 2より0.4インチ大きくなり使いやすくなった。❷アームが伸びた証の目盛8。❸モード切替の物理スイッチ。 ❹加えてご覧の通り、押しにくかったRECボタンとマニュアルボタンの位置が入れ替わったりもしている。 ❺地味なところだけどモーター周りの処理が変わった。

 

実戦投入で見えてきた RS 3 Proの底力

発売日前にお借りしている故、様々なシステムはファームの都合でエラーが出る可能性が高いのは周知の事実。それを実戦投入したところで「何がレビューよ! たわけが!」と、せんせぇに怒られそうだったので今回の実地試験では何も足さない何も引かない「純粋にジンバルとしての使い勝手はどうなんよ?」という視点でテストしてみようと思い、LiDARフォーカスすら無視してDJI RS 3 Pro&EOS R5+SIGMA Artシリーズだけの組み合わせでイベント撮影とWEB CM撮影をしてみた。「RS2で良くね?」という疑念が再びムラムラと湧き上がってきたので「こいつぁ困ったな、おい!」と困惑しながら動き始めようとした刹那。「あれ、バッテリーグリップのインジケーター半分? 充電ミスってるぅぁ‼ 自分のミスで死ぬ死ぬ死んじゃう社会的に死んじゃう!」 …しかし、自前のRS 2のグリップも持ってきたので全然問題ないのがエコシステムの利点(と言いつつ、鍵付きのバックヤードにRS 2一式を置いてきて取りに戻れないためめっちゃ焦った)。

「どうしよぉ!」というところで最初にやることは節電。ちょこちょこ電源を落として少しでもバッテリーを保たせようという作戦だ。ここでメチャクチャ効いたのが電源OFF時のオートロック機能。
実はレビュー機を借りてきた直後、ちょいとややこしい組み方をしたKOMODOを載っけて電源OFFからの自動折りたたみロック! をした瞬間に! 強引に折りたたまれていくKOMODO! 「あっあっあぁぁうぉぁあぁーー!」ってなり「オートロック憎し!滅!」という経験を踏まえてDJI JAPANに「自動折りたたみ危ねえっす! これファームアップして設定で折りたたまないロックに変えられないんすか?」「すでに折りたたまずロックできる設定に変えられますが…」「…。」ってなった某恥ずかしい。

「それなら試しに使ってみるかい…」というテンションで節電モードに入ったのでした。そしたら、これがもう気に入っちゃって気に入っちゃって。ヒヤリハッとした経験もあって「こんなん別になくてもぉ、某ぃマニュアルロックで仕事してたしぃ?」とか思っていたのだけど、実戦で使うとこれだけでも買い替えに値する有能すぎる有用っぷりを発揮してくれた。

とにかく不使用時や移動時の扱いが楽。RS2でも手動で固定できたが、電源長押しorワンプッシュの操作ひとつでカシャーンウィーンと固定されたり畳まれるRS 3 Pro。そして再度の電源ボタン押すことでウィーンカシャーンと復帰するRS 3 Pro。「そんな便利かねそれ?」って思うかもしれないけど、これは…実際に実戦で実践して実感しないとなかなかわからないです。超楽。

結果、半分の充電状態で10時から15時まで。ほぼバッテリーを減らさず余裕を持って仕事を完了しつつ、合間合間のジンバル休憩でコロナ禍でなまりになまった腕筋も楽をすることができたのでめでたし。
さらにいうとDJI JAPANに伺った際に「いやぁ~バッテリーもなんもいらないんでRS3 Proのヘッドだけ売ってくれないスかねぇ~? RS2ユーザーは乗り換えないっすヨォ?」などとのたまった自分を恥じる! 予備バッテリーが付いてくるんだからいいだろ!買え! 買い増せ!って思っちゃったテヘ☆

「嘘つけ提灯野郎!」とお怒りになった方はぜひとも面と向かって説き伏せたい所存でございます。ほんと自動化って上手にやるとメチャクチャ効果的なんだなっていう一端を垣間見られました。
特にソロプレイヤーの皆様はぜひにお試しをば。自身で使うと言ってる意味がよーくお分りいただけるはずです。とにかく良いアップデートなだけに、「せめてマイナーアップデートでRS 2 Proで発売する」という選択肢はなかったのですか! などもう一度お話をお伺いしたい思ったところでした。

総論という名の買い増しのススメ

結論として「地味なアップデートかねぇこれ」から始まった今回のRS 3 Proだけれども、機材のアップデートによる仕事のパフォーマンスアップを狙いたい人にとっては移行する価値は大いにあるのではないかと思う。今回は省いたものの、シンプルセットアップでも充分な良さが感じられるところにブラッシュアップされたフォーカスモーターやクイックリリース可能になったロッド固定方法、上位機種譲りの人外な飛ばし技術(DJIドローンでは半ば当たり前だけど日本で映像伝送最大4kmはエグい)、進化しまくり設定簡易化なLiDARフォーカスシステムなど、RS 2を上回るシステマチックっぷりがさすがにさすがのDJIクオリティがてんこ盛りだ。おまけにTILTAやSmallRigのエコシステムも継続使用可能なため代替わりの悔しさも少ない。
「これからジンバルを買う人は幸せを噛み締めながら、数年前の映像制作者の苦労と嫉妬に塗れた怨嗟の声に耳を傾けて!」というところで初代先生ことRoninのフルセットを今だにCineMilledのケースごと所有して保管する某は…某は…某は‼ まぁ、買うかな。多分ね。

 

<コラム>マニュアルレンズでもAFが可能になる!

別売のLiDAR レンジファインダーユニットのセットアップ方法

DJI LiDAR レンジファインダー(RS)
68,200円

実は下の手順以外にも始める前に取り付けたカメラのセンサー面からの距離を入力するなど下準備はあるがそれでもすごく簡単になったと思う。カメラ内のAFと違うため過信は禁物だが、大きいモニターでのチェック環境が整っている場合などは非常に有効なシステムだと思う。一点注意したいのが、これはどのようなフォーカスモーターでも同じだが、最短や無限がギア稼働範囲ギリギリに切られている場合。オートキャリブレーションでは端に思い切り当たってしまうことのないよう若干マージンを取った駆動範囲が設定されてしまうため、両端まで到達できないケースがある。ここは今後のアップデートでキャリブレーション範囲の修正ができるようになるとありがたい。なお、使用できるレンズは焦点距離85mm以内、T1.4以内になる。

 

❶まずレンズの焦点距離を入力。❷次にフォーカスモーターのキャリブレーション。 ❸それが終わったら画面表示に従って1mの距離に配置した被写体にグリップのノブを使ってフォーカスを合わせる。この時注意したいのは、この本体モニターに出ている映像はLiDAR横についているカメラの映像なので、実際のカメラ映像でしっかりフォーカスを合わせることが重要だ。❹1mが終わったら次は4mを同じように。これでプロファイルが登録完了となる。

 

●DJI RS 3 Pro製品情報

https://www.dji.com/jp/rs-3-pro

 

VIDEO SALON2022年8月号より転載

 

vsw