映像+(EIZO PLUS)
新しい映像が生まれてくる現場 vol.12
『ラブレス』
4月7日(土)、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム、STAR CHANNEL MOVIES
ロシアの鬼才、アンドレイ・ズビャギンツェフの新作『ラブレス』は、離婚協議中の夫婦の一人息子が失踪するというショッキングなサスペンス。撮影は、2010年にヴェネチア国際映画祭撮影賞を受賞した、ズビャギンツェフ作品すべてでカメラを回すミハイル・クリチマン。自然光を操って作る不穏で緊張感をはらんだ画面づくりについて聞いた。
STORY
一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャ夫妻は離婚協議中で、12歳の息子アレクセイの親権を押し付け合い、激しい口論にあけくれていた。両親がデートで家を留守にするなか、アレクセイが2日間も登校していないという連絡が入る。失踪した息子の捜索を続けるうちに、アレクセイがチャットで話していた“基地”が、森の中の廃墟ビルの地下にあることがクラスメイトの証言から判明。夫婦と捜索隊は、その廃墟へと足を踏み入れるが……。
INTERVIEW──アンドレイ・ズビャギンツェフ(監督)
Q:撮影監督のミハイル・クリチマンとの画作りについて。
ズビャギンツェフ:ミハエルと出会ったのは2000年、テレビシリーズ「The Black Room」でした。1話約25分だったんですが、3話それぞれに撮影監督がいたんです。一番最初に撮影をしたのがミハエルで、4日間の撮影中に私は理想的な完璧なパートナーを見つけたと思いました。まさに恋愛と同じように、二人の人間が出会ってずっと昔から恋をしていたような。これは運命であり宿命であると感じました。
以前、ポーランドで行われたカメリアージュでミハイルがゴールデンフロッグを受賞したとき、私はスピーチで「私はミハイルの中に自分の目を見出した」と言ったんです。彼は私にとって友であり同士、ミハイルとであれば火の中水の中と思っています。他の撮影監督と仕事をするということは想像もつきません。
撮影監督というのは通常年に4~5本の映画を手がけるので、ミハイルはもちろん自分のプロジェクトも持っています。そのなかでお互い予定を合わせて仕事をし、共通言語を作り出しているのです。
Q:照明と自然光について。
ズビャギンツェフ:私とミハイルは_半年以上かけて、シナリオの1ページ1ページどうやって撮影をするのか、照明はどうするのかを話し合います。屋内の撮影では照明で自然光を作り出しています。照明はSkyPanelを8つ使い、どのSkyPanel にも自家製のワイヤレスコントローラーとUSBを搭載したアンテナをつけて、iPadで操作できるようにしています。『ラブレス』にはジェーニャとボリスのマンション、アントン(ジェーニャの恋人)のマンション、マーシャ(ボリスの恋人)のマンション、と3つのアパートが出てきますが、これらは全てセットです。少年がキッチンで朝食を食べているときの光もすべて人工の照明です。少年が家を出る前にジャケットを着るとき、鏡に光が反射してそれが彼をかすめとるというシーンがありますが、それも当然照明で作り出しています。窓の外には大きなスクリーンがあって、外の景色を人工的に作り出しています。このシーンに関しては、すべて照明で自然を模擬的に作り出しているというわけです。
屋外での撮影では、照明器具は使っていません。できるだけ朝早く出かけて光がどうなるかを待ちます。太陽がかんかん照りなのは望ましくない。雲がソフトに光を分散してくれると、枝や人にも良い形で光が当たるので、そういう雲の状態になるのを待って撮影することもあります。太陽光は明暗のコントラストが強すぎてしまうんです。
私は直射光をそのままストレートに使うということはしませんが、自然光では十分でないときは、サポートするために反射光の人工照明を使うことはあります。例えば発泡スチロールの表面で顔を照らすとか、もっと広い範囲を照らすことはしています。
現在はカメラが驚くほどセンシティブになっていて、かなり暗くても撮影が可能です。『ラブレス』では夜のシーン、ベッドシーンで俳優たちがひるんでしまうのを避けるために、相当暗くして撮影をしたんです。テストをしてみたんですが、ALEXA XT、ALEXA Miniは、月光だけでもかなりはっきり撮れることがわかりました。10年、20年前は不可能だった条件で撮影ができる。肌のきめや顔のディテールもきちんと映り込んでいることがわかりました。
Q:『ラブレス』というタイトルに込めた意図について。
ズビャギンツェフ:辞書にはある言葉ですが、極めてまれにしか扱われない、日常ではほとんど使われない言葉なんですね。例えば憎しみ、無関心という概念があってそれがピアノの白い鍵盤だとすると、人生というのはそういったストレートな感情だけではなくて半音に近いようなものもあるので、『ラブレス(Nelyubov)』というのは黒鍵のような半音であると思います。言葉にすることは難しいけど、概念の中には存在するという意味を込めたタイトルです。『ラブレス(Nelyubov)』というのは憎悪よりもソフトで無関心よりも恐ろしい……、無関心以上に恐ろしいものはないかもしれませんが、言葉や概念としては存在するけれど説明するのは難しい言葉です。ただ唯一言えることは、『ラブレス(Nelyubov)』、愛がないということは、いろんなものが不足している、欠けているということであり、欠けているものとは愛、忍耐、寛容性であり、他の人に対する関心です。
アンドレイ・ズビャギンツェフ
Андрей Петрович Звягинцев
1964年2月6日 ロシア・ノヴォシビルスクで生まれ。2003年、初の長編『父、帰る』でヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞、新人監督賞を受賞。2作目の『ヴェラの祈り』(07)は第60回カンヌ国際映画祭で主演のコンスタンチン・ラヴロネンコは男優賞に輝き、3作目『エレナの惑い』(11)は、第64回カンヌ国際映画祭、ある視点部門審査員特別賞を受賞。4作目の『裁かれるは善人のみ』(14)は第67回カンヌ国際映画祭脚本賞、ゴールデン・グローブ賞を受賞したほか、アカデミー賞Ⓡ外国語映画賞にもノミネートされた。5作目の本作では第70回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノミネート、ナショナル・ボード・オブ・レビュー外国語映画TOP5、インディペンデント・スピリット・アワード外国語映画賞ノミネートなど世界で高く評価されアカデミー賞外国語映画賞に2年連続ノミネートを果たした。
《使用機材》
カメラ機材:ALEXA XT、ALEXA Mini
レンズ:Cooke Anamorphic/i、Vantage Hawk Zoom
ライト:SkyPanel x 8(どのスカイパネルにも自家製のワイヤレスコントローラーとUSBを搭載したアンテナがつき、iPadで操作できる)
《STAFF》
監督•製作:アンドレイ・ズビャギンツェフ
共同脚本:オレグ・ネギン
撮影:ミハイル・クリチマン
音楽:エフゲニー・ガリペリン
《CAST》
マルヤーナ・スピヴァク
アレクセイ・ロズィン